3/5アマルフィ旅行記3 白いパラダイス、縄の正体
アマルフィのドゥオーモ広場には、「パンサ」という、有名な老舗のバールがある。イタリアの良いバールに贈られる賞ももらったバールだそうで(何だその適当な未確認情報は)、我々もアマルフィ滞在時は、ほぼ毎日通っていた。通って何をしていたかというと、アマルフィ名物のレモンケーキ「デリツィア・デル・リモーネ」を毎日食べていたのである。
今日も、観光の一休みにお店に入った。奥の方にはテーブル席もあるが、座るほどは疲れていなかったので、カウンターで立ちながら一服することにした。オーダーしたのは、レモンのスプレムータっ!アマルフィといえばレモンである。レモンを目の前でしぼって、ミネラルウォーターで薄めたものが出てきた。
ビタミンCたっぷり!すっぱいけど美味しいっ!母と私は、すっぱいもの大好きなので、ごくごく飲んだが、姉は「そんなすっぱいものよく飲めるね…」と言っていた。
さて、レモンで一服した後は、昨日入場しなかった、ドゥオーモの「天国の回廊」へ入ることにした。アマルフィのドゥオーモは内部入場は無料だが、「天国の回廊」と、その回廊から続く「十字架上のキリストの聖堂」と、聖アンデレのお墓のある「地下礼拝堂」は有料で、セット料金で3ユーロである。
本日のドゥオーモ。昨日は、夕闇の中、幻想的に浮かび上がっていたドゥオーモだが、今日は明るい日差しの中、楽しそうに我々を迎えてくれる。色とりどりのモザイク、異国情緒たっぷりの柱。南国アマルフィに、ぴったりのドゥオーモである。
イタリアでいつも不思議に思うのは、その町のドゥオーモ(町を代表する聖堂)は、どこの町でも、とてもその町に似合っているということである。ミラノのドゥオーモはエレガンスだし、ヴェネツィアのドゥオーモはミステリアスでロマンチックだし、フィレンツェのドゥオーモはかわいらしくて生き生きしてる。
まあ、ドゥオーモが、その町の象徴なのだから、そのドゥオーモに合わせて、町は街並みを揃えながら発展していったからこそ、町の雰囲気=ドゥオーモの雰囲気となるのだろう。
姉がよく、「イタリアとか、ヨーロッパの町は、街並みを統一しているからキレイなんだよ。日本もそうすればいいのにね」と言うが、ここらへんは、都市国家であったヨーロッパと比べると、なかなか日本では難しいと思う。都市国家の住民は、その都市を作り上げる担い手であったからこそ、自分たちで作る町、イヤ、町というより国、という思いが強いのだ。日本は、ふるさと意識などはあるにせよ、自分の故郷は自分たち(の先祖)が作り上げた国、という意識を持つ人は少ないだろう。
そこらへんは歴史の差があるから、なかなか「じゃあ日本もそうしましょう」というわけにはいかない。「歴史」なんて、たかだか人間は100年くらいしか生きないのだから、自分がまだ生まれていない時代の「歴史」に、自分が影響されるなんてとても思えないのだが、町という大きなスケールで見ると、やっぱり「歴史」に左右されてしまうということだ。
さて、うんちくはここまで!「天国の回廊」に入ろうっ!入口は、ドゥオーモの正面から見て、左の方である。
チケット売り場でチケットを買うと、日本語パンフレットを手渡された。しかもフルカラー!おおっ!アマルフィ、がんばってるね!イタリアで、こんなに立派なパンフレット(しかも日本語)をもらえることは少ない。
ちらっと表紙を読んでみると、「皆さんが当建築物の訪問を通じ、静寂的で精神的な価値ある休息をされる事を祈っています」。
んっ?オカシクはないが、だいぶカタイ日本語だな…。つまり、「心静かな楽しいバカンスを過ごしてねっ!」ってことか?とにもかくにも、このパンフレットと一緒に、見学を進めて行くことにした。
まずは「天国の回廊」。
おおっ!何か不思議な空間!白い柱がずらーっと並び、視覚的な静寂を作り出している。つまり、見ているだけで静かな気分になるのである。これはパンフレットの言う通り、「静寂的で精神的な価値ある休息」を味わうことができる空間だ。
この空間の静寂を作り出しているのは、この白く並んだ柱だけではなく、真ん中に植えられている南国風の木の緑も一役買っている。よく緑は癒しの色と言われるが、純白と深い緑色は、こんなにも心落ち着く空間を作り出すのだなあ。ここはもともとは貴族の墓地なのだそうだ。こんなにも心静かに眠れる場所もなかなかないだろう。ここはぜひとも少人数で訪れたい場所だと思った。
パンフレットには、「外側に目を向けると、ムーア式の彩色なマヨルカ焼きで装飾された大聖堂の鐘楼(1180年~1276年)を一瞥することができます」と書いてある。彩色「な」マヨルカ焼き、てのが、日本語としては惜しいね!それはともかく、「一瞥」、ですか?「一瞥」しかしちゃダメですか?「一瞥→ちらっと見ること。ちょっとだけ見やること」
仕方がないので鐘楼をちらっと見た。
おっ!
おおおっ!
めっちゃキレイやん!一瞥だけとか無理!我々はパンフレットを裏切って、鐘楼をまじまじと見た。ガン見した。このアマルフィ海岸一帯のドゥオーモは、だいたい屋根が、鮮やかなマヨルカ焼きで飾られているのが特徴である。ちょっとテーマパークを思わせるような陽気な色合いは、海辺の町によく似合っている。
この回廊には、ギリシャ神話のストーリーが彫られた石棺や、古いフレスコ画が描かれた小さな礼拝堂などもあった。この小さな礼拝堂のフレスコ画は、ほとんど剥がれ落ちているが、キリスト教の聖人などの絵がうっすらと描かれていた。
それからこんな意味不明なものも。
パンフレットを読む限り、何か説教壇の一部だと思われるのだが。
ちょっと頭でっかちのヒゲ老人が、お風呂上りっぽくタオルみたいなものを片方の肩にかけて、ライオンの背中に乗って、さらにライオンの頭をごっちんこしている。いったい何だと言うのだね。
さて、「天国の回廊」の次は、「十字架上のキリストの聖堂」である。「十字架上のキリストの聖堂」。長い名前だな。
コレは、パンフレットに書いてある名称をそのまま写しただけなのだが、要するに、古い聖堂だ。というか、昔のドゥオーモだそうだ。1100年に現在のドゥオーモができるまで、ここがドゥオーモだったらしい。今では博物館となっていて、何かかんか宝物とかが飾られていた。ホラ、私はこういうものの価値よくわかんないから!印象に残っているのは、地下礼拝堂へ降りて行く場所に描かれた、中世画っぽい聖母子像のフレスコ画くらいかなあ。
この博物館部分から、右手の階段を降りていけば、地下礼拝堂である。ここにアマルフィの守護聖人・聖アンデレが眠っている。といっても、聖アンデレさんの聖遺物はいくつかに分けて祀られているらしく、ここアマルフィと、ギリシャのパトラス、トルコのイスタンブールにそれぞれ分けて祀られているらしい。
聖人のお墓や遺物を祀る地下礼拝堂は、地下にあるため天井がやや低く窓もないため、結構独特の圧迫感がある。わりと荘厳に飾られている事も多く、装飾が多い時にはさらに圧迫感が増す。このアマルフィのドゥオーモ地下礼拝堂も荘厳に飾られていた。
地下礼拝堂でよく私が抱く不思議な感覚は、最初はお墓だから厳粛な気持ちになっているのかなーと思っていたが、この窓のない閉所に対して抱いている感覚だ、と最近気付いた。別に私は閉所恐怖症ではないのだが、狭い場所にいると、オノレの心の中に閉じこもって行くような気持ちになる。静かに祈りを捧げるのには、地下の礼拝堂というのは適した場所なのだと思う。
こちら、壁に描かれた四福音書記者のひとり・ルカ。足元の牛さんが目印である。珍しく、聖母子の絵を手に持っていたので、思わずパチリ。ルカさんは、福音書を記しただけでなく、聖母子の絵も描いたと言われていて、史上初めてキリスト教絵画を描いた人と伝えられている。
…ちょっと待って。ルカさんって、聖パウロの弟子。聖パウロはイエスが死んでからキリスト教に回心し、ルカさんはその弟子なわけだから…幼児時代のイエスを知ってるはずないよね?じゃ、どうやって聖母子像を描いたの?…イヤ、いけないね、そんな大人げないツッコミは!
こちらは四福音書記者のひとりヨハネ。つまり私が大好きなヨハネっち。足元の鷲さんが目印。さわやかに読書するヨハネっち。
…て、ここは聖アンデレさんの礼拝堂!アンデレさんが主役なんだから、アンデレさんの礼拝堂を見なさいっ!パンフレットにも「もしよければ、アンドレア(アンデレのイタリア語読み)の墓に向かって、イエス・キリストへの信仰の祈りを一新できます」って書いてあるでしょ(すごく謙虚なパンフレットである。もしよければって…)!
いや、ちゃんと見ましたよ。うん、兄弟船ちがった兄弟漁師のアンデレさん。お兄さんはあのペテロ(初代教皇。ローマのサン・ピエトロ大聖堂に祀られている)。漁師の守護聖人でもあるし、これからもアマルフィをよろしくね!
というわけで、礼拝堂にずっといると寒くなってきたので、外に出た。ドゥオーモの正面へと出た。すると、正面の古い青銅扉の前に、今日はロープが張ってあって、近づいたりさわったりできなくなっていた。古い扉なんだから、ロープを張って当然なんだけど、昨日はこんなロープなんか無くて、べたべた触っちゃったよなあ…。でもどうして、昨日は近づけて、今日は近づけないんだろう…?
ま、まさか…!我々母娘3人は、だいたい同時にあることを思った。ドゥオーモに入って、一番右手前にあるの礼拝堂を見ると、昨日置かれていた縄が無くなっている!つまり、昨日ここに置いてあった縄は、漁師の安全を祈る聖なる縄でも何でもなくて、単に、青銅扉の前に張られる、立ち入り禁止用のロープだったんだ!それを、単に昨日はロープ張るの忘れて、ここに置いたままだっただけだったんだ!
というわけで、聖なる縄は、タダのロープであったことが判明した。昨日あの扉ベタベタ触っちゃったなあー。でも我々悪くないよ。
私がずーっと愛読していたパンフレットの最後には、「アマルフィに来てくださってありがとうございます!聖アンドレアからの加護が、一生あなたの元へあるでしょう」と書かれていた。来てくださってって…本当にこのパンフレットは謙虚だね!しかも一度アマルフィ来たからって、一生守ってくれるなんて、聖アンデレさんは何ていい人なんだ!
そういうわけで、アマルフィ大聖堂で私が一番気に入ったのは、天国の回廊でも地下礼拝堂でもなく、この日本語パンフレットだったのである。
パンフレット大好き!