3/9ウルビーノ旅行記7 裏ビーノキャッツの猫会議

サン・マリノからウルビーノへの帰路は、往路に使ったウルビーノのタクシー運転手さんに、迎えに来てもらう約束をしていた。時間を守らないことで名高いラテン人だが、運転手さんはピッタリ時間通りにやって来た。

サン・マリノでタクシーがいなかったら困る、ということで、迎えに来てもらったのだが、実際は、サン・マリノにも、サン・マリノナンバーのタクシーが(1台だが)いた。1台だけど!ちなみに、ウルビーノのタクシーは、いつ見ても2台だった。僅差でウルビーノの勝ち。

英語とイタリア語をまぜこぜに話す、おしゃべりなタクシー運転手さん。タクシーに乗り込んだ途端、まだ彼のトークショーが炸裂し始めた。

街頭に立っている警察を指さして「サン・マリノでは、イタリアと比べて、煙草を吸いながらと、携帯電話をかけながらの運転の取り締まりが厳しいんだよ~」。

彼は、アペニン山脈がお気に入りで、何度も何度も窓の外に見えている山並みを指さして、「イッツ、アペニン」と言う。そうだね、イッツアペニンだね。

また、彼は、ロングタイムアゴーの話も好きで、モーターバイクであちこち言った話を繰り返した。タクシー内に置いてある中部イタリアの地図を、んばっと広げて、オルヴィエート近くのボルセーナ湖という湖を指さし、そこまでモーターバイクで行って、泳いだことを意気揚々と話した。泳ぐことを説明する時、ハンドルから両手を話してクロールの真似をするし。危ないからやめて欲しいし。

ちなみに、ボルセーナ湖より北にある、中部イタリア最大の湖、トラジメーノ湖は(理由は忘れた。水温が低いんだったかな?)泳げないらしい。我々は、この後、トラジメーノ湖に行く旅程なので、そのことを言ってみたが、あまり彼の関心を惹かなかった。彼は、関心がない話には、「む、んむー」と相槌を打つだけなのだ。

あと、ウルビーノの何か凧祭り?みたいな話をしていたが、イマイチよくわからなかった。帰国してから調べてみると、本当にウルビーノでは、6月に凧揚げ大会があるらしい!

タクシーの車窓から、何か遺跡みたいなものがよく見えていたので、「あれは何かの遺跡ですか?」と聞いてみたら、鉄道跡なのだそうだ。

ウルビーノ

昔は、アドリア海の方から、ウルビーノまで、鉄道が通っていたらしい。しかし、20世紀の大戦中に破壊された後、再建するお金が無くて、今も廃墟のように線路跡が残っているのだそうだ。鉄道が通っていれば、ウルビーノって、もっと観光客が訪問しやすい町になるのになー。ちなみに、時々、地図で、アドリア海のファーノという町とウルビーノを結ぶ線路が描かれているが、その線は廃線になっていて今は使われていない。それが、大戦中に破壊された線路かどうかはわからないが。

運転手さんは、山道を歩いている人を見かけて、徐行運転をして声をかけ、「チャオ!何してるの?(知り合いかどうかは不明)」と聞き、我々に、「今の人達は、エスカルゴ探しをしているんだよ!」と教えてくれる。へー。エスカルゴって、フランスにしかいない上品なおカタツムリかと思っていたのだが(何そのステレオタイプ)、イタリアにもいるのねー。

途中から、我々は、運転手さんが往路とは違う道を通っていることに気づいた。違う風景を見せてくれるサービスなのかなーと思っていたら、何かデッカイ建物を指さして、「これは日本人建築家が設計した建物だよ!ワタナベという建築家だ!」と言う。いやー、そんなこと言われてもねー。わかんないだヨー。日本人が全員知り合いだと思ったら、大間違いだヨー。

そして、ウルビーノがいよいよ近づいてきたときに、ちょっとした新興住宅地のような場所を通り、「オレの家はここにあるんだ!あっ!アレだ!」と指さす。…ヲイ、何で往路と違う道を通ったのかと思えば、自分の家を見せたかったんだね!?そういうワケだね?…何で日本人が、イタリアで新興住宅地を見なければならんのだ!早くウルビーノに帰らんかい!我々は、今日がウルビーノ最後の宿泊日なので、もう少しウルビーノを歩く予定なんだよ!

で、ウルビーノに着いてからも、謎の車の進行方向だなーと思っていたら、一昨日に行った、ラファエロ像の先の眺望スポットまで車を走らせ、「ちょっと降りてよ!ここからの眺めは最高だゼ☆」と、のたまう。…一昨日に見たっつーの!

ウルビーノ

…しかしまあ、空気を読む日本人の我々は「まあ何て美しい景色でしょう」と、やや棒読みに感動したフリをして、写真を撮るまで絶対に帰さないぞという運転手の空気すらも読んで、形式的にカメラのシャッターを押すのであった。運転手さんから見ると、「ア、アレ…?もう少し感動してくれると思ったんだけど?」という感じであっただろう。

とにもかくにも、彼は親切とおせっかいのハザマにいるのである。というか、それは、多くのイタリア人において、見られる特徴でもある。そして、そういうタイプのイタリア人は、概して押しがツヨイ。そして、大いに幸せそうなのである。そんな彼らの幸せを、どうして、空気を読む日本人が、くじくことができようか。彼は、明日コルトーナに移動するという我々を、タクシーで連れて行きたくて仕方なかったが、既にバスを予約してあるので、何とか断った。

ちなみに、寄り道したにも関わらず、帰路は85ユーロで、往路より安かった。よくわからないねえ。まあイタリアのタクシーメーターのやることさね。

ふー。ようやくウルビーノに帰って来たよ。もう少しだけウルビーノを歩きたいのだよ。

というわけで、ウルビーノの町に繰り出す前に、少し休憩していると、B&Bのドアがノックされた。B&Bの女性オーナーのナディアだったので、開けると、「チャオー!実はね、あなた達の宿泊が今日までだから、ダンナと娘を紹介しに来たの!」と言う。

たぶんだけど、ダンナさんと娘さんが、ウルビーノの個人経営のB&Bに泊まるのは珍しい、日本人を見てみたかったようだ。小学生低学年くらいの娘さんは、英語がペラペラだった。う、うらやましい。そういえば、この日は日曜で、いつも朝食を食べるバールが休みだったため、ナディアが手作りケーキを作って、置いてくれていた。それが、美味しかったのでお礼を言うと、ダンナさんは「えー。僕はあんまりあれは好きじゃないなー」なんて言っていた。美味しかったけどなあ。

手作りケーキ

ナディアの手作りケーキ。美味しかったんだよ!

ナディア一家が去った後、B&Bを出て、夕暮れ近づくウルビーノをつらつらと歩いてみた。まだ通っていない道を通りたいんだよ!

ラファエロ通りの上の方、夜の散歩の時に気になっていた、坂の上の方の、上りの方向を見て右手の方の道に、折れてみた。

ウルビーノ

どんどん進んでい行くと、このような知られざる門を発見。門が開いていたので、入っていいのかな?と見回してみると、開場時間は9時から17時までという看板があったので、遊歩道のような公園のようなものだと思われ、とりあえず入ってみた。

ウルビーノ

すると、明らかにこのサイズは、NE☆KOにとって最適だと思われる、立派なハウスを発見したわけですよ!
…そして、この猫ハウスの近くに、…いたーっ!

ウルビーノ

NE☆KO!

ウルビーノ

こちらにも、NE☆KO!(我々母娘は、全員猫好きです)

ウルビーノでは、あんまり猫を見ないなーと思っていたのだが、こんな裏路地にいたのね!これぞまさしく裏ビーノ。このあたりは、裏ビーノキャッツのたまり場らしく、猫ハウスがあることから考えても、おそらくボランティアさんたちがご飯をあげに来ているのだろう。キャッツたちは、我々を、「何だ、コイツラ、ご飯持ってきてるわけでもないニャー」と、不審の目で見ていた。

この猫のたまり場から、いったん大通りのラファエロ通りに戻った。

ウルビーノ

4日間の滞在で、何度も上り下りした、心臓破りの坂である。私は九州の山奥育ちなので、「我にとって坂など平地に等しい」と強気であったのだが、この坂は、故郷の坂のレベルを、遥かに超えていた。負けた。

ウルビーノ

お店のディスプレイに、こういう得も言われぬ生命体が飾ってあって、この子たちの前も何度も通った。得体は知れないが、かわいい子たちであった。

このラフェエロ通りの坂の終わりにある、サン・フランチェスコ教会を曲がって、C.Battisti通りを歩いてみた。

ウルビーノ

変なオッサンが口から水をプーしている噴水(?イタリアでは、水が上の方に噴射していない水場も噴水と呼ぶようだ)に、金魚が泳いでいる。初めてイタリアで金魚を見た時はビックリしたが、結構普通にいる。

ウルビーノ

通りの突き当りには、素敵な門があった。Lavangina門というらしい。

ウルビーノ

門の上にあるコレは、…日時計だろうか?結構古いものに見える。

この門の所まで行って、振り返ると、ドゥオーモの屋根が見えた。

ウルビーノ

本当にウルビーノはエレガンスな坂の町。ウルビーノはどこもかしこも美しい町だが、坂の向こうにドゥオーモの屋根が見えているこの風景は、特に心に残る風景であった。

このまま門を出て、町の外周をゆっくりと回ってみた。

ウルビーノ

ウルビーノの本当に端っこにあった小さな教会。

ウルビーノ

遠くに見えている印象的なフォルムは、城壁外のサン・ベルナルディーノ教会。遠くから見ても可愛らしい姿だ。…なのだが、何だか薄暗くなった空の色と相まって、あまりにも存在感があり、町の外周を歩いている間、ずーっとこの教会に凝視されているような気がした(自意識過剰)。

ウルビーノ

町の中に戻ると、ドゥオーモも、すっかり夕暮れの顔になっていた。夕闇の中のドゥオーモさんは、何だか大人びて見える。

宿泊しているB&Bは、ウルビーノのパノラマが拝めるアルボルノツ要塞公園が近いので、最後に公園まで行ってみた。

ウルビーノ

すっかり夜景になってしまったウルビーノ。陸の孤島ウルビーノ滞在も、今日で終わりだ。なかなか行くチャンスが無いなーと思っていたウルビーノだが、今回アドリア海向こうのギリシャから海移動してきたことと、母のラファエロへの愛の深さのおかげで、ようやくエレガンスなウルビーノを体験することができた。本当に美しい町だったなあ…。またいつか会えるといいね!ウルビーノ!

ぼんやりと夜景を眺めていると、一台の車が公園の出入口までやってきて、一人のおじさんが降りてきた。彼はどうやら、この公園の管理人さんらしく、「こんばんはー!もう時間だから閉めるよー」と言う。というわけで、おやすみなさい、ウルビーノ!明日は西方、トスカーナ方面に向けて出発である。