2/29マテーラ旅行記2 洞窟の中の静かな祈り
マテーラ一泊目の夜が明けた。
ここで宿泊しているB&Bは、朝食付きである。朝起きて、母娘3人でラジオ体操をしていると(しかもラジオ体操の曲を口ずさみながら)、ロフト部分で体操をしていた母が、窓からホテルのオーナーのおにいちゃんが朝ご飯を運んでくるのが見えたらしく、「来たよ、来たよ!」と声をひそめぎみに教えてくれた。もちろん、即座にラジオ体操は中断し(そのまま続けていたら、おにいちゃんコワかったろうな…)、笑顔でおにいちゃんを迎え入れた。
「ぶおんじょるのー!」
朝食は、マテーラパンと、おにいちゃんの奥さんの手作りケーキであった。おにいちゃんはおっとりしたしゃべり口調で、「今日はどんな予定ですか?」と聞いてきた。「洞窟教会や、カーサ・グロッタに行ってみるつもりです」と答えると、やさしくうなづくおにいちゃん。イタリア人にしてはおとなしい雰囲気の男性である。
そのまま、「よい一日を」と出ていきそうになったので、「あのー、昨日お渡ししたパスポートはどうなってますか?」と聞くと、「あっ!忘れてた!すみません」と、ポケットから3部のパスポートを取り出した。どんなにおっとりしていても、やっぱりイタリアーン。パスポートは、海外旅行者にとっては、命と希望の次に大事なものっ!ホテルスタッフに預けた場合は、確実に帰してもらいましょうっ!
さてさて。今日は、マテーラの、洞窟教会などの観光地に入場観光する予定の日である。マテーラ内の洞窟教会6か所に入場できる、6ユーロの共通券がインフォメーションで購入できる、と「地球の歩き方」に書いてあったので、最初にインフォメーションに行くことにした。
インフォメーションまでの道中で、今朝も猫ちゃんにいっぱい遭遇っ!猫の多い町ばんざいっ!
とても人懐こかった、長毛の猫ちゃん。まだ若い猫で、積極的にじゃれてきた。
箱入り猫ちゃんにも遭遇。猫って本当に箱が好きである。
新市街のインフォメーションにたどりつくと、「共通入場券は、各教会の切符売り場でなければ買えない」とのことだった。イタリアで、情報がくるくる変わるのは、もういつものことっ!慣れっこだいっ!
と
いうわけで、サッシ地区に戻り、10時近かったので、「地球の歩き方」に10時から開くと書いてあるサンタ・マリア・デ・イドリス教会に行ってみたら、11月から3月までは、10時半からオープン、と書いてあった。フフフっ。平気、平気っ!よくあることっ!てなわけで、10時半のオープンまで、イドリス教会周辺の眺めを楽しんだ。
イドリス教会の裏手からは、スサマジイ景観を拝むことができる。
こちらは、イドリス教会裏の、右手に見える風景。真ん中にグラヴィーナ渓谷、その右岸に、サッシ・カヴェオーソ地区。カヴェオーソ地区は、こんなふうに、ガケに穴ぼこを掘ってできた、原始的なサッシが多く残る。左岸はムルジャの高台。
こちらは、左手の風景で、ドゥオーモをてっぺんに頂くチヴィタ地区と、その近くのバリサーノ地区が拝める。こちらは「町」っていう感じが強い。カヴェオーソ地区と、バリサーノ地区は、同じサッシ地区でも、ずいぶん違う眺めであった。
こちらは、イドリス教会正面から見える町の風景。サッシ住宅が、次から次へと積み重なるように建てられている。マテーラって、絵を描いたり、音楽を作ったりしたくなる町だ。芸術家が住み着いてしまうのもわかる気がする。
さて、10時半になり、イドリス教会はオープンした。共通券を購入しようとすると、共通券は、3か所の教会に5ユーロで入場できるものしか売っていなかった。シーズンオフの冬季は、他の教会には入場できないのかもしれないなあ。入場できるのは、ここイドリス教会と、イドリス教会からつながっているサン・ジョヴァンニ・イン・モンテッローネ、あとサンタ・ルチア・アッレ・マルヴェ教会の3か所とのことだった。
とりあえずイドリス教会に入場。教会っていうか、もう、ほんまもんの洞窟っ!暗くて、しんしんと冷える。その中に、中世のものと思われるフレスコ画が、ひっそりと浮かび上がっていた。聖人の絵や、太陽や月などが描かれていた。洞窟の中ということもあり、なんともひそやかで、神秘的。
イドリス教会の内部は、そのまま、サン・ジョヴァンニ・イン・モンテッローネという小さな洞窟教会につながっている。奥の方へと進んだ。
サン・ジョヴァンニ・イン・モンテッローネは、「サン・ジョヴァンニ」と言うくらいだから、もちろん私の大好きな聖ヨハネの絵があった。イタリア語で「ヨハネ」は「ジョヴァンニ」である。ただ、聖ヨハネって二人いて、一人はキリストの弟子の美青年ヨハネで、もう一人はキリストに洗礼を授けたおじさん顔で描かれるヨハネ。私が好きなのは前者であることは、言うまでもない。このサン・ジョヴァンニ・イン・モンテッローネ内には、どちらのヨハネも描かれていて、どっちに捧げられた教会なのかは不明。
それにしても、こちらの教会は、イドリス教会よりさらに奥にあるので、洞窟という感じがさらに強く、このフレスコ画を眺めながら祈りを捧げるには、もってこいの空間だった。静寂と、わずかな光の中、古いフレスコ画と向き合う我々。そこに、切符売り場にいた係員さんがやってきて、「忘れてた、てへっ」てな感じで、脇の方にあるオーディオをいじくって、BGMを流し始めた。イタリアの教会では、よくBGMが流されるが、あんまりそんな演出いらないと観光客は思うだよ。
さて、キリスト教徒でもないのに厳粛な気持ちになったところで、洞窟教会から出た。この共通券で、もう一つ、サンタ・ルチア・アッレ・マルヴェ教会という洞窟教会に入れるので、そちらの教会に行ってみることにした。
移動している途中で、宿泊しているホテルの裏を通ったのだが、黒猫さんがごはんのためにスタンバっていた。我々のホテルオーナーは、この黒猫さんにごはんをあげているらしい。
この黒猫さんは、結構迫力のあるツラガマエをしていて、おそらく、ここら一帯の、ボス猫と思われる。
これがちょっと近くから撮った写真。貫禄ありますな。
サンタ・ルチア・アッレ・マルヴェ教会は、カヴェオーソ地区の、がけっぷち近くにある洞窟教会である。マルヴェ教会へ向かう道は、こんな感じにいい感じ。
急な階段を降りて行きます。
そしてたどり着いたぜ!
この洞窟である。言われなければ教会だとはわからない。
中に入ると、真剣そのものにパソコンの画面を見ているお兄さんスタッフがいて、入場券の半券を切って、中に入れてくれた。
中は、イドリス教会よりも、しっかりフレスコ画が残っている。たくさんの聖人たちが、壁や柱に描かれていた。特に有名なのが、入って正面にあるサンタ・ルチアという聖女のフレスコ画と、入って左側の部屋にある授乳の聖母のフレスコ画である。この2つの絵は他の絵に比べて保存状態もよく、静粛な洞窟教会の雰囲気によく似合っていた。残念ながらこの教会も、内部の撮影は禁止。
この教会は、一時は民家として使われた時期もあるらしく、奥の方は、民家の名残りで、サッシ住宅として使われた跡が残っている。壁を見るにつけ、このへんにもフレスコ画があったのだろうけど、民家として使われるうちに消えてしまったのだろう。少し残念。民家部分の天井を見上げると、十字架が天井部分に浮き彫りにされていた。こちらは教会であったことの名残りである。
傷んでいるものも多いが、たくさんのフレスコ画が残っているので、ひとつひとつじっくり鑑賞。入口の部屋の、正面左の「San Vito Martire」という聖人の絵は、誰かに似てるなーと思ったら、ハンター×ハンターの幻影旅団のパクノダに似ていた。パクノダさん、聖人の格好もお似合いですな。
母は、なぜか、入口の左側の部屋の、道路側にある洗礼者ヨハネ(私がファンじゃないヨハネの方)のフレスコ画をじっと見ていた。何を見ていたかと言うと、洗礼者ヨハネの足元を指さして言った。「お母さんはね、こういうレッグウォーマーが欲しいのよ」。…中世のフレスコ画に対して何を言ってるのか、この人は。姉まで加わって、「レッグウォーマーは、分厚い方があったかいけど荷物になるよ」とか、二人でレッグウォーマー談義。どう考えても、洞窟教会のフレスコ画を見ながら話す話題ではない…。
シーンとした洞窟教会の中、係員のおにいさんが、パチパチとパソコンのキーボードをたたく音がかすかに響いている。入口近くのフレスコ画を見ている時、おにいさんのパソコンの画面が見えてしまった。…確実にこの人は、パソコンでトランプの神経衰弱みたいな遊びをしているよ…。何だか、母も姉も、受付のおにいさんも、洞窟教会にそぐわないことばっかりしてるよ…。
というわけで、サンタ・ルチア・アッレ・マルヴェ教会を出た。洞窟教会の外に出ると、空気がおいしく、太陽がまぶしいぜ。洞窟教会内の空気は何だかこもっていて、少しだけカビ臭い感じだった。教会内の壁に緑色のものが付着していて、フレスコ画の色が残っているのかと思っていたが、あれはどうやらカビだったようだ。
教会を出て、少しだけ、カヴェオーソ地区を歩いた。
カヴェオーソ地区は、サッシ地区の中でもより原始的な、まさしく洞窟と言う感じのサッシが残る地区である。人が住まなくなって、そのまま廃墟となって放置されているサッシがたくさんある。柵や扉が閉められていて、中に入れないようにしてある洞窟もあるが、入口が開いた状態になっている洞窟もたくさんある。
廃墟となっている洞窟が続いている場所は、何となくコワイ感じがした。柵のない洞窟には、中に入れるのだが、中に入るのもおそるおそる、という感じ。洞窟は奥へ奥へと続いていて、さすがに、奥の方へ入る勇気はなかった。ちなみに、洞窟は、日光が奥の方まで入るように、奥に行くにつれて段差をつけて、低くなるように掘られている。
廃墟となった洞窟を見学すると、何だか得体のしれない恐怖でいっぱいになってしまい、口数少なくホテルの方向に戻っている途中で、こんな毛玉を見つけて、何だか心がホッとした。
正体は、お昼寝中の猫ちゃんでありました。
ホテルに戻り、お昼ご飯にはパニーノを食べて、一休み。午後からは、ドゥオーモのあるチヴィタ地区に上る予定だが、ちょっと長くなったので、続きは次回。