アテネ旅行記8 人多すぎのアクロポリスでオリーブに癒やされる

2017年3月5日 アテネ
パルテノン神殿

アテネの遺跡無料デー(冬季の第一日曜日)を骨の髄まで楽しみ尽くすべく、我々が最後に向かったのは、一番遅くまで開いているアクロポリスである。

3年前も(無料で)入ったアクロポリスだが、ギリシャ神殿ラブの姉と私にとって、何度でも入りたいのがアクロポリスである。

先ほど、ゼウス神殿前で、妙な疲れを感じた私だったが、まあ、ちょっと疲れただけなんだろうと思いながら、アクロポリスまでの道を淡々と歩いた。

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ゼウス神殿あたりからアクロポリスを目指すには、このような歩行者天国となっている大きな通りを、ゆるやかに上って行く。

車が通らない道なので歩きやすいのだが、何せ日光を遮るものがない。3年前は、それほどしんどいと思わなかった道なのだが、なぜだかこの日の私は、歩いても歩いてもアクロポリスにたどり着かないと感じた。まだこの時は気付いていなかったのだが、体調が既におかしかったのだ。

さっきヨーグルトを食べたばかりなのに、甘くて冷たいものが欲しくて、回りを見回してみるが、お店が全然見当たらない。何となく休憩したい気持ちにもなったが、どこか座れるような場所もない。

まあ、日が照っていて暑いせいだろう、と思った。私は、この程度でヘバるほどヤワな旅行者ではない(つもりだった)。

途中で、イロド・アティコス音楽堂の前を通った。

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いつも閉まっている音楽堂の遺跡なのだが(公演がある時のみオープンしている)、他の観光客が階段を上って行っていたため、姉が「珍しく開いてる!?」と勘違いして、近くまで行ってみた。

近くまで行くと、中には入れず、いつものように閉まっていた。残念。

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中には入れないが、手すりの間から、中をのぞきこむことができる。また、アクロポリスまで上ると、上から全景を見下ろすことが出来る。

音楽堂をのぞき見した後は、アクロポリスを目指して、また歩き始めた。それにしても、どうしてこんなに遠いのかアクロポリス。こんなに遠かったかなー。普通は、二度来た道は、短く感じるというものなのだが。

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ようやく、近づいてきたアクロポリス。上って行く先にオリーブ畑が表われる。オリーブの木が作る影になんだかほっとした気分になる私。つまりは、日光でバテ始めていたんだね。でも、この時は、まだそれでもそんなことに気付いていなかった。私が日の光などにバテるものかは(というつもりだった)。

本日はアクロポリスの入場は無料ということもあり、アクロポリスの入り口は大変な混雑であった。

3年前も無料デーの入場だったのだが、朝一番で入ったこともあり、こんなには並ばなかった。ディズニーランドの人気アトラクションのごとく、アクロポリスに入場しようという観光客が、何度も列を折って連なっている。

姉と私は一瞬顔を見合わせ、お互いに「…これだけ混雑してるから入るの止める?」という顔をした。だが、二人とも結論は「せっかくここまで歩いてきて、入らないのはなしだよね」であった。そうなんだよねー。ここまで歩いてきてしまったからには、さすがに諦められないのだ。

しかし、太陽がジリジリと照りつける中、ずーっと列に並んでいるのはつらいなあ…。

アクロポリスは、無料デーの日でも、切符売り場で切符を受け取らなければならないという、実に紙がムダなシステムになっている。この切符売り場は、入り口よりやや下の方にあるので、切符を持たずに列に並ばないように注意が必要である。

切符売り場で切符を受け取るついでに、切符売り場前に売店があったので、アイスレモネードなるものを購入し、ちゅるちゅると飲みながら列に並ぶことにした。ちなみにこのアイスレモネード、€4と高い上に、「砂糖水」って味だった。購入せずに済むものなら購入しない方がよい。

だが、今の私は、何か甘い冷たい液体を口にしないと、列に並ぶのが無理そうであった。Never than nothingの精神で、美味しくないレモネードでも、無いよりはマシだったのだ。

レモネードをすすりながら待つこと40分程度で、ようやくアクロポリスの入り口をくぐることができた。レモネードのコップは、アクロポリスに入る前に回収されたが、特に名残惜しくなかった。

そして、アクロポリスに入って、入り口すぐのプロピレア(前門)をくぐる前に、また行列!

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これは、アクロポリスを見終わってから、出口近くから撮影したプロピレアの写真。私がアクロポリスを見終わった頃には、もうアクロポリス自体が閉まりそうな時間になっていたため、行列は(これでも)少なくなっていたが、私が並んでいた午後3時くらいは、こんなものではなかった。

ぎっしりと階段を人が埋め尽くし、係員が上手に誘導しないものだから、入り口に向けて人の流れが滞っている。ドミノ倒しの事故などが起きそうなくらい、人が密集していた。

しかし、ただ立っているだけで、どうして人混みってのはこんなに疲れるのだろうか。周囲に同じ種が多すぎると、姿形、性格まで変化してしまうバッタの話は有名だが、人間も、密度が高すぎる状態ではストレスを感じる生き物なのだろう。

係員の誘導がないため、シビレを切らして、正しい順番を待たず、上手に隙間をすり抜けて、先に行ってしまった親子が現れた。それを見ていた後ろの人々が、次々に同じことを始め、全く収集がつかなくなってきた。

アクロポリスの入り口で40分待ち、このプロピレアの通過で30分近く待ち、パルテノン神殿にたどりつくまでには、1時間近くがかかってしまった。

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そうやってたどり着いたパルテノン神殿は、非情にも大々的な工事中。しかし、傷ついたりしない。パルテノン神殿の工事というものは、もうずーーーっと続いていて、工事中でないことなどないのだ。

そして、観光客に配慮してか、必ず、工事は、前後どちらかの側だけを行っている。

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反対側に回れば、こうやって、きれいな写真が撮れるのである。この時間帯は逆光だったけど。

3年ぶりのパルテノン神殿は、観光客が立ち入れない区画が増えていて、そのせいもあり、混雑ぶりが尋常ではなかった。これだけ人間がいると、立ち入り禁止区域に(意図的か無意識にか)立ち入ってしまう人もいて、係員の注意を促すホイッスルが鳴り響いている。

これほどの人の多さと雑多なざわめきの中では、な・何だか疲れてきたぞ…。イヤ、ギリシャ神殿好きの私が、人混み程度で、こんなにギリシャ神殿前で疲弊するわけはあるまい…と思っていたが、後で思うと、この時にも私の体調グラフ(何ですかそれ)は、下降を続けていたのだ。

疲れたから、大好きなイオニア式の柱でも見に行くことにした。

パルテノン神殿の柱は、装飾性のないドーリア式の柱だが、パルテノン神殿の隣にあるエレクティオンと呼ばれる建物には、私の大好きな、渦巻き模様のイオニア式の柱がある。

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こちらがエレクティオンの、入り口に近い側。一緒に写っているオリーブの木は、アテネの守護女神であるアテナが、アテナ市民に与えたものだと言い伝えられている。

このアテナとオリーブの話の詳細は、2014年の旅行記でどうぞ。

さすがに、このオリーブが、何千年も前からここに立っているということはなく、言い伝えなのだろうが、それでも、この神殿前のオリーブの木を見ると、なぜかホッとしたような気分になる。

オリーブの木は、背丈が低いためか、何だか人間に語りかけているような雰囲気を持っている。オリーブオイルは美味しいし、健康にも良いし、オリーブは人間のお友達なのだ。これからもぜひ仲良くしていただきたい(私はオリーブオイル大好き)。

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このエレクティオンの、イオニア式の柱はこんな感じ。ぐるぐる巻きでかわいい。

古代ギリシャの何がすごいって、何千年も経ったあとの時代、つまり今でも、古代ギリシャ時代に作られたものが「美しい」と感じることだ。

もちろん、美意識というものは、社会の傾向に左右されるだろうから、我々の現代社会が、「古代ギリシャ時代のものは美しい」という固定概念を持っていて、私がそれに影響されているということはあるだろう。

しかし、現代の現代アートが、何千年も経った後の人類にも「美しい」と感じられるかというと、それは難しいのではないかと思う。もちろん、「芸術の深淵な意味」というものは理解されるかもしれないけど、「美しい」は、それとはまた別の話である。

そう考えると、古代ギリシャの芸術が、「人間が感じる普遍的な美」というものを追求し、それにある程度は成功しているのだと思う。

ルネサンス期の芸術が、古代ギリシャ・ローマを下敷きにして花咲き、他の時代の芸術よりも、大多数の人に受け入れられる傾向があるのは、古代ギリシャ芸術の、そのような側面と無縁ではないのだろう。

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このエレクティオンが、パルテノン神殿と向き合っている側は、このような女性像が柱となって、建物を支えている。この女性像はレプリカであり、本物は新アクロポリス博物館にある。

残念ながら立ち入り禁止区域が広がっていて、以前のように、この女性の柱に近づくことはできなかった。ちなみに、この女性像、地球の歩き方には「少女像」と書かれているが、私の目には、少女には見えない。成熟した大人の女性に見える。

南イタリア・シチリア島の、古代ギリシャ遺跡が残るアグリジェントにも、人の形をした柱が残されているが、古代ギリシャは、こうやって人の形の柱もあるのが面白い。

人間が建物を支えるなんてかわいそう、と思ってしまうが、こうやって、自分の足で屹立している柱は、古代ギリシャ哲学の、人間理性の自立を表しているなんて考え方もあるらしい。

ちなみに、理性を司るギリシャ神話の神はアポロンだが、知性を司るのはヘルメスなのだそうだ。理性と知性ってどう違うんだろう(どちらもイケメンの神だけど)。

アポロンが芸術や医学、ヘルメスが商業を司ることを考えると、理性の方が、実生活向きではない、人間存在の根本を支えるもの、知性の方が、もう少し表層的で、実生活における判断に関わってくるものという感じがする。

理性の神アポロンには、頭がいい神様とは思えないないような、とんまなエピソードがいくつかある(エロスをからかって復讐される、ダフネの話など)。それに対してヘルメスは、あまりスキのない神様だ。理性が好きか。知性が好きか。どっちの神様もイケメンだから、どっちもいいんですけどね!

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「アポロンもヘルメスもイケメンだから、好きなのニャー。しょうもない観光客だニャー」

アクロポリスには猫ちゃんが多いのだが、この日はあまりに人が多すぎたためか、猫ちゃんもあまり出てこなかった。

アテネ遺跡無料デーは、確かにお得なのだが、一番人気のアクロポリスに、時間帯を考えずに出向いてしまうと、大変な大混雑に巻き込まれてしまうことがよくわかった。

何度かほのめかしているのでもうおわかりだと思うが、私は、翌日以降、急速に体調を崩してしまった。おそらく、もともと弱っていたところに、アクロポリスの大混雑が拍車をかけたのだと思う。

もしも、遺跡無料デーを利用してアクロポリスに行きたい場合は、早起きして、朝一番に見ることをおすすめしたい。午後の混雑する時間帯は、ゼウス神殿や、ディオニュソス劇場、古代アゴラなど、アクロポリスほどは混雑しない遺跡に入るのが賢いと思う。