デロス島旅行記2 そこにキントス山があるから登るのだ

デロス島

3/3デロス島
キントス山
イシス神殿
ヘラ神殿跡

さてさてっ!いよいよ、我々を引き留める、数々の魅惑的な遺跡たちを振り切って、キントス山に登る時が来た!

デロス島キントス山

これが、今から我々が登ろうとしているキントス山である。何だかゴツゴツしているのが気になるんだぜ。私はどこかで、観光地であるキントス山を舐めていて、屋久杉ランド(=屋久島にある、私のような登山弱者でもラクラク歩けるトレッキングコース)のような道を想像していたんだぜ。

我々につかず離れずで着いてきたスタッフさんは、このキントス山には登らないらしく、麓で足を止めた。…ということは…どういうことになるんだね?

デロス島

キントス山へと登っていく道は、こんな道である。屋久杉ランドのように、歩きやすい木道が舗装されているなんて、夢物語であった。要するに、完全にガチなトレッキングの幕開けである。ヒールのある靴では、とてもではないがミスマッチである。ぺたんこ靴でも、バレエシューズなどでは厳しいかもしれない。

デロス島

しかし、こんな風に、ギリシャの柱跡の向こうに、エーゲ海の青が見え始めてくると、登る勇気も沸いてくるのである。

デロス島キントス山

たとえ、こんな険しい道を上っていくのだとしても…!遙か先には、我々が置いて行かれないよう追いかけている、バックパックの男性の勇ましい姿が、点のように見えている。

彼は完全に、3時間でデロス島を回るための、我々のペースメイカーとして利用されている。人を手段化するなと言ったのはカントだったか。しかし、確かカントも「手段としてだけ見るのはダメ」という言い方で、相手を尊重することを忘れなければ、ちょっとくらいは手段として使ってもいいようなニュアンスだった気が…。か、感謝の念があればセーフってことよねっ?

キントス山は、確かに険しい山ではあるが、ゆっくり登るなら、それほどハードではない。だが、我々には時間がないんだっ!約2時間後の12時半には、最後の船(この日最初で最後の船)が、デロス島を出航してしまうのである。そういうわけで、急ぎ足で登ったため、だれもした(鹿児島弁で「疲れた」。人は余裕がなくなるとお国言葉が出る)。

デロス島キントス山

ようやく着いたー!キントス山の頂上っ!

デロス島キントス山

何だか賽の河原みたいに、石が積み上げられているのが気になるが、さすがにこれは、古代ギリシャ人の仕業ではなく、キントス山に登った観光客が、キントス山記念に石を積み上げているのだろう。

さあ、この、キントス山からの景色はどうか、と言うと…

デロス島

おおおおおおおおおっ!おおおおおおおおおおっ!

感動詞しか出てこないよっ…!

ぜーぜー言いながらキントス山に登ったことを、私は、ミジンコ程度どころか、微粒子レベルも後悔していないッ!

ていうか、写真では、この壮大さ、神秘さはなかなか伝わらないだろうが、このキントス山の頂上からは、デロス島の無人島っぷりと、その中にぽつぽつと古代遺跡が残されたパノラマが拝めるのだ。本当に「下界」を見下ろしているという雰囲気だ。

古代ギリシャで、神殿が高いところに作られた理由がよくわかる。世界を統べる存在は、神だろうが何だろうが、世界が隈無く見える場所にいる必要があるわけだ。そう考えると、これからの時代、世界征服しようと思うなら、物理的に高い場所にではなく、情報が集まる場所に君臨するべきなのだろう。

何も世界征服の話にたとえずとも、デロス島全体を自分の存在に置き換えて、自分自身を上手く統べていくなら、自分がよく見える位置にいなきゃならないっていう風にも考えられる。要するに、「汝自身を知れ」である。

…などなどと、キントス山の頂上で、哲学気分に浸りたい気持ちはヤマヤマ(山だけに!)なのだが、我々には時間がないッ!デロス島で我々に与えられた時間は3時間!

我々の当初の計画では、スタートから1時間後には、キントス山の頂上にいる予定だったのだが、この時点で、スタートから1時間半近くになろうとしていた。計算が苦手な私でさえ、この計画が遅れていることがわかるっ!

そういうわけで、ここキントス山の頂上で風景に浸る間はなく、我々は、転がるようにキントス山を下っていくのであった。ただし、転がり落ちてケガでもすればアウチなので、足下だけには気をつけた。

デロス島

これがキントス山の下り道~。カメラを構えた私の影がバッチリ映っていることから、まっっったく日光を遮るものがないのがおわかりだろう。それにしても、ギリシャには、背の高い木が少ない。気候的な問題なのか、古代ギリシャ人が木を切りすぎたせいなのかはわからないが(巨大神殿を建てるために、だいぶ森が伐採されたらしい。環境問題は非常に古い時代から存在していたのだそうだ)。

キントス山を這々の体で下り終えたところに、長身の男性が待ち構えていた。スイスから来た旅行者で、キントス山に登るかどうか迷っているらしい。

「上まではしんどいですか?」と聞かれたので、「しんどいですけど、登る価値はあると思います」と答えると、意を決して上って行った。彼の後ろ姿を見送りながら、我々は踵を返して、次なるルートへと進まなければならない。

ここからのルートは、博物館へと向かう道である。博物館の背後にある、遺跡群を拾いながら、博物館へジリジリと近づいていく予定である。しかし、予定は遅れている。早送りくらいのスピードで博物館に接近せねばなるまい!生き急ぐ旅人たち。

デロス島

まず、こちらは、キントス山を転がり落ちてきた後に、見逃せない大物でありましてね、イシス神殿でありましてね。なんと、エジプトの神を祀っているそうだ。

デロス島は、国際貿易の拠点だったため、エジプト人居住区があったらしい。さすが多神教は、他の宗教にも寛容だなあと、月並みなことを考えてしまう遺跡だが、それ以上に、エジプトの神を祀っているのに、まったくもってギリシャ風神殿なのがおもしろい。

デロス島

こちらはイシス神殿のすぐ近くにある、ヘラ神殿跡。柱が少し残っているだけである。ヘラは大神ゼウスの正妻である女神だが、実はギリシャ固有の神ではなく、オリエントの地母神が原型なのではないかなどと言われている。

ギリシャ神話では、ヒステリックでやきもち焼きで、どちらかというと損な役回りをすることが多い女神ヘラ。彼女があまりよく描かれないのは、男性優位のギリシャ社会と、女性信仰の根強いオリエントがぶつかっている象徴だとかいう説もあるらしい。ギリシャ神話ってのは本当に深くておもしろい。

とか、立ち止まっているヒマはなくて!

デロス島

こんな素敵な、柱の跡がぽこぽこと残っている道も、「ちょっとだけ、ちょっとだけよ!」と、言い訳しながら立ち止まって!

さあ、あとは、博物館に一直線に進むだけなのだが!

目の前には、こんな、道とも言えないような道しかないのだが、本当に、この道で合っているのか…?はるかはるか先にぽつーんと博物館らしき建物が見えるのだが…とにもかくにも、ぽつーんと見えている建物に向かって前進するしかあるまい。

しかし、我々がずーっと背中を追いかけてきた、バックパックの男性の背中がどこにも見当たらない。そして、姉は地図を見ながら、「我々は道を踏み外している。どう考えても、博物館へと向かう正式な道はこれじゃない。これ、ちょっとしたけものみちだよ」と言う。

無人島・デロス島でまさかの迷子っ!?

しかし、うろたえるな!なぜかと言うに、博物館らしき建物は、とにもかくにも見えているのだよ。たとえ道(けものみち)が途中で途切れようと、強引に博物館に近づけば、たぶん何とかなるであろうよ!

さあ、我々は、強気な考え通り、無事に博物館にたどり着けるのか!ドキドキの展開は、次回に続く!(デロス島はこればっかりだな…)