サントリーニ島旅行記5 夕陽は照らすよ伝説の島
ランチの後、イアに帰るバスを待つ間、フィラの町をぷらぷらと歩いた。
フィラは、サントリーニ島の中心となる町で、島の中では一番大きい町で、一番都会である。
我々が宿泊しているイアは、島の端っこで、特に夏の観光シーズンなどは、住民より観光客の方が多いくらいの町なので、観光オフシーズンである2月は、多くの店がクローズしてしまっている。
イアに比べると、フィラは、住民そのものも多いはずなので、フィラは、それなりに冬でも活気があるのではないかと思っていた。
が、しかし。
しーん。見事に何もかも閉まっているよっ!
私は思う。観光オフシーズンにお店をクローズしてしまう人たちは、お店が閉まっている間、どこで何をしているのであろうか。観光シーズンだけがっつり稼いで、オフの時期は遊んで暮らしているのだろうか。
そうだとしたら、めっちゃうらやましいのだが、それとも人生はそんなには甘くないのであろうか。閉ざされたシャッターを見つめながらぼんやり考えても、わかるわけなどないのである。
あー、お店も閉まってるし、町には活気がないし、ヒマでやることがないニャー。街角にたたずむ猫ちゃんだって大あくびである。
だが、よくよく歩いてみると、フィラは、小道のお店はほぼ全滅状態でクローズしていたが、大通りに面しているお店は、ちらほらと開いていた。そうだよな、地元の人たちが使うものね。イアよりはフィラの方が、かろうじてオフシーズンでも町として稼働している感じだ。
しかし、オフシーズンを覚悟でサントリーニ島に来た我々としましては、島を独占できるのでは?なんて思っていたのだが、観光客の数は予想したよりも多かった。オフシーズンでもそれなりに観光客がいるのに、夏場の観光シーズンは本当にサントリーニ島の人口密度はどうなってしまうのだろうか。
フィラの小道を上に上に行くと、崖に面して海が見えるスポットがある。ここからは、バナナみたいに弧を描いているサントリーニ島の、弧の真ん中にある火山がよく見える。
「ネア・カメニ」とか呼ばれる火山なのだが、山と呼ぶにはあまりに平べったい。その形状から、我々にはアメーバと呼ばれて親しまれた。
このアメーバを見ていると、近くにいた地元っの人っぽい男性が、英語で、「ハロー。良い天気だね。君たちが僕に太陽をもたらしているのさ(You bring me the sun)!」と話しかけてきた。おそらく「You bring me the sun!」は彼の持ちネタで、ここで出会う観光客の女性にいつもこう声をかけてるんだろうな…。フィラ名物になれるように頑張るんだよ。
バスの出発時刻が近くなってきたので、バス乗り場まで行くと、どこからともなく、朝から会った観光客のほとんどのメンツが集合しつつあった。シンガポール人グループ、フランス人家族、スペイン人カップル、それからアクロティリで降りそこなった日本人男性…。
この日本人男性に、「アクロティリで降りてませんでしたよね?」と聞いてみると、「ハイ、間違えて、終点のペリッサ海岸まで行っちゃいました。浜辺でした。石とか拾いました」と言っていた。姉は、「ダメですよ、男なら冬でも思い切って泳がなきゃ!」と、無茶なこと言っていた。
この日本人男性もそうだが、今、このバス乗り場に集結して、イア行きのバスを待っている人々のほとんどは、おそらくイアの夕陽をこれから見に行くのであろう。サントリーニ島と言えばイアの夕陽である。何てったって(自称?)世界一の夕陽である。
イアの町にはバスの停留所が3つほどあり、夕陽の見える展望台は、おそらく終点である。だが、我々は、展望台に行く前に一度ホテルに戻りたかったので、ホテルに一番近いバス停で降ろしてもらうように、運転手さんにお願いをしておいた。Anemomilos…アネモミロス…絶対に覚えられないバス停の名前である。
で、アメノミモ…違う、ええっと、ア…ネモ…ミロスに着くと、運転手さんは、我々にココだよと教えてくれた。どう見ても観光客の我々がバスを降りたので、他のお客さんが何人かつられてバスを降りようとして、運転手さんは「ノー、イア!アネモミロス!!!ノー、イア!アネモミロス!!!!!」と怒ったように叫んでいて、ちょっと可笑しかった。
すっかり顔なじみになったシンガポール人と、フランス人家族も降りてきたので、念のため「ココは夕陽スポットからは遠いですよ。私たちはこの辺に宿泊したから降りたのです」と言ってみると、シンガポール人グループもフランス家族も、「大丈夫ですよ、私たちもそうなんです」とのお答えだった。そっかー。みんな、近くに宿泊してたのね。
ホテルに帰って、母は夕陽の時間まで横になって休んだ。
姉と私は明日の予定について話し合った。実はサントリーニ島では、古代ティラという高台にある遺跡跡にも行きたいと考えていたのだが、バスとタクシーを乗り継いでいかなければならないので、ややめんどい。また、眺めが素晴らしいとのことだが、地図で見る限り、カルデラ側の眺めが見えるわけではなく、普通の海と浜辺の眺めになりそうだ。
今のところ、サントリーニ島で一番気に入っているのはカルデラである。というわけで、明日は古代ティラはやめにして、昨日ホテルのオーナーが教えてくれた、カルデラを見ながらの散歩コースをたどることにした。
とりあえず、明日のことは明日っ!今日はとりあえず、夕陽を見に行くぜよ。昨日の夕陽くんは雲が多くて微妙だったからなー。世界一とかいう夕陽の片鱗を見せてもらいたいところだぜ(何でそんなに上から目線なんですか?)。
さて、夕陽の見える要塞までレッツゴー。その途中に、おばあちゃんたちがいつもノンビリと刺繍をしているパン屋さんがあるのだが、今日の夜ごはんの主食のためのパンを買った。お店に入るとおばあちゃんたちにじーっと見られ、パンを買っている時もじーっと見られていた。いや、パン買ってるだけですけどね、ギリシャ名物のクルーリーってパン…。アヤシイ者ではなく、タダの観光客ですよ!
要塞の近くまで行くと、マイケル(サントリーニ島にいる野犬の総称。非公式の愛称)が既にスタンバッていて、夕陽に向かって吠えていた。
これがそのマイケルなのだが、この写真じゃイマイチ、マイケルがいかに黄昏ているかが伝わらないなあ。残念マイケル。
で、夕陽スポットの要塞には、昨日とは比べられないくらいの人数が、サントリーニ島中から集結していた!どうして、一日でこんなに人数が違うのだ!?大げさではなく、20倍くらいの人数がいたと思う。
そして、確かに夕陽は、天気が良くて、昨日よりもずっと綺麗だったのだ。
しかし、どうやって観光客たちは、「今日は夕陽が綺麗だ」と判定して、要塞に集まって来たと言うのだろうか。昨日は空模様をみて、「あーこれ、今日はダメだね」と判断してホテル内にいたのだろうか。それとも、偶然、今日からサントリーニ島に滞在している人数が多いのだろうか。謎は深まる。
人数のミステリーなんかどうでもいいから、世界一の夕陽を見なさいよ!(そうだね。)
ほーら、これが世界一の夕陽っ!昨日の夕陽とは比べ物にならないよー!確かにこりゃ綺麗だね。でも、昨日の夕陽しか見てない人は、「世界一には異議アリっ!」と言いたくなると思うよ。
つまり、サントリーニ島のような、天候に左右される場所に観光に行く場合は、連泊してなるべくコンディションのよい状態で楽しめる確率を上げるべきだということだね。
…それでも、あまり自然現象に感動しづらい傾向を持つ私は、「確かに美しいけどさ、海と雲の少ない空と夕陽を用意すればこうなるべさ。そりゃ、サントリーニ島じゃなくてもいいんじゃね?」と言いながら、街並みの方に目をやると…
…あっ、これは綺麗ですね!これは美しいですね!ユーアービューティフルですよ!サントリーニ島の夕陽が世界一たるゆえんは、やはり白い街並みを、夕陽の赤がやさしく照らす、このロマンチックさにあったのだ。
海に沈む夕陽自体は、サントリーニ島でなくても拝めるものなので、この要塞で夕陽を見る際は、ぜひ、この街並みと一緒に夕陽を拝める、要塞の右手の方のスペースに場所をとることを個人的にはオススメしたい。
とはいえ、今日は、サントリーニ島中の観光客がこの瞬間にこの夕陽を眺めに来ているので、皆、場所の譲り合いであった。それにしても、本当に夏場は、この要塞、押し合いへし合いになるんだろうなあ…。もっと天気の良い夏場は、もっとスゴイ夕陽が見れるのだろうけど、人混みのことを考えると、私はこのくらいが限度かなあという感じだ。
地平線のあたりには雲があったので、夕陽の光はやがて、強いオレンジから、淡い紅色へと変わって行った。この海がアトランティス伝説の発祥の地だと思うと、何となくミステリアスな色に見えてくるから不思議だ。
夕陽の最期の一燃え。太陽とギリシャといえば、ギリシャ神話のアポロン神。アポロンは、太陽神でもあり、知性、医術、音楽、予言の神でもある。太陽の光というものは、人間にとって、実に多くのものを象徴しているのだなあ。人間が無知の状態から賢くなっていくことを、「明るくなっていく」と表現する、このイメージそのものなのだろう。
夕陽がすっかり沈んでしまうと、イアに宿泊していない人たちは、おそらくバスの時間もあるのだろう、すっかり引き上げてしまったが、夕陽が沈んだ後に、穏やかに広がるピンク色の海も雰囲気たっぷりだった。サントリーニ島の湾は、本当に波が少なくて穏やかである。
要塞からホテルに帰る途中で、有名なブルードームの教会の前を通った。こちらも、ピンク色の海をバックにして、いつもにも増してかわいらしい。
少しずつ濃い色に変わっていく空の色と、教会の屋根の色が、ちょうど同じくらいの青さになっている。
教会くん「暗くなる前に、早くホテルに帰りなさーい!」
「暗くなってきたら、夜行性のボクタチの時間だニャ。」
町の灯りが点き始めて、すっかりロマンチックな風景となった。
さて、こんなにロマンチックなイアの夕景だが、ひとつだけ問題があった。それは、オフシーズンだけかもしれないが、街灯が少なくて、かなり真っ暗になり、足元がほとんど見えないのである。足元が見えないってことは…足元に落ちているかもしれないアレが見えないのである!!!そう、犬のアレとか、ロバのアレ!!!
そんなわけで、視界が悪い中、私は「落ちているものはアレだと思え!」の精神で、足元に未確認落下物体を見つけたら、皆に「足元注意っ!」と、警告を発した(実を言うと、実際はもっと直接的にアレの名前を叫んでましたけどね…)。
母と姉は「あんたの旅行の半分は〇〇〇なんじゃない…?」とあきれていたが、そんなこと言っても、踏んでから泣いても遅いんだよ!!!まあ、私は警戒するあまり、どこかのレストランがオシャレで足元に置いていたバラの花に対しても、「〇〇〇ッ!!!」とあまりにバラに失礼な言葉を浴びせてはいたが…。
さて、ホテルに帰って、今日はスープとパンですませることにした。そう、実は我々の旅行には珍しく、ここサントリーニ島では、キッチンのついてない部屋に宿泊しているのである(あると思っていたのだが、違う部屋だった)。
パンそっちのけで刺繍ばっかりしているおばあちゃんのパン屋さんだったので、期待していなかったのだが、美味しかったよ、ギリシャ名物のクルーリー!
右がクルーリー。ゴマがまぶしてあって、中にはチーズが入っている。ギリシャの食べ物は、スイーツ以外はなかなか日本人の舌に合うのだ。スイーツ以外は(涙)。
というわけで、サントリーニ島の最大のイベントである夕陽も無事に当たり夕陽をゲットしたことだし、明日は心おだやかにカルデラ巡りをすることにしよう。
繰り返しになるが、サントリーニ島の夕陽が当たりか外れかでは、天地の差がある。月とスッポンどころではない差である。当たりくじの確率を上げるために、ぜひサントリーニ島は連泊してくださいっ!