アテネ旅行記2 アテナが見守り続ける異世界

ギリシャと言えば、地中海に面した南ヨーロッパの国。イタリアほどではないが、晴れた青空というイメージがある。

だが、ギリシャ滞在中の、長期での天気予報は芳しくなかった。ギリシャ神殿は、できれば青い空のもとで見上げたいという気持ちが強いので、なるべく少しでも天気のよい日に、アクロポリスに上ろう、と思っていた。でも、4日のアテネ滞在中に、晴れる日ってあるかなあ…。そのくらい、天気予報はパッとしない感じだったのだ。

だが、朝、目を覚ますと、今日は天気予報に反して青空が広がっていた。オオっ!この青空がいつまで持つかはわからないけど、とりあえず今日の午前中にまずはアクロポリスに上るべきだね!

そして、姉から、重大な情報が発表された。

「冬場の日曜日は、ギリシャの主な遺跡は入場無料になるハズだよ」。

えっ!今日は冬場の日曜日に当たるんですけど!っと言うことは、晴れてるし冬だし日曜日だし、今日は古代ギリシャ遺跡めぐりをするべきってことね!イエイっ!

ホテルのビュッフェ式レストランで朝食を食べて飛び出そうということになったのだが、さすが人気のAVAホテル、この朝食が美味しいよっ!もうグリークコーヒーなんか飲まなくていいやって感じの風味豊かなカプチーノが出てくるし、オレンジをまるごと絞ったジュースは出るし、ほんのり甘いパン類や、サラダなども美味しいっ!

嬉しかったのは、観光客へのサービスだと思うが、ザジキ(ヨーグルトサラダみたいなもの)などのギリシャ特有の料理が用意されていて、グリークヨーグルトもあった。また、このギリシャ特有の食べ物も美味しくて、美味しくて!!!…そんなこんなで、ピュッと食べてピュッと外に繰り出すはずが、あんまり美味しかったために、ゆっくり味わってしまった。後悔はない。

ではっ!美味しいもので胃袋が大変に満足している所で、アクロポリスに繰り出そうっ!ア・ク・ロ・ポ・リ・スっ!(←小さい頃からの憧れの地なのでございます)

我々はアクロポリスの裏山が見えている場所に宿泊しているのだが、入口は反対側なので、ホテルから結構歩いた。

アテネ

南側からアクロポリスへ向かう場合は、このような道をどんどん歩いていく。結構歩いた。
アクロポリスは、高台にあるので、もちろん階段を上って行く。

このへんは、日本の神社が階段を上った先の高台にあるのと、何となく似ているようにも感じる。ギリシャ神話と、日本の古事記には似たような話も多いし、土地に根差した多神教というものは、信仰の仕方が似てくるのであろうか。それとも、時間と距離をかけて細々と伝播したと考えるべきなのだろうか。

ちょこっと大学時代に神話学の講義をかじったのだが(かじっただけですよ!)、世界に遺された数々の神話には、離れた地域の神話なのに、似ている神話が結構ある。その原因を、もともと雛型となった神話があって伝えられていったとする考え方と、人間の精神構造はどの地域の人間でも似ているために、似たような神話が出来上がるとする考え方があるらしい。

おそらく、両方の原因が絡まりあっているのだろうな、と私は思う。現代日本人の私が、古代ギリシャの神話に心惹かれてしまうのは、後者…人間は時代・場所を問わず、まあまあ似たようなものの考え方をする…の実例と言えちゃうだろう。

ギリシャで、ちょっとアカデミックなことに思いを馳せる幸せよ!…なんて浸っているうちに、丘の上のアクロポリス入口にたどり着いた。それほど上りはきつくなかった。

アテネ

こちらがアクロポリス入口。奥の方には既に神殿が見えているのである(わくわく)。

無料入場デーなので、チケットも持たずに入口に向かったが、入口の手前にあるチケット売り場で、フリーチケットをもらってからゲートをくぐるように言われた。紙が無駄だなあと思ったが、入場客数でもチェックしているのだろうか。

さあ!初めまして、アクロポリス!おじゃまします、アテナ!アクロポリスで最も有名なパルテノン神殿は、アテネの町名の由来にもなった、アテネの守護神アテナを祀った神殿である。アテナは、知恵と戦を司る処女神で、日本では漫画の聖闘士星矢で描かれて、聖闘士星矢を読んだりアニメで見たりした人には、おなじみの女神である。

アテネ

アクロポリスに入場して、最初に通るのは、プロピレア(前門)これは、写真でよく見たことのある風景だ!こんな風に、この辺りはいつも観光客でごった返している。

アテネ

プロピレア門からは、アテネ市街が見渡せる。アテネが思っていたよりも大都市であることに、おそらく誰もが驚くのではないかと思う。確かギリシャの人口の4分の1がアテネに集中しているんじゃなかったかな。ややすすけた感じの、白い街並みがずーっと広がっていて、その向こうには海が見えている。やっぱりギリシャの色って、国旗通りに白と水色だなあ。

この門をくぐって行くと、パルテノン神殿が現れたっ!

が!何と、すぐに表れたのは、工事中の正面っ!

…イ、イヤ、へこたれるな!パルテノン神殿というものは、いつ、誰が行っても、どこかしら工事をしているものなのだ…!冷静に反対側に回ると…

パルテノン神殿

ほーら!この通り、オトコマエなパルテノン神殿!イヤ、パルテノン神殿は、女神アテナを祀っているわけだから、美人さんというべきかな。だが、アテナは戦女神らしく、オトコマエな女神なので、オトコマエでいいかもしれない(どっちでもいいから!)

アテネ

パルテノン神殿の柱は、ごらんのように簡素で力強いドーリア式。どしっと構えるオトコマエな感じが、戦女神アテナに似合っている…て、パルテノン神殿は美人さんじゃなくてオトコマエで決定でよいですね?

パルテノン神殿

それにしても、ギリシャ神殿って美しいなあ…。西洋美の、どこか女性が好むような美しさの源泉って、やっぱり古代ギリシャの美なのだろうな、と思ってしまう。均整がとれていて、力強さもあるけれど同時にどこか繊細さも兼ね備えていて…。

アテネ

こちらは、工事中ではない側の正面。屋根の二等辺三角形の部分は、ほぼ破壊されてしまっている。この部分は建築用語で「破風」という部分だそうだが、ここの部分には、実はアテナの誕生をテーマにした浮き彫り彫刻が、ずらーっとあったのだそうだ。

アテネ

残念ながら、今見ることができる彫刻部分は、この馬さんくらい(これもオリジナルかレプリカなのかは不明)。破壊された彫像の一部は、ロンドンの大英博物館で見ることができ、本当に断片的なものであれば、ここアテネの新アクロポリス博物館でも鑑賞できる。それにしてもなー。彫像が残っていればなー。パルテノン神殿の魅力はさらに倍増だろうになー。

アテネ

アクロポリス内には猫ちゃんが多い。事務所の近くでごはんをもらっている子もいたので、係員さんたちの公認で、住みついちゃっている猫ちゃんたちなのだ。この子は、パルテノン神殿に女神アテナの参拝に行くらしいよ。神殿内に立ち入れていいなあー。観光客は、神殿内には立ち入り禁止なのである。私も、ギリシャ神殿の柱から、「フッ」とか言って登場するパフォーマンスとかしたい(これは聖闘士星矢の影響である)。

昨日雨が降ったために、アクロポリス内は水たまりが非常に多かった。もともと、破損した遺跡だの、石だのがごろごろ転がっていて、足場はあまりよくない。そこに、巨大な水たまりもあるため、足元には注意して歩く必要があった。水たまりに足を突っ込むことを、なめちゃいけないよ!水たまりに足を突っ込むと旅行のテンションが半減するよ!(ウ〇コを踏んだら9割減だろうなあ。踏んだことないけど。この話終わり)

つまり、何が言いたいかと言うと、アクロポリスは足場が悪いので、歩きやすい靴で行きましょう!ってこと!

で、足場を気にしながら、パルテノン神殿のお隣にある、存在感大の神殿に向かうことにした。そう、エレクテイオン!

アテネ

この印象的な建物が「エレクテイオン」。もともと伝説の王を祀った神殿だそうだ。パルテノン神殿より、二回り、三回り…それ以上に小さい。エレクテイオンが小さいのではなく、パルテノン神殿がデカイのだ。母は、パルテノン神殿を見て、何度も「でっっっっっかいね」と言っていたし。(「で」と「か」の間に長いポーズを置いて発音して下さい)

アテネ

エレクテイオンは、この少女姿の柱で有名である。ギリシャ神殿の柱は、そもそもが優雅なのだが、その柱たちをまるで擬人化したみたいな柱である。ウツクシイ。ここアクロポリスで見られるこの柱は残念ながらレプリカで、本物は新アクロポリス博物館で見ることができる。

アテネ

エレクテイオンの魅力のもう一つは、このイオニア式の柱っ!

アテネ

このように、柱の上の方が、ぐるぐると渦巻き状になっているのがイオニア式の特徴っ!パルテノン神殿のどしっとしたドーリア式に比べて、軽やかでかわいらしい!…ていうか、高校時代にアクロポリスに来ていたら、ドーリア式とかイオニア式とか、もっと興味をもって覚えられたのに!あの頃はまるで無関心だったからなあ。

そしてそしてこのエレクテイオンでもうひとつ楽しみにしていたのが、コチラ!

アテネ

神殿のすぐ横にあるオリーブの木!

オリーブの木?それがドーシタという方っ!ちょっと私の話を聞いて下さいっ!(鼻息の荒い私)このオリーブの木にはですね、実におもしろい由来話があるのですよっ!

ギリシャ神話において、アテナとポセイドンは(アテネのある)アッティカ地方の支配を巡って争った。アッティカ地方の住民を喜ばせる贈り物をした方が勝者、という勝負に挑み、アテネはオリーブの木、ポセイドンは海水の泉、あるいは一説によると馬をプレゼントした。人々にとってオリーブの方が喜ばれる贈り物、としてアテナが勝利し、アッティカ地方の都は、アテナにちなんでアテネと名付けられた、というのである。

ポセイドンの贈り物は諸説あるが、ここは「馬」として読んだ方が面白い。アテナの贈ったオリーブは、食用、治療といった平和の日常に役立つのに対し、ポセイドンが送った馬は、戦争のための軍馬なのである。オリーブを選んだアテネ市民の知恵―――アテナは知恵の女神でもある―――は、現代を生きる我々にも教訓を与えてくれる。

ちょっと話はそれるが、ちょっと待て、アテナは戦の女神でもあるのに、平和の象徴をプレゼントするのはおかしくないか?と一見思える。実はアテナが司る戦は、(そういうものがあるかどうかは別の議論として)正義のための戦いなのである。ただの暴力としての戦争を司る神は、アテナではなく軍神アレスである。

つまり、アテナが真に望んでいるのは、戦いではなく、平和だと解釈するのは難しくない。ちなみにポセイドンの方は、結構暴虐な海神としてのイメージもある。これは、当時のギリシャ人にとって、海が恐怖の対象でもあったことに由来するのかもしれない。

えーと。話を元に戻そうっ!つまりっ!このオリーブの木は、その時にアテナがプレゼントしたオリーブの木だという言い伝えがあるんですね。…んなバカな、と夢の無いことを言ってはいけませんよ。「へーそうなんだー」と素直なる気持ちで、このオリーブの木と記念撮影するのが、観光の楽しみ方ってものである。

アテネ

アクロポリスからは、実に広範囲に広がるアテネの町を見渡すことができる。町の守護神アテナを祀るには、格好の場所なのである。

しかし、現代のアテネにおいて広く信仰されているのは、ギリシャ神話ではなく、キリスト教である。現代どころか、おそらくローマでキリスト教が国教化された後くらいから、徐々にギリシャ神話はキリスト教に駆逐されていった。

ボロボロに破壊された神殿から、それでもアテナは、自らを信仰しなくなっていく世界を見守り続けているのだろか。フィクションとはいえ、彼女の身になって考えてみると、ここアクロポリスからアテネの町を見渡すのが、何だか切ない気分にもなってくる。

アクロポリス

こちらは古代ギリシャ文字が刻まれた石。こういうのが読めたら面白いのだろうけど、大学の時、興味本位で古代ギリシャ語の授業に出た時に、あまりの難しさにあぜんとしたのを思い出した。古代ラテン語とか古代ギリシャ語とか読めたら、ヨーロッパ旅行はもっと楽しくなるんだろうなあ。

まっ、ワタクシメの場合は、その前に英語とイタリア語ですよ!自分がんば。

アクロポリス

帰りは、行きも通ったプロピレアをまた通る。この通路は、神殿内を通るわけではないのだけれど、柱と柱の間を歩くことができるので、古代ギリシャ気分である。つまり聖闘士星矢気分。人が多かったので、「ペガサス流星拳~!」とかやるのは自重した。(大人なんだから人が少なくても自重して下さい)

アクロポリス

この柱…いったいどうしてこんなことになっちゃったんだろうねえ。ズバリだるま落とし。真ん中の部分だけ持っていかれそうになっちゃったのかなあ。よくこの状態で倒れないねえ。

アクロポリス

こちらはプロピレア近くにあるニケ神殿。昔、翼の無いニケ像が祀られていたらしい。

本来ならニケは翼のある女神なのだが、勝利の女神ニケがアテネからどこにも行ってしまわないようにと、アテネ市民が翼を切り落としたという伝説がある。…それ、確実に逆効果だよ、ニケさん怒ってしまうよ…と思うのは私だけ?

ちなみにこのニケ神殿にはあまり近づけないが、優雅なイオニア式の柱を、遠目に見ることができる。

アクロポリス

出口近くに、オリーブの冠が彫られた石を見つけた。オリーブの冠と言えば、古代オリンピックで勝者に贈られたものである。現代では勝者へ贈られるのは月桂樹の葉でできた月桂冠だが、もともとはオリーブの冠だったのだそうだ。

アクロポリス

最後にブーレの門と呼ばれる門をくぐって、アクロポリス見学は終了である。このブーレの門はひっきりなしに人が通るため、ここで人物と写真撮影するのはなかなか難しかった。旅行オフシーズンでさえこの混み具合なので、夏は、ここで渋滞ができちゃいそうだなあ。

そんなわけで、アクロポリス楽しかったー!!!子供の頃から夢だった場所をついに見て回れたよ!しかも無料で!アクロポリスばんざい!ギリシャ神話ばんざい!

アクロポリス

こちらアクロポリス在住の猫ちゃん。昼寝中、大変におじゃまいたしました。「またのお越しをお待ちしてますニャ!」