3/18フェラーラ旅行記8 ディアマンティ宮殿はぼこぼこカワイイ
エステンセ城から、北へまっすぐと延びている、ルネサンス風の道を進むと、現れるのがディアマンティ宮殿である。
15世紀末から16世紀にかけて作られた、ルネサンス式の建物。最近、これがルネサンス式建築だというのが、わかるようになってきた。ルネサンス式建築の特徴は、二種類あり、「A.古代風の柱が支えている」か「B.どっしりしている」のどちらかである。ディアマンティ宮殿はBタイプ(念のため断っておくが、私の独自というかテキトーな見分け方だよ!)
ディアマンティとは、イタリア語で「ダイヤモンド」という意味だが、本物のダイヤなど見たことない私には、なぜこれがダイヤモンド宮殿なのかワカラナイ。
ディアマンティ宮殿は、近くで見るとこんな感じになっていて、低いピラミッドがたくさんくっついている感じである。私にとっては「低いピラミッド」だが、ノーブルな人から見ると、これはカッティングしたダイヤモンドに見えるらしい。
そして、そのカットされた大理石が、太陽光によって、さまざまに光り、見る角度によって光り方が違うように見えるのも、まさにダイヤモンドである…という非常に美しい名前の由来を持つディアマンティ宮なのだが…
ツッコミどころが一つ。「フェラーラって太陽光が降り注ぐ日って少なくね?」。
フェラーラに限らず、エミリア・ロマーニャ州は湿気が高く、カラッと晴れる日は少ない。エミリア・ロマーニャ州はイタリアにしては雨が多すぎて、雨量が少なくレモンとかオリーブ栽培に最適な「地中海性気候」の定義から外れる地域もあるのだそうだ。しかし、湿気が多いおかげで、農耕には適した土地なのだとか。だからグルメ州なのね。
そんなわけで、ディアマンティ宮殿の画像が、ダイヤモンドみたいにきらめいて見えないのは、私の写真がヘタクソなのではなく、フェラーラのもやっとした天気のせいなのである。しかし、ディアマンティ宮殿は、キラキラしていなくても、ぼこぼこしていた可愛かった。ダイヤの美しさがわからない私。
ディマンティ宮殿はフェラーラカード「MyFE」で入場でき、内部は国立絵画館になっている。フェラーラ滞在で好きになったコスメ・トゥーラや、ガローファロの作品があるということなので、入ってみた。
まずはコスメ・トゥーラ。
『聖マウレリオの審判』
『聖マウレリオの殉教』
おそらく審判→殉教という流れだろう。それほど大きくなる、円形に描かれた絵である。ラファエロの『椅子の聖母』もそうだが、こういうまるい絵のことを、イタリア語では「トンド(tondo)」と呼ぶ。この2作品は、もともとは教会の祭壇を飾っていた絵だそうだ。
光輪が描かれた、ちょっとユニークな髪形をしているのが聖マウレリオ。後ろの方でうつむいている男性の無関心さが妙にミステリアスだ。
後ろにぼんやりと座っている兵士の無表情さ、無関心さも気になる。こういう絵の端々に見られる無機質さは、ピエロ・デッラ・フランチェスカと似ている。
聖人を処刑する人々の、哀愁漂う表情が印象的である。コスメ・トゥーラが描く人物は、どこか物悲しい独特の空気感を持っている。人々の表情は、少し、後代のフィリッピーノ・リッピ(フィリッポ・リッピの息子)の絵と似ている感じがする。
聖人も、絶妙な、深い悲しみに満ちた顔をしている。何となくポルトガルっぽくないか?…と言ってみたが、私はポルトガルに行ったことない。ポルトガルっぽさって何だ?
こちらはコスメ・トゥーラの工房作品ではないかと言われる、『女神エラト』。地球の歩き方では『天の女神ヘラ』となっているが、ギリシャ神話のムーサ(学術を司る女神グループ)の一人、恋愛詩を司るエラトの間違いではないかと思われる。エラト(Erato)とヘラ(Era)の間違いかな。
しかし、この絵は、エラトを描いたものかどうか確信はないそうだ。よく見ると、左足のサンダルが脱げそうなのが面白い。画家の遊び心だろうか。
大変に小さな作品だったが、思わずエル・グレコの連作があった。
『弟子の足を洗うキリスト』。足を洗ってもらっているシニア弟子ペトロのオヤジ感がいいですなー。
『ゲッセマネの祈り』。キリストが弟子たちを連れて、処刑される前夜に祈る場面である。キリストに「起きてなさい」と言われても、寝てしまっている3人の弟子。そのため、ぐっすり眠っているというよりは、電車の中の居眠りみたいな眠り方になっているのだ。この絵も、正面を見て寝ているペトロがいい味出てるな~。
『ピラトの前のキリスト』。ローマ総督ピラトは、イエスを無罪だと思っていたが、イエスの死刑を要求するユダヤ人民衆の声に押される。その際、ピラトが自分にはこの判決の責任はないというパフォーマンスとして、水で手を洗ったという場面。奥で壷から注ぐ水で手を洗っているのがピラト。
この絵自体は、このエル・グレコの4連作の中では一番普通かなという感じだが、いろいろと示唆に富んだ聖書のエピソードだなあと思う。
キリストの『磔刑』。この絵は、狭い画面に人間が多すぎる感じがするが、エル・グレコの、縦方向に強調される画風が出ている感じがする。不穏な感じの空の色に目が行く。
しかしフェラーラでエル・グレコにお目にかかれるとは思っていなかったな。だが、日本の岡山でエル・グレコに出会う衝撃ほどはないだろう。岡山の大原美術館は、エル・グレコの『受胎告知』を所蔵していることで知られている。
こちらはフェラーラ派の画家、スカリセッリーノ作の『聖チェチェリア』。16~17世紀頃の作品らしい。聖チェチェリアは、音楽の守護聖女で、よく楽器と一緒に描かれるが、ピアノは珍しいなあと思った。あと、天使が髪飾りをつけている様子がかわいらしい。しかし、聖女はさすが。鍵盤見なくてもピアノ弾けるのね。
フェラーラで何枚か絵を見たガローファロ『ゲッセマネの祈り』。先ほどのエル・グレコと同じテーマだが、ガローファロ作は、弟子たちの居眠りの仕方がお上品である。ガローファロの作品は、どこか小綺麗なのだ。
左端のヨハネなんか可愛すぎだろう。
あんまり可愛いからドアップで。お肌もめっちゃキレイ。というか、これ、絶対にモデルは女性だよなあ。12弟子で一番若かったというヨハネは、ことさら美少年に描かれるけど、画家さんたちも、オヤジ弟子ばっかり描くのは飽きてしまうのだろう。かわいい女の子描きたいよね。
超有名画家の作品があるわけではないが、フェラーラ派のコスメ・トゥーラやガローファロの絵が気に入ったら、ぜひ入って楽しみたい絵画館であった。
順路の後ろの方には、天井が美しいお部屋があった。ディアマンティ宮殿は、内部はあまり期待していなかったのだが、思っていた以上に楽しめた。
ディアマンティ宮殿を出ると、エステンセ城方向とは逆方向の、道路を挟んだ先に、ちょっと気になるお屋敷があったので、行ってみた。
プロスぺリ・サクラティ邸(Palazzo Prosperi Sacrati)というお屋敷。15世紀に建てられたルネサンス様式のお屋敷。これは古代の柱タイプのルネサンスですね。
柱の上に腰かけているちび天使たちがかわいらしい。しかし、よく見ると、右の天使は可愛いけど、左の天使はオヤジみたいな顔しているな。
さて、私はこれでフェラーラで入りたかった場所には全て入ったのだが、姉は、2日前の午前中に休んでいたため、エステンセ城に入ってない。姉はエステンセ城に今から入るとのことで、姉と別れて行動することにした。フェラーラ安全。一人でも心配ない(油断はダメよ!)。さて、私はどこに行こうかな~。