3/2ローマ旅行記16 天使なのに小悪魔の笑みで
(前回のあらすじ:マッシモ宮に行ったよ)
暖房が効き過ぎて、脳みそが溶けそうだったマッシモ宮からの脱出に成功した我々。一秒でも早くジェラートにありつきたかったのだが、何せマッシモ宮はテルミニ駅近く。テルミニ駅周辺には、あまりロクなジェラート屋が見つからないのだ(3年前に検証済み)。
イタリアで美味しくないジェラートを食べると、ものすごく気持ちがガックリしてしまうので、ジェラートはがまんして、次の訪問予定地であるサンタ・マリア・デッラ・ヴィットリア教会に向かうことにした。マッシモ宮からサンタ・マリア・デッラ・ヴィットリア教会までは、噴水のある共和国広場を挟んで、結構すぐである。
ローマは中心街のどこを歩いても、バロック的な曲線と、ちょっと迷宮っぽく入り組んだ道が織り成す街並み、と思っていたのだが、マッシモ宮からサンタ・マリア・デッラ・ヴィットリア教会までの道のりは、駅近くということもあってか、近代的なオフィス街であった。まるで東京に入るみたいな錯覚を覚え不思議な気持ちになった。今までイタリアで通った道で、最も東京的な場所だった。ローマで東京が恋しくなったら、この界隈に来ればいいんだね!
このオフィス街的な風景は、「モーゼの噴水」と呼ばれる、古代ローマチックな柱で飾られた水場が現れることで終わりを告げる。そして、その噴水の先にあるのが、お目当てのサンタ・マリア・デッラ・ヴィットリア教会である。
外観は、ローマでよく見るタイプのバロック教会。
この教会、「地球の歩き方ローマ」ではおすすめ度が一つ星なのだが、最近、非常に人気が高くなってきた教会である。何がそんなに人気なのかと言うと、ベルニーニ作の彫像の中でも、最も有名なもののひとつ、「聖テレーザの法悦」があるのである。その彫刻の聖テレーザの表情が、あまりにも色っぽすぎると、いろいろな本や雑誌で取り上げられている。そういったメディアに触れた人々が、この目でその彫刻を見てみたいと思うのは無理もないだろう。
そんなわけで、中に入ってみると、ええーっ!?この教会、人気が出てきているのは知っていたけど、信じられないほどの観光客の数っ!もともとそれほど大きな教会ではなく、また、ほとんどの観光客が「聖テレーザの法悦」を見に来ているので、聖テレーザの像がある礼拝堂に人が集中している…。こっ、これは…。人ごみが極度に苦手な私は、これだけで少しテンションが下がってしまう。だが、他ならぬ自分も、この人ごみの生成に一役買っているのだ。これをジレンマと人は呼ぶ。
とにもかくにも、団体ツアーが聖テレーザ前を占拠していたため、とりあえずはその人たちが去るのを待たねば、鑑賞するのは難しい。先に教会内を見学しながら待つことにした。
とは言っても、小さい教会だからすぐ見終わっちゃうから!
一言で言うと、きんきらきんのゴテゴテ。バロック教会のきんきらきんのゴテゴテは、私の中で「可」のものと「不可」のものがあるのだが、この教会は、残念ながら即決で「不可」であった。何かチガウ。心に響かない。私は、派手で華美なものが総じてキライというわけではないのだけれども、この内装を飾った人とはちょっと趣味が合わない。そうだ、趣味の問題だ。この人がデザインした服は着ないだろうな、って感じ。
そういうわけで、教会内を見渡すのはすぐに飽きてしまったので、遠目から聖テレーザを見た。
遠目で見ると、こんな感じ。ううむ。遠目だと、彫刻の背後にある、金色の雨のように降り注いでいる光を表現している演出が、あんまり好きじゃない。何だか金色が安っぽく感じちゃうのは私だけかなあ。ともあれ、近くで見てみないことには、何とも断定はできない。
20分ほどゆっくり待って、ようやく彫像をいい角度で見られるポジションが空いたので、母と姉と3人で近づいてみた。近くで見た最初の感想は、「近くなのに遠いッ!」。
彫像は結構上の方にあるので、ギリギリまで近づいても、あまりしっかり見えない。特に何が見えないかと言うと、肝心の聖テレーザの表情が、聖テレーザの顔が上向きであることもあって、よく見えない。私がおチビだから見えないのだろか。近くで見ると、黄金の光の雨は、遠くで見るよりなかなか美しく感じたが。
ギリギリ、聖テレーザの表情が見える角度。このくらいが精一杯。
ちなみに「法悦」とは「宗教的な悦楽体験」のことで、このシーンは、天使から胸を矢で射られた聖テレーザが、痛みとともに甘美に包まれたという聖テレーザ伝に基づいた場面である。このベルニーニ作の聖テレーザの法悦の瞬間の表情が、聖女の表情としてはあまりにエロティックすぎると、論議を呼んだとも言われる。
でもさー、この角度では、果たしてそれは世俗的なエロティックさなのか、それとも宗教的歓びの表情として適切なのかを、判断することすら難しいじゃないのよー。ただ、わかることは、聖テレーザの、だらっとした腕や指先、力無く垂れ下がった細い裸足の足は、確かにエロティックな美しさがある、ということである。
ただ、問題は、天使くんの持っている矢は、まだ聖女に突き刺さっていないということ。抜いた後と捉えることもできるかもしれないけど、天使くんのポーズを見ていると、明らかに今から刺すところだと思う。そうすると、矢が刺さった瞬間の悦楽を捉えたシーンではなく、矢が刺さる前の、光に包まれた一種の麻酔状態を表しているように見えるのだ。個人的な結論は、「言われるほど聖テレーザの像はエロティックには見えなかった」である。
私は注目すべきは、聖テレーザより、むしろ天使くんの表情だと思う。天使くんは顔が下を向いているので、よく表情が見えると言うのもあるのだけれど。
この天使くんが、あまりにも楽しそうすぎるのだ。しかも、それは聖なる使命を果たす喜びというよりは、聖テレーザに矢を突き刺すという行為を、純粋に楽しんでいる表情に見えてしまう。
口の端を少し上げて、まるでいたずら小僧のような表情。ある種の、「子供の遊戯」特有のサディスティックさを感じてしまうのは私だけ?(念のためですが、子供イコールサディスティックと思っているわけではないですよ!)小悪魔的とも言えるこの笑みが、この作品をエロティックに見せている要因の一つではないだろうか。
サンタ・マリア・デッラ・ヴィットリア教会は次から次に観光客が入ってきて、あまりゆっくりできる雰囲気ではなかったので、3人ともある程度満足したところで教会を出た。
さて、マッシモ宮からずーっとノンストップで動いているので、ここらで休憩が必要である。MT5!(=マジで疲れる5秒前に休憩する)
とは言っても、サンタ・マリア・デッラ・ヴィットリア教会もテルミニ駅近く。どうにもテルミニ駅近くには素敵なカフェが見つからない。この後どうする?と3人で話し合うと、母が「お母さんはちょっとだけスペイン広場が見たいんだけど…」と遠慮がちに言う。
スペイン広場!
先述したように、姉と私は人ごみが大の苦手である。そんな姉と私が、ローマで寄り付かない場所が3つある。それは「スペイン広場」「トレヴィの泉」「真実の口」の3か所である。観光都市ローマには、もちろんシスティナ礼拝堂とかコロッセオとか、この3か所以外にも人ごみスポットはあるが、それらは人ごみを我慢してでも行きたい場所。この3か所は、人ごみと天秤にかけた時、姉と私にとっては「そこまでして行かなくていいや」というスポットなのである。
私が思うに、この3か所は、映画「ローマの休日」の影響がものすごく大きい場所なのだと思う。美術好きの私、遺跡好きの姉、両方にとってあまり興味を引かない場所なのだ。だが、母は「ローマの休日」をおそらくリアルで見た世代。思い入れのあるスポットなのだろう。
姉が、ピコーンと良案を考え付いた。「じゃあさ、スペイン広場に行こう。で、近くのカフェ・グレコで休憩をしよう!これどうよ?」
カフェ・グレコ!
カフェ・グレコとは。ローマで最も有名な喫茶店である。歴史も非常に古く、1760年代に創業を始めている。日本で言えば…江戸時代っ!将軍!とか言ってる時代!で、その歴史の中で、ゲーテとかアンデルセンとかこのカフェ・グレコに立ち寄ったとかで、今ではローマの観光スポットの一つとなっている。
もっちろん、メニューが高額なことは予想される。ので、今まで、姉と二人の旅行ではスルーしていたというかスルーせざるを得なかったというか別にそんなに入りたかったわけではないから!フッ強がりはよせよとか、まあ、そんな感じで入ったことなかったのである。母が一緒だとね、ほら、新しい境地に踏み出せるわけですよ。
というわけで、スペイン広場方面へ歩き、ドッキドキのカフェ・グレコに入店してみた。喫茶店に入るくらいで緊張するな私!カフェ・グレコは、入口近くは、地元のローマっ子のためか、立ち飲みバールエリアになっていた。驚くことにこの立ち飲みエリアも大混雑していた。観光客専用のカフェなのかと思いきや、地元っ子にも愛されているらしい。
テーブル席のエリアへ行くと、ほぼ満席だった。だが、並んでいるって程の事はなく、少し待つと席が空いたので座った。ほとんどが観光客で、テーブルの上でガイド本を広げ、想像していたよりもずっとカジュアルな印象。ちょっとホッとした私。
ちょうどお客さんが去ったエリアを撮影。カフェ・グレコが創業を始めた18世紀から19世紀にかけては、ヨーロッパの知識人の中で、イタリア旅行がブームだったため、おそらくもともと観光客むけに営業していたのだと思われる。壁には、ローマ気分を盛り上げるための、コロッセオやフォロ・ロマーノの絵が描かれている。写真のない時代に写実的な絵が代用されたのだろう。ちなみに小さな額に入っているのは、カフェ・グレコを訪れた有名人の手紙やサイン。じっくり見てみたかったんだけど、テーブルは所狭しと並べられていてお客さんも多く、じっくり見て歩き回るのはちょっとできなかった。
オーダーしたのは、カフェ(エスプレッソ)6ユーロと、カプチーノ8ユーロが2つ、10ユーロのケーキを2つ。イタリアの他のカフェと比べると高いけど、日本のちょっと高級な喫茶店を思えば、想像していたほどは高くなかった。10ユーロのケーキはちょい高いかなと思ったが、結構大きかったし、しかも、見た目よりずっと美味しかった!
カフェ・グレコで一休みした後、スペイン広場の方に出てみると、相も変わらずの人だかり。あいやー。スペイン広場ってわりと素敵だけど、なにゆえにここまでの人々を集めるのだろうか。さすがに母も「ちょっと人が多いね…」とつぶやく。もう少し遅い時間になったら、人足も引くかもしれない、ということで、先に、近くのポポロ広場の方へ行くことにした。
スペイン広場とポポロ広場を結ぶバブイーノ通りは、いつも観光客が多く、ごった返している通り。ローマで、人ごみがすごいのは、やっぱりスペイン広場を含んだここらへん一帯がナンバーワンだと思う。見どころの多いローマで、なぜこの一帯が一番人が多いのか、やっぱりわからないなあ。もともと地元民もたくさんいる場所なのかなあ。
で、ポポロ広場に出ると、がーん。双子教会が修復中っ!双子のお兄ちゃんだか弟だかがすっぽりカバーに覆われていた。私と姉は3年前にこの双子見たからいいけど、母は残念無念だった。この双子教会、なかなかかわいいのですよ。きのこみたいで。
まあ、気を取り直して。広場の北側にあるサンタ・マリア・デル・ポポロ教会に入ろう。
だいぶ暗くなってきましたな。
このサンタ・マリア・デル・ポポロ教会にはカラヴァッジョ作品があるのだが、3年前に姉と私が入った時、ちょうどミサ中でカラヴァッジョ作品のエリアが立ち入り禁止になっていて、姉と私のタイムリミットのギリギリにミサが終わったため、カラヴァッジョ作品が一目しか見れなかったのだ。(詳しくは2010年の旅行記→私待つわいつまでもカラヴァッジョ)それで、次にローマに行ったときは、ぜひじっくり見たいと思っていたのである。
ポポロ教会の中に入ると、よしっ!今回はカラヴァッジョ作品のある礼拝堂に立ち入れそうだ!礼拝堂前は、すでに観光客の人だかりができていた。ポポロ教会に入ってくる人達のほとんどは、カラヴァッジョ目当てなのである。
カラヴァッジョ作品は、左が「聖ペテロの磔刑」、右が「聖パウロの回心」。聖ペテロも聖パウロもローマの守護聖人である。この礼拝堂はカメラ撮影禁止なので、画像はナシよ。
「聖ペテロの磔刑」は、イエスの12弟子の中で、リーダー的存在だったペテロが、イエスの死後に布教活動をしたところ、ネロ帝の迫害を受け、処刑される場面を描いたもの。イエスと同じ形で十字架に張り付けられて死ぬのはおこがましいと、ペテロが自分を逆さに張り付けてくれ、と頼み、逆さづりで磔刑されることになったのだ。
そう聞くと、聖ペテロがさかさまに張り付けられている絵を描いてしまいそうだが、このカラヴァッジョ作品は、聖ペテロが、十字架に張り付けられて、今まさにその十字架をさかさまにしようとしている瞬間だ。十字架をロープで引っ張り上げている男、十字架を下からひっくり返そうとしている男、その作業中の者たちの顔は見えないが、実に重たそうに持ち上げていてリアルである。まるで罪の重さ、みたいだぜ(カッコいいぜ私)。
「聖パウロの回心」は、数あるカラヴァッジョ作品の中でも、私が好きなひとつである。聖パウロは、もともとはキリスト教を迫害する側の人間だったが、突然イエスの幻影に「なぜ我々を迫害するんだね?」と呼びかけれられ、その後キリスト教へと回心する。ここで描かれているのは、イエスの幻影と、天からの光に驚いて、落馬している場面。
落馬した聖パウロが地面にあおむけに寝転んで、両手を伸ばしている、そのポーズが何とも良い。両手を広げ、まるで希望を手の中に抱こうとしているかのようだ。また、聖パオロはこの出来事で一時的に目が見えなくなってしまうのだが、目を閉じているその表情も非常に素敵である。鑑賞者の側にお尻を向けている、聖パウロが乗っていた馬も、何とも印象的に描かれている。いやー、やっぱり良いなあ!今回、じっくり見れてヨカッタ!
このポポロ教会では、ベルニーニの彫像も見ることができる。一つが、パイプオルガンの下にいる、エレガンス天使とちび天使。
ちょっと見つけづらいのだが、右側の廊下の突き当たり、パイプオルガンのちょうど下の部分である。
左の女性的な天使は実にエレガンス!右のちび天使は、オルガンを支えているようなポーズを取っているけど、コレ確実にこのちび天使が支えるのは無理だろう。支えているフリをしているってとこかな。このちゃっかりしたちび天使かわいい。
もう一つベルニーニ作品を見ることができるのが、ラファエロが設計したことで有名なキージ家礼拝堂。「獅子と預言者ダニエル」「預言者ハバクク」の2作品がある。
こちらはおそらく「預言者ハバクク」の方。ハバククという非常に愉快な名前の預言者はともかく、天使かわいー!ちょっとだけサンタ・マリア・デッラ・ヴィットリア教会の「聖テレーザの法悦」の天使と似ている。ベルニーニ作品の特徴は、何だか触ると柔らかそうなところだ。この天使も、二の腕とか触るとぽよぽよしてそうだ。この質感を鑑賞者に与える力はスゴイ。
我々がキージ家礼拝堂を見てる途中で、カラヴァッジョの礼拝堂からは観光客が追い出され、ミサの準備が始まった。ほえー。3年前もミサ中だったし、ポポロ教会はミサが多いのだなあ。ミサが始まるとカラヴァッジョ作品は鑑賞できなくなるので、カラヴァッジョの礼拝堂が開いている時は、まず先に鑑賞を済ませておいた方がよいってことね。
ポポロ教会を出るともう真っ暗だった。スペイン広場に戻ると、夜だというのに人ごみはほとんど減っていなかった。減ってるどころか、光るおもちゃを売る人たちがたくさんいて、彼らがデモンストレーションに投げ上げるおもちゃの光が、ちらちら、ちらちら、と飛び交っていた。人口蛍だね(イヤ、これは最大限のいい表現だな。蛍のような風情はない)!ねっ、お母さんや、スペイン広場はもう諦めようぜ。というわけで、母とスペイン広場の撮影だけサササっと済ませた。
だが、姉と私が、こんなことをするためだけにスペイン広場に戻ってきたと思ったら大間違いである。スペイン広場近くに、ローマで一番美味しいと評判のティラミスを買えるお店があるのだ。その名はポンピ!ボンビーに響きが似ているので、何だか親しみ感じちゃうね!
店内は英語がバッチリ通じた(まあ私の英語はバッチリとは程遠いのだが)。しかも、持って帰りやすいように、箱詰めされたティラミスなのだ。プレーンといちごを買った。フフフ。ローマナンバーワンのティラミスげっとぉ!
このティラミスをぶらさげて、ホテルまでまあまあある道のりを、ローマの夜景を見ながら歩いて帰った。ただ、サンティニャツィオ教会→パンテオン→ナヴォーナ広場というルートが3日連続だったため、ゼイタクにもその風景に慣れてしまい、パンテオンにさしかかっても、誰もパンテオンを振り返らないという事態に陥った。そのことにハッと気付いた私は、パンテオンを振り返ってみた。パンテオンには文字が書いてあるから読んでみた。アグリッパだった。アグリッパ。何か響きがイイねアグリッパ。
ホテルに帰りつく前に、明日のパンを買うためにパン屋さんに入ったら、店員さんに、目ざとくポンピの袋が見つかって、「うわー!ポンピ買ってる!うらやましい!私も先週食べたけど!」などと言われた。ほおー!そんなにおいしいのか、ポンピ!こりゃ、期待大だね!
これがポンピ。さっそくこの夜に食べたよ!
あのね、ものすごく美味しかったよ!最も心に残るティラミスとなったよ!箱が大きいけどね、美味しいからね、一人一箱ペロッと食べられるよ!まじヤバイよポンピ。これ食べかけなのだけど、あまりに感動したから撮影しちゃったよ!
というわけで、スペイン広場近くなので、広場の近くに行ったら、必ず買って帰ることをおすすめします!確かスプーンもついていたから、キッチンのないホテルに宿泊する人でも食べられるよ!ポンピばんざい!ポンピ!ポンピ!