デルフィ旅行記4 アポロンが我々をデルフィに引き留めているので

2017年3月6日 デルフィ
デルフィ歩き

デルフィ博物館で、断腸の思いでイケメン(×2)に別れを告げ(もちろんだがイケメンは彫像)、アテネへ帰るバスが出発する16時の、20分前にはバス停にたどり着いた我々。

デルフィのバス停

右がバス停(アテネから来るときのバス停。帰りは道路の向かい側)。左隣の緑色をしたドアのカフェが、バス切符を販売している。

カフェに入り、「16時のアテネ行きのバス切符を2枚お願いします」とレジで言うと、スタッフさんたちの雲行きがアヤシイ。

「ちょっと待ってください、今、確認します」と言って、電話をかけ始めた男性スタッフ。え?なぜ電話?普通に切符を売ってくれればいいだけじゃないの?

結構長い間かかり、ようやく受話器を置いた彼は、深刻そうな面持ちで行った。「イッツ、フル」。

フル………えっ、満員?売り切れってこと?

ここで私はようやく理解した!アテネとデルフィを結ぶバスは、完全予約制で、全席指定なのだということを!行きのバスはガラガラだったので、まさかと思ったが、よく考えれば、私たちより一つ前の早朝のバスでアテネからデルフィに来ている人もいるのだ!

姉が「ほらー!だから博物館より前に切符を買いに行こうって言ったでしょ!」と言う。うん、そうだったね、ごめんね。でも、風邪っぴきの私には、あの時に坂を上ってバス停まで行く体力はなかったんだぜ…。

しかし、これで、18:45のバス(最終バス)で帰らざるを得なくなってしまった。アテネのリオシオン・ターミナル着は夜9時半ごろになる。しかも、このバスターミナルは、アテネ市街地から離れているので…ホテルに着くのは夜10時は過ぎてしまうだろう。

別にそれでもいいじゃん?アテネに帰り着ければいいじゃん?とお思いになるかもしれないが、我々は、明日早朝、8時半の電車でメテオラへ向けて出発する(既に電車切符は買ってある)。ということは、明日は朝6時前には起きて準備をしなければならない。

風邪っぴきは、しっかり睡眠時間を取らなければならないのに、オーマイガッ!(この場合のgodは、デルフィだけにアポロンを指すだろうな)

アテネを出るときに、アテネのバスターミナルで機械故障のため往復切符が買えなかったり、デルフィに着いてからすぐ買おうと思ったのに、観光を優先して先に遺跡の方へ行ってしまったり、果てには姉が「博物館に入る前に切符を買おう」と言ったのに、私が拒否ってしまったり、いくつもの罠が張り巡らされていたな…。

しかしまあ、もう16時のバスに乗れなかったんだから仕方ない。旅には失敗がつきものなのだ。こういう時は、早々と立ち直るしかない。

…が、こうなってしまった責任が大いにある私は、姉に迷惑をかけて、ちょい落ち込んでしまった。が、姉は前向きだった。「これはね、アポロンが私たちを、まだデルフィにいろって引き留めてるんだよ」。スバラシイ発想の転換である。姉はカウンセラーとか向いてるかもしれないね!

最終バスの切符を購入したら、非常にヒマになった。だって、18:45までデルフィにいなきゃいけないけど、博物館も遺跡も既に閉まってるわけだから!

そこで、ふらふらと崖沿いを歩いてみると、姉が歓声を挙げた。「ほら、見なさいよ!だからアポロンが我々を引き留めたんだよ!」。

デルフィの羊

羊飼いと羊の群れー!!!ギリシャでは、時々バスの車窓から一瞬見える風景なのだが、生で遭遇したのは初めてである!

デルフィの羊

デールフィのひつじ、ひつじ、ひつじ!(メリーさんの旋律でどうぞ)

デールフィのひつじ!たのしーーねーー。

さて。アポロンが私たちをデルフィに引き留めているので、どこかお店で一休みすることにした。

デルフィのカフェ

入ったのは「タヴェルナ・ヴァッコス(Taberna Vakchos)」。ヴァッコスは、バッカス、つまりお酒の神様ディオニュソスのことである。

デルフィは、ついついアポロン神の独壇場だと思ってしまうが、アポロン不在時は、ディオニュソスが神託を行うこともあり、ディオニュソスにもゆかりのある町であることがよくわかるお店名だ。

食事時でもないし、観光客のほとんどは16時のバスでアテネに帰ってしまうしで、店内はがらんとしていたが、いいんだ、いいんだ。ゆったりと過ごせて嬉しいゼ!

デルフィのタヴェルナ・ヴァッコス

チーズケーキと、お茶をオーダーして一息。「マウンテンティ」というものがメニューにあり、「山のお茶」って面白そうだなとオーダーしてみたら、カモミールに似た味だった。

マウンテンティ

たっぷりのハチミツがついてきたので、ハチミツはのどによかろうと、たっぷり入れて飲んだ。

デルフィのタヴェルナ・ヴァッコス

このお店にはテラスがあり、一瞬目を疑ったのだが、水が見えた!「水」と、かなり曖昧な書き方をしたのは、これが海なのか、湖なのか自信がないからである。

デルフィと言えば崖、デルフィと言えば山なのだが、あの水は何なのだ!確かに地図を見ると、デルフィはかなり海に近い町だ。しかもかなり標高が高いので、もし視界を遮る山が途中になければ、海が見えるかもしれない。というわけで、あれは海…に限りなく近い水!(確信がない)

デルフィの光

しかも雲間から光が差してきたー!アポロンは太陽神なので、姉が言う。「ごらんよ、あの光を。アポロンが我々に『デルフィにとどまれ』と言ってる神託に違いないよ」。私も大概だが、姉もレベル高いな…。

アテネ着が夜10時を過ぎるということは、明日のメテオラへの出発のために、一秒でも早く眠るためには(私は睡眠に貪欲)、ちょっと早いけどデルフィで夜ごはんを食べてから、バスに乗ってアテネへ戻った方がよいだろう。

このお店のケーキもお茶も非常に美味しかったので、夜ごはんもここで食べて帰ろう、と、姉と合点した。だが、まださすがに早すぎるので、少しデルフィの市街地を歩いてみることにした。

デルフィ市街地

デルフィの市街地は、少し歩けば、あの幻想的な古代遺跡があるとは思えないほど、いたって普通の町並みである。しかも観光シーズンオフで、ほとんどのお店のシャッターが閉まっている。しかし、私は、何の変哲もない町並みを歩くのも嫌いじゃなかったりする。

デルフィの犬くん

南イタリアの地方都市と同じように、時々、誰かの飼い犬だとは思えない雰囲気のデッカイ犬が、寝てたりする。私は犬が怖いのだが、こういった犬くんたちは町の人たちにご飯をもらっているのか、おとなしいことが多い。

時々、デルフィらしい落書き(もしかしたらわざと描いてる?)が町のあちこちに見られる。

デルフィのアポロン

こちらは、我々を引き留めたアポロン様(このネタしつこいですか?)。

デルフィのディオニュソス

こちらはディオニュソス。お酒の神様らしく、葡萄の葉で髪の毛を飾っている。

デルフィのへそ

極めつけはコレ。世界の両端からワシを飛ばしたら、デルフィの上で交差した。だからデルフィは世界の中心だぜ!という、納得できそうなできなさそうな逸話を表したモノ。交差する直前のワシの様子を捉えた秀作。

デルフィの教会

坂の途中にあった、ちょっと面白い平べったい形をした教会。中には入れなかった。いくらアポロンのお膝元とはいえ、現代デルフィは、キリスト教圏内なのだ。アポロンが信仰されているわけではないのよね。

姉は、「教会を見学したりしたら、アポロンがヤキモチを焼くよ!」と言って、教会に目をくれなかった。この人が自分の姉であることが、よくわかるよ…。

デルフィ市街地をブラブラしてみたが、やっぱり崖の方がいいね、とのことで、さっき羊飼いたちがいた道を、少し降りてみることにした。

デルフィの山道

こういう山道を、ちょっと下ってみる。

デルフィのアーモンド

誰も見ていない場所で、アーモンドの花が咲いている…と感慨にふけりたくなるが、アーモンドの花は見られるために咲くのではなく、種の保存のために咲くので、人間の目なんか知ったことじゃないのである。

デルフィの山道

気持ちよいくらい、自分たちの影以外何もない道。さっきの羊くんたちが歩いていた道だ。こんな風景を見れるのも、アポロン様が引き留めてくれたおかげだね!

デルフィの谷

神々しい光に包まれた谷。ここが神域とされる理由がよくわかる。

デルフィ

画像ではわからないかもしれないが、遠目に古代ギリシャ遺跡も肉眼で確認できる。ああ、デルフィは確かにアナザーワールドだ。一生で一度は行くべき場所、そんな気がする。

アテネへ帰るバス切符を買い損ねたからこそ見れた風景。旅にはトラブルがつきものだが、だからこそ一期一会で面白いのだなあということを、アポロンが教えてくれたのであった。

ま、ギリシャ神話では、旅の神様はヘルメスなのだが、細かいことを気にしてはいけない。