2/27ローマ旅行記6 ラファエロはゴリラ描かないよ
(本日のここまでのあらすじ:午前中のうちに、ファルネジーナ荘と、トラステヴェレにあるサン・フランチェスコ・ア・リーパ教会へ行ったよ!)
サン・フランチェスコ・ア・リーパ教会から、宿泊先のホテルに帰る途中、トリップアドバイザーの、ローマのレストランランキング一位のジェラート屋さん、Gelateria Il Dolce Sorrisoがあったので立ち寄った。
お店に入ると、満面の笑みのゴキゲンおじさんがカウンターにいて、次々にジェラートをスプーンにすくって味見させてくれた。…いや、頼んでもいないのに、「アレは美味しそうだよね~」と、フレーバーを選ぶ際に指差すだけで、パパっとそのフレーバーをスプーンで少量取って、「味見をどうぞ」と渡してくるのだ。一人あたま、十個以上のフレーバーを味見したんじゃないだろうか(勝手におじさんが渡してくるので)。
選ぶ時間を与えないほどの味見攻撃。ようやく全員フレーバーを選ぶと、カップにそれぞれ違うかわいらしいクッキーやコーンを乗せてくれて、スプーンも丁寧に手渡してくれる。しかも、「写真撮ってあげるよ!」とカウンターから出てきて、ジェラートを持った我々の写真を撮ってくれた。すさまじいホスピタリティ。
最後に、「トリップアドバイザーにコメントお願いね」と名刺を渡された。なるほどー。おじさんの生きがいは、お客さんへのきめ細かいサービスと、トリップアドバイザーでのランクアップなのだな!味の方は、美味しかったけど、ローマにはもっと美味しいジェラート屋はあるぜ、と思った。だが、このおじさんのサービス…というよりもはやパフォーマンスは、ローマのジェラート屋で随一だろう。
ホテルに戻って、母と姉が昼食の準備をしている間、私はホテル近くのスーパーに行って、いろいろと日用品の買い足しをした。お昼からはバチカン美術館に行く予定なので、テキパキとスーパー内を歩き回り、テキパキと会計をしたら、レジのお姉さんに「ポイントカード持ってますか?」と聞かれた。…おおっ!私もローマ市民に見えたってことか!?私がローマ市民権を得る日も近いのだろうか!?(ローマ市民権て何のことだよ…)
母と姉が作ってくれたお昼ご飯。真ん中のパンはFORNO CAMPO DE’FIORIのパン。まじおいしいよ!お肉は、母が塩麹で焼いた。塩麹は日本から持ってきた。まじおいしいよ!
さて。お昼からはバチカン美術館へ突撃である。今回のメインは、まだ母が行ったことがないという、ピナコテカ(絵画館)である。いやー、実に4年ぶりのバチカン美術館。4年前に初めてローマに来た時、このバチカンの近くに宿泊したのだ。実に懐かしい。
バチカン美術館へ向かう途中で、姉が不思議な標識を発見した。
姉「コレ、何を意味してるんだろうね?」
私は「何か、工事とかで、重い鉄材とか運びますよとかいう意味じゃない…?」とかワケのわからない解答をしつつ、3人でうーむと首をひねったが、もっもしや…これは…。
すぐ近くにこの標識があったのだが、明らかにアレは、もともとこうだった標識に誰かが落書きをしましたね。あんまり観光客を戸惑わせないでほしいですね。
この看板を見た後、テヴェレ川沿いを北進して、橋を渡ると、まずはサン・ピエトロ大聖堂が現れた。
ででーん。ワガハイがサン・ピエトロ大聖堂である。
サン・ピエトロ大聖堂の前には、コンチリアツィオーネ通りと言う、絶対に一度では覚えられない名前の、大通りが真っ直ぐ通っていて、サン・ピエトロ大聖堂へと向かう観光客や巡礼者が歩いていく。さながら日本の神社の参道のようで、サン・ピエトロ大聖堂のクーポラに上ると、この道が聖堂に向かって真っ直ぐ伸びているのがよく分かる。
神社の参道に慣れている日本人の私は、権威ある教会の前にこんな道があるのは当たり前、と思っていたが、実はこの道は、ファシズム期にムッソリーニが、サン・ピエトロ大聖堂にふさわしい大通りを作ろうぜ!と、ココに住んでいた住民を追い出して作った道なのだそうだ。
それまでのサン・ピエトロ大聖堂の周辺は、小さな教会や街区が並び、サン・ピエトロ大聖堂の姿を遠くから見ることはできなかったのだそうだ。聖堂の目の前まで来て初めて、どどーんと大きなクーポラが現れ、訪れる巡礼者たちを驚嘆させていたらしい(参照:街物語 イタリア ワールドガイド)。つまり、フィレンツェのドゥオーモみたいに、いきなり現れる系の大聖堂だったのだ。
ファシストのムッソリーニが、市民を強制排除して作った道というわけで、このコンチリアツィオーネ通りは、当然ながらローマ市民には嫌われているそうだ。だが、何も知らない観光客にとっては、サン・ピエトロ大聖堂って、昔からこうだったんだろうなーと、今や観光客向けのお店が立ち並んで、むしろ風物詩的様相まで醸し出しているコンチリアツィオーネ通りを、どんどん近づくサン・ピエトロ大聖堂に感動しながら歩いていくのだ。
サン・ピエトロ大聖堂前の広場には、報道用の屋台が設置されていた。
コレ、もちろん、来たる2013年3月13日に行われる、コンクラーベ(新教皇選び)のために押し寄せてくるメディアのためのものであろう。現教皇は、体調不良を理由に、今月いっぱいで退位する。
今月いっぱいって…今日は2月27日、2月は他の月より短いから……明日までじゃん!全然意識しないで、今日バチカンに来たけど、明日は、教皇の最後の挨拶とかがあって、バチカン大フィーバー間違いなしじゃん!ほわー。明日バチカンに来てたら、もみくちゃになってたところだった。アブナイ、アブナイ(ちょっとだけ大フィーバー見てみたい気もするが)。
広場を右折すると、教皇の逃避路が現れて、そこを通過して、リソルジメント広場まで行って…って、サン・ピエトロ大聖堂とバチカン美術館は、隣同士にあるはずなのに、バチカン美術館の入口は聖堂の反対側だから、隣に行くだけなのに遠いっ!よくバチカン市国は本当に小さな国、と言われるが、そんなに小さくないよ!ディズニーランドより小さいらしいけど、それはつまりディズニーがデカすぎるのだ、きっと。
4年前は、リソルジメント広場近くに宿泊し、リソルジメント広場にあるOld Bridgeという、安くて美味しいジェラート屋さんに通い詰めた。当時から人気のお店だったが、リソルジメント広場を通る際に懐かしさで見てみると…すっすさまじい行列!行列と言うより、これは、人がお店からあふれて無尽蔵にたかっているよ!あんなんで、ジェラートにありつけるのだろうか…。バチカン帰りに寄ってみるつもりなのだが、か、買えるかなあ…。
バチカン美術館の入口にたどりついたのは14時45分頃で、行列はほぼ無かった。姉のリサーチ通り、バチカンは午後はすいているらしい。以前来た時は、結構荷物チェックが厳しかった気がするんだけど、今日は、ゆるゆるで、ゲートを通ったときに反応があっても、「別にいいよ」てな感じで通された。バチカン美術館さん~、私がワルモノだったらどうするんです~?
バチカン美術館と言えばシスティナ礼拝堂とラファエロの間が大目玉だが、今日はまず、母未見の、中目玉のピナコテカ(絵画館)に行くため、入口を右へと曲がった(システィナとかは左側)。ピナコテカは、システィナ礼拝堂とは最初から別方向である。一度システィナ礼拝堂側に左折すると、ピナコテカにはなかなか戻ってこれないので、先に鑑賞するか、後にするか決めておいた方がよい。
ツアーでバチカン美術館を訪れる場合は、よくすっ飛ばされるピナコテカなので、館内には団体客はほとんどいなく、傑作目白押しの割には、ゆったりと鑑賞できる絵画館である。
それでは、私と姉は4年ぶり2回目、母は初出場のピナコテカにGO!(高校野球の甲子園出場みたいな言い方…)
まーずは、早速、フィリッポ・リッピが登場だよ!お題は「聖母の戴冠」。
実は、以前の訪問の際には、この絵の記憶がない。4年前は、姉も私も西洋美術にズブの素人で、「ルネサンスってダ・ヴィンチとミケランジェロとラファエロのことだよね!」というレヴェルだったので、フィリッポ・リッピのファンになる前だったのだ。4年を経てずいぶん成長したねえ、我々…(感涙)。でもねえ、まだまだですよー!もっともっと頑張って成長してくださいねー!(誰に向かって言ってるのだ)
リッピが描いた、同じテーマの、ウッフィツィ美術館にある絵や、スポレートのドゥオーモのフレスコ画に比べると、大作って絵ではないが、相変わらずリッピの描く天使はかわいい。
最初かわいくないと思ったが、特に左端の天使がブサカワイイ。リッピの描く天使は、神聖なる天使というより、やんちゃな自然体のコドモである。神聖なる音楽を奏でているというより、学校の課題の縦笛の練習をしているみたいだ。ぴーひゃらら。
絵の中に、頭上に光輪が描かれていない人物が2人いるのだが、この人がその一人。妙にイケメンなスキンヘッドさんで、何となく仏教のお坊さんに見えてしまうのがおもしろい。光輪がないことを考えると、この絵の依頼主なのだろうか?リッピの時代には、絵の中に依頼主を描き込むことはよくあることなのだそうだ。
さてっ。お次は、このピナコテカの主役の一つ、メロッツォ・ダ・フォルリの「奏楽の天使」。この作品はよく覚えている。
青空をバックに、弦楽器を奏でる優美なこの天使さんは、あまりにも有名。
こちらは、真剣な面持ちで演奏するまじめそうな天使さん。
演奏しているお兄さん天使の周りに描かれている、ちび天使たちもかわいらしい。
しかし、この作品、なぜ断片的に残されていて、しかも、なぜひび割れているのだろうか、と、絵の近くにあった説明書きを読んでみると、この絵は、もともとはローマのサンティ・アポストリ聖堂という教会に、昇天するキリストを取り囲む形で描かれた壁画なのだそうだ。18世紀に教会が改装される際に、キリストの絵はクイリナーレ宮(現大統領官邸)、天使の絵はバチカン美術家に移されたのだそうだ。
壁画を移すって…つまり、ひっぱがして移したってこと?まさか、そのひっぱがした時のヒビが作品に残っているとでも言うのか?しかし、もともと教会にあったというこの絵、教会で完成形を見たら、さぞかし美しかったことだろう。それとも、今、不完全だからこその美しさがあるのだろうか。
さて、お次はラファエロ。ラファエロ大好きな母が、待ち望んでいた作品である。ここピナコテカにはラファエロの大きな絵が三作品ある(あと、ちんまい作品がちらほらある)。
右端にあるのが、まだ師ペルジーノの影響を強く受けていると言われる、ラファエロ若き日の作品で「聖母の戴冠」。ラファエロの若い頃の作品は、人物の表情が、ペルジーノの描く人物にそっくりなのである。
このヴァイオリンを弾く天使のように、少し細い目に、スッキリした鼻と、小さな口。ある意味、作ったような表情で、のちの、ミケランジェロやレオナルド・ダ・ヴィンチに影響を受けた、人物感情を豊かに表現するラファエロ作品と比べると、ペルジーノ影響下の初期作品は、あまり評価されない傾向がある。ペルジーノっぽい表情の天使に対し、この天使の足元にいる子供の天使は、人間らしい表情を浮かべていて、後のラファエロ作品へとつながっている流れであろう。
だが、個人的には、ラファエロの初期作品は大好きだ。何というか、盛期ルネサンス期の、豊かに人物が描かれた華々しい作品に比べ、初期ルネサンス期の、描かれた人物にようやく感情のようなものが芽生え始めた作品には、理屈で説明するのは難しい清々しさを感じるのだ。まだ絵の中の出来事が、手に届きそうで届かない世界にある、そのもどかしさが何だか私の心に響く。そんなわけで、私は初期ルネサンス美術ラヴなのだ。いえいっ!
この絵の下部に、12弟子の中で私が好きな、ペトロとヨハネがいたので姉にアップで撮ってもらった。
右端の本と(わかりにくいけど)鍵を持っているおじいさんがペトロ、左の本を持って片手を挙げている若造がヨハネ。真剣に上空(聖母の戴冠)を見上げるペトロと、あんまり何も考えていなそうな穏やかなヨハネの対比がおもしろい。
真ん中に飾られている作品が、ラファエロ作品の中でも有名なものの一つ、遺作となった「キリストの変容」である。
この絵は、とにかく印象に残る絵である。上部の、空を飛んでるキリストの主役っぷりがスゴイし、下部の、悪魔にとりつかれたと言われる少年のダイナミックなポース、ギョッとするような表情など、インパクト抜群である。右に飾られた「聖母の戴冠」と比べると、実に動的。このダイナミズムが、見えるものを見える通りに描く…つまり余計な脚色はしないルネサンスに終わりを告げ、次のマニエリスム、バロック(どちらも大げさ)期の幕を開いたとも言われる作品だ。
上のシーンと下のシーンは関係ない、と言われることもあるが、下の左の赤い服の男は、どうもキリストを指さしているように見えるし、何だかミステリアスな構図だ。絶筆と言う予備知識のせいか、どうも生々しく、鑑賞者に迫ってくる作品である。
さて、一番左側は、ラファエロが最盛期の頃に描いたという「フォリーニョの聖母」だ。
正直、三作品の中では、一番印象が薄かったかなあ。ただし、聖母子を取り囲むもくもくした白い雲に注目!コレ、よーく見ると、天使の形をしているのだ。これはかわいらしかった。
ピナコテカはだいぶすいていて、このラファエロ作品もほとんど独占状態で鑑賞することができた。ラファエロ一人占め…違った三人占めの幸せ!だが、このラファエロによるぽわーとした幸せをブチ壊すものが、部屋の左手にあった。
えっ…何コレ、誰コレ…?ゴリラだろ、コレ…。左肘で赤い枠をぶち壊しちゃってるし…。この部屋には、ラファエロが下絵を描いたタペストリー(織物みたいなもの)が飾られてるってガイドに書いてあるけど、まさかこのゴリラ、ラファエロ作じゃないでしょうね…。私は信じないよ。真実がどうあれ私は信じないよ(真実から目を背ける女)。
何だかゴリラで調子が狂った我々の、目の保養になったのは、その後に鑑賞したカラヴァッジョの「キリスト降架」。ここに描かれたマグダラのマリアの髪型がかわいらしい。
よく金髪ロン毛を無造作に伸ばしているマグダラだが、このマグダラは、かわいらしく編み込みでまとめていて、今まで見たマグダラの絵の中で一番気に入った!
ちなみに、このキリストを十字架から降ろすシーンには、たいてい、私がひいきする使徒ヨハネも登場する。もちろんこの絵の中にも描かれていたのだが、なんだか頭髪が薄くてずぇんずぇん可愛くなかったので、私は完全スルーした。アレハヨハネデハナイ。カラヴァッジョの知り合いか誰かだろう。そのヨハネを隠すために、全体図は撮影していない。真実から目を逸らす女・私っ!姉は、「アレがヨハネっちの真の姿なんだよ」とものすごくしつこかった。ヤな人だった。
さて、そんなこんなで、ピナコテカを十分堪能尽くした。ピナコテカはバチカン美術館のほんの一部にすぎないのだが、それでも普通の美術館くらいの大きさがあるので、ここらで一息入れることにした。