3/17パドヴァ旅行記6 まさかこのシンプルなトラムを間違うなど…
サンタントニオ聖堂の観光が終わり、今、我々はサンタントニオ聖堂前のサント広場にいる。
地図を見ると、私が「世界チャンピオンのお菓子」と書き込んである、ケーキ屋さんが近い。城壁を出たあたりだ。ここまで来てチャンピオンのお菓子を食べずに済ませられるものかは。我々はしゅくしゅくと城壁の外へと、ケーキに引き寄せられるように歩いて行く。
こちらがポンテコルヴォ門を出て、少し先まで歩いた場所にある、世界チャンピオンのケーキ屋さん「BIASETT」!
目移りしそうなショーケース!イタリアでは珍しく、ひとつひとつのケーキに名前と説明書きが添えてある。イタリアのお菓子屋さんというよりは、日本のデパ地下に入っているケーキ屋さんに近い雰囲気である。イタリアにしては本当に珍しく、働いている店員さんも黒のユニフォームで統一している。
で、何が世界一かというと、この「BIASETTO」のパティシエさんは、ベルギー生まれで、1997年のパティスリーの世界大会で、「Setteveli」というチョコレートケーキで、世界一に輝いたらしい。
こちらが「setteveli」。いかにもベルギーって感じのチョコレートケーキ。
イースターが近いので、イースター用のひよこちゃんのお菓子も飾ってある!
イートインコーナーも併設されていたので、パドヴァはずーーーっと歩きっぱなしだったため、少し休むことにした。ケーキをひとつずつと、カプチーノをオーダー。ケーキはかなり迷ったが、もともとチョコレートケーキはそれほど好きでないので、「Setteveli」とは違うケーキを選んだ。
私は、「Setteveli」と並ぶ、もう一つの代表作「Abraccio di Venere(ビーナスの抱擁?)」というケーキにした。マスカルポーネ入りで、ラズベリーが乗っているケーキ。イートインの場合は、こんな風に、コースのフランス料理のデザートみたいに盛り付けてくれる。
姉はパッションフルーツやオレンジの入った「Filostrata」というケーキ!
どちらも持ち帰りだと€5だが、テーブル席で食べるなら€6.5。日本のカフェで食べるケーキの値段と比べると、格段高いとは思わないが、イタリアだと、こういったケーキは€3程度なので、かなり高級ケーキだ。
お味は…さすがチャンピオン!繊細で、凝っていて美味しい!イタリアでよく食べる、素朴さがおいしいケーキとは違い、パティシエが手をかけて作った洗練されたケーキであった。
イートインコーナーは賑やかな家族連れもいて、それほど格式が高い感じもない。だが、やはりケーキの値段が、イタリアの普通のパスティッチェリア(お菓子屋さん)と比べると高いので、地元の人で大混雑ということはない。特別な日に食べるケーキという感じだろう。
私より早く食べ終わった姉は、「せっかくここまで来たのだから」と、持ち帰りできるスイーツを選びに行った。私は姉のこういう情熱は好きなのだが、最近の彼女はスイーツ控えめになってきた。ウチは糖尿家系なのよねえ…私もそろそろ控えるべきかしら…でもスイーツのない人生なんて…とりあえずこの問題は後回し!(本当に後回しでいいんですか?)
「BIASETTO」のテーブル席で、今後の予定を確認した。とりあえず18:15には、本日2回目のスクロヴェーニ礼拝堂が待っている。
ちょうど今17時くらいだから、この後、近くのサンタ・ジュスティーナ教会まで行って、そこがパドヴァ中心街のほとんど南端なので、そこからトラムで北の方へ戻ろう。
時間があったら行こうと思っていた植物園は諦めて、それよりも占星術のフレスコ画で知られるラジョーネ宮に行こう。植物園は世界最古の植物園として、パドヴァ唯一の世界遺産だが、何が何でも世界遺産を見なければならないということもないだろう。ちなみにスクロヴェーニ礼拝堂は世界遺産ではないのである。
「BIASETTO」から城壁沿いを歩き、サンタ・ジュスティーナ教会近くで城壁の中に入った。
こちらがサンタ・ジュスティーナ教会。サンタントニオ教会に似ている。パドヴァの教会や礼拝堂は全体的によく似ている。ココアのシフォンケーキのような色である(ケーキ屋から出てきたばっかりの人が言いそうな感想)。
サンタ・ジュスティーナ教会は、パドヴァの観光エリアの南端にあたるが、ここまで来る人は何が見たいかと言うと、サンタ・ジュスティーナ教会の外観がかわいらしいこともあるのだが、内部にヴェロネーゼ作品があるので、それを見たいのだ(私のこと)。
外から見ると、ぽこぽこと水色のクーポラ(丸屋根)がかわいいが、中に入ると、そのぽこぽこしたクーポラを、下から見るような感じで面白い。たこ焼きの中にいるみたいである。ここまで来ると、スクロヴェーニ礼拝堂周辺に、あんなにたくさんいた観光客がほとんどいない。静かな雰囲気だ。
ヴェロネーゼ作品は、内部中央の一番奥。
ヴェロネーゼらしい、ダイナミックで人たくさんなんだけどエレガンスに仕上がっている作品…ぽいのだが、主祭壇は立ち入り禁止で近づけない。写真もこのくらいで撮影するのが精いっぱい。
教会で鑑賞する絵は、得てしてこういうこともある。最近わかってきたことは、主祭壇の作品はやはり近くで見れない場合が多い。側面の、小さな礼拝堂にある作品は、比較的近くまで行くことができる。
モンタニャーナでもそうだったけど、今回の旅行は、「ヴェロネーゼに近づくことのできない旅」だな。やっぱりヴェロネーゼの本場、ヴェネツィアを再訪するしかないな。
さて、ここから急いで北の方へ帰りたいのだけど、どうしても日本人が気になるものが…。やきとり…。
パドヴァのトラムは、路線はひとつで、しかも南北をほとんど縦に走っているシンプルな路線だ。北から南、南から北という方角さえ間違えなければ、乗るトラムを間違うことはない。
トラムの停留所に急ぎ歩きしているところにちょうどトラムがやってきて、北と南を冷静に確認して、ざっくりと南から北の方角へ走っていたので、そのトラムに飛び乗った。
トラムの窓からは、今回、忙しくて旅程からスキップした「プラート・デッラ・ヴァッレ」という広場が見えた。今では市民の憩いの場となっているが、何かでファシズム期に、ムッソリーニが熱狂的な演説をした場だと見たことがある。今は昔だなあと、ぼんやりと車窓を眺める私。
プラート・デッレ・ヴァッレの向こうにはサンタ・ジュスティーナ教会が見えて、左の方に遠ざかっていく。その左側にはサンタントニオ聖堂が見えて、こちらも左の方へ遠ざかっていく…。
…って、ちょっと待って!!!私たちは北に向かっているんだから、サンタントニオ聖堂が遠ざかるのはおかしいだろ!ぼんやりと車窓を見ていた私の脳みそが急に立ち上がった。隣にいた若い男性に、「すみません、このトラム、駅(=北)の方角に向かってますか?」と聞くと、「いえ、駅からは遠ざかってますよ。逆方向です」とのお答え!
ちょうどトラムは次の停留所で停まったので、男性にお礼を言って、姉とトラムを飛び降りた。それにしてもどういうこと!?ちゃんと、トラムは南から北の方角へとやってきたから、それに乗っただけなのに!
幸い、反対方向のトラムはすぐに来たので乗車し、そのトラムの中で、インフォメーションの女性が蛍光ペンで色付けしてくれた地図とにらめっこしてみた。
すると謎が解けた。
トラムは、基本、北→南か、南→北に、単純に走っているのだが、プラート・デッラ・ヴァッレの北側だけ、トラムが走る道が蛇行している。そのため、ほんの一か所だけ、北→南の路線が南→北に走り、南→北の路線が北→南へと走ってしまう部分があるのだ。
ココ!ピンク色の98から63にかけての部分。上から下へと流れるトラムの路線が、一瞬だけ逆流する。
トラム全体の路線の、ほんのちょっとにしか過ぎない部分なのに、私はちょうどそこを走っているトラムを見てしまって、「あ!北向きに走っているトラムだ!」と勘違いしたのである。確率上、ほとんど起きないはずのことが起きるのが旅なのであるなあ…。
というわけで、全然時間がないのに、まさかのシンプル路線のトラムで、逆方向に乗るということをやらかしてしまった我々だったのだ。かわいい観光客。