3/8メッシーナからリパリ島へ 海峡で待つ怪物の名は

(ここまでのあらすじ:カターニアにスーツケースを置いたまま、リパリ島に一泊旅行に行く途中に、メッシーナに立ち寄ったよ。メッシーナ滞在はさんざんだったけど、これからメッシーナ港から高速船に乗ってリパリ島へ行くよ。)

さあ、旅人よ。メッシーナのことは、もう忘れるんだ。これから高速船に乗るよ!

リパリ島は、エオリア諸島という、シチリア島の北、火山島が点在する諸島の中にある。エオリア諸島は、ギリシア神話の風の神アイオロスの住む地だと言われ、ギリシア神話の英雄オデュッセウスの、ギリシアへ帰る航海を、風の神の力でバックアップした神話が有名である。そもそもエオリア諸島という名称自体が、風の神アイオロスに由来した地名である。

こういった神話から、ギリシア神話ファンを惹きつけるエオリア諸島だが、エオリア諸島が火山地帯であることから、火山ファンも惹きつけている。今でも活動している火山もあり、夜間に、流れる赤い溶岩を海からウォッチするツアーもある。

シチリア島からエオリア諸島に行くのに、一番の玄関口となっているのがミラッツォという町で、この町から高速船や大型フェリーが出ている。カターニアからミラッツォに行くには、メッシーナでバスを乗り換えて、トータルで3時間くらいかかる。メッシーナからも船は出ているのだが、冬季は大きく減便されて、一日に一往復しかない。おまけに、冬季は海の状態が悪いことが多く、船が欠航することも多いらしい。

…というコンディションなので、私は今回はエオリア諸島に行かなくてもいいかな、と思っていた。また別の機会に、船が欠航しても大丈夫なくらいの余裕を持った日程で、ゆったり滞在した方がいいんじゃないかなーと。だが「オデュッセイア」を読んだ姉が、エオリア諸島がマイブームになったらしく、「どうしても今年行きたい」と言ったので、リパリ島は、強行で日程に組み込むことになった。

ミラッツォから船に乗るならば、カターニア―(バスか電車)→メッシーナ―(バス)→ミラッツォ―(船)→リパリ島と、3度も乗り換えをしなければならない。そこでこの季節に一日に一便だけいる、メッシーナからリパリ島へ行く高速船に乗って行くことにした。その船が14時出航なので、その前にメッシーナ観光をするつもりだったんだよ。その話はもう忘れるよ。

メッシーナ港は、メッシーナの鉄道駅から歩いて5分もかからない場所にある。便利だね。メッシーナにもいいとこあるね。

リパリ島

港の入口だよ。

リパリ島

USTICA lines(ウスティカラインズ)という船会社が高速船を運航しているので、左の窓口で切符を購入したよ。税と入島料込で、ひとり22.7ユーロだったよ。ちなみに、パスポートなどは必要なかったよ。

リパリ島

あれが高速船だね。その手前にある建物が待合室だね。

メッシーナ港

この待合室で、乗船時間まで待つ。この待合室は、海に浮いているらしく、何か揺れている。姉がトイレを使ったが、「意外とキレイだった」と言うので、キレイなトイレ見たさに私も姉が入った後のトイレに入ったら、荷物かけのフックに、姉の貴重品入れ(パスポートもタブレットも入っている)がブラーンとぶら下がっていた…。…姉ッ!!!

ちなみに私は、旅先でパスポートを失くしたことは無い(キラーン)。威張ることでもない、ごくフツーのことかもしれないが、結構ものを失くしやすい自分としては、かなり頑張ってると思う。パスポートは、旅行で命の次に大事なものとよく言われるが、人によっては、「パスポートなんか再発行してもらえる。二度と記録が戻ってこないカメラの方が大事」と言う人もいる。

だが、シチリア島でパスポートを紛失すると、再発行の手続きのためにはローマまで行かなければならない。イタリアで、パスポートの再発行ができるのは、ローマの日本大使館か、ミラノの領事館だけだ。シチリアからローマへ行くには、飛行機だと1時間くらいだが、パスポートを紛失した状態で飛行機に乗るのはおそらく不可能だろう。

そうすると、電車でローマまで行かなければならない。シチリア島からローマまでは、本土に一番近いメッシーナからでも7~8時間はかかる。こう考えると、シチリアでパスポートを紛失することは、旅程が大きく狂ってしまうので、絶対に避けなければならない…って話を、日本を発つ前にしたよね!?姉っ!!!メッシーナ港のトイレがキレイでよかったよ。姉が「ダメトイレだった」と言ってたら、私は入ってないところだった…。

メッシーナ港

というわけで、姉のパスポートを無事に回収して、高速船に乗るよーっ!

リパリ島

高速船の中はスッカスカであった。指定席でもないので、後ろの方に座った。

なぜ後ろの方かと言うと…。ああ、思い出すなあ、あれは5年前…ナポリからカプリ島へ、高速船で渡ったときのことだ…。極悪非道に揺れまくる高速船に酔って酔いまくって、「ほうほうのてい」でカプリ島に上陸した(ら、青の洞窟は閉まってた)。

そうっ!高速船=船酔いという、方程式が存在するのだ!

私が、船酔い対策として取っているのは、以下の作戦である。
1.身体を締め付けない衣服を着る
2.マフラーとか、荷物は体から外す
3.本を読まない。音楽を聴く。
4.ご飯を食べた直後には乗らない。空腹すぎるのもよくない
5.揺れないと言われる後ろの方の座席に乗る。
6.なるべく高速船でなく、大型フェリーに乗る
7.酔い止め薬を飲む

この中で、今回遂行できない作戦は、作戦コード6である。だって、メッシーナからリパリ島へ行く冬季の船便は、たったの1便。それが、高速船なわけだから、作戦コード6は遂行不可能。というわけで、6以外の作戦は全て遂行した。かかってこい!1時間45分の船旅っ!

メッシーナ港

というわけで、シチリア「島」とは、しばしのお別れである。今から行くリパリ島も、シチリア州ではあるんだけどね。船旅って、旅情があっていいねえー。船酔いさえなければ、本当にいいんだ、船旅は。

メッシーナ港

高速船の窓越しだが、港を出てすぐに灯台が見えた。窓についている水滴のせいで、ちょっとよく見えない写真になっているが、上で金色の聖女像(聖母マリアかな?)が見守っている、なかなか美しい灯台であった。高速船の残念なところは、大型フェリーのように展望デッキがなく、船室から出られないところである。まあ「高速船」なわけだから、展望デッキがあっても、のん気に海を眺めていられるスピードではないのだろう。

私は「高速船攻略作戦コード3」に従って、音楽を聴いていた。ちなみに、私は普段、イヤホンで音楽を聴かないので(音楽は全身で聴く派。ちょっとカッコイイ?)、このポータブル音楽プレーヤーは、昨年、ギリシアの長距離バスを攻略するために、つまり純粋に旅行用に買ったものである。

その時の話だが、足を運んだ家電量販店で、目に付くところに展示されているポータブルプレーヤーが、ほとんど5ケタ(!)の値段なのにおったまげた。そこで、お店の人に「すみません…音楽が聴けるだけの機能でいいので、一番安いのはどれでしょうか?」と聞いたら、「本ッ当に安いものでいいんですね?」と言われ、店の一番端っこに案内された。

誰も目もくれないような場所にあるものを指さして、「こちらは在庫限りなんですが…」と紹介された、1500円くらいのプレーヤーが、私の旅行専用プレーヤーである。見た目はダサいし、ちょっとボタンを押した時の反応が悪いけど、ちゃんと音楽が聴こえるからじゅうぶんなんだよ。プレーヤーくんの話おわり。

で、そのプレーヤーで、メッシーナに冷たくされた気分にピッタリだと思ったので、中島みゆきを聴いた。うん、気分にピッタリだね。「そして~わたしは~~あんたーに~………あえーーーなーーーいーーー」って歌詞なんか、驚くほど、カラヴァッジョのことを歌っていると思ったね(前回を読んでない方のために。我々はカラヴァッジョを見る目的でメッシーナに行ったのに、博物館が臨時休業してたのだ)。

雨の中のメッシーナでさしていた折り畳み傘を、たたもうとした時、アクシデントは発生した。日本から持って行った傘が、旅行2日目にして早くも壊れたので、今持っているのは、カターニアのデパート・コインで購入した、ワンタッチ開閉式の折り畳み傘。これをたたむときに、力が足りなかったのか、柄の部分を縮めようとしたら、跳ね返ってきて、メガネの右レンズに直撃したのである!

最初は何が起こったのか、わからなかった。ふと見ると、床に転がっている私のメガネ。拾い上げてみると、右のレンズが、きれーいに無くなっているよ!前の座席の下を覗き込んでみると、レンズ発見!

レンズが割れてはいなかったので、ダメ元でフレームに押し込んでみると、アラ、しっかりはまってくれた。少しレンズに傷がついているけど、それほど目立つものではないので、このまま使えるだろう。最初にレンズが吹っ飛んだ時は、「うをっ…今日はツイテないとはいえ、ここまでとは…!」と焦ったが、何とかなりそうだ。

しかし、コンタクトを外してメガネにしておいていてよかった。メガネがなければ、右目に直撃していたかもしれないな…。傘って、野犬とかイノシシと戦うときは武器になるとテレビで見たことがあるが(目の前で急に開いたら、びっくりして逃げていくらしい)、人間にも凶器になりうることもあるのね…。皆さんもジャンプ傘には気を付けて!

高速船

ちなみに、私がレンズを探した床には、こんな風に、USTICA linesのマスコットのタツノオトシゴ君がプリントしてある。

メッシーナからリパリ島に海路で行くには、メッシーナ海峡と呼ばれる、シチリア島とイタリア本土の間の海峡を通って行く。この海峡は、お互いの陸地が見えるくらい、幅の狭い海峡である。○ll ○boutのページには、「幅は何と3メートル」と書いてあるが、さすがにこれは誤植で、3キロメートルの間違いであろう。だって3メートルなら、ちょっと走り幅跳びが得意な人なら、跳んで渡れちゃうよ!それに、よっぽど小さい船じゃないと通過できない幅だよ!

3キロメートル程度しか離れていない、幅の狭い海峡ならば、イタリア本土とシチリア島は、ほとんど同じ文化圏に思えるのに、シチリアはシチリアで、独自の歴史を持っている。その理由は、おそらく、このメッシーナ海峡の波が荒く、昔から船乗りにとっての難所であり、距離以上に、イタリア本土とシチリアを隔てていたことにあるのだと思う。

船旅の難所であることから、ギリシア神話で、メッシーナ海峡には二人の怪物が棲むとされている。渦潮を引き起こすカリュブディスと、上半身は美女だが下半身が怪物で、船乗りをさらうスキュラである。昔から船乗りは、メッシーナ海峡を渡るときは、この二人の怪物の生息地のちょうど真ん中を慎重に通って、怪物に出会わないようにしたそうだ。

ギリシア神話好きの私にとって、この高速船に乗る最大の楽しみは、そういう怪物伝説のあるメッシーナ海峡を渡ることであった。しかし!船が出てからすぐ飲んだ酔い止め薬が、この時間になって効いてきて、眠くて眠くてたまらないのである!まなこを開けて、メッシーナ海峡を見たいのに、私を眠りの世界へと、巨大な力でひきずりこもうとする睡魔!眠いっ!眠りたくないのに眠すぎる!

メッシーナ海峡

この写真がおそらく、睡魔に必死に抗いながら撮影した、メッシーナ海峡である(眠すぎて覚えていない)。たぶん写っている陸地は、イタリア本土の方だと思われる。あー本当に眠かった。メッシーナ海峡で私を待ち構えていたのは、カリュブディスでもスキュラでもなく、どこにでもいるありふれた怪物・睡魔であった。

本当は、イタリアの交通機関で、居眠りなんかしてはいけないのだけれど、高速船内はスカスカだし、貴重品は服の下に隠してあるので、デイパックを通路から遠い方の座席に置いて、私は本格的に眠ることにした。いやー、酔い止め薬って、乗り物酔いを防止するんじゃなくて、乗り物酔いするヒマがなくなるように、強引に睡眠させてしまう薬なんだね。

………ぐっっっすり眠っていた私だが、高速船が減速してきたのに気付いて目が覚めた。姉が、「もうエオリア諸島のすぐ近くにいるよ。島がぽこぽこ見えてる」と言う。火山島がぽこぽこある風景を見たいのだが、前述のように高速船には展望デッキがないので、水滴の付いた窓越しに、少し見えるだけである。時間のある方は高速船ではなくて、ミラッツォから出ている大型フェリーを使った方が、楽しい船旅になるかもしれない。

最初はヴルカーノ島という島に止まった。船員さんたちが、大きな声で「ヴルカーノ!!!ノー、リパリ!」と言ってくれたので、そのまま乗っておけばいいことがわかった。ヴルカーノ島は、イタリア語の火山(ヴルカーノ)という語源になった島である。島全体が硫黄の匂いがするらしい。

ヴルカーノ島からは約10分ほどでリパリ島に着いた。私が非常に船酔いを恐れていた高速船だったが、酔い止め薬で寝腐っていたせいで、あっという間についてしまった。1時間45分の船旅だったのだが、私が起きていた時間は30分ないくらいだったんじゃないかと思う…。

リパリ島も残念ながらお天気は芳しくなく、雨が降っていた。でも、スーツケース持ってきてないから楽だよ!とりあえず、今夜泊まるホテルを探すよ!