3/5アレッツォ旅行記2 ヴァザーリさん、お邪魔します
さてっ!アレッツォ遠足の後半戦っ!
前半戦の、サン・フランチェスコ教会と、カフェで、不当に、異様に、時間を費やしてしまった我々に、残された時間はスクナイ。その限られた時間の中で、この風情たっぷりの坂の町を、歩き倒すぞっ!
とりあえず、アレッツォに来たからには、ヴァサーリん家に押しかけるのが筋ってもんだろう。
ヴァザーリとは。フィレンツェのメディチ家の、コジモ1世のお気に入りだった芸術家である。絵も彫刻も建築もできるし、文筆家でもある。ルネサンスの次のマニエリスム期の芸術家なのだが、その多才ぶりは、むしろルネサンス期に理想とされた、万能人に近い。
特に、フィレンツェのヴェッキオ橋の上に作られた「ヴァザーリの回廊」は有名だ。また、彼が執筆した「ルネサンス芸術家列伝」は、(日本語でも読めます→芸術家列伝、現代でも、ルネサンス期の芸術家のエピソードを語る際には、よく引用される本だ。この本、私も読んでみたが、非常におもしろかった。ヴァザーリさん、なかなか文才もあるのだ。
そのヴァザーリは、アレッツォの出身なのだが、彼が住んだ家が、ここアレッツォに残っているらしい。しかも、ヴァザーリ、この家の建築は自分で手がけ、内装のフレスコ画も自分で描いたものなのだそうだ!
いやー、これは興味あるよ!独立独歩の極みっ(ちょっと違う)!てなわけで、ヴァザーリんち目指して、ドカドカ歩いた(これは、我々の歩き方が品が無いのではなく、単に時間がないから、美しさよりも速さを優先して歩いたためですよ)。
ヴァザーリの家に向かう途中で、ドゥオーモを過ぎたあたりの右手に、何だか雰囲気の良い、城壁と門が見えた。…ええと、時間がないから今はスルーして、後で時間があったら行くよっ!待っててくれ、城壁くんっ!
ドカドカさくさく歩いて、中心街の端あたりにある、ヴァザーリの家にようやく到着。
これがヴァザーリんちなのだが…ええと、扉はカギが閉まり、固く閉ざされているよ。でも、右の方に開館時間が書かれているのだけど、火曜が閉館で、それ以外の平日は8時半から19時まで開いてるって書いてるよ。この日は月曜だし、今は開いてる時間帯じゃんよ。何でドアが閉まってるの?
とりあえずドアの左に呼び鈴があったから、押してみた。よー、ヴァザーリ、中に入れてくれよ。すると、カチャっと音がして、カギが開いた。ええーっ!?何気なく呼び鈴を押してみただけなんだけど、本当にココは、呼び鈴を押して中に入れてもらう形式だったのか!ま、ある意味確かに、呼び鈴を押す方が、「ヴァザーリんちに遊びに来た気分」は味わえますな。
ドアを開けて、階段を上ると、明らかにヒマそうな女性が「チャオー」と待っていた。おそらく、このヴァザーリの家の現在の所有者で、観光客に開放していない部分に住んでいるのだろう。それで、観光客が来たら、カチャッとカギを開けて、切符を売って中に入れる。
…うわー!何だか理想的な生活だね!いいなー!私も先祖の誰かが著名な芸術家だったら、こんな優雅な生活ができたのか!まっ、私の体内に著名な芸術家の血が流れていたら、こんなにぐうたらな人間にはなってないのでしょうけど!
私が少しイタリア語がわかることを知ると、オーナーの女性は、スサマジク速いイタリア語でまくし立て始めた。今まで聞いたイタリア語で、史上最速であった。だが、人にものを伝える才能があるのか、言葉そのものは何を言っているかサッパリわからなかったが、内容は何となく通じた!庭もあるから、忘れないで鑑賞してほしいが、庭には猫がいるから、館内に入らないように、ドアをしっかり閉めてほしいとのこと。
庭には猫っ!?猫好きの我々姉妹は、まず庭に行った。ヴァザーリの家の内部は写真撮影禁止なので、撮影できるのはこのお庭だけ。
後ろの方に映っている建物が、ヴァザーリんちでございます。
庭には、猫特有の猫のトイレの匂いが充満していたので、猫がいることは間違いあるまい。あんまり我々には時間がないのだけれども、どうしても猫を発見したくて、庭をウロウロ。ヴァザーリさんのお家で、この人たち何やってんだか。
執念実って、ついにちょっと遠目ではあるが、猫発見ーーー!!!ありがとう、猫くんっ!これで、心置きなく館内の方へ戻れるよ!
で、館内に戻り、ヴァザーリのお家をじっくり鑑賞した。…な、なかなか素敵なお家ですな、ヴァザーリさんっ!
特に気に入ったのが、「名声と芸術の部屋(Camera della Fame e delle Arti)」と呼ばれる部屋に描かれた、4つの芸術の寓意像。それぞれ、絵画、彫刻、建築、詩作を表す、4人のかわいらしい女の子が、部屋の四面にそれぞれ描かれている。これは、カワイイっ!
特に「絵画」を表す、キャンパスにデッサン中の女の子と、「詩作」を表す、薄紫の衣装を着てノートを広げている女の子がかわいらしいっ!パワフルな彫刻作成中の女の子も味があってよいし、知的そうにコンパスを持つ「建築」の女の子も、みんなみんなカワイイっ!
これ、このままアニメにできますよ。明るいかわいい女の子って感じの「絵画」が主役、その親友に大人しそうで色っぽい「詩作」、パワフルでボーイッシュな「彫刻」に、知的ポジションの「建築」でカンペキじゃないんですか?何言ってんでしょうね、私。
とにかく、この4つの絵は、セットで見ると、本当に素敵であった。写真が撮れないのが残念すぎる。オーナーの女性に、「絵はがきとして売ってませんか?」と聞いてみたが、作っていないそうだ。残念。おのれの目に焼き付けろ!
この部屋には、ヴァザーリ自身の自画像や、ミケランジェロの肖像画も描いてあった。先述の「ルネサンス芸術家列伝」を読めばわかるのだが、ヴァザーリはミケランジェロ大好きなので、そんな下知識を持って鑑賞すると、なかなかおもしろい。
この「名声と芸術の部屋」以外の部屋も、素敵なフレスコ画満載であった。ヴァザーリの絵は、フィレンツェのヴェッキオ宮や、ウッフィツィ美術館で鑑賞した時は、あまり印象に残らなかったのだが、この自分の家を飾っているフレスコ画は、なかなか雰囲気の良い絵が多かった。
ヴァザーリさんは、誰かに注文されて、決められた題材を描くよりも、自由に自分の好きなものを描いたほうが、ずっと力を発揮できるタイプなのかもしれないなあ。この「ヴァザーリの家」を訪問したことによって、画家としてのヴァザーリへの見方が、私の中ではずいぶん変化した。
というわけで、予想していたよりずっとおもしろかった「ヴァザーリの家」っ!どうも長々とお邪魔しました~。アレッツォに行く方には、ぜひおすすめしたいスポットである。
さあてっ!時間もないことだし、またドカドカ歩くぞっ!来た道を戻って、駅まで戻るまでの間に、いろんな教会や風景を拾って行こうっ!
「ヴァザーリの家」から、ドゥオーモ方面に戻る途中に、サン・ドメニコ教会がある。
こちらがサン・ドメニコ教会。鐘楼がかわいらしい。
時間もあまりないので、この教会はスルーしようか、とも迷ったのだが、「ちょっとだけ、ちょっとだけよ!」と、我々は自分たちに言い聞かせながら、教会にチャッと入った。若き日のチマブーエ作の「キリストの磔刑図」が有名な教会なのだが、このキリスト像は、よくある感じの中世画っぽくてイマイチであった。
ただ、教会の内部の暗くて静かな雰囲気は、なかなか美しいものがあった。時間があったらゆっくりしたい教会であったが、残念ながら、「また来るからっ!」と言い残して、去ることになった。
「また来る」…この言葉が出始めると、私も姉も、だいぶその町を気に入った証拠である。そう、アレッツォ、気に入っちまったよ!傾斜の広場グランデ広場を始めとして、まず坂道の多い街並みそのものが美しい。アレッツォは、私に坂の美しさを教えてくれた町となった。
私が実家の鹿児島で住んでいた家も、坂道にある家なんだけどなあ。メーテルリンクの「青い鳥」は、確か、幸せの青い鳥を探す旅に出るが、実はその青い鳥は家で飼っていた小鳥だった、というオチじゃなかったっけ(うろ覚え)。今度実家に帰った時は、実家前の坂道を見つめ直してみるべきだろうか。
で、サン・ドメニコ教会を飛び出して、我々が向かったのは、サン・ドメニコ教会とドゥオーモを結ぶ道の途中で見えた、城壁と門っ!ヴァザーリの家に向かう途中で、「あっ!何か面白そうな場所があるっ!」と、脳内ブックマークしておいた場所だ。
それは、この門っ!
門の向こうに、下りの坂道がどんどん続き、その下には、トスカーナ特有のやさしい丘陵地帯の風景が広がっているっ!何て気持ちのいい眺めっ!トスカーナとウンブリア地方の、丘の上にある町からの、こういう眺めは本当に最高である。
この門から、中心街へと上るためにエスカレーターが設置してある。「地球の歩き方」の地図にも載っていないエスカレーターだ。
このエスカレーター、左側の絵に注目である。この何だか無表情な兵隊さんたちの絵は、実は、サン・フランチェスコ教会の、ピエロ・デッラ・フランチェスカのフレスコ画「聖十字架の伝説」の一部である、コンスタンティヌス帝の凱旋を模写したものなのである!この無味乾燥な感じが、ピエロ・デッラ・フランチェスカの絵の特徴をよくとらえていて面白い。それにしても、ちょっとどアップすぎる絵だろ!
私と姉は、このエスカレーターが大いに気に入って、いっぱい写真を撮っていると、地元のアレッツォ人に変な目で見られた。「日本人から見ると、エスカレーターってそんなに珍しいのかしら…」みたいな。ぶっちゃけ、日本には、イタリアの50倍くらいの数のエスカレーターがあるように思いますけどね(イタリアではエスカレーターのある建物は珍しい)。
ちなみに、このエスカレーターは、地図に載っていないはずで、帰国してから調べると、2011年の秋ごろにできた、新しいものらしい。イタリアン・ニュー・テクノロジーなわけですな。我々のアレッツォ訪問に間に合って、ヨカッタヨカッタ!
さてっ!次行くよ、次っ!次はドゥオオオオーモっ!(←アレッツォが素敵な町すぎて、かなりハイテンションになっている我々)
こちらがドゥオーモ。
内部はゴシック式で美しい。
ゴシック教会と言えばステンドグラス。後陣のステンドグラスが、天気が良いこともあって、キラキラと輝いていて、荘厳な雰囲気を醸し出していた。
で、このドゥオーモの目玉は、ピエロ・デッラ・フランチェスカの描いた「マグダラのマリア」のフレスコ画である。だが、どこにも見当たらないぜっ!「マグダラのマリア」の絵は、金髪長髪の美人さんであることが多く、私は結構好きなモチーフなので、ぜひ見たいんだけどなあ。
時間もあまりないので、売店のおばあちゃんに聞いてみると、「あなたがマグダラを見たいならば、次に来た時に見なければならない」と言う。「今は工事中で見られない」とのこと。ドゥオーモの左側の方が工事中だが、その中にあるわけですな。
それにしてもおばあちゃん、「次に来た時に」って、日本人観光客で、アレッツォを再訪する人は、結構少ないと思うぜ…。でも、この時には、我々はアレッツォ再訪する気満々だったため、「オッケー!」とおばあちゃんに明るく返事した。マグダラは次回、次回っ!
さて。アレッツォで、何が何でも訪問せねばならない教会は、あと一つっ!グランデ広場近くの、ピエーヴェ・ディ・サンタ・マリア教会っ!
この教会は、風変わりな外観をしている。
グランデ広場の反対側に正面を向けているが、こちら側が正面。三層に分かれていて、それぞれ絶妙な間隔で柱が並べられている。ピサ・ロマネスク様式だそうだが、ピサの大聖堂とは、柱がずらっと並んでいることは共通しているけれども、雰囲気は全然違う。こちらの教会の方が、ずっと素朴である。
正面入り口の上の方に掘られた、「各月の象徴」の彫り物は、実に実にかわいらしい。
上左から10月、11月、12月。下は左から3月、2月、1月。
こちらは上が左から7月、8月、9月。下が左から(おそらく)6月、5月、4月。
はっきりとはわからないが、おそらく年間を通じての農作業を表しているのではなかろうか。1年中、まじめに働こうね!というメッセージかと思われる。あまり私の心には響かないメッセージだが、像そのものはロマネスク特有の素朴さ・稚拙さが何ともかわいらしい。
ロマネスク教会の楽しみ方は、何といっても、「わけのわからないモノ」を探すところにある。西洋美術は、ルネサンス期から劇的に洗練化していくのだが、その前時期に当たるロマネスク美術は、ルネサンス期には失われた野蛮さ・奇抜さがあり、それにハマると、何ともかわいくて仕方がなくなってしまう魅力がある。
このピエーヴェ・ディ・サンタ・マリア教会は、内部・外部ともに素朴なロマネスク様式で、可愛いヤツらがたくさんいた。その中の何人かを紹介したい。
まずコイツ。
やあ、こんにちは。…ええと、君は何だろうか。サル…ではないよな。だいぶ意味不明。
それからこの人。
手を犬(?)に噛まれてますぜ…。でも、全然痛そうじゃないし…。むしろ噛まれてるんじゃなくて、歯科診療でもしてるんですかね?
そして、コレ…。
もはや、なぜこのようなものが教会にあるのかは、観光客には意味不明。コレがロマネスク期じゃなくて、もっともっと昔の古代遺跡の中に発見されたら、「古代、地球には宇宙人がいた!」とか言われそうなシロモノだと思う…。
いやー、ピエーヴェ・ディ・サンタ・マリア教会、楽しいっ!楽しんいんだけど、そろそろ帰りの電車が迫って来たぜ!我々は、最後に、駅近くのローマ円形劇場跡に行くか、もう少し町歩きを楽しむか迷ったが、ローマ劇場は次回来た時に行こう、ということになり、町並みを楽しむことになった。
アレッツォの坂道やくねくねした曲り道は、本当に美しい。映画の「ライフ・イズ・ビューティフル」のロケ地になったのだそうだが、映画を撮りたくなる気持ちがよくわかる。
2枚目の写真、向こうに見えているとんがり屋根は、ドゥオーモの屋根である。
私は、もうこの坂道と、ピエロ・デッラ・フランチェスカの傑作や、ヴァザーリの家、素敵な教会などなどでお腹いっぱいなのだが、アレッツォが姉を惹きつけた理由は、もう一つあったようだ。それは、アンティーク屋さんが多いこと。
姉は、「何でも鑑定団」という、ファンの平均年齢が高い番組が大好きで、毎週欠かさず見ている(私には、イマイチわからない世界)。そんなこともあって、アンティーク屋さんが大好きなのだそうだ。
幸いなことに(姉にとっては不幸なことに)、セレブでないため、お宝を買う資金はないので、お宝を買い集めるまでには至っていないが。「何でも鑑定団」が好きな人種にとっては、買う気がなくても、アンティーク屋さんを見るだけで幸せな気分になるんだそうだ。へえー。
アレッツォでは、有名なアンティーク市も開かれることがあるらしく、姉は、「次回来るときは、絶対アンティーク市の時に来よう!」と鼻息を荒くしていた。へー。もし同行することになったら、姉がアンティーク市に貼りついている間に、私はどっかの教会で遊んでよっと。
アレッツォの街角で見かけたアンティーク屋さんの一つ。中では職人さんが、何やら作業をして、いい感じだった。
というわけで、鈍足の我々にしては珍しく、ドカドカと忙しく歩き回ったアレッツォ。急ぎ歩きになってしまったのは、アレッツォが、想定していたよりずっと見どころが多い町だった、という嬉しい誤算があったからである。気に入った町には、何回でも行くよ!その時は、ぜひ、ドゥオーモの「マグダラのマリア」を見せてくださいましね!
バイバイ、アレッツォ。またね!