3/15ピエンツァからキウージへ 見た!糸杉くねくね!
本日は、ついにピエンツァを出発する日となった。今回のイタリア旅行、最後の目的地、ボローニャへと向かう。
ピエンツァからキウージの鉄道駅までタクシーで移動し、そこからインテルシティ(IC)に乗って、ボローニャまで一本である。キウージ発のICは、11時台を予約しているので、ピエンツァを9時半に出れば十分すぎるくらい十分だ。
ピエンツァ(というよりオルチャ渓谷一帯)は、我々母娘は大変に気に入った。というわけで、9時半の出発まで、しぶとくピエンツァを堪能し尽くすことにした。
しかも、朝、目を覚ましたら!この日は、4泊5日のピエンツァ滞在の、文字通り最後の日にして、初めてのさんさんと輝く快晴だったのである!昨日までは、太陽が出ていても雲が多く、うっすらとした陽の光しか拝めなかったのである。
何としてでも、太陽がさんさんと輝いているうちに、オルチャ渓谷の景色を拝まねば、と、母娘3人は、きびきびとピエンツァの旧市街へと向かった。時間は午前7時台だっただろうか。どうして私は、イタリアだったら、こんな早朝でもきびきびと動けるんだろうか。超低血圧の私は、日本だったら、こんな時刻には、不機嫌を通り越して体調不良の域なのである。母はそんな私を見て、「あんたはイタリアでは別人だよね」とあきれ顔であった。
そして、もうこのピエンツァ滞在中に、何度ここに来たか知れない、オルチャ渓谷のパノラマスポットであるカセッロ通り。
おおおおおおおおおおおっ!快晴の空の下、この輝き!この美しさ!!!やっぱり、晴れた時のオルチャ渓谷は、あまりにも美しいッ!!!何だと言うんだ!何だと言うんだ!(←落ち着け)
このやさしい朝日に包まれた、パラダイスのような景色!あれですね、ユーミンのあれですね、「やーさしーさにー、つつまれたーならー、きっとー、目にうつるーすべてのことはー、メッセージー!」。あの名曲は、オルチャ渓谷のことを歌ってたんだね!(違うよ)
イヤ、天気の良いオルチャ渓谷は、マジでやばい。昨日まで見てきたオルチャ渓谷だって素晴らしかったけど、もう、今日のオルチャ渓谷はやばいレヴェルである。最後の最後に、このコンディションでオルチャ渓谷を見ることができて良かったよ!日ごろの行いが良かったためだね!(イヤ、日ごろの行いが良くないから、昨日まで雲っていたのでは…?)朝早いこともあって、だーれもここカセッロ通りにはいなかったため、3人で文字通り、最高のオルチャ渓谷を独占してしまった。ぐふ。
ピエンツァの街並みそのものも、太陽の光を受けて、昨日よりもいきいきと輝いていた。
ピエンツァばんざい!お天気ばんざい!早起きばんざい!
有名な話だが、ピエンツァの旧市街は、新しい計画都市だからなのか、他のイタリアの町と比べて、ロマンチックな名前の通りが多い。「キスの道」とか「愛の道」とか「幸運の道」などが存在する。だが、ぶっちゃけ、何でそんな名前なのかはわからない。キスの道がキスっぽいわけでもないし、愛の道が愛っぽいわけでもなく、何の変哲もない小道である。
こちらは「幸運の道」。まあ、この道の先には、素晴らしいオルチャ渓谷のパノラマが広がるカセッロ通りがあるわけだから、確かに幸運かもしれないね!要は、こういう時には、シラケないで、無駄に盛り上がるのが正しい観光であろう。シラケやりたきゃ、学校行きな!…間違った、旅に出るな!ってことだ。
ピエンツァのドゥオーモ君も、お天気の中ゴキゲンであった。
このドゥオーモ君の前の広場には、真ん中に白いマルが描いてある。このマルは、何のマルかと言うと、ピエンツァの一大行事、「チーズ転がし」の的となるマルなのである。
「チーズ転がし」とは。シエナに、伝統的で熱狂的な競馬のお祭り「パリオ」があるように、ピエンツァにも、町を挙げてのお祭りがある。それが「チーズ転がし」である。ピエンツァの名産ペコリーノ・チーズのカタマリを転がして、より、この白いマルの近くまで転がせた者が勝ちというお祭りである。
……………おもしろいのか!?
テレビの旅番組で、この「チーズ転がし」が紹介されたのだが、まあ、冗談だろうな、と思っていたら、たいへんに本格的な祭りで、地区ごとにわかれて、真剣そのものに勝ち負けを競い合うのだそうだ。競争馬が死に物狂いで走り回る、荒々しくて熱狂的なシエナのパリオに比べて、何てほのぼのしたお祭りなんだ…!でも、ピエンツァには似合ってるよ!チーズ、転がれ!転がれ、チーズ!
というわけで、この朝の散歩をもって、ピエンツァとはお別れとなった。最後の最後にキラキラと晴れてくれて、本当に良かった。というか、ピエンツァ滞在中は、あいにくの曇り空が多かったとは言え、天気予報よりはずっと持ちこたえた天気だった。
おそらく、その天気の立役者は、彼。紹介が遅れたが、ピエンツァ滞在の初日の夜に、少しでも天気が良くなるように、母が作ったてるてる坊主君だ。ちなみに彼の顔は、私が描いた。母に、「曇り空をにらむような顔つきじゃなきゃダメなんだよ」と言われたので、結構りりしく描いてみた。彼が4日間空をにらみ続けてくれたおかげで、天気予報は4日間ずーっと雨だったのだが、曇り時々晴れ程度の天気で空が頑張ってくれたのかもしれない。
朝の散歩からアグリへ戻ると、出勤前のラウラが待っていた。ラウラに頼んで、キウージ駅までのタクシーを探してもらったのだが、タクシーは見つからず、個人で送迎サービスをしているドライバーの、パオロという人が来てくれるらしい。…パオロ?モンテプルチャーノからピエンツァまで利用した個人タクシーの、あのうさんくさいパオロ!?
それにしても、シーズンオフのオルチャ渓谷は、タクシーを捕まえるのは難しいんだなあ。勉強になったよ。ほら、オルチャ渓谷は、再訪の可能性がカナリ高いですからね。ラウラとも握手してお別れしたけど、また会うこともあるかもしれない。何てったってこのアグリもカナリ気に入りましたからね!ラウラ、いろいろありがとう!
タクシー到着の15分くらい前になって、母が、「ここで作っているオリーブオイルを買っていきたいな…」と言い出した。そういうことは、もっと早く言わないと!しかし、買うなら今しかない。おじいちゃんに言ってみると、カンティーナ(自宅の工場)を開けてくれて、小さいサイズのオリーブオイルを真空パックにしてくれた。
カンティーナには、息子さんもいて、我々がオリーブオイルを買っているのを見て、「日本にはオリーブオイルはないのかい!?」と話しかけてきた。私が「いえ、ありますが、ここのものほど美味しくはないですよ」と答えると、すっごく嬉しそうだった。
タクシーはどうせ遅れるだろうと思っていたら、何と、時間通りにやって来たらしく、姉が、カンティーナへいた母と私に「タクシーが来たよ。ちなみに、あのパオロじゃないよ。良さそうなのんびりした人だから、私がしゃべっとくから、ゆっくりおいで」と声をかけに来た。
ゆっくりと言われても、何となく待たせちゃいけないなと考えてしまう日本人の私は、マイペースにいろいろしゃべってくるおじいちゃんたちに、「タクシーが来ました」と言ってみても、おじいちゃんは全く気にしない。うん、イタリアでは、こういう場合は、「タクシーが来たから、もう行きます」と言わなきゃいけないんだね。
おまけにおばあちゃんも、「ハチミツを持っていきなさいな~」と、タダでハチミツをプレゼントしてくれた。いや、このハチミツ、朝食で食べたけど、マジで美味しいからね!ありがとう、おばあちゃん!
ようやく母を連れて、タクシーの待つ庭へと出ると、確かに、のんびりしたドライバーが、姉と気さくにしゃべっていて、待たせても大丈夫って雰囲気だった。もちろん、正規のタクシーではなく、普通の乗用車で、今度のパオロさんは、モンテプルチャーノのパオロさんと比べて、ずっと素朴で、トスカーナって感じ(どんな感じだ)の青年だった。
ここで私はちょっと欲が出て、「キウージ駅まで行きたいんですけど、できれば、それほど遠回りにならなければ、モンティッキエッロのあたりを通って頂きたいのですが…」と言ってみた。本来は、ピエンツァからキウージまで行く場合は、オルチャ渓谷ではなく、キアーナ渓谷の方の国道みたいな立派な道を通って行くようなのだが、地図で道路を確認してみると、オルチャ渓谷の中でも景観が良いとされる、モンティッキエッロの近くを通って行く方法もありそうなのだ。
するとパオロは、「最近の雨で、道路のコンディションが悪いので、ぬかるみ道を避けながらにはなりますが、そちら側から行ってみましょう」とのお答え。おおっ!ありがとうっ!車窓からではあるが、モンティッキエッロ周辺の景色を何とか拝めそうだ!
見送ってくれたおじいちゃん、おばあちゃんに手を振りながら、車は出発した。ピエンツァ南側のオルチャ渓谷へと降りて行き、もうね、その景色ったら、最高!右もオルチャ渓谷!左もオルチャ渓谷!緑の絨毯の中を走り抜けてく…パオロの非正規タクシーっ!
景色を見ることに専念してたので、写真はナシよ!ていうか、コレ、写真で伝えられる美しさじゃない。実際に、目で見てみることをマジでおすすめします!
パオロは、英語がお上手だった。堪能と言うよりお上手。おそらく、観光客の送迎サービスをするために勉強したんじゃないかなあ。イタリア人にしては、流暢ではないけど、文法的に正しい英語を話すので、学校教育英語脳の私には、とても聞き取りやすかった。
その正しい英語で、パオロはオルチャ渓谷のガイドをしてくれた。「オルチャ渓谷には、オルチャ川という川が流れていて、それがこの渓谷の名前の由来です。手前に見えているのはアミアータ山で、実はこの山は火山なのです。今は活動していませんが。オルチャ渓谷は、今は一面が緑ですが、7~8月頃には全く色が変わります。小麦畑が一面に広がり、黄色になるんですよ。それから、キアンチャーノ・テルメの温泉水は、飲む温泉水として有名です」
ピエンツァに来る時に、キウージから利用したタクシーの運転手さんの話と重なる部分もあったが、パオロの生真面目なガイドは、なかなか楽しく、また微笑ましかったので、私は空気を読んで、全ての話が、さも初めて聞いた話であるかのようなリアクションで、相槌を打った。観光客のカガミである。
食い入るように、車窓を眺めていた我々に、パオロは少し車の速度を落として教えてくれた。「右手の方に見えている道は、オルチャ渓谷のシンボルのような風景で、よくポスターなどになっています」。………糸杉くねくねっ!
姉が走る車の中から、何とか撮影してくれた!
いやー、何て楽しそうな道なんだ!何て楽しそうな糸杉なんだ!ただ道がS字型にくねって、両脇に糸杉があるだけなんだけどね!それだけなのに、何というか、風景そのものが笑っているかのような、軽やかで楽しげな景色だ!「本当はあの道を車で通ることもできるのですが、今日は雨のせいでぬかるんでいるので通れません」とパオロ。
イヤイヤ、見れただけで良かったよ!糸杉くねくねばんざーいっ!(おそらくこの糸杉くねくねは、モンティッキエッロとキアンチャーノ・テルメの中間くらいの位置にあると思われる。方向音痴の私による未確認情報だよ!)
パオロは、「あなたがたは、この後、どこに行くのですか?」と聞いた。「ボローニャです」と答えると、驚いたように、「フィレンツェは行かないのですか?シエナは?」と聞いてきた。
「実は、姉と私はこれが5度目、母は3度目のイタリアなんです。シエナは3年前に行きました。フィレンツェは大好きで、去年まで4年連続で行ってます。今回も行きたかったんですが、ユヴェントスのサッカー選手・ピルロのファンである母が、ボローニャで、ボローニャ対ユヴェントスの試合を見たいと言ったので、今回はフィレンツェは泣く泣く諦めたのです」と答えると、パオロは、「サッカーですか、いいですね」と言った後、「でも…イタリアで最高のチームはフィオレンティーナだ。…えへへ」と小さくつぶやいた。
フィオレンティーナ!
姉と私は顔を見合わせて、「実は私たちもヴィオラファンなんですよ!アルテミオ・フランキ(フィオレンティーナのスタジアム)はもう5回くらい行ってます!」と言うと、パオロは「!?」と、一度では信じられない様子。そうだよなー。日本にフィオレンティーナのファン(しかも女)がいるなんて思わないよね。
そこで、「3年前のチャンピオンズリーグのバイエルン戦も、アルテミオ・フランキで見たんですよ~!」と言ってみると、「あっ!その試合、僕もスタジアムに居ました!」とパオロ。あらまー。我々は、3年前に、実はアルテミオ・フランキですれ違っていたのかもしれないのね!
パオロは、オルチャ渓谷の、南西にあるカスティリオーネ・ドルチャの近くの小さな集落の出身だそうだ。この辺りの人達は、サッカーではシエナを応援しているのかと思っていたが、フィオレンティーナファンは、トスカーナ全域にいるんだなあ。
パオロに、「あなたは、フィオレンティーナファンってことは、ユヴェントスはお嫌いですか?」と聞いてみると、ややためらった後、笑って、「ハイ!嫌いです!」とのお答え。「母はピルロのファンであってユヴェントスのファンではないので、大丈夫ですよー!」と言うと、「そっか、そっかー!ピルロはいい選手ですね!」などと、だいぶ我々は打ち解けてきた。
この後も、チャンピオンズリーグでミランがバルサに負けたことを教えてもらったり(ニュー教皇のニュースばっかりで結果がわからなかったため)、みんなでメッシの話で盛り上がったりした。
キウージ駅に着くころには、車内はサッカーの話題で和気藹々となっていて、最初、オルチャ渓谷のガイドをしていた時にはちょっと緊張も見られたパオロも、かなり打ち解けていた。
車内での会話で、オルチャ渓谷にはまた帰ってきたいと何度も我々が言ったためか、別れる時にはパオロは名刺をくれた。オルチャ渓谷での送迎サービスや車でのガイドの、個人会社のようなものを作っていて、ホームページもあるらしい。帰国したらアクセスしてみよう!最後は、「フォルツァ、ヴィオラ!(がんばれ、フィオレンティーナ)」と、握手して別れた。
さて。キウージ駅には、かなり余裕を持って到着した上に、予約してあるICは、当然のように20分遅れていた。
上から4段目のミラノ行き、右の方に20という数値がありますね。これが、20分遅れを告げているんだよ。時間通りに来ると思うなよ(By電車)。
そこで、のんびり待つついでに、キウージ駅周辺のバールで、電車の中で食べるお昼ご飯やおやつを調達してくることにした。
駅のすぐ近くに、なかなか繁盛しているバールがあったので、そこで食料調達をして、エスプレッソも一服した。これが!適当に入った割には、非常にコーヒーもお菓子も美味しくて、ちょっと一筆せずにはいられないバールだった。キウージには乗り換えのために立ち寄っただけだったのだが、このバールのことはなかなか忘れられない。(La Pasticceria Margottini Andreaというお店。住所はVia Mazzini 4-10 Chiusi。公式サイトもあるようだ。)
さて、あとはひたすらESを待つだけなのだが、せっかくなので、キウージ駅の写真でもドウゾ。
ねえ。何気なく撮った写真にもねえ。イタリア名物のヒマオヤジ軍団が映っているねえ。二つの派閥に分かれているねえ。
キウージ駅は、ちゃんと本当に駅を利用している旅行者、ただただ集まってしゃべっているだけのヒマオヤジなど、いろいろな人が集まっていたが、その中に、どうも見覚えのある顔が………。キウージからピエンツァに向かう際に、利用したタクシーの運ちゃんだ!!!
話しかけたら覚えていてくれてそうだけど、この運ちゃん、またもや親切心を発揮して、人に自動券売機の使い方を教えていたので、話しかけられなかった。数年後に、ここキウージ駅から、またタクシーを使ってどこかに行こうとしたら、彼に再会できる可能性は、結構高いだろうな、と思った。
というわけで、とうとうトスカーナともお別れして、次はボローニャである。最後に、キウージ駅の、立派なエレベータ君を紹介しておこう。
3人乗りで、ドアは手動だけど、立派なエレベーターだよっ!何が立派って、イタリアの駅で、使える(つまり鍵がかかってない)エレベーターが見つかるのは珍しい事なんだよ!我々がこの写真を撮っていると、周りのイタリア人は、「日本にはエレベータがないのかしら…?」というような顔で見ていた。逆だから!マジで、逆だからね!