3/9パエストゥム旅行記1 等身大のギリシャ神話

今でこそ、毎年のようにイタリアに繰り出している私だが、大学を卒業するまで、一度も海外に行ったことはなかった。飛行機があんまり好きじゃないと言うのが一番の理由ではあったが、それだけではなく、あまり海外への興味そのものが無くて、それほど行きたいとも思っていなかった。

そんな私が、幼い頃から行きたいと思っていた数少ない海外の町が、フィレンツェと、ギリシャのアテネである。このブログで、私がルネサンス美術ファンなのはさんざん書いてきたが、フィレンツェへの思慕は、それが理由だ。

それに対して、ギリシャのアテネ。もちろんお目当てはパルテノン神殿である。何かにハマりやすいオタク気質を持つ私が、人生で最初にハマったのが、実はギリシャ神話なのである。まだ就学前だったように思う。県立図書館の児童書コーナーで、ギリシャ神話の絵本をほぼ私物化していたのが幼き日の私。

その頃の私は、何と88星座を全て暗記し、それぞれの星座の神話もほぼ頭に入っていた。親に買ってもらった「星・星座」という図鑑をヒマさえあれば読んでいた幼い私を見て、両親は「きっとこの子は理系の才能が有って、宇宙学者にでもなるのかも!」と早トチリした。この図鑑は「星・星座」というタイトルだが、私が興味があったのは「星」ではなく、「星座」の方である。星座のストーリーというものは、まったく理系とは関係ない。ビックリするほど関係ない。

今でもそれなりにギリシャ神話は好きなのだが、なぜか88星座は私の脳みそから抜け落ち、今はたぶん半分、よくて3分の2くらいしか言えない。記憶と言うものは、本人の意思とは程遠い所で、砂のように零れ落ちてゆくものなのであろう。

前置きが長くなったが、要するに、私はそれなりに年季の入ったギリシャ神話ファン。いつかはギリシャに必ず行きたいと思っている。だが、イタリアにも、ギリシャの古代遺跡はかなり残っている。

というのも、南イタリアやシチリア島には、古代ギリシャ時代に植民地が作られたからだ。その中で一番有名な町はアグリジェント。それから、「走れメロス」の舞台であるシラクーサ。そんなにギリシャの古代遺跡が好きなら、それらの町にとっとと行って来いよ、どーせ毎年(コリもせずに)イタリア行くんだろ?と思われるかもしれない。

だが、アグリジェントもシラクーサもシチリア島…。ヤワな私は、まだシチリア島に足を踏み入れる勇気がない。シチリア島=マフィアという単純図式のせいではない。マフィアは観光客などに興味がないだろうから、治安の面ではむしろナポリやローマの方が悪いだろう。

そうではなくて、シチリア島に旅行に行った方の体験などを聞くと、ホテルでのトラブルとか、交通面での苦労とか、歩行者を轢きそうな勢いで暴走する車のオソロシサとか、シチリア島はなかなか上級者向けの旅行地のように感じるのだ。もう少しイタリア語が上手くなってから行った方がいいよなあ…と、なかなか及び腰なのである。

そんな私が、パラパラとイタリアの旅行ガイドをめくっていた時、見、見つけたーーー!イタリア半島にあるギリシャ神殿跡を!何で今の今まで知らなかったんだろう!?(おそらくナポリ周辺を飛ばして読んでいたため。私とナポリは不倶戴天)。南イタリア・カンパーニア州のパエストゥムという町に、立派なギリシャ神殿遺跡があるじゃないの!

姉もギリシャ神話が好きなので、カンパーニア州周辺をうろうろする旅程が決まっていた今回の旅行に、パエストゥムはスンナリ組み込まれた。というか、もう今回の旅行のメインディッシュだよ!というわけで、ポンペイにもパエストゥムにも、どちらにも日帰りできるサレルノに宿泊したのだ。

さて、話をこの日の旅行記に戻そう。

サレルノのホテルでの朝食は、他の宿泊客と一緒だった。本日は、初日に通訳してくれた女性と一緒で、英語でいろいろお話しした。彼女はピエモンテ州(つまり北部)の出身だそうだ。北イタリアと南イタリアはまるで違う、と彼女は言った。

「私たち北イタリア人は、何もかも時間通りに動くのだけど、南は、電車は遅れる、人は約束の時間に遅れる…。南はヴァカンスをゆったり過ごすのはいいけど、南で仕事はしたくないわね。イタリアの北部と南部は、まるで違う…言ってしまえば違う惑星よ!」。…我々日本人からすると、北イタリアも、結構いろいろと時間にルーズだけどね!北イタリアと南イタリアが違う惑星なら、日本とイタリアはもはや違う銀河系なのかもしれないね!

また、彼女は、ここサレルノに来る途中のローマで、何と車を盗まれたそうなのだ!車にキーをつけたまま、ちょっとその場を離れた、一瞬の出来事だったらしい。

車の中に旅行バッグを入れていて、それもまるごと持って行かれてしまい、着の身着のままでサレルノまで来たため、ここのオーナーのおばあちゃんに服を借りているらしい。それで毎日同じような格好をしているのだね…。いやー、確かにローマでは、何度か危うい目に遭っているけれど、イタリア人ですら犯罪に遭うのだ。いわんや観光客をや、って感じだ。

そんな話をしているうちに、電車の時間が近づいてきたので、朝食を切り上げた。サレルノからパエストゥムまでは、電車で30分前後だ。イタリアの電車は、バスよりはずっと信頼できるので(バスよりはって話だよ)、電車での旅はハッピーだ。

サレルノからパエストゥムまでは片道3.3ユーロなのだが、この日は土曜日だったので、週末1日券(WEEK-END GIORNARIERO)5.3ユーロの方がお得である。元気があれば、パエストゥムからの帰りに途中下車したい町もあるため、この週末1日券を購入した。ちなみに、この週末1日券は、鉄道FS線の切符売り場ではなく、駅の中にある旅行代理店で販売していた。

さて。9時21分の電車に乗るつもりなのだけど。

サレルノ駅

↑余裕で遅れてるね!証拠写真撮っといたよ。電光掲示板に、9時21分の電車は5分遅れますって書いてあるけどさ、5分以上遅れてますよ。

電車に乗ると、パエストゥムまではあっという間だった。無人の駅を出ると…おおっ!遺跡にたどり着く前から既にいい感じ!

パエストゥム

駅を出てすぐに目の前には古そうな城壁があり、まるでいらっしゃいませとでも言うように門がある。この門をくぐって、ずーっと真っ直ぐな道を歩いていくのだ。あたりには人っ子一人いなく、鳥のさえずりと、木々のざわめきだけが聞こえ、まさに田舎道だ。
駅からギリシャ神殿遺跡まで歩くのはしんどい、という情報もあったのだが、暑い季節ではないせいか、思ったよりもすぐにたどり着いた。この道を真っ直ぐ行き、突き当りが既にギリシャ神殿遺跡エリアである。入口が右手にあるため、右折する。

パエストゥム

その遺跡前に、大きな黒い物体がででんとある。…カンパーニア州名物(?)の、デッカイ野良犬!

パエストゥム

カンパーニア州の田舎町にデカイ野良犬が多い事情は、ポンペイの旅行記に書いたのでここでは繰り返さない。この犬くんもそうだが、その野良犬たちは総じて穏やかで、飢えている様子はない。おかげで、結構大きな犬はコワイ私だが、今回の旅行で出会ったワンちゃん…イヤ、でっかい犬だからワンさんだな、ワンさんには、一度も襲い掛かられることなく、泣かずにすんだ。

遺跡入口には、窓口の中に人はいるんだけど、おしゃべりに興じてて、全然こっちを見てない。このまま切符を買わなくても、全然入れそうだったが、デッカイ声で「すみませーん!切符くださーい!」と呼びかけると、ようやくこちらに気付き、「あ、切符は博物館で買ってきて!」と言われた。

遺跡入口から見て右斜め前方に博物館があり、遺跡と博物館は共通切符になるらしい。どちらにも入場できて7ユーロ。さらに、1ユーロの英語のガイド本をしきりに勧められたが、日本語だったら買っても良かったけど、英語を読んでるヒマがあったら古代ギリシャ気分に浸りたかったので、買わなかった。ちなみに、この博物館の地下にトイレがある。遺跡内のトイレは何だか期待できなさそうに思うので、ここでトイレは済ませておいた。

さてっ!それじゃー、ギリシャ神話にレッツゴーだっ!

入っていきなり、右手の方に、どどーんと、ケレス神殿っ!

パエストゥム

おうっ…!ギ、ギリシャ神話っ…(感無量で言葉が出てこない)!

私くらいの年代で、ギリシャ神話が好きなヤツが、必ず見ていたことが推察されるアニメが「聖闘士星矢」である。言わずもがな、私もカナリ夢中になって見ていた。その聖闘士たちが「黄金十二宮」って場所で戦うストーリーがあるのだが、もうね、これは十二宮の一つですよ。間違いありませんよ。小宇宙感じちゃいますよ(知らない人はわからない話題でゴメンナサイ)。

パエストゥム

3月上旬なので、地面には黄色い小さな花が咲き乱れていて、雰囲気たっぷりである。この神殿の名前は「ケレス神殿」で、ケレスとはギリシャ神話名だとデメテル。デメテルは大地と豊穣の女神なので、小花が咲き乱れている様子は、デメテルっぽくて良いな~と思ったのだが、神殿の横にある説明版を斜め読みすると、どうもこの神殿は、本当は女神アテナに捧げたものだという見方が強いそうだ。

女神アテナ。聖闘士星矢ファンには完全におなじみの女神だが、知らない方のために簡単に説明すると、知恵と戦いの処女神である。戦いと言っても、争いごとを司るのではなく、正義のための戦いを司るという、何だかカッコイイ女神である。しかし、知恵と戦いがセットになるのは、戦争とは頭を使うものなのだからだろう。だからこそ平和ボケという言葉もあるのだろうなあ。ただ、聖闘士星矢のアテナは、あんまり頭使ってなかったな…(独り言)。

デメテルだろうがアテナだろうが、女神を祀ったこの神殿は、何だかふんわりした雰囲気があり、フェミニンな印象を受けた。女神って言われて見るからだろうけどね!個人的には、パエストゥムの神殿の中で、一番好きだった。

ケレス神殿の周りを、これでもかとウロウロした後、残りの2つの神殿がある、左側のエリアに行くことにした。

パエストゥム

この「聖なる道」と呼ばれる道を通って行く。私「ねー、おねーちゃん、この道、何で聖なる道って言うのー?」。姉「…聖なる道なのよ!」。ヘイヘイ、わかりました。

パエストゥム

見えてきたぞ!デッカイ手前のネプチューン神殿と、奥のバジリカ!

ほとんど観光客はいないと思っていたら、このネプチューン神殿の前に、ずらーーーっとイタリア人の修学旅行生が群がって、先生の話を聞いていた。そこで、ネプチューン神殿は修学旅行生が去った後に見学することにして、先にバジリカの方を見ることにした。

パエストゥム

シンプルな雰囲気でたたずむバジリカ。

このバジリカは、正面柱のエンタシスで有名だそうだ。エンタシス。高校の世界史や日本史で学んだ、上の方を細くしているため、真ん中が膨らんで見える柱のことである。確か、日本の法隆寺の回廊の柱も、遠いギリシャの影響を受けて、エンタシスになっていると言われている。

パエストゥム

おー!確かに真ん中が膨らんで見える!エンタシス!…と、私は一人で盛り上がっていたのだが、母と姉は言った。「はあ?どこが膨らんでるの?」。……えっ!?膨らんでるじゃん?よく見てよ!

パエストゥム

ホラ!膨らんでるでしょ?

しかし、母と姉は「えー。わからん」というだけであった。何でー!?何でコノヒトタチは、この膨らみが知覚できないのー!?もしかして、もっと膨らんでなきゃイケナイとでも思ってる?無茶言っちゃいけないよ!あくまで柱だからね、柱!膨らむにも限界があるさね!

このバジリカは、女神ヘラに捧げたものだと言われている。最高神ゼウスの妻で、出産と家事の女神である。このヘラが、ヤキモチ焼きで、ヒステリックで、恐妻を絵に描いたような女性である。ギリシャ神話をグッと人間くさいものにしている最大の原因は、このヘラの性格なんじゃないかと思う。だが、このバジリカは、落ち着いた感じの神殿で、心静かな時のヘラさんって感じだ。

修学旅行生たちが、バジリカの方へ大移動してきたので、我々は反対にネプチューン神殿の方へ移動した。ネプチューン神殿は、パエストゥムの遺跡の中で、最大を誇る神殿である。

パエストゥム

どどーん!ワガハイがネプチューン神殿であるっ!ハッハッハ!(←意味不明な不敵な高笑い)

何とも威厳タップリの、力強い神殿。ネプチューンはギリシャ神話の海を司るポセイドン。結構荒々しい性格の神だ。この男性的な神殿は、ポセイドンに良く似合っていると思った。

パエストゥム

パエストゥム

「ポセイドンによく似合っている」なんて書いたが、看板の説明書きを読むと、この神殿は、ポセイドンではなく、ヘラ、もしくは全能神ゼウス(ギリシャ神話の神々のボス)、さらにはイケメンの太陽神アポロンを祀ったものであるという意見もあるらしい。個人的にはポセイドンが一番似合っているように思うが、ヘラかゼウスという意見が近年では有力だとか。

それにしてもカッコイイ神殿だ。母と姉と3人で、このネプチューン神殿で写真を撮り合いっこしていると、遠目に、さっきの修学旅行生が集団写真の撮影をしているのが見えた…のだが、なぜか神殿の方を向いて、何にもない方を背景にして撮影してるよ!出来上がった写真は、どっか空き地で撮った写真と変わらないのでは…?

パエストゥム

本当は、神殿の中まで入って、幼いころ一緒に聖闘士星矢を見ていた姉と、「降伏か死か!?」「この翼ある限り!」とか、聖闘士星矢ごっこをしたかったのだが(オマエらはコドモか!)、神殿の手前に柵が設けてあり、神殿内に入ることはできなかった。

パエストゥム

それにしても、天気は良いし、お花は咲いてるし。何とも気持ちのよいギリシャ神殿日和である。遺跡内には、人間嫌いの緑色のトカゲくんが無数にいて、記念に撮影したかったのだが、何せ、人の気配がすると、目にもとまらぬ光速の動きで逃げていくので、撮影できなかった。

ずーっとここでノンビリしていたいくらいの気分だったのだが、午後からまた他の町へ行く予定なので、明日は母が半日休養を取るため、姉と私は、また明日パエストゥムに出直すことにした。サレルノからパエストゥムは電車ですぐだってわかったからね。余裕しゃくしゃくだよ。(しゃくしゃくでないことを、明日思い知ることにのだが…)

ランチを取る前に、博物館に入って、有名な「飛び込み男」の絵だけ見ておくことにした。

パエストゥム

フレスコ画の描かれた石棺が展示してあり、古代ギリシャ時代に描かれたものだそうだ。石棺に描かれたものなので、内容は、葬送に関するものなのではないかと言われているが、はっきりはわかっていないらしい。よって、この飛び込み男も、死後の世界へ飛び込んでいるのか、タダの競技としての飛び込みを描いたものなのか、よくわからないそうだ。どちらにせよ、飛び込みのキレイないきいきとしたポーズが印象に残る。

パエストゥム

こちらも同じ石棺に描かれた絵。葬送儀礼かな?楽器を吹く少年が、死後の世界へと誘導しているのだろうか。西洋では、よく音楽は、死出の旅を導くものとして扱われる。レクイエムもそういうものなのかな。こういう図を見ると、どうしてもハーメルンの笛吹きの話を思い出す。

パエストゥム

こちらも石棺の絵だが、楽しそうな絵。葬送の宴会を描いたなのか、もしくはあの世でも楽しく宴会して下さいというメッセージなのかはわからないが、とにかく楽しそう。おそらく、男どうし。古代ギリシャでは、男尊女卑が強かったので、男性は、女性より男性を愛する方がステイタスだったとか、プラトンか何かで読んだことがある気がする。すっごく適当な記憶で書いてることなので、違ってたらゴメンナサイだよ!

博物館内の残りの展示物は、姉と私は明日見ることにして、遺跡近くの有名な「Nettuno」というレストランでランチを取ることにした。観光客どころか地元民もほとんど見かけなかったので、開いているかちょっと心配だったが、営業していた。

パエストゥム周辺は、水牛飼育がさかんだそうで、新鮮な水牛のモッツァレッラチーズが食べられることで有名である。ギリシャ神殿で名高いパエストゥムだが、水牛モッツァレッラというお宝も抱えているのだ。ウェイターさんにたずねて、水牛モッツァレッラが食べられる料理をチョイスした。

パエストゥム

こちらが生の水牛モッツァレッラチーズ!…すっごく美味しかったのだけど、この後、水牛牧場へ行って、えも言われぬ水牛モッツァレッラチーズを食べてしまったため、実はここで食べた水牛モッツァレッラの味を忘れてしまった…。残念な話だ…。だが、ココに映っているトマトは異常に美味しくて覚えている。

パエストゥム

このパスタの味も覚えているよ!乾燥トマトが異様に美味しかった…ていうか、このレストラン、トマトがマジで美味しすぎ!このレストランで初めて乾燥トマトの美味しさを知ったよ!このパスタ、3人でシェアしたいのだと言うと、小皿に3つに分けて盛り付けて持ってきてくれた。とても親切なお店だった。

パエストゥム

こちらは水牛モッツァレッラのグラタンみたいなお料理。これは美味しかった!日本ではなかなか出会えない味だった。南イタリアは、北、中部と比べて、交通機関が不便だったり、ホテルの設備に問題があったりして、ひ弱な旅行者である私にはしんどいことが多いのだが、とにかく食べ物が美味しいという印象が強い。

というわけで、美味しいお料理でお腹いっぱい!このまま、また遺跡の中に戻って昼寝したいくらいなのだが、頑張って次の町へ移動するぞ!…そう、我々は、世界一と言われる水牛モッツァレッラチーズを求めて、パエストゥムの隣町へと突撃するのである(次回予告)。