3/14シラクーサ旅行記6 ヴィーナスの「美しい私を見なさいよ(本音)」

本日は、シラクーサからパレルモへ移動する日である。

つまり、シチリア島東部からシチリア島西部への移動で、今回のシチリア旅行で、最も移動距離が長い。

シラクーサからパレルモへの直行バスは、1日に二本しか便がなく、朝8時と、午後2時発である。朝8時は早すぎるし、ゆっくり滞在できる(ハズ)のパレルモより、時間が足りないシラクーサの方に、少しだけでも時間を回したかったので、午後2時の便を利用することにした。

ということは、今日の午前中までシラクーサ観光できるんだよっ!

本日も、朝は天気がよく、シラクーサの朝日を見ながら、B&Bのテラスでラジオ体操をした。ラジオ体操をバカにする人は素人(何の素人だよ!)。

さて、シラクーサ最後の午前中。行きたいのは、考古学地区(高台)の州立パオロ・オルシ博物館と、オルティージャ島の南端のマニアーチェ城。…って、方向が全くの反対なのよね…。午前中に、2つとも行くのは、鈍足の我々にはキビシイ。

姉と、悲しい会議を開き、泣く泣くマニアーチェ城の方を諦めることにした。だって、州立パオロ・オルシ博物館の方は、既に共通券を買ってあるんだよ!

我々が宿泊しているのはオルティージャ島である。州立パオロ・オルシ博物館まで歩いて行けないわけではないが、歩くと、早歩きでも20分以上はかかるだろう。博物館近くまで行くミニバスに乗るには、オルティージャ島の端まで行かなければならないので、バスを待ったりしているうちに、この方法でも20分はかかるだろう。今日の午前中は、最後の最後にシラクーサを堪能できるチャンスなので、1分たりとも無駄にしたくないのだ。

ここはひとつ、時間をお金に変えるしかナイッ…!そう。B&Bの前までタクシーに来てもらい、博物館まで直行してもらうのだ。貧乏節約旅行の我々だが、旅には腹をくくらねばならない時もあるのだ。それだけの価値がある。シラクーサという町には…(By安西先生)!

そこで、B&Bのオーナーに頼んで手配してもらい、タクシーに来てもらった。シチリアで乗ったタクシーで初めて、料金メーターがついていた。アルキメデス広場近くのB&Bから、州立パオロ・オルシ博物館までは10ユーロであった。10ユーロという金額が、我々が腹をくくる金額なのである(10ユーロは1500円くらいだよっ!)。

州立パオロ・オルシ博物館の敷地は非常に広かった。1分が惜しい我々は、この、博物館に到達するまでの距離が今は惜しまれるよっ!切符売り場は、博物館敷地内の庭の建物内にあり、ベッローモ宮州立美術館で購入した24ユーロの共通券を出すと、スタッフのおじさんに、「この券では、ウチは対象外だよ」と言われた。

えっ?んなバカな!ベッローモ宮州立美術館の、切符売り場のハイテンションなおばちゃんが、つばを飛ばしながら、ネアポリス考古学公園と、州立パオロ・オルシ博物館にも、5日以内の有効期限内に入場できると、5回くらい説明してたんだよ!

共通券をもう一度見てみると、やはり、5日間有効で、州立パオロ・オルシ博物館(Museo Archeologico Paolo Orsi)にも入れると書いてある。そこで、「Museo Archeologico Paolo Orsi」の文字を指さしながら、「この博物館にも入れるって書いてありますよ」と訴えると、「あ。本当だ。ごめん、ごめん」と、フリーで通してくれた。…なぜ、こんな観光客に有名な共通券を把握していないのだね?…職務怠慢だッ!(←イタリアで叫んでも虚しいセリフ)

博物館はかなり大きな建物であった。きっと儲かってんだろうなあ。シラクーサに来た旅人の多くは、ここ州立パオロ・オルシ博物館を訪れるだろう。ここには、「ランドリーナのヴィーナス」と呼ばれる、有名なヴィーナス像がある。

このヴィーナス像は、ローマ時代の模造品である可能性が高いらしいのだが、古代ギリシャを感じられるヴィーナスだ。古代ギリシャ時代が最盛期のシラクーサで、古代ギリシャに触れずに何とするか。…と、私以外の旅人も考えるに違いないので、たいていのシラクーサ旅行者はこの博物館に入るだろう。だから、儲かってて大きな建物なんだよきっと(長々と考察することか!)。

館内に入ると、マジ広い。…この広さ、我々の鈍足で、どのくらい時間がかかるだろうか。この広さの中で、(時間もないのに)迷子になりたくないので、順路通り回ることにした。まずは、地下の展示場である。

地下は、古代の貨幣が展示されている。古代ギリシャ時代のもので、実に細かい模様が掘られているコインである。シラクーサやカターニアなど、発見された場所ごとに集めて展示されている。地域ごとに差があるかなあ…と見比べてみようと思ったが、何せ展示されているコインが多すぎるっ!コレ、一つ一つ見て回ったら、このコインの部屋だけで丸一日かかるよ…。

純粋な絵画が、あまり残されていない古代ギリシャ文化。その絵画文化を創造するためにも、コインに刻まれた女神やペガサス、カニなどを眺めているだけでも楽しいのだけど、何せコインが多すぎる!そして時間も気になる!…いつも、時間に追われない観光をしているせいで、時間制限のある観光がプレッシャーだぜ…。人よ、時間に支配されるな…!時間を支配するのだ!(何言ってるのコイツ)

ちなみに、この地下のコイン部屋は、カギが閉まっていて、地下に人が下りてくると、係員が開けてくれる形式である。盗む人がいるのかなあ…?まあ、シチリアと言えば、パレルモでカラヴァッジョの作品がマフィアに盗まれた話が有名だもんなあ…(ちなみにその絵はいまだに行方不明らしい)。あと、このコインの部屋だけ撮影禁止だった。何でだろ?ニセ金作りの防止?(イヤ、違うだろ)

さて。1階に戻って、本格的に館内を散策するよ!基本的には、この博物館は、時系列順に展示が並んでいて、A.先史時代→B.ギリシャ植民地時代→C.ギリシア植民地後(ヘレニズム?)→D.ローマ時代と進んでいく。

シラクーサ

この何だかゆかいなおばさんは、実は、ギリシャ神話のメドゥーサである(髪の毛が蛇で、目が合った相手を石に変えてしまう化け物)。幼い頃にギリシャ神話を読んだ時は、メドゥーサが恐かったが、こんなメドゥーサなら恐くないなー。今でも、怖い人とか変な人とは目を合わせるなって言うけど、人間のそういう本能を投影した化け物なのだろうか。

メドゥーサは怪物だが、よく魔除けとして、建築物などにも飾られていて、古い時代から、シチリア島のシンボルとなっている。このメドゥーサの顔面から、なまめかしい3本の足が唐突に突き出ている図像が、今でもシチリア島のマークとして使われている。その、何ともシュールなキャラは、いつか、この旅行記中に紹介するであろう。

シラクーサ

あとこんなヤツとか

シラクーサ

こんなヤツみたいに、訪館者を笑わせるつもりで置いているとしか思えないものも展示されていた。

こういうイロモノばっかりじゃなくて、まともな芸術品も見ていくよ!

シラクーサ

こちらは、古代ギリシャの、アルカイック期(まだ彫刻が未熟な時代)くらいのものではないかという、双子を抱いた女性。時代を考えると、なかなか出来の良い作品だ。画像ではわかりにくいかもしれないが、双子が、それぞれお母さんのお乳を飲んでいる。双子と言えば、古代ギリシャ・ローマでは、ギリシャ神話の双子神や、ローマ建国神話の双子など、なかなかキーワードとなる存在である。

シチリアでは、大好きな、古代ギリシャの壺絵をたくさん見ることができた。

シラクーサ

兜をかぶって、盾を持っているので、おそらく知恵と戦の女神アテナ。

シラクーサ

上の絵と雰囲気違うけど、こちらもアテナ。ちょっと美人っぽい上のアテナよりも、いかにも戦女神って感じの、この力強いアテナの方が、私は好きである。

シラクーサ

半獣半人の怪物。顔が牛に見えるから、おそらくミノタウロス。クレタ島の迷宮に閉じ込められていた怪物である。しかし、半獣半人って、上半身が人間なら、人魚とか人馬とか、割りとセクシーなのに、上半身が動物の方だと、どうしてコミカルに見えてしまうのだろうか。

姉も私も、古代ギリシャの壺絵は大好きなので、いつまでも見ていたいくらいなのだが、何せ、今日は時間が限られている(午後にはパレルモ移動だからね!)。まだ、この博物館の大目玉である、「ランドリーナのヴィーナス」を見ていない。

美術館や博物館で、途中をすっ飛ばすことは実に悲しいことなのだが、とにかくこの博物館は大きく、ヴィーナスにたどり着く前にタイムオーバーになってしまったら悔やんでも悔やみきれない。そこで、時間があったら後戻りすることにして、ヴィーナスを探してどんどん進んだ。

順路は、ぐるぐる回りながら、どんどん上に上って行けばよい。しかし、上れども、上れども、ヴィーナスにたどり着かないんだぜ…!博物館がデカイせいもあると思うが、とにかくこの日は、館内が空いていて、人をよけて進む必要もなく、どんどん先に進んだ。

ローマ期の出土品を展示しているセクションDにようやくたどり着き、ずんずん進んでいくと、ようやくいたー!ヴィーナス!「ランドリーナのヴィーナス」!

シラクーサ

パッと見の印象。ボッティチェリの「ヴィーナスの誕生」のヴィーナスに似てるっ!

そりゃあ、どちらもヴィーナスなんだから似てて当然でしょ、というツッコミはあるが、明らかに、ボッティチェリのヴィーナスは、このポーズから影響を受けている。足の角度とかもそっくり!

近くに説明書きがあったが、ヴィーナスの右手は失われているが、おそらく、乳房を隠したポーズを取っていたのではないかと。いわゆる「恥じらいのヴィーナス」と呼ばれるポーズである。

ヴィーナス(ギリシャ風にはアフロディーテ)は、愛と美の女神である。そんな彼女が、なぜ裸体を恥じらう必要があるのだろうか。むしろ、堂々と、自分の美しさを誇っている方が、ヴィーナスらしいように私には思える。

しかし、ヴィーナスをはじめ、ギリシャ・ローマ神話の神々は、実に人間臭いのだ。「ここはひとつ、(演技でも)恥じらっておいた方がチャーミングよね」という計算のもと、彼女がこういうポーズを取っているような気がしてならない。

もちろんだけど、それは彫像自体の考えではなく、制作者の考えである。「堂々としているより、ちょっと恥ずかしがっている方が、逆にその仕草がセクシーだし魅力的」ってことなのだろう。…まあ、確かにその通りなのだ。隠すことで、逆にそこに目が行ってしまうというか。そんな男性心理を、上手についている点で、確かに彼女は愛と美を司っている(たとえば、処女神のアテナやアルテミスは、絶対にこんなポーズとらないだろう)。

ちなみに、このポーズで、もう一つ思い出すルネサンス絵画が、フィレンツェのカルミネ教会の、マザッチョの「楽園追放」。

フィレンツェ ブランカッチ礼拝堂
この絵である。

イヴのポーズが、この「恥じらいのヴィーナス」のポーズにそっくりである。これは、知恵の実を食べたことで、「羞恥心」に目覚めてしまった場面からして、イヴにとって、実に裏も策略もない、自然なポーズと言えるだろう。

フィレンツェに行かれる機会があれば、ぜひ、この絵とボッティチェリの「ヴィーナスの誕生」のヴィーナスを見比べてほしい。楽園を追放される悲しさと、全裸の羞恥から悲嘆の表情を見せているイヴに比べて、ボッティチェリのヴィーナスは、恥じらいのポーズを取ってはいるが、顔は全っ然恥じらっていない。むしろ、「美しい私を見て!」である。

しかし、彫刻作品って大抵そうなのだけど、この「ランドリーナのヴィーナス」も、最初見た時は、こんなものかな?と思ったが、見れば見るほど引き込まれる美しさであった。このヴィーナスの頭部は失われているが、どんな顔していたのかなあ。やっぱり「美しい私を見なさいよ!」なんだろうか。

さて、途中すっ飛ばした展示品を簡単に見直して、最後にもう一度、「ランドリーナのヴィーナス」を見て、博物館を出た。この博物館は、本当に大きいので、じっくり見る予定の方は、前後の予定に余裕を持たせておいた方がいいだろう。逆に、ヴィーナスだけでいいや、て方は、ヴィーナスは順路の後ろの方にあるので、それまでの展示品の見学に、あまり時間をかけすぎない方がよいかもしれない。

このパオロ・オルシ博物館から、やや内陸の方に、サン・ジョヴァンニ・エヴァンジェリスタ教会がある。

カタコンベで有名な教会だ。カタコンベは(怖いので)あまり行く気はないのだけど、サン・ジョヴァンニ・エヴァンジェリスタ教会には多大な興味があるので、ちょっと行ってみた。

何と言っても「サン・ジョヴァンニ・エヴァンジェリスタ」とは、イエスの12弟子のイケメン枠・ヨハネのことを指すのよね。…イヤ、それだけでなく、地震で崩れて、廃墟っぽい外観になっている教会そのものが、味がありそうだな、って思ったんだよ。

なのにさ。

シラクーサ

盛大なる工事中でありましたっ!あー、空の青さが心にしみるぜ…。

見ての通り、心にしみるほどの青空。日がさんさんと照っている。ここからオルティージャ島へは、下り道なので、歩いてもいいと思っていたのだが、サン・ジョヴァンニ・エヴァンジェリスタ教会(@工事中)と、博物館の真ん中あたりにミニバスのバス停があり、バスがすぐに来たので、ミニバスでオルティージャ島まで帰った。

シラクーサ
これがミニバスの乗り場だよ。きちんと路線や、乗り換えも書いてあって、イタリア(しかも南)にしては上出来のミニバスだよ。切符は、車内で買えるよ。0.5ユーロだよ。

思わず、タイミングよくミニバスに乗ることが出来たので、オルティージャ島に戻ったら、アレトゥーザの泉に挨拶してから出発するくらいの時間はありそうだ。