3/14パレルモ旅行記1 真摯で謙虚なパレルモビギナー

シラクーサから、3時間15分(途中休憩有り)。時間通りに、長距離バスは、パレルモのバスターミナルへ到着した。

パレルモ。それは、シチリア島最大の都市である。

その名は、おそらくイタリアに旅行しようと思う日本人を、最もビビらせる都市のひとつであろう。確かにローマやナポリも治安は悪い、と言われる。だが、ローマやナポリで旅人が遭遇するのは、旅行者を狙った、スリや置き引きなどの、軽犯罪がほとんどなのだ。

それに対しパレルモ。…実は、旅行者を狙った犯罪は、ローマやナポリほどは多くないという声もある。パレルモが旅行者を不安にさせるのは、やはりマフィアの町、ということだ。何度かこのブログでも書いているが、シチリアマフィアの世界は、観光客とは何の関係もない世界なので、マフィアが旅人にすごんで来たりするような話は、まず聞かない。

じゃあ、何が不安なのか言うと、何となく不安なのだ。マフィアに遭遇するのが不安なのではない。マフィアのような非合法的な団体が台頭する社会というのは、我々が日本で生きている(少なくとも表面上は)平穏な社会とは、おそらくどこかが根本的に違うだろう。そういう、未知のものに対する不安…というよりは、生物が本能的に持つ警戒心なのかもしれない。

バスターミナルは、鉄道駅に隣接している。予約しているアパートメントの方向に行くには、駅の構内を通るのが近そうだ。周囲を警戒しながら、スーツケースを転がしていると、姉が「あ…犬が…走り回っているよ…」と言う。何と、鉄道駅のホームを、野良犬が、颯爽と走り回り、追いかけっこをしているのだ!しょっぱなからコレだよ!パレルモ!

私は野犬って怖いのだけど(怖くない人いないだろう)、犬たちは、人間を襲ってくる様子はないので、何となく気にしながら、とりあえず駅を突っ切って通りの方へ出た。予約しているアパートメントは、歩いて7~800メートルくらいの距離である。周囲に気を付けながら、ゆっくり歩いていくことにした。

アパートメントは、ヴィットリオ・エマヌエーレ大通りから、少し小道に入ったところにある。駅からヴィットリオ・エマヌエーレ大通りまで、本当に慎重に歩いたので、スーツケースもあったためか、10分くらいで着くはずの距離を、倍以上の時間はかかってしまった。

大通りから、アパートメントのある小道に入る所に、若いイタリア人カップルが立っていて、我々を見て名前を呼びかけてきた。アパートメントのオーナー夫妻であった。シラクーサからバスで行くことを伝えてあったので、バスの時間に合わせて、大通りのところで待っていてくれたらしい。

英語をペラペラと話す、生真面目そうな旦那さんと、うつむき加減で、あまり口を開かない奥さん。シチリア人は、本土の南部イタリア人に比べると大人しい、と一般的に言われるが、確かに、ここまで、今までのイタリア旅行と比べると、真面目で大人しい人の割合が多い気がする。このシチリア旅行で出会った一番明るい方と言えば、カターニアのアパートのオーナー夫妻だった、韓国とフランスのハーフの女性だもんなー。

このアパートは、何とも面白い作りで、我々の部屋は日本で言う4階に該当するのだが、エレベーターが扉代わりになっていた。

パレルモ

ちょっと写真ではわかりづらいかもしれないが、エレベーターが、部屋の入り口にそのまま面しているのである。

えっ?防犯上どうなの?と思われるかもしれないが、そもそもエレベーターがカギ式で、カギを持っていない人は、4階のボタンが押せないようになっている。さらに、エレベーターと部屋の間にも格子付きの扉があり、そこもカギが閉まるので心配はいらなかった。

そもそも、アパートメント自体は、5階に相当する高さだし、あちこちの戸締りもバッチリで、これは、やや治安が心配な町・パレルモでかなり安心できる作りであった。ヨシ!これで、アパートの中にいる限り安全だね!(イヤ、あなた旅行者なんだから、アパートの外にいる方が多いでしょ!)

生真面目な旦那さんは親切に、観光地図を広げて、オススメのお店などを教えてくれる。パレルモに着いたのは、5時を過ぎていたので、外はやや暗くなってきていた。今日は、食料品の買い出しをしていないので、外食しなければならない。つまり、暗い時間に出歩かなければならないのだ。旦那さんに、「パレルモの治安はどうですか?暗くなってから出かけても大丈夫ですか?」と聞いてみた。

まあ、普通にパレルモの人たちは暮らしているのだから、夜6時とか7時に出歩けないわけはないのだ。もちろん、旦那さんの答も、「心配し過ぎなくて大丈夫ですよ。ただし、遅い時間や、市場などでは、貴重品には気を付けた方がいいでしょう」であった。そうだよなー。

大人しかった奥さんの方は、私が洗濯機の使い方を聞こうと思って、「ウォッシングマシーン」と言ったのだが、通じなかったので、イタリア語で「ラヴァトリーチェ(洗濯機)」と言うと、急に元気になって、イタリア語でしゃべり始めた。どうも、英語が苦手で緊張していただけだったようで、イタリア語で話し始めると、いろいろ親切に教えてくれた。

ちなみに、私のイタリア語力は、謙遜も何でもなく本当に大したことない。その上シチリアは、シチリア訛りが強いと聞いていたので、シチリア人の話すイタリア語がきちんと理解できるか、少し心配していた。だが、シチリア訛りに悩まされることはほとんどなかった。今まで、訛りのあるイタリア語に一番苦労したのは、カンパーニア州のサレルノ辺りである。

パレルモは、これから1週間の滞在である。新市街の方に住んでいるという(旧市街より北の方)オーナー夫妻が帰った後、ご飯を食べに出ることにした。今日はもう外も暗く、スーパーもちょっとアパートからは遠いので、1週間分の食料品や雑貨の買い出しは明日である。

オーナー夫妻が、美味しいピザ屋さんを教えてくれたので、そこへ向かうことにした。マクエダ通りから、少し西の方へ入った、Piazza Sant’Onofrioという広場にある「Frida」というピザ屋さんである。小道からショートカットで行けそうだったのだが、何せパレルモ初日で、もう外も暗い。遠回りにはなるが、真摯に人通りのある大きな通りから行くことにした。

ヴィットリオ・エマヌエーレ通りに出て、マクエダ通りとの交差点まで歩くと、そこが、パレルモの中心、クアットロ・カンティである。

パレルモ

初パレルモの夜ということで、無駄に周囲にビクビクしながら撮影したこの写真では、何が何だかわからないだろうが、クアットロ・カンティは、パレルモのちょうど真ん中にある、カッコイイ四つ辻である。そもそもクアットロ・カンティというのが、イタリア語で「四つ辻」という意味らしい。直球勝負のネーミングがイタリアは多い。

クアットロ・カンティは予想通りカッコイイのだが、何せ初パレルモの夜。我々は真摯で謙虚であるべきなのである(どういう意味よ)。明日以降、明るい時間にしっかり鑑賞することにして、ピザ屋さんを目指して歩いた。

ピザ屋さんのある広場まで行くと、あるお店の前に、すごい人だかりができている。…もしかして、この店!?…ビンゴであった。開店間際って感じだったが、行列ができている。地元民って感じの人が多い。大通りに面してないのに、有名な店なんだなあ…。

我々も最後尾に並ぶと、近くに並んでいた、ブロンドの美人が、「あなたたち、名前を伝えて予約してる?先に、あのスタッフの男性に名前を言って予約するシステムなのよ」と教えてくれた。おお!並んでいる人たちは皆予約済みで、開店を待ってるのか!教えてくれてありがとう!

並んでいる間、近くに小学生低学年と、就学前って感じの姉妹がいて、東洋人が珍しいのか、我々に興味津々であった。ちょっとした家族のお出かけなのか、かなりおめかししていて可愛らしい。妹ちゃんの方はかなり恥ずかしがっていて、眼鏡をかけたお姉ちゃんの方は、恥ずかしさよりも好奇心が勝って、控えめに手を振ってきたので振り返した。小さい子にとっては、普段見ていない人種の人間って、珍獣みたいに見えるんだろうなあ。

さて、美人さんが教えてくれたおかげで、開店と同時に、ギリギリでテラス席ではあったがテーブルに着くことが出来た。イタリアのピザ屋はメニューが多くて、選ぶのに本当に迷ってしまうが、「Norma」というナスの乗ったピザと、いろいろな味が乗っている「quattro stagioni」をオーダーした。ピザの値段はだいたい3ユーロくらいから、10ユーロくらいまでだった。

私は「Norma」を最初に食べて、実に美味しかった!ピザ生地も美味しいし、トッピングも美味しい!これは確かに人気店!と思ったが、姉が食べた、「quattro stagioni」は、美味しくなくはないけど普通、だと言う。半分食べたところで、ピザを交代したが、確かに「quattro stagioni」は普通であった。

パレルモ

何だか初パレルモでいっぱいいっぱいで、写真を撮るのを忘れていて、途中で慌てて撮影した、何が何やらの写真。手前が「quattro stagioni」で、ほとんど写っていない奥の方が「Norma」。

「quattro stagioni」は、ちょっと味が濃く感じたが、「Norma」はかなり美味しかった。ピザ生地自体は美味しかったので、「quattro stagioni」がたまたま我々の口に合わなかっただけで、おそらくほとんどのピザは美味しいんじゃないかな、という感じであった。大きさはかなり大きいが、食べきれない場合は、持ち帰りたいと言えば、残りをテイクアウトにしてもらえるようで、周りのテーブルで、箱に入れてもらっていたお客さんがいた。イタリアのピザ屋さんでは、そういうこともできるのねえ。

ピザ屋さんを出ると、また、謙虚に、大通りを通って、アパートまで帰った。パレルモは大都市だけあって、夜でも大通りであれば人がそこそこ通っている。車道には、車のフロントガラスを掃除をして、小銭を稼ぎたい人たちがモップを持って待ち構えている。ピザ屋さんで食事をしている時には、花売りの少年がお店の中に入ってきてテーブルを回っていた。

そういうのは、ナポリでも見かけた光景だ。だが、パレルモとナポリで一番違うと感じたのは、車の運転である。

ナポリもパレルモも車の交通量が多い町だ。その割に横断歩道が少なくて、歩行者が道路を横切るのが難しい。ナポリでは、横断したい場所で、横断したそうに左右を見ていると、だいたい車が停まってくれる。

だが、パレルモではそれがない。我々が旅行者だから停まってくれないというわけでもない。地元の人たちも、必ず横断歩道を使っている。つまり、横断歩道でない場所を横切る習慣がないのだろう。

で、横断歩道を使うにしても、信号のない横断歩道では、車が停まってくれるのを待つしかないのだが、これがまた、停まってくれない。パレルモの人たちは、ナポリの人たちより忙しい人が多いのだろうか。この、「車が停まってくれない」というのが、パレルモ初日で一番印象に残ったことであった。

アパートに帰り着くと、明日に備えてゆっくり眠ることにした。パレルモは6泊。パレルモからの遠足は、全て近場の町にする予定なので、この忙しいシチリア旅行で、ようやくゆっくりできそうだ。いつか行きたいと、ここ何年も焦がれていた町パレルモ。本格的に歩くのは、明日からだよっ!