3/16モンタニャーナ旅行記2 美女と美男の残酷聖書
モンタニャーナ遠足の後編である。
モンタニャーナの城壁の一部は、サン・ゼーノ城という城塞になっている。サン・ゼーノ城は、城壁内からではなく、城壁の外から見た方が、全体はよく見える。ずーっと続いているモンタニャーナの城壁で、やはり城塞のあるこのポイントが、ハイライトという感じだ。
サン・ゼーノ城からは、城壁内に入る事ができるので、ここから城壁内に戻ることにした。それにしても、この城壁が美しく残っている辺りは、中世のまま時が止まってしまっているかのようだ。
この門をくぐってすぐの場所に、観光インフォメーションがあった。モンタニャーナまで来て、ヴェロネーゼやジョルジョーネの作品があるというドゥオモに入らないなんてわけにはいかない。
先ほど立ち寄ったときは、葬礼の途中で中に入れなかったドゥオモだが、通常だと何時まで開いてるのか聞くために入ってみた。すると、葬礼さえ終わっていれば、今は入場できる時間だということだった。ちなみに、このインフォメーションは、何かハーブのいい匂いがした。
さて、ドゥオモまで戻る途中で、モンタニャーナの特産の生ハムを買うことにした。城壁街の生ハム工場では今日明日食べるための少量購入ができなかったのが、町中で、日常に地元の人が使っていそうな、ハムを売っているお店を見つけた。
Via Carrareseという、ボローニャのようなポルティコ(柱に支えられたアーケード)が並ぶ通りにある、「Bottega Mantoan」というお店。
たくさんのハムっ!モンタニャーナ特産のハムが欲しいわけだが、ハムがありすぎて、どれを買えばいいのかわからないよっ!
そこで、穏やかな笑みを浮かべたおじさまスタッフがいたので、「すみません、モンタニャーナ特産の生ハムが欲しいのですが」と聞いてみると、すぐに選んで、薄く切って味見させてくれた。…うん、美味しいんじゃない?私は生ハムの違いとかが分かるほどの繊細な舌は持ち合わせていないのだが、美味しいじゃないの?
おじさまは、他にもいろいろ試食させてくれて、地元モンタニャーナの「Soranzo」という生ハム工場が作った「Prociutto Crudo Dolce(甘口の生ハム?)」と、ピスタチオ入りのモルタデッラを購入した。
モンタニャーナのドゥオモに戻ると、ちょうど葬礼は終わっていた。
15世紀から16世紀にかけて作られたドゥオモで、外観は後期ゴシック式。レースがかかっているみたいな、上の部分の装飾がかわいらしい。町の入り口近くにあるNativita病院跡とちょっと似た感じである。
内部はルネサンス様式ですっきりしているが、遠目にも、主祭壇の絵が目立っている。半円アーチ部分の絵も美しいが、その下の、正面中央の絵が、ヴェロネーゼ作である。私がヴェネツィア派の画家さんの中で、ひいきにしているヴェロネーゼっ!
し・しかし…ヴェロネーゼの絵には、あまり近づくことができなかった。これは姉に隠し撮りされた写真だが、後ろ姿はワタクシである。ワタクシが立っているあの場所からしか、ヴェロネーゼ作品は拝めない。全体的には見えるが、人物の表情まではしっかり見えないという距離だった。
お題は「キリストの変容」。福音書に出てくる、キリストが3人の弟子たちに、輝く姿で預言者たちと語らう様子を見せたという奇跡である。写真にとって、デジカメの液晶画面で見た方がよく見えるという…。
上の天使たちとか、下で大胆なポーズで驚いている弟子たちとか、なかなか見どころのある作品に見えるのだが、遠目でしか見れなくて残念。教会の祭壇に飾られている絵は、鑑賞ではなく信仰のためのものだから仕方ない。
だが、その代わりと言っちゃなんだが、扉から入り、扉側を振り返った壁に描いてある、ジョルジョーネ作ではないかと言われているフレスコ画はバッチリ見れた!
「ゴリアテの頭を持つダヴィデ」。ダヴィデさんいい男じゃないの~…って、かわいそうなゴリアテの生首を見て感想はそれが先か!
とは言っても、同じ題材をカラヴァッジョが描いた絵は、生々しくて迫力満点だったが、こちらは同じく残酷な場面だというのに、妙な清らかさがある。カラヴァッジョの方はその一瞬を捉えた、まるで写真のような作品だが、こちらは一瞬というより、絵本の挿絵として描かれたような、非現実的な雰囲気がある。
もう1点、こちらは「ユーディットのホルフェルネスに対する勝利」。ちょっとわかりにくいかもしれないが、左の方に、ホルフェルネスの生首が置いてある。
面白いことに、ドゥオモの扉がある壁には、ダヴィデとゴリアテ、ユーディットとホルフェルネスという、旧約聖書の二つの「首を斬る」物語が、セットのように描かれている。
聖書の物語の中でも、特に残酷なシーンが、わざわざ2つ並べて描かれた理由は何なのだろうと考えてしまう。教会側の依頼だったのか、画家の方のこだわりだったのか。
ダヴィデの方は、ゴリアテの生首をつかんで、何もなかったような涼しげな顔をしているが、ユーディットは不快感をあらわにして、切り取った生首をじっと見ている。このコントラストが興味深い。
この2つの作品が、ジョルジョーネ作かどうか、真偽は定かではないらしい。ジョルジョーネは32歳で夭逝していることもあり、作品数が少ない。作品が少ないため、他の作品が真筆かどうかを見定める材料が乏しく、鑑定が難しいのだそうだ。
ちなみに、ジョルジョーネは、実際にモンタニャーナを訪れたこと自体はある。壁に描くフレスコ画は現地でしか描けないものなので、このフレスコ画がジョルジョーネ作である可能性はゼロではなさそうである。
ただ、この2つの作品は、ジョルジョーネ作だろうがなかろうが、似たモチーフが、違う表情で描かれているコントラストや、美男美女の表情や、後ろに描かれているさりげない風景など、非常に見ごたえがある。モンタニャーナに足を運んで本当にヨカッタ!
こちらは左側にあるロサリオ礼拝堂。占星術をモチーフにしたモノクロのフレスコ画が描かれている。右側が黄道12星座の道で、乙女座と獅子座が描かれている。真ん中はおおいぬ座とこいぬ座とエリダヌス座?光っているのはこいぬ座の近くだからシリウスじゃなくてプロキオン?左側はペガサス座とアルゴ船座かな?
姉と私は、どちらもプチ星座好きなので(本当にプチ)、この礼拝堂を長らく眺めながら写真を撮っていると、ドゥオモの奥から神父さんが現れて、姉に「写真が×××」と話しかけてきた。
イタリア語があまりわからない姉が、「写真撮影は禁止だよ」と言われているのかと思って聞き返すと、「もっとこのドゥオモの写真をいっぱい撮ってよ!」という主旨だったらしい。そうね。素敵なドゥオモだものね。というわけで、モンタニャーナのドゥオモに行く人は、神父さんの願い通り、たくさん写真を撮ってあげてください!
こちらはドゥオモの近くにあるオシャレな建物。モンタニャーナは、こういう、ボローニャの町並みにちょっと似た、小さなポルティコを持つ建物が多い。リズミカルに並ぶ柱が、町に心地よい活気を生み出しているように見える。
さて。モンタニャーナにはもっと長居してもよいくらいだったのだけど、私は風邪が治ったばかり、姉はあまり体調が思わしくないという状態だったので、おとなしく早めの電車でフェラーラに帰ることにした。
少し電車の時間が迫っていたので急いだのだが、姉が途中でおいしそうなお菓子屋さんを見つけて、「お菓子を買って行こう!」などと言うものだから、急いで購入して、駅までは走った。結構本気で走って、電車にはギリギリ間に合った。
バイバイ、モンタニャーナ!小さな楽しい旅をありがとうっ!
帰りも、丘の上の城塞が気になるモンセリーチェ経由である。
さて、フェラーラのホテルに戻ってから、モンテニャーナの生ハムを食べてみたよ!
ちょっ…この写真、オレンジが目立ちすぎだろ!姉が買ってこいと言った、イタリアのサラダ用オレンジ(美味しかった)。モンテニャーナの生ハムは、トマトの上のちまっとしたやつだよ。その左側のピンクはモルタデッラだよ。生ハム「ワタシが全然主役じゃない件」。
しかし、写真では主役でなくても、この生ハム、試食どおり美味しかった。いや、試食したんだから、美味しいことはわかってたんだけど!
それから、超急いで買ったお菓子。
あとからレシートを見ると、「DOLCE FREDDO」というお店のお菓子。上の赤いカオスなお菓子は、せっかく姉が、「私が持って走るから!」と名乗り出て、斜めにしないように細心の注意をしながらフェラーラまで運んできたのに、フェラーラに帰ってきてから、つるっと手をすべらしてひっくり返してしまったものである。最初からこんなカオスな外観じゃなかったんだよ。
で、このお菓子たちは、走って買って帰った甲斐があって、非常においしかった!というわけで、モンタニャーナは、見てよし、食べてよし!の素晴らしい町であることが、完全証明されたのであった。