3/16モンタニャーナ旅行記1 平原に伸びる美しき壁
モンタニャーナ。猫の鳴き声みたいなこの町にやってきたのは、保存が良いと言われる城壁と、ヴェネツィア・ルネサンスの画家たちの中でも、私がひいきにしているヴェロネーゼとジョルジョーネの作品があるらしいからである。
モンタニャーナは「イタリアで最も美しい村(BBI)」に登録されている村だ。BBI登録の村は、イタリアに200以上あるが、人口が少ない小さな共同体、つまり「村」であることが条件だ。
住民の少ない村ということで、どんなに美しくても、個人ではアクセスが難しい村もあるのだが、モンタニャーナは鉄道駅からすぐそこにある村で、BBIの中ではアクセスのしやすさがSクラスである。
しかも、駅からの行き方もかなり簡単で、鉄道駅から真っ直ぐ続いている道を、ただ真っ直ぐ歩いて行くと5分もしないうちに…
もう見えてきた!モンタニャーナの城門っ!
右を見ても
左を見ても、ずーーーっと城壁!何てことっ!この美しく残っている城壁っ!
城壁というものは、もともとは敵襲を防ぐために作られたのだろうが、ここモンタニャーナの城壁は、平和な現代に見るからかもしれないが、外からの人を寄せ付けないというより、「ここからがおとぎの国ですよ」とでも言うように、現実世界とメルヘン世界を隔てている壁のようだ。
私は城壁に囲まれている町って大好きなんだが、こんなに完璧な城壁は初めて見た!「…ちょっと!私のこと忘れてない!?」とルッカから声が聞こえてきそうだが、ルッカの城壁は全長4㎞以上あるので全景が見えず、かなり分厚い壁なので、壁というよりは防塁みたいな感じがするのである。
それに比べてモンタニャーナの城壁は、全長はルッカの約半分、2㎞なので、ちょっと町から引いた場所から見ると、町全体が城壁に囲まれているのがよくわかる。
それにしても何てラブリーな城壁なんでしょう!一目で気に入ってしまった!トスカーナやウンブリアの、丘の上にちょこんと乗っかった城壁の町とは違い、ヴェネト州の平原の真ん中に、ペタンと置いてあるような佇まいが新鮮に感じられる。
では、いざ城門をくぐりますよ…。大きな方の門は車が入る道で、人間は小さい方の門をくぐる。
わーい!城門をくぐっちゃった!こんなことではしゃげる観光客は幸せである。幸せとはいいことだ。
こちらは町の中から見た城壁。本当に保存状態がよい。そして、妙にさわやかである。
そのまま映画の撮影でもできそうなくらい、美しい城壁である。ぺたんとした平地を取り囲んでいるためか、幾何学的な美しさも感じられる。
自動車がくぐれる大きな門があることからわかるように、モンタニャーナの城壁内は、自動車が入れないわけではない。もともとモンタニャーナは平地にある町なので、旧市街内は平たんで車が走りやすい道になっている。
そういうわけで、旧市街内の道路は舗装されていて、城壁に囲まれた外観と比べると、城門をくぐってもおとぎの世界が待っているかと言えば、そこまではない。
だが、ところどころには古い建物が残っている。こちらは門をくぐった先の通りにあるATMなのだが、何だか聖なるATMである。この建物は、Nativita病院という病院跡なのだそうだ。
扉の上には、マントの下に人々を保護している、いわゆる『慈悲の聖母』像がある。このモチーフは私はなかなか好きなのだが、いつも「聖母大きすぎ」と思う。マントの下に人をたくさん保護しなきゃいけないから仕方ないよね。聖母のマントは四次元マント。
この建物に『慈悲の聖母』の像があるのは、おそらく偶然ではない。Nativita病院は、貧民を救済する病院だったらしい。どんな境遇の人であろうと、聖母はマントで包んでくれるという、病院の崇高な精神を表したものなのだろう。
中心に向かう途中で、BBIのモンタニャーナのページに、見どころとして載っていた、ヴェネツィア風のお屋敷、「傭兵隊長ガッタラメータの妻の家」(palazzo Magnavin-Foratti)に立ち寄ってみる。
あら、古代風で素敵な入り口。
脇の方には、聖母と幼子イエスだと思われる、かなり古いフレスコ画が残っている。
古くてなかなか素敵なお屋敷なのだが、どこがヴェネツィア風?古代ローマ風じゃないの?と思った。
が、後で調べてみて判明したのだが、このお屋敷がヴェネツィア風なのは、入り口部分でなく、ちょっと引いた位置(アーケードの外)から見た、上の階の装飾なのだそうだ。あ、そう。そんなことは先に言ってよ!(先に調べなよ)
もしモンタニャーナに行く機会があったら、このお屋敷は、ちょっと遠くから上の方を眺めてください!
次はドゥオモに入ろうかと思ったのだが、ドゥオモは葬礼の途中であった。ドゥオモには後で戻ってくることにして、北の城門までたどり着いた。
こちらがヴィツェンツァ門と呼ばれる町の北の城門。
このヴィツェンツァ門の周辺は、城壁にそのまま建物がくっついていて面白い。建物内に入ったら、どういう風になっているのか、ちょっと興味がある。こんな時に「ピンポーン!おじゃましまーす!ちょっと家の中見せて!」みたいな、度胸満点旅ができる人はうらやましいよなあ。私は奥ゆかしすぎるのだ(嘘。コミュ能力が低いだけ)。
ヴィツェンツァ門を出た所。いやー、雰囲気良いね!来てヨカッタ!モンタニャーナも、「知られざるイタリア」だなあ!ちなみに、このヴィツェンツァ門を出た場所は、歩道が極端に狭い道路で、時たま車が通るので、城壁方向を見ながら歩くときは注意されたし。
このまま城壁内に戻るか、城壁外を歩くか。BBIのサイトによると、このまま城壁を東に行った場所に、「ジョルジョーネが城壁のスケッチを描いた場所」というスポットがあるらしいので、城壁外を東の方へ歩くことにした。
ちょっと逆光ですが、この辺りがジョルジョーネ・スポット!
ジョルジョーネ・スポットにはパネルが置いてあった。ジョルジョーネは、おそらくこのポイントからスケッチしたと思われる、モンタニャーナの城壁の素描を残している(現在はオランダのボイマンス・ヴァン・ベーニンゲン美術館が実物を所蔵)。
モンタニャーナのドゥオモには、ジョルジョーネの作品ではないかと言われているフレスコ画があるのだが、ジョルジョーネがモンタニャーナまで来たことがあるのは間違いないことなのね。それにしてもこの素描、作品にまで仕上がっていたら、すごく素敵な出来上がりだったのではないかと思われる。
ここまで来ると、城壁外で、モンタニャーナ特産の生ハムを作っている工場が近い。もし購入できたら行ってみようか、ということだったので、生ハム工場まで行ってみることにした。
その途中には、ルネサンス期の天才建築家・パッラーディオが作ったお屋敷がある。
ピサーノ邸(Villa Pisano)と呼ばれるお屋敷である。外壁の色が汚れていて、修復、補修していない感じだが、逆にピカピカに修復していないのが良い。最近は時々、芸術作品をあまりにもピカピカに修復しすぎるのはどうなのかな?と考えることがあるのだ。
上にイオニア式、下にドーリア式の柱が支えている、ルネサンス様式の建物だ。堂々としていて、調和がとれていて、パッラーディオらしい建物である。最近は、ほんの少しずつだが、建築物の良さもわかるようになってきた。うんぽだけどね!
こちらは大きな車通りに面している表側。こちらの側は、通行人の目に触れるからか、しっかり修復していて、キレイになっている。しかし、こちら側の柱は、壁に塗りこめられていて、柱としての役割はあまり果たしていない。裏側の方が、柱が厳然としていて好きだなあ。「柱が厳然」とか、私も言うようになったものだ。
さて、このまま、歩いてすぐの、ヴェネト州の正式認可ハムを作っているという「DANIOLO DESIDERIO di Daniolo Vittorio」という生ハム工場まで行ってみた。
中をのぞいてみると、誰もいない…。おそるおそる「ブオナセーラ」と声をかけてみると、おじさんが出てきた。急な外国人観光客に訪問にも驚いた様子もない。
「実は、こちらのハムを少しだけ購入したいのですが、一番小さいサイズでどのくらいから買えますか?」と聞いてみると、1㎏弱、800gからしか購入できないそうだ。二人で生ハム800gはちょっと厳しいなあ…。残念。モンタニャーナ町中の食料品店で購入しよう。
知られざるイタリア(この言い回しが気に入った私)・モンタニャーナの旅行記はもう少し続きます!