3/14フィレンツェ旅行記5 最高級のツーショット
さて。ヴェッキオ宮・秘密の通路ツアーの後は、ヴェッキオ宮の、通常開放されているエリアを鑑賞するよ!
ヴェッキオ宮に入場するのは、2回目であるが、以前入ったのはもう5年前である。何か「うわー」「うわー」とか言いながら、鑑賞したことしか覚えていない。
ヴェッキオ宮は、1299年に着工された。この時期は、イタリア内で、グエルフィ(教皇派)とギベリン(皇帝派)の対立が激しかった時期である。うろ覚えだが、確か1269年にフィレンツェがシエナと戦って勝利し、その結果、もともとギベリン(皇帝派)の勢力が強いシエナを後ろ盾にしていた、フィレンツェ内のギベリンが失脚した。そして、グエルフィの面々が、ギベリンに属していた貴族たちの土地を没収して、新しい庁舎を建てたのが始まりだった…んじゃなかったかな。
んで、確か、シニョーリア広場には、ギベリンに属していたフォラボスキ家の塔があったのだが、これを取り上げて、この塔を利用してヴェッキオ宮を作ったとか、何かに書いてあった(たぶんこの本→図説 フィレンツェ―「花の都」二〇〇〇年の物語 (ふくろうの本))。もともとあった塔を利用して作っているため、ヴェッキオ宮の塔は、真ん中ではなく、微妙に右側にずれた位置に付いているとか、ナントカカントカ。
で、この塔に、今回は上るわけであるが、何だか、ギベリンの怨念のようなものが込められているような気もするなあ。まあ、ギベリンとは言っても、フィレンツェへの愛はグエルフィと変わらないよと言うならば、今でも政庁の一部として、自分たちの塔が使われているというのは、逆に望むところなのかもしれない。そう、ヴェッキオ宮のすごい所は、今でもフィレンツェの政庁として使われているということである。
ちなみに、「ヴェッキオ」とは、イタリア語で「古い」という意味なのだが、何に対して「古い」と言われているかというと、川の向こう側にあるピッティ宮である。メディチ家のコジモ一世が、「仕事とプライベートの場所は分けたいよ(と言ったかどうかは知りませんよ!)」と、ヴェッキオ宮からピッティ宮にお引越しした時から、古い宮殿=ヴェッキオ宮と呼ばれるようになったらしい。
塔の話ばっかりしているが、塔に上る前に、というか、塔への上り口に行く前に、いくつかの部屋を通るので、部屋を鑑賞しながら進んで行こうっ!
ヴェッキオ宮のマスコットは、こちら、ヴェロッキオ作「イルカを抱くキューピッド」である。ヴェッキオ宮の入口の所に、入場券を買わなくても見える場所に飾られているが、あれはコピー作品で、こちら、宮殿内に飾られているものが本物なのである。ちなみにヴェロッキオはレオナルド・ダ・ヴィンチやボッティチェリの先生である。
このキューピッド、非常に可愛らしいのだが、姉いわく「無邪気だけど、残酷な顔してるような気がするよ。第一、イルカは水中にいなきゃ苦しいじゃん」と言う。子供の無邪気さと残酷さってのは確かに紙一重なところがあるけれども、それは深読みしすぎなんじゃないかなーと思ったが、なぜだか私も、このキューピッド君、イルカを抱いているんじゃなくて、踏んでいた、と記憶していた。うーむ。姉の指摘もごもっともなのだろうか。
イルカを「踏んでいる」絵であれば、ヴェッキオ宮内に、確かに存在していた。だが、この絵と勘違いしていたわけではないんだよなー。おそらくだがこの絵が表しているのは、イルカ=獣性を、キューピッド=愛が支配するというような、ギリシア神話的な寓意なのだろう。
し、しかし…こやつは何者だっ?半鳥半人というよりは、足だけが人間のフクロウ…。しかも、妙にポーズを取っていて、面構えもヨイっ!何気に悪者にはあんまり見えない。困ってたら助けてくれそう。
ボッティチェリっぽい絵があるー!と思ったら、ボッティチェリ「工房」の作品であった。
ヴェッキオ宮内部と、塔までご一緒して下さったレジデンスの日本人オーナーさんによると、こちらは「フィレンツェ・モザイク」と呼ばれる工芸品だそうだ。確かによくよく見てみると、石がはめ込まれている。何となく東洋っぽい雰囲気もあるなあと思っただが、花鳥風月の「花」と「鳥」がモチーフになっているからだろうか。
ヴェッキオ宮は、隅々まで見て回ると、非常に時間がかかるのだが、今回、塔に上るのがメインなので、全体的に駆け足で鑑賞した。いつか、ゆっくりじっくり見てみたいなあ。ウッフィツィ美術館にも丸一日くらい籠ってみたいし、いつかフィレンツェには、一人で一週間くらい滞在しなきゃいけないかもしれない。
というわけで、サクサク進んで、5年前にも非常に気に入った、「百合の間」に到着。
青地の壁に、金色の百合のマークが、これでもかと並んでいる。百合はフィレンツェの象徴で、フィレンツェに本拠地をおくフィオレンティーナのエンブレムにも使われている。
シエナ派の画家シモーネ・マルティーネは、代表作である「受胎告知(ウッフィツィ美術館所蔵)」の中で、マリアに懐胎を告げる大天使ガブリエルに、百合ではなくオリーブを持たせている。大天使ガブリエルは、マリアの純潔を象徴する百合を持った姿で描かれることが多いのだが、ライバル国フィレンツェの象徴である花を、画面に描き込むことを避けたなどと言われている。
天井も金色の百合だらけっ!
おまけに、百合の花を描き込んだ、フィレンツェの旗まで描いてあるし!
でもこちらには、ライオン君が、イングランドの旗みたいな、白地に赤十字の旗を持っているね。
何で旗が二つもあるんだろう?と話していると、オーナーさんが、係員のおじさんにイタリア語で聞いてみてくれた。おじさんいわく、古いものと新しいものなのだそうだ。どっちがどっちだったか忘れたが、記憶をねじり出して見ると、十字の方が古いと言ってたような気がする。テストとかでどっちが古いものですか?という問題があったら、何となく十字の方にマルをつけるというレヴェルの記憶だよ!
係員のおじさんが、オーナーさんに、「ちょっとだけお話を続けてもいいですか?」と言うので、OKと答えると、白地に赤十字の旗を持っている、ライオン君の話を始めた。
おじさんいわく、このライオン君は、「マルゾッコのライオン」と言って、百合と同じように、フィレンツェのシンボルの一つであるらしい。
で、何で「マルゾッコ」という名前なのかと言うと、「マル」は、ローマ神話の軍神マルスに由来し、「ゾッコ」は橋げた?とかそういうものを指す言葉で、洪水でも流されなかった橋げた…つまり、「マルゾッコ」は、強さを象徴するような言葉らしい。後で調べてみると、どうもダンテが、作品の中で、「マルゾッコ」に関して、やや似た感じのエピソードに言及しているようだ。
ちなみに、フィレンツェは、古代ローマ…つまりローマ神話の時代には、軍神マルスに捧げられた町だったそうだ。マルスと言えば、ギリシア神話のアレスと同一視されることもあり、ギリシア神話の軍神アレスは、戦女神アテナに比べると、やや、粗暴な戦いを司る神(戦いに粗暴もへったくれもないかもしれないが)とされ、あまり印象がよくない。
そう考えると、軍神マルスに捧げられた町、だなんて、首をかしげたくなるのだが、ギリシア神話のアレスに比べると、ローマ神話のマルスは、悪者と言うよりは、勇敢さなどを司る神で、ローマ世界では崇拝されていたようだ。
古代ローマが古代ギリシャの文化を取り入れた時に、ギリシャの神様と、ローマの神様で、似たような神様を無理やり同一視したと、ウフィツィ美術館展の講演会で聞いたが、もしかしたらマルスは、その典型なのかもしれない。例えれば、日本の大地を司る役割のあるアマテラスと、ギリシア神話の農耕の女神デメテルを同一視するようなものなのかな(ちなみにこの二人は、似たような神話も持っている)。
係員のおじさんは、このマルゾッコの話は、持ちネタなのだろうなー。私たちがマルゾッコのライオンらへん(本当はライオンじゃなくて旗の方)を熱心に見ていたので、話したくなったのだろう。イタリアの美術館や博物館のスタッフさんは、ヒマそうに本を読んだりしている人もいるが、作品などについて質問すると、面白い話が聞けることもある。おじさん、ありがとう(通訳して下さったオーナーさんもありがとうございました)!
百合の間の次は、地図の間。この地図の間もヴァザーリ設計だそうで、ということは、16世紀あたりの地図なのかなあ。lコロンブスのアメリカ大陸到達が1492年なので、ヨーロッパにおける大航海時代が始まってからの地図ってことだ。ちなみにコロンブスはジェノヴァ人なので、実はイタリア人である。スペイン王宮で活躍しているので、あまりイタリア人というイメージがない。
右下の、ちまっとしたかき揚げみたいな島には、何と「ジパング」と書かれている。つまり、日本っ!へー16世紀は、日本はこんなに横に細長かったのかー(違います)。
さて。そろそろ塔に上ろうぜ(今回のメイン)!百合の間の横辺りに、塔に上る階段がある。塔のチケットを買っている人は、ここで係員にチケットを見せて、階段を上って行く。
ドキドキしながら、このような階段を上っていたのだが…
あっと言う間にてっぺんに辿り着いてしまった!そうだよなー、百合の間自体、たぶん日本で数える所の3階にあたる位置なので、そこから上るわけだから、地面から上るのとはワケが違うよなー。
ちょっと拍子抜けしながら、四方を見渡したのだが、ご覧のようにロープが張られていて、端の方まで行くことができないので、背の低い私には、あまりパノラマが見えないっ!およーと思いながら、見回していると、ドゥオーモのある方向だけ、ちょっと高い足場が作ってあって、ドゥオーモを拝めるようになっているよ!
そこで、そこの足場に上ってみると…
おおおおおっ!これこそが、フィレンツェのドゥオーモの完全体っ(完全体なんて失礼ねBy修復中のサン・ジョヴァンニ洗礼堂)!ドゥオーモとジョットの鐘楼のツーショットを、こんな間近で見れるなんてっ!ドゥオーモとジョットのツーショットは、ミケランジェロ広場からも見えるが、やはり近い分、ここからの方がベストショットだよーっ!
ちなみに、このツーショットが見える足場は狭く、2、3人くらいしか一度に上がることはできないため、譲り合いになる。とはいえ、今のところ、ヴェッキオ宮の塔の入場は人数制限をしているため、そんなに行列になることはないと思う。人数制限しなくなったら、大変なことになりそうだ。
フィレンツェのドゥオーモ&ジョットの鐘楼の、夢にまで見た(実際は見てません)ツーショットを拝めて、大満足っ!ドゥオーモに上ったらドゥオーモが、ジョットの鐘楼に上ったら鐘楼が見えませんからね!
…なのだが、私はあることに気づいた。「ヴェッキオ宮に上ったら、今度はヴェッキオ宮が見えないんだ…」。…ツーリストよ、わがままもたいがいにしなさいよ。