メテオラ旅行記1 ロングスカートなんか履いているのは私だけ

2017年3月7日
ヴァルラーム修道院

カランバカの鉄道駅に到着した我々。

メテオラには、修道院しかなく、ホテルやレストランは存在しない。そのため、メテオラ観光を宿泊して楽しむには、メテオラのふもと町カストラキか、隣町のカランバカに宿泊することになる。

カランバカの方が大きな町なのだが、カストラキの方がメテオラに近く、健脚派はカストラキからであれば、メテオラを歩いて回れる。我々は歩く気満々だった(過去形)ので、カストラキにホテルを予約してある。

これだけの有名観光地なのだから、カランバカの鉄道駅からカストラキへ、簡単にバスで行けるだろうと考えるのが日本人の感覚なのだが、そうは簡単にコトが運ばないのがギリシャである。バスの本数は非常に少ない上、冬季は運行していない。

しかし、カランバカのタクシーは、そういう交通難民(変な言葉)の観光客のために、チャーター形式で、時間制で利用できる体制を整えている。しかも、観光地によくありがちな、ぼったくりもほとんどないらしい。

そこで、タクシーをチャーターして、まずはカストラキのホテルまで行ってもらい、荷物を置いた後、メテオラの修道院をいくつか回ってもらうことにした。

歩く気満々ではある我々だけど、メテオラの修道院は、お休みの曜日がバラバラで、メテオラ3泊の中で、今日行っておかないと、入れない修道院もある。歩くのは明日以降にして、今日はタクシーで回ることにした。

カランバカのタクシー

カランバカのタクシーは、銀色である。カランバカの鉄道駅前に何台も待機していた。

ドライバーさんと交渉すると、2時間で€40、3時間で€50と言われた。事前に調べておいた相場通りである。しかし、2時間で€40、3時間で€50なら、3時間のほうがずっとお得に感じちゃうよなあ。それが商売上手なところなのだろうか。

カストラキ

タクシーがカストラキに近づくと、このような岩山が現れた。いかにもメテオラっぽくなってきた!

カストラキのホテル

宿泊したのは「Arcontiko Mesochori Suite&Apartments」という、プチホテル。Booking.comを通じて予約した。後ろに岩山が迫っている風景といい、牧歌的な雰囲気といい、九州の母の実家と感じが似ていて、何だかホッとする。

家族経営しているホテルで、フロントには感じのよい若い男性がいた。タクシーをチャーターしていて、これからすぐ観光に行きたいのだと告げると、チェックインを素早く済ませてくれた。

カストラキのホテル

カストラキ

女性好みの雰囲気でまとめられたインテリアである。小さなキッチンもついている。今回は、カストラキでは自炊はしない予定だが、部屋でお茶やコーヒーを飲んで休憩するのにも、やはりキッチンがついていると便利だ。

ホテルウォッチは、帰ってきてからじっくりやるとして(姉は重度のホテルマニア。私は軽度のホテルマニア)、とりあえず、メテオラに飛びだそうぜ!

私は風邪であまり声が出ないので、運転手さんとの交渉は姉に任せた。というか、姉は欧米人との交渉に負けない、日本人としては特殊な能力の持ち主なので、こういうのは姉の方が向いている。

我々の滞在中に、この日(火曜日)しか訪問チャンスがないのが、アギア・トリアダ修道院である。あと、既に時間が午後2時を過ぎているので、早めに閉まる修道院にはこれから行くことはできないし、火曜日が休みの修道院もいくつかある。

そこで、ヴァルラーム修道院→アギア・トリアダ修道院→アギオス・ステファノス修道院と回るのが、プロ(タクシーの運転手)とそれなりに頑張っているアマチュア(姉)がはじき出したアンサーであった。

姉いわく「アギオス・ステファノス修道院には今日行くつもりはなかったけど、あんたも風邪気味だし、今日タクシーで行っておけば楽だからね」とのこと。結果的に、この日にアギオス・ステファノス修道院まで行っておいたのは大正解であった(後の話だが、私の風邪は自業自得&非自業自得の組み合わせで悪化したのだ)。

メテオラ・ヴァルラーム修道院

タクシーで、すいーっとヴァルラーム修道院の入り口に到着。我々が出てくるまで、タクシー運転手さんは待ちぼうけである。考えてみれば、なかなかよい商売だ。

惰弱な旅行者め、聖地にタクシーで乗りつけるとは!とお思いになるかもしれないが、ここで強調しておきたい。メテオラの修道院めぐりは、タクシーを使っても結構大変なのだ。というのも、ここからが本番とばかりに、修道院の敷地内に入ってから、あの岩山を上って行くのである。

メテオラ・ヴァルラーム修道院

こういう階段をどんどん上って行く。神社に慣れている日本人にとっては、階段を上って聖地にたどり着くというのは不思議な感覚ではないが、さすがにこんな岩山を上って行く聖地ってのはマレだろう。

しかし、ヴァルラーム修道院の階段は、メテオラの修道院の階段の中では、難易度は中レベルだ。ちょうど平均的な大変さといったところ。

メテオラ

道中で、他の、岩山の上に建つ修道院が見えてくるので、ハードな階段の道も、それほどキツく感じないのである。これは、ルサヌ修道院かなあ。メテオラでは風邪気味だったこともあり、なかなかいろんなことが頭に入らなかった。鼻が詰まっていると、脳に酸素が行かないため、頭が働かないのである(これは私の独自理論)。

ずいぶん上ってから、下を見下ろしてみると、車が小さく見える。奇岩が、この修道院の下にも、ニョキッと突き出ているのがわかる。本当に奇妙な風景だ。

メテオラの、この奇岩群が、いつごろ、どうやってできたのかは、地球の歩き方によるとはっきりと解明していないらしい。こういう不思議な地形の起源神話を、すぐギリシャ神話で作りそうなギリシャ人だが、メテオラに人、というか修行僧)が住み始めたのは、9世紀頃らしいので、ギリシャ神話の時代には、ギリシャの要所ではなかったのだろう。

現在残っている修道院は、全てキリスト教のギリシャ正教ゆかりの建物で、古代の神殿跡は、メテオラのどこにもない。それでも、この奇岩ができた伝説のひとつとして、「ゼウスが天界から投げつけた岩」というものもあるらしい。

メテオラ・ヴァルラーム修道院

階段を上って行くと、ようやく現れた修道院の入り口。おじゃまします!

メテオラは、有名な話だが、女性は足のラインが見える格好では修道院に入れない。パンツスタイルでもアウトで、パンツスタイル、もしくは短いスカートで来た人は、受付でレンタルのスカートを借りなければならないと、ガイドブックに書いてあった。

そのため、わざわざ私は、メテオラのためだけに、普段はかないロングスカートを持ってきて、着用したのだが、ロングスカートなんか履いている女性観光客は、数えるほどしかいなかった。

皆、ジーパンでやってきて、受付で、無料レンタルの、スカートとも呼べないような、カフェエプロンのようなものを借りて、簡単に巻いて入っている。歩きにくい長さでもなく、むしろ全然足は隠れていないのでは…と突っ込みたくなるような、形式的なものであった。ちなみに姉は、膝が隠れる程度のワンピースだったが、全く問題なくそのまま入場できた。

メテオラ

興味深いものを発見。メテオラの奇岩の上の修道院に、下界から物資をつり上げるための滑車だ。今でも使っている様子があり、さすがに現在ではモーター式だった。つり上げている様子が見たかったなあと思ったが、さすがに観光客が喜びすぎるので、修道院がお休みの日に使っているのかもしれない。

ちなみに、この滑車、地球の歩き方によると、20世紀初頭までは、人までこれに入ってつり上げられていたらしい。ひょえー。コワすぎる。現在観光客が上って行く階段は、20世紀初頭までなかったのだそうだ。要するに100年くらい前までは、完全に下界と切り離されていたのだ。

そう考えると、修道院自体はどうやって建設したんだろう。最初に上った人は、ロッククライミングみたいに岩を上って行ったのだろうか。それとも、はしごをかけて、修道院が完成したらはしごを外したのだろうか。

さて、中に入ると、黒い服を着た修道士さんたちが、一生懸命お掃除をしていた。高い岩の上の、ひっそりとした世界を想像していた私だが、修道士さんたちは、せわしなく声をかけあって、ゴシゴシとモップで床を拭いていた。

思ったより親近感が持てるなあと感じたが、内部は完全に撮影禁止。神聖な場だから、ということであった。メテオラの修道院内部には、フレスコ画が描かれていることが多い。この修道院のものは、16世紀中頃のものらしい。16世紀といえば、西洋ではルネサンスが開花しているが、ここの絵は、中世の雰囲気のままであった。

西方で、古代ギリシャの復興が叫ばれているのと時を同じくして、ギリシャでは中世の世界観がそのまま引き継がれているというのが、歴史のおもしろいところだ。

メテオラ・ヴァルラーム修道院

ヴァルラーム修道院は、このような、ビザンチン形式の教会。アテネでも見るビザンチン教会によく似た雰囲気である。

ゆったりと修道院を見て回って、上ってきた階段を下りると、タクシー運転手さんがのんびりと待っていた。「日本人遅いなあ」と思ったかもしれないが、伸びた時間の分だけ、こちらが支払いするのだから問題ない。

ギリシャ中部の、アクセスが難しいメテオラ、今後、また足を運べる可能性はそれほど高くないだろう。タクシーの時間はあまり考えず、じゅうぶんに堪能することにした。