3/5ラヴェッロ旅行記 断崖に微かなさざ波の気配
本日の午後は、バスに乗ってラヴェッロに行くぞ!
アマルフィ海岸のバス切符は時間制である。45分券が2.4ユーロ、90分券が3.6ユーロ。他に一日券7.2ユーロもある。時間制と言われても、どこからどこまでが何分かかるか、観光客の我々にわかるわけがないのだが、切符売り場で、どこに行きたいか、片道か往復かを告げると、該当する切符を売ってくれるから心配ない。アマルフィからラヴェッロまでは45分券であった。
切符売り場のおばあちゃんが、親切にバス停も教えてくれた。海を背にして、一番右側にあるバス停から、ラヴェッロ行きのバスは出る。
バスを待っていると、急に日本人のカップルが、ウェディング姿で現れてビックリした。カメラマンさんが帯同していたので、新婚旅行での写真撮影かな?そのまま砂浜の方へ行って、撮影していた。やっぱり日本でのアマルフィ人気は、かなり高まってるんだなあ。
しばらくすると、緑色のバスがやって来た。バス停にいた人々の多くが、バスに乗って行くので、つられて我々も乗ろうとすると、おじいさんに「違う、違うよ!これは僕たちのツアーバスだよ!」と言われた。姉は、違うおじいさんに「イヤ、乗って行けばいいさ!僕のヒザに乗ればいいよ。ハハハハハ!」とジョークもかまされた。どうやらイタリア人のシニア団体のツアーらしい。
みんなこの出来事に大受けして、バスが出発するときも窓から手を振られた。おじいちゃんおばあちゃんに、楽しい話題を提供してしまった我々だった…。
ちなみにコレがラヴェッロ行きのバスが来る(予定)のバス停。
まっ、イタリアではよくあることなのだが、バスの時刻表の予定時刻を過ぎても、ラヴェッロ行きのバスは来ない。ここのバス停にいる人々は、全員ラヴェッロに行きたい観光客のようだ。皆、バスが来たら、フラフラ~とバスに寄って行ったが、運転手さんに「このバスはラヴェッロ行きじゃないよ!ラヴェッロ行きは5分後に来るよ!」と言われ、またわらわら~とバス停に戻った。…3回くらいこの繰り返しだった。
5分たっても、当然のことながらラヴェッロ行きのバスは来ない。イタリア人の5分は、15分くらいだからなあ。ようやくラヴェッロ行きのバスはやって来たが、終点はラヴェッロでなかった(SCALA行き)。まあ、ほとんど乗客はラヴェッロに行く人たちだから、ちゃんとラヴェッロで降りられるだろう。
バスは、この「ラヴェッロはこちら」という看板がある道を、うねっと曲がり、ここからひたすら坂道をぐるぐる上って行く。
乗客のほとんどは観光客だったが、一番前に座っている青年と、途中から乗ってきて、フロントガラスのすぐ近くに腰を下ろした学校帰りの少年は地元民らしく、運転手も交えて、サッカークラブのナポリの話を始めた。話と言うより議論だった。アマルフィ海岸あたりの人々も、ナポリを応援するんだなあ。
イタリア人男性ってのは、本当におしゃべりである。男は寡黙なのがシブい、という観念はないのかもしれない。イタリア人男性のおしゃべりは、聞いているだけでおもしろい(ウルサイ時もあるが)。誰かがしゃべり終わると、間髪入れずに誰かがしゃべり始める。まるで、何かの掛け合いのようだし、次にセリフを言う人が決まっている演劇のようにも見える。ある意味芸術の域に達している。
バスは30分ちょっとくらいでラヴェッロに着いた。運転手さんが、ラヴェッロに着いたらすぐ、車内の乗客に向かって「ラヴェッロだよー!」と教えてくれた。
さて、高い所に来たぞ!眺望自慢の町・ラヴェッロだが、あいにく、午前中は晴れていた天気が、雲が多くなってきてしまった。おろー。まあ、最高のコンディションではないかもしれないが、ラヴェッロを楽しもうっ!
もう午後3時頃だったので、明るいうちに、まずはパノラマを見よう、ということになった。一緒のバスで到着した人たちは、ほとんど、バス停から近い、ドゥオーモ広場に入口が面しているヴィッラ・ルーフォロというパノラマスポットに入って行ったが、我々は、雑誌で見た感じだと、町の南端にあるヴィッラ・チンブローネの方が断崖絶壁感が半端なさそうだったので、先にそちらの方に行くことにした。
シーズンオフのためか、ほとんどのお店は閉まっていて、閑散とした通りをひたすら南へ、南へ行く。有名な音楽祭が開かれるラヴェッロは「音楽の町」と言われるが、音楽どころか、ほとんど何の音もない静かな道。ひたすら、ひたすら一本道を歩く。
5分10分歩いたところで、見えてきた。
ヴィッラ・チンブローネの入口。右下にある黒いカタマリは、実は黒猫ちゃん。入口は、なんだかさびれた遊園地みたいなんだけど、だ、大丈夫かなあ…。
風情たっぷりのお屋敷が現れて一安心。雰囲気の良いこの辺りは、まだ入場券を買わなくても入れる場所だ。
この先に切符売り場があった。お値段は6ユーロ。切符売り場のおねえさん以外人の気配はなく、貸し切りかな?と思ったその時、でっかい犬が走り寄ってきた!しかも姉と私のことは無視して、母にすり寄ってきた!私はネコ派なので、この犬さんが、何という種類の犬かはわからないが、人の…イヤ犬の良さそうな顔をしていた。何となく「たけし」と名付けた。ラヴェッロ・たけし。
ヴィッラ・チンブローネは、もともとは11世紀くらいにできた貴族の別荘で、19世紀にイギリス人が改装したものなのだそうだ。雰囲気の良い庭園が続き、お花が咲くシーズンだったら、この庭園そのものをじっくり鑑賞するのもよさそうだ。今日は、午後から日帰りでラヴェッロに来て、それほどはゆっくりもしていられないので、取り急ぎ眺望スポットへ行くことにした。この写真の道を真っ直ぐ行くと、もう眺望スポットである。
ココ!この胸像がずらーっと並んでいるテラスで、鉄の柵がある部分は、さらに海の方へせり出している。海へせり出している部分に足を踏み入れると、………コワイっ!
だって、この断崖絶壁ーッ!!!何か鉄の柵も頼りないし、こここれはコワイよ!母はへっちゃらで柵に寄りかかり、「わー。海と崖の景色がイイねえ~」とのたまい、「ちょっと、お母さんッ!!!マジな話、その柵によりかからないでッ!!!」と、姉をキレさせていた。姉は、昨年行ったマテーラの展望台でもこういうキレ方をしていたので、実は高所恐怖症なのかね。
私は、へっちゃら母と、ひきつり姉の中間位の感じで、おそるおそる下をのぞいてみた。やっぱりコワイ。怖いんだけど、震える手で、柵からカメラを出して、下の風景を撮ってみた。姉が後ろで「ちょっと!カメラ落とさないでよね!!!」と声を上げたが、大声出されたらかえってビックリして落としちゃうよ!
これがその写真。私の手は震えていた。よく撮った。
ほとんど貸し切り状態だったヴィッラ・チンブローネだが、この展望台のところに、一人の人がガイドする形で二人の男性がやって来たので、3人で写真を撮ってもらった。ガイドっぽい人は、しきりに左手の方の風景と一緒に撮影したがった。左も右もキレイだけど、左の方の海岸線の方が有名なのかもねえ。
ヴィッラ・チンブローネの、眺望スポット以外のところもゆっくり見たい気持ちはあったが、時間がなくなったらいけないね、と、眺望を楽しんだところで、元の道を戻ることにした。
戻っている途中で出会った猫ちゃん。
もひとり猫ちゃん。アマルフィ海岸は猫ちゃんが多いことで有名らしいのだが、我々の滞在中は、あまり天候がよくなかったためか、あまり出会わなかった。その中で、ラヴェッロは唯一猫ちゃんにたくさん出会えた町であった。
人間とは、ほとんどすれ違わなかったが、途中ですれ違ったおばあさんに、「日本人でしょ?私の孫は日本語を勉強しているのよー」などと捕まり、なかなか解放してもらえなかった。それにしても、この年のイタリアでは、日本に行ったことがあるイタリア人とか、自分の家族や友達が日本語を勉強しているイタリア人とかに本当によく遭遇した。イタリアで日本がブームなのか?
ドゥオーモ広場に戻ったところで、ドゥオーモ前のバールに入って一休みした。ここしか開いてないからね。シーズンオフだね。
さて休憩後は、ドゥオーモに入ろう。実は、私がラヴェッロの眺望と同じくらい楽しみにしていたのが、このドゥオーモである。へんちくりんなモザイクが拝めるはずなのだ。
中に入ると…左側の通路の方に…
あったー!へんちくりんモザイクっ!これは、最高級にへんちくりんだよっ!
左のドラゴン。全裸のオヤジを丸のみしてるよー!
しかもオヤジ、結構おちついてるっ!「じゃ、ちょっと行ってくるわ」くらいのノリだよ、コレ!
その下の方で、何か「エヘ、エヘ…」みたいな、卑屈な笑みを浮かべている魚。何なの?本当に何なの?モザイクって結構作るの大変だと思うんだけど、何でわざわざ大変な思いをしてこんなもの作った?ま、後から見る者としては、面白くていいんだけどさ!
右の方のモザイクは、人が頭から飲まれてるよ。あーれー。残酷なシーンのはずなんだけどね。何だかギャグにしか見えないのはどうしてなんだろうね。でもね、笑いをかみ殺しながら我々見てるけどね、よく見ると、ドラゴンの色合いが、めっちゃ美しいんだよ!玉虫色だよ!というわけで、これは芸術なのだ。
右側の方にもモザイクで飾られた説教壇がある。ちっちゃいライオン君たちが支えているねじれた柱がかわいらしい。
側面の方がびっしりモザイクで飾られていて、いろいろな動物や、架空の生き物が描かれている。
竜虎激突ー!と言いたいところだが、左側はライオンだね。西洋美術では、よくこうやって二本足で立ってるライオン見かけるのだが、どうしてだろうか。どうでもいいけど、左側のライオン君に吹き出しをつけるなら、「あちょー」って言わせるのが正解だね(本当にどうでもいい)。
あとこういうナウシカのパクリみたいなヤツとか。(パクリじゃねえよ!ナウシカより古い時代のものだよ!Byモザイク)
お花を口にくわえた、飛べない鳥みたいなエキゾチックな鳥さんとか。
ニワトリとか。
この鳥さんは、母がじーっと見た後、「この鳥は……ニワトリじゃなくて………普通の鳥だよ!」と断言した普通の鳥。ニワトリ以外の鳥って普通の鳥なんだ、へー。ニワトリって、そんなに特別な鳥なんだ、へー。
↑母にとって、鳥とはこのように認識されていることが、ここラヴェッロで判明した。
さて。まだ少し空も明るいようだし、最後にヴィッラ・ルーフォロに入ろう。ヴィッラ・ルーフォロも眺望スポットなのだが、最初に入ったヴィッラ・チンブローネよりも少し標高が低いため、ヴィッラ・チンブローネに入ったら、別に入らなくてもいいんじゃない?と思い、後回しにしていたのだ。
開館時間は日没まで、というあいまいな営業なのだが、切符売り場のお姉さんに聞くと、今日は6時に閉めるとのこと。あと1時間あるから、じゅうぶんだ。お値段は5ユーロだった。
お庭自体もなかなかキレイなんだけれど、とりあえず眺望を観に行った。眺望スポットは2カ所あって、まずは、有名なワーグナー音楽祭の開かれるテラス「Il Belvedere」。
おっ!こっ、これはっ…期待以上に美しいっ…!確かにヴィッラ・チンブローネよりも標高が低い分、海が近くに見えるが、近い分、海岸線がしっかりと見えてキレイだ!おー!こっちも入ってよかった!
さらに、このテラスの下の方の庭園に行けるので、そこでゆっくりと、日が暮れていくアマルフィ海岸を眺めた。
少しずつ、町の灯りが点き始めた。晴れていなくて、最高のコンディションでなくてもこの美しさ。天気が良ければどれだけ美しいだろうか。いやー、ラヴェッロは、実際来てみるまでは、写真で見て「そんなにキレイかな?」と思っていたが、写真よりもずっとずっと美しい眺めである。ヴィッラ・チンブローネの方が「圧巻の眺め」、ヴィッラ・ルーフォロの方が「美しい眺め」という感じだ。どっちも行くべきだよ!
ここヴィッラ・ルーフォロからは、海岸線に静かに打ち寄せる波まではっきり見えた。ラヴェッロはワーグナーコンサートで有名なため、「波の音も届かない高台の音楽の町」とよく言われるが、私には、波の音が聞こえる気がした。これは空耳なのだろうか。それともかすかに耳に届いているのだろうか。どちらにせよ、この町は、音楽の町にふさわしい。静かに打ち寄せる波を見ていると、音楽家の心の中には、自然とハーモニーが湧き上がってくるのではないか。
美しい風景を見た後に、ヴィッラ・ルーフォロで見た、…サル?姉いわく「どう見たらサルに見えるのよ!?ライオンでしょ!たてがみもあるし!」。ラ、ライオンかあー。
というわけで、美景、ファンシーなモザイク、美景、と満足しきって、バス停まで戻った我々。バスは、何と定刻の10分前に、「もう行っちゃっていいかな?」みたいな感じで出発した…。もうアマルフィ海岸のバスって、マジで行き当たりバッタリだよ!
バスの中では、行きのバスでも同じだったイタリア人家族の話し声が聞こえた。「パパー、明日はどこ行くのー?」「明日はポジターノだよ」。…我々と一緒だね。帰りは、くねくね道をずーっと下って行って、私は途中で少しだけ酔ってしまった。
だが、姉いわく、このバスの運転手さんは運転手の鑑で、お客さんが乗ってきたら、椅子に座るまでちゃんと車内の電気を点け、しかも座るまではバスを出発させない、という実に紳士的な運転をしていたらしい。それで、姉は、バスを降りる時、この運転手さんに「グッドドライバー」と声をかけ、運転手さんは嬉しそうだった。
…でもね、姉、大切なことを忘れているよ。この運転手さん、定刻より10分も早く出発しちゃったんだよ…。