3/11モディカ旅行記4 鉄道切符を求めて彷徨う旅人よ

ラグーザ遠足からモディカへ、ASTの長距離バスで帰ってきた。

モディカ・バッサの、ウンベルト一世通りのバスターミナルでバスを降りると、モディカからラグーザに行く時に、バス乗り場を教えてくれたおじさんが、「おお!お帰り!」と、満面の笑みで出迎えてくれた。おじさん…我々が、ラグーザで遊んでいる間、ずーっとここにいたんじゃあるまいな…?イタリアのヒマオヤジってのは、テリトリーを持っていて、結構な確率でそこで目撃できるオヤジがいる。こういうオヤジは、カカシの仕事が、素でできるんじゃないかと思う。

バッサのウンベルト一世通りを歩いていると、何か、誰かに見られている気がして、ふと視線を感じた方を見てみると…おー。バロックオヤジたちが、ずらーっと並んでいるよ。

モディカ

…本当にねえ。ヨーロッパ美術の、こういう美意識は、イマイチ私は理解できないのでアルよ。

モディカ

「モディカにお帰り~」

モディカ

上の顔「ラグーザは楽しかったかい~?」。下の顔「ペッ。何がラグーザでぃ!」

モディカ

「モディカ滞在も今日までだな!まっ、楽しんでくれ!」

…とでも、我々に向かって話しかけている気がするようで、このバロックオヤジたちが、気さくで親しみやすいのが、すごくモディカの町に合っている気がした。

いったん、アルタの方のホテルに戻った。まだ時間は5時半くらい。姉も私も、「もう一度、ボナユート(モディカチョコレートの老舗)に行きたいねえ」と、意見が一致した。我々はどちらも我が強く、しかも姉妹同士で遠慮がないので、旅行中の行動について意見が衝突することは茶飯事なのだが、このボナユートに関しては、満場一致であった(二人しかいませんよ)。

明日は、早朝8時21分発の電車に乗り、モディカからシラクーサまで移動する。この電車は、ほぼ一択なのである。モディカ―シラクーサ間は、バスよりも鉄道の方が、ずっと移動時間が短い。バスだと、3時間近くかかるのだが(乗り換えが必要な場合もある)、鉄道だと、乗り換えなしで、1時間半で行くことができるのである。

しかしである。こんなに便利な鉄道なのに、なぜだか本数が極端に少なく、早朝6時の便と、この8時21分発の便しかないのだ。…何でこんなに早い時間にしか便がないの?シチリアの人たちってそんなに早起きなの?ともあれ、早朝6時とかの電車に乗れるはずがないので(だいたい、この貴族の友人ホテルの美味しい朝ごはんが食べられないではないか)、8時21分の電車一択だ。

一択ということは、この電車に乗り遅れるわけにはいかない。イタリアの電車を使いこなすのは、バスよりはずっと(相対的にだよ)イージーというのが定説であるが、ことシチリアに関しては、この定説は通用しない。シチリアの鉄道は、なぜだか本土イタリアに比べて全然発達していなくて、本数が少なかったり、遅延が多かったり、駅が無法地帯だったりと、いろいろ評判が悪いのだ。

ということは、この一択の電車に、間違いなく乗車するためには、念には念を入れておいた方がよい。つまり、今日のうちに、

1.鉄道駅の場所を確認しておく
2.明日の鉄道切符をゲットしておく

…という二つのミッションを遂行しておけば、明日、うろたえずに済む可能性は高いのである。というわけで、散歩も兼ねて、駅はどうせバッサの方にあるので、鉄道駅まで歩いて場所を確認し、その後切符をゲットして、それらのミッションが終わったら、バッサの方にあるチョコレート屋さん「ボナユート」に行くことにした。

鉄道駅は、モディカの町の南端の方にある。ノート渓谷の町は、鉄道駅が中心街から離れていることが多い。その中ではモディカの鉄道駅は、確かに町の外れではあるが、中心街から歩けない距離ではないし、バッサ(下の町)のウンベルト1世通り沿いのホテルに泊まれば、スーツケースを持って歩くのも不可能ではない距離である。

しかし、距離は大したことは無いのだが、実際歩いてみると、ウンベルト1世通りから、通り名が変わるあたりから、モディカの町は急に活気がなくなり、寂しい雰囲気になった。だからと言って、危険を感じるということは無いのだが、鉄道駅のあたりには、ほとんど人がいないということは、特に一人旅の人は、気に留めておいた方がよいだろう。電車の本数が少ないせいで、地元の人にとって鉄道は身近な交通手段ではなく、鉄道駅そのものが、モディカの人たちから見捨てられているような感じすら受ける。

明日、これだけ人の気配がない駅に、朝早くスーツケースを持って歩いて行くのはちょっと嫌だなあ。宿泊している場所はアルタ(上の町)だし、鉄道駅とは正反対の、町の北の方なので、明日はタクシーを使った方がよさそうだ。貴族の友人(ホテルスタッフのことです)に頼めば、タクシーを手配してもらえるだろう。

全く人の気配のしない鉄道駅。ちょっと中をのぞいてみると、切符売り場らしきものは見えない。一応、駅の建物内自動券売機みたいなものが一つ置いてあるが、あれはちゃんと使えるのだろうか…?そもそも、今はカギが閉まっていて、自動券売機に近づくこともできない。もし、明日の朝も、駅の建物そのものにカギがかかっていれば、自動券売機で切符を買うこともできないのでは…?

しかし、駅の中にも、どこにも、駅員さんらしき人はいないので、これ以上駅の周りをウロウロしていても、何の手がかりも掴むことはできない。日も暮れ始めて、人の気配のない鉄道駅周辺はちょっとコワイ感じもあるので、中心街の方へ戻ることにした。

中心街の方へ戻る途中、向こうの方から、3人組の男性が歩いてきた。辺りは薄暗くなりかけていて、最初ははっきり見えなかったのだが、イタリア国鉄FSの、襟が赤い制服を着ているよっ!おおっ!手がかりナッシングな場面で、とてもラッキーな出会いがあったよ!

「すみません…」と、呼び止めて、明日の朝、鉄道切符はどこで買えるかを尋ねてみた。すると、やはり、明日の朝も、駅の切符売り場は開かない、とのこと。その代わり、今は閉まっているが、中心街の、駅寄りの方にあるエディコラ(新聞屋さん)で鉄道切符を購入できるそうだ。おおっ!手がかりゼロからの、光明が見えて来たぞ!それにしても、このFSのスタッフさんたちも、みんな親切だった。モディカは、本当に町の人たちの親切が身にしみる町だ。

私はこれで、一件落着~と思ったのだが、姉に、「甘いッ!」と一喝された。姉「少なくとも、そのエディコラが、どの建物か確認しないと、明日、スーツケースを持った状態で探し回るわけにはいかないよ。それに、駅と、そのエディコラは、結構距離が離れている感じじゃん?明日、タクシーで鉄道駅に直行するなら、そのエディコラまで切符を買いに行くのは時間のロスだよ。できれば、切符は今日ゲットしておいた方がいいよ」。…うん、そうだね。姉の言う通り。

というわけで、まずは、エディコラを探し回ったのだが、駅員さんたちは「今は閉まっている」と言っていた。イタリアでは、お店が閉まると、シャッターが下りて、看板も見えず、このシャッターが閉まっている状態で、お目当ての店を探し当てるのは非常に難しいのだ。

そこで、いくつかのバールやタバッキに入って、「鉄道切符を購入できるエディコラが、ここらへんにあると聞いたのですが、知りませんか?」と聞いてみたのだが、「切符は駅でしか買えないと思うよ」とのお返事。…うーむ。やはり、鉄道は、モディカの町に根付いた交通手段じゃなく、地元の人でも、切符が買えるお店すら把握していないようだ。これは、観光インフォメーションで聞いてみるしかないな。

というわけで、町の中心まで戻って、観光インフォメーションに行ってみると、まだギリギリ開いていた。そこの女性スタッフに、街中で鉄道切符が買える場所はないかと聞いてみると、駅じゃなければ買えないのではないか、というお答え。このインフォメーションより、ちょっと北の方、サン・ピエトロ教会のお向かいにもインフォメーションがあるので、そこで聞いたらわかるかもしれない、と言われた。

そこで、言われた通りに行ってみると、サーファーさん用の道具を売っている感じのお店に、インフォメーションの「i」マークがあった。さっきのインフォメーションが、モディカの公式の観光案内所なのだが、ここは何なんだろうなあ。個人が好意でやっているインフォメーションなのだろうか。中には、男性スタッフがいて、「確信はないけど、タバッキで購入できるんじゃないかな」と、ウンベルト1世通りに面したタバッキを二つ教えてくれた。

んで、まずは、近い方のタバッキに行ってみた。店員さんに聞いてみると、「ここでは鉄道切符は売ってない。この近くにもう一つタバッキがあるから、そちらで売ってるかも」とのお答え。さっき、2つ目のインフォメーションで言われた、もう一つのタバッキのことを指しているようだ。

で。そのもう一つのタバッキまで行った。女性スタッフが出てきて、残念ながらここでは売っていない、と言う。しかし、彼女は確信を持って、「Bar Sicilia」というバールで買える、と断言した。えっ?何か、宝探しのターニングポイントみたいな情報が降ってきたぞ!

モディカの地図を見せて、「すみません、Bar Siciliaの場所を地図で教えて頂けますか?」と言ってみると、彼女はしばらく地図を眺めた後、「ちょっとこの地図わかんない。とにかく、ウンベルト1世通りを、ずっと真っ直ぐ(南の方へ)行けばわかるわよ!」と言った。

…しかし、なぜ、モディカの住民が、モディカの観光地図を見て、どこがどこだかわからないのであろうか…。私も地図が読めない方だけど、イタリア人女性ってのは、私以上に地図が読めない人が多い気がする。そのやり取りを見ていた男性が寄ってきて、「Bar Siciliaはこのへんだよ」と、地図にマークをつけてくれた。おおっ!ありがとうっ!

で!「Bar Sicilia」に行ってみたんだ。このバールには、タバッキが併設してあったので、鉄道切符が買えるならタバッキの方だろう、と、タバッキにいた男性店員に、「すみません、ここで鉄道の切符を買えると聞いたのですが…」と話しかけると、「鉄道切符はここでは売ってない。でも、隣の、あの旅行代理店で売ってるよ」と、隣の、白い灯りがついているお店を指さした。

モディカ

そうして、ようやく…!ようやくたどり着いたのが、ウンベルト一世通りの、南の端にあるこの旅行代理店っ…!ここで売ってなければ、もう鉄道切符をゲットすることはできないだろう、と、何となく姉も私も予感があった。我々の最後の砦っ!さあ、中に入るぞっ!

中では3人ほどのスタッフがヒマそうにしていて、「すみません…明日、シラクーサまで行く電車の切符を買いたいのですが、売っていますか?」と聞いてみると、「もちろん!さあさあ、そこに座って下さい」と、椅子を勧められた。おおおー!たどり着いたー!鉄道切符まで、たどり着いたぞーっ!

明日は、各駅停車での移動なので、指定席とかではないはずなのだが、乗車する電車の便の指定と(とは言っても、ほぼ一択だから!)、あと、名前のスペルを教えるように言われた。

切符として出てきたのは、日本で、全席指定のエウロシティ(特急電車)とかをオンライン予約した時にプリントアウトする、A4の紙のバウチャーにそっくりな紙であった。私の名前のスペルが間違えていて、すっごく不吉な名前になっていたので、「スペルが違うんですが…」と一応言ってみたが、「ああ、大丈夫!乗れるから!」と言われた。うん、乗れるなら大丈夫だよ!

指定席でもないのに、なぜ乗る電車が指定されて、名前も記載された切符なのかはわからないけど、もーわからないけど、とにかくも鉄道切符ゲットォ!!!いやー、モディカの人たち親切で、行く先々、「次はここで聞いてみて」と、次の手段を教えてくれたおかげで、たすきをつなぐようにして、この旅行代理店までたどりついたよ!モディカいい町!ばんざいっ!(本当は、鉄道切符くらいもっと簡単に買える町はもっといい町なのかもしれないが、この時は、そんなこと思いもしなかったよ)

これで心の荷が下りたので、モディカチョコレートの老舗・ボナユートに入った(またか!)。昨日から、2日で計3回目の我々の登場だよ。お店のおねえさんにも、すっかり顔を覚えられてしまったよ。

モディカ

昨日は気づかなかったけど、ウィンドゥには、非売品で、バロック彫刻を模したようなチョコレートが飾ってあった。バロックとモディカチョコのコラボだね!

お店のおねえさんには、とても親切にしてもらったので、「これが多分、最後の来店です。明日の朝早く、シラクーサに旅立ちます。いろいろありがとうございました!」とお礼を言ってお別れした。2日間で3回も来店して、モディカチョコを買いまくった我々だが、しかし、もっと買っておくべきだったと後で後悔したという話は、前の旅行記に記載済みだね!

今日は、アルタの上の方の、宿泊しているホテルの近くでディナーを食べることにした。宿泊している、「貴族の友人ホテル」こと「Palazzo Failla」と、経営が同じっぽい「Locanda rel Colonnello」というカジュアルレストランである。ホテルからは、歩いて3分かからないくらいである。

レストランの中に入ると、今朝、朝ごはんの時に会った、「Palazzo Failla」に宿泊している若者グループがいて、我々が入ってくるなり、「また会ったね」って感じで何人かが笑った。もしかしたら、「あの日本人たちが、このレストランに来るかな?」という話でもしていたのかもしれない。

ホテルには、今回の旅行の主要バイブルCREA Traveller (クレア・トラベラー) 2013年 10月号 [雑誌]にも掲載されていた、「Ristorante La Gazza Ladra」というレストランが併設されていて、本当はここで食事をするつもりだったんだけど、このレストランは冬季休業していた。

そこで、こちらのカジュアルレストランの方に来たのだが、今日は、朝からゴージャス朝ごはんに、昼はラグーザの名店「Duomo」の高級ランチをたいらげたので、庶民(私のことだよ)の胃袋は、そろそろカジュアルなものを求めていた。なので、結果的に、このカジュアルレストランのディナーでよかった!

モディカ

お通しのパンは味付きだった!宿泊客だからなのか、このパン代を含めたサービス料は、会計の際、取られなかった。しかし、このパン、カジュアルだけど美味しかった。特に姉は、シチリアはパンが美味しいと何度も言っていた。

モディカ

前菜のカルチョーフィ(アーティチョーク)。

モディカ

アスパラガス入りのトマトソースパスタ。

モディカ

お魚のフライのオレンジ添え。

全体的に味付けがさっぱりしていて、食べやすく、ホッとする味であった。ラグーザの「Duomo」のように、非常に印象に残る味というわけではないが、食事が毎回インパクトが強すぎても身が持たない。このお店は、すーっと体になじむような、安心する味付けのお店なので、結構誰でもシンプルに美味しく食べられるのではないかと思う。

メガネで長髪を結い上げた若いウェイターさんが、「日本人ですか?僕は最近ハルキ・ムラカミを読みました」と話しかけてきた。姉も私も、村上春樹は何冊か読んだことがあるので、「何というタイトルですか?」と聞いてみると、「えっと…タイトルは忘れたんだけど…ミドリとかナオコとか…」なとど言ったので、姉と私が声を合わせて「ノルウェイの森!」と言うと、ウェイターさんは嬉しそうに、「そうです!ノル、ウェイッ!」と言って、ガッツポーズした。

ノルウェイの森(→ノルウェイの森 上 (講談社文庫))って、数十年前の日本の若者を描いた作品なので、外国人が読んでも微妙なんじゃないかなーと思っていたのだが、彼はノルウェイの森はかなり面白かったらしい。それにしても、タイトルは忘れても、話に登場する女の子の名前は覚えているのが、実にイタリア人らしいね!

ディナーを終えて、貴族の友人ホテルに戻った。たったの2泊だったので、あっという間のモディカ・貴族の友人ホテル体験であった。もう一泊すれば、シクリも行けたし、モディカをもっと隅々まで歩けただろうなあ。

そんなわけで、モディカの2日間は終了した。モディカは、かなり「また戻ってきたい!」と思える町であった。地球の歩き方には大きく紹介されていない町なので、日本人には認知度が低い町だし、シチリア旅行に行く方も、「モディカはどうしようかな」と迷う方もいらっしゃるかもしれないが、個人的には「ぜひ!」と、おすすめしたい町である。パノラマがきれい!ドゥオーモもきれい!チョコもおいしい!人もやさしい!モディカばんざいっ!