3/13ペスカーラ旅行記1 幻のマルゲリータの果てに
サン・ヴィート海岸からペスカーラに帰ってきた我々。
ペスカーラは、現代的な雰囲気の町で、歩いている人たちも都会的だ。日本とあまり変わらない感じがして、どこか安心して歩ける町である。
駅から徒歩5分もかからないくらいのB&Bに戻ってきた。
「Suite269」という名前の、できたばかりの新しいB&B。センスがよく、過ごしやすい雰囲気のインテリアだ。
一応、かなり簡易なキッチンもついているのだが、今回は2泊なので、キッチンは使わないことにした。そういうわけで、今日の夜は外食である。
チェックインの時に対応してくれた若い男性オーナーによると、今日は月曜日なのだが、残念ながらペスカーラのレストランは、ほとんどが月曜日が定休らしい。
そんな中、彼は「ちょっと高級だけどおすすめのレストランがあります」と言い、「レジーナ・マルゲリータ」というレストランをペスカーラの地図に書き込んでくれた。「このレストランが月曜日も営業しているか、調べてみます」と言って、自らのスマホで調べてくれた。
最初、「すみません、なぜかメディカル・センターしか出てきません…」と言って、四苦八苦していた彼だが、しばらくして、「見つかりました!今日は開いてます!」と笑顔を見せた。彼の笑顔がまぶしかったから、我々は今夜は、「レジーナ・マルゲリータ」で食事をすることに決めた。
ペスカーラの町は、新しくてまっすぐな道路が続く。地図は見やすく、ほとんど迷うこともない。それで、彼が地図にマークしてくれた場所までスイスイ歩いて行ってみた、のだが、レストランらしきものはない。あっれー。
まあ、イタリア人が地図を読めないってことはよくあることだ。経験と感覚だけで歩いている地元の町は、いざ地図を見せられると意外とわかりにくいものなのかもしれない。彼の口ぶりだと、「レジーナ・マルゲリータ」は、ペスカーラで有名そうなお店だったので、道行くペスカーラ人に聞いてみればわかるだろう。
そこで、通りかかった若いカップルがいたので、「すみません、このあたりにレジーナ・マルゲリータというレストランはありますか?」と聞いてみた。
カップルは顔を見合わせた。しばらくして、男性の方が、「ああ!レジーナ・マルゲリータ!この筋をまっすぐ行って、二つめの角を曲がったところです!」と教えてくれた。ちなみに、彼が指示した場所は、地図にマークされた場所とは、全然違う場所であった。
グラーツィエ、とお礼を言って、彼の言う通りに行ってみたが、「レジーナ・マルゲリータ」など存在しなかった。
…ぽかーんと顔を見合わせる我々。そうそう、こんな時のために、タブレットなるものがあるわけよ。しかも今回は、外でもネットにつなげるように、海外用のSIMカードも入れてあるわけよ!
それで、ペスカーラのグーグルマップを出してみたのだが、ペスカーラに「レジーナ・マルゲリータ」などというレストランは出てこない。どういうことだ…?
私は、鈍い動きの脳みそを回転させた。「…そういえば、ペスカーラのことを調べていた時に、『レジーナ・エレナ』というおいしいお店があるって見たことがある気がするんだけど、それと間違っているのかね?」。
でも、B&Bのオーナーは、わざわざスマホで調べて「レジーナ・マルゲリータ」と言ってたし、さっきのカップルの男性も、「レジーナ・マルゲリータ」という店を知っていたようだったぞ…?
これはいったい…と顔を見合わせた我々は、ほぼ同時に気づいた。「イタリア人は、道を適当に教えるんだった!!!」
スマホを見ていたオーナーは何を間違えたのか意味不明だが、少なくとも、さっきの男性は、彼女の前で、「観光客すら助けられないオレ」を演じるわけにいかなかったのに違いない!ああー!彼女連れの男性はカッコつけるから道を聞くとき信じちゃダメ!というのは、イタリアで道を聞くときの鉄則なのに、忘れてたよ!
(ちなみに、イタリア人が適当に道を教えるのは悪気があるわけではない。興味のある方は、こちらの記事も参照されたし→「イタリア人に道を尋ねると間違っていることが多い」のはナゼ?)
ここらへんで、我々は「レジーナ・マルゲリータ」のことは幻だと断定して、「レジーナ・エレナ」の方に行ってみた。しかし、B&Bオーナーの「ペスカーラのレストランは月曜日は休み」という情報だけは正確で、「レジーナ・エレナ」はお休みであった。あああ!どうするよ!
レストランの多くは開いていなくて、開いているレストランは、何だかアメリカーンな感じ。姉と私がアメリカーンなレストランに入るときは、本当に他にどこにも食べる場所がない時だけだ。
うろうろ歩き回っていたら、もう一つ開いているレストランを見つけた。
…SUSHI…。じゃ、じゃぱにーずれすとらん…。ちなみに「IL SUSHI A MODO MIO」とは、直訳すると「我々流の寿司だけど、何か?(全然直訳じゃないから!)」。
そっとお店をのぞいた姉は、「どう見てもアジア系の日本人じゃない人がやっている何ちゃって日本食だよ!こうやって日本食は外国で違う風なイメージを持たれてしまうようになるんだ!ダメダメ!」と言う。
ちなみに姉は、別に猛烈な日本食ラブな人ってわけではない。日本食に限らず、ローカルフードの何ちゃって版を許せない人なのだ。
しかし…お腹空いたなあ。「レジーナ・マルゲリータ」を30分以上も探したせいで、結構遅い時間になってきたし。タブレットで調べてみると、この「Casamaki」というお店、非常にネットでの評判がよい。私は姉を説得することにした。
「気持ちはわかるけどさあ、このお店評判いいから、きっとおいしいと思うよ。イタリアで日本食はどう食べられているかという、斬新な体験もできるじゃん。他の口コミのよくないお店に入るよりは、ここで食べた方がおいしいだろうし、面白いよ。入ってみようよ」。
私が風邪の治りかけという状態だったこともあり、姉はしぶしぶと承諾した。まったく何もかも、「レジーナ・マルゲリータ」のせいだ。
そして、我々がお店に足を踏み入れると…
大げさでなく、食事をしていた人々全員が、一斉にこちらを見た。そして、店に漂ったのは、「キターーーーー!」「本物の日本人が日本食レストランにキターーーーー!」「真打ちキターーーーー!!!」という声にならない声!!!私は、ネットスラングの「キターーー!」が、これほどまでにあてはまる経験をしたのは、後にも先にもこの時だけだ。
そして、お食事エリアから見えている厨房には「つ、ついに来やがった…」という、妙なピリピリした緊張感が漂ったのがわかった。「日本人が、我々流の寿司を査定に来やがったな…」。
食卓に着くと、目の前には割りばし。ここは中部イタリアのペスカーラであります。旅の意義って何だろう。いいんだ、旅とはオノレを見つめ直すものなのであるよ。
オーダーした、「ショウガ味の海藻サラダ」。日本で見る海藻サラダとは全然違い、ちょいとグロテスクであるが、しかし、美味しかったのだ。ショウガ入りだから、身体も温まるし!
そして、「ブラックタイガー・イン・テンプラ」という、巻きずしがコレだぞ!
いやー、こんなに派手派手な巻きずしを初めて見たよ!異文化での自文化発見!
どこのテーブルにも、このような派手派手な巻きずしが並んでいた。皆、派手派手巻きずしと一緒に写真撮影をしたり、お箸を手に持ってポーズを取って写真撮影したりしている。…なぜ、私はイタリアで、疑似日本体験しているイタリア人に取り囲まれているのだろうか。
しかし、姉が一目見て絶句したこの派手派手巻きずし、アボガドとアーモンドが、明らかに日本米でない細長いライスによくマッチしていて、非常に、美味しかったのである!要するに、創作和食である。これが「我々流の寿司だけど、何か?」ということなのね。
それにしても…。我々は、他のテーブルの客から、ひじょーに、ひじょーに、注目を集めていた。つまり、皆、我々の食べ方を見て、お箸の使い方をマスターしたいようなのである。皆、お箸の使い方には非常に苦労していて、お箸をスプーンのような使い方をして食べている人もいたくらいだ。
だが、みんな、許してくれ!姉や私のお箸の使い方は、ぜんっぜん正しくないのだ!私、「正しい作法より自分がやりやすい方法を重視する派(どんな派だよ)」なので、食べやすいように食べてるだけなのだ…。我々に「何ちゃって日本食」を憂う資格などなく、我々自身が「何ちゃって日本人」だった件…。
〆は鶏の照り焼きだよっ!ワカメ添えって書いてあったけど、ちょっとワカメちゃんに見えないね。いいんだよ、ワカメちゃんもいろいろなんだよ。しかし、照り焼きソースって、日本食の代表なのね。この鶏の照り焼きも美味しかったんだよ。
こちらは、割りばしの袋の裏。いやー、美味しかったよ、ごちそうさまでした。
そんなわけで、ペスカーラの初日の夜は、まさかの、イタリアの日本料理レストラン体験となったのである。