アテネ旅行記3 コリント式神殿の優雅
アクロポリスから下ると、すぐ目に入るのは、イロド・アティコス音楽堂である。161年に建築されたものということだから、時代で言えば、都市国家アテネの黄金時代は過ぎ、ローマ帝国の支配を受けている時期であろう。
西洋史が不勉強な私には、どうにもローマ時代のアテネというものは、全く想像することができない。というか、アテネを歩いていると、古代ギリシャ時代ではなく、ローマ時代に建造された遺跡も結構ある。ローマ時代も、それなりの都市として繁栄していたということなのだろうか。
こうやって実際にアテネに来るまでは、アテネで見られる遺跡の全てが古代ギリシャ時代のものだと思っていたので、驚きである。
こちらがイロド・アティコス音楽堂の外観…なのだが、残念ながら、中で何かイベントが行われていない時は入場することができない。残念。今でもコンサート会場としてよく使われているみたいなので、保存のため、あまり観光客を立ち入らせないってことなのかなあ。
中には入れないが、この音楽堂は、アクロポリスから、しっかり内部を見下ろすことができる。アクロポリスに上ったときに、その写真も撮影したのだけれど、驚くほど大した写真ではないので掲載はしない。
謙遜でも何でもなく、本当に私は写真がヘタクソである。上手くなる気すらあんまりないのは問題である。はやく上手くなる気を起こしたいものだ(「上手くなりたい」よりも前の段階)。
母がものすごく行きたがっていたのが、この音楽堂よりアクロポリス出入り口からは遠い所にある、ディオニソス劇場である。こちらは、古代ギリシャ時代に作られたものだが、ローマ時代に大改装してしまっているものである。
このディオニソス劇場も、冬場の日曜日は無料である。そのことを知っているのか、観光客だけでなく、散歩でぶらりと入ってくる地元のアテネっ子って感じの人達もいた。
さあ!ディオニソス劇場は、こんな劇場ですっ!
…イヤ、これじゃね、ただのお花畑ですよね。スミマセン、私、遺跡にお花が咲いてるのが好きでしてね、何コレっていう写真をよく撮ってしまうんですよね。
気を取り直して!これがディオニソス劇場ですっ!劇場って感じだね!
観光客が立ち入れないエリアには、いかにも古そうな石の椅子が置いてある。観光客に触らせないってことは、これらの椅子も遺跡の一部で、かなり古いものだと言うことだろう。
椅子の中でもかなり立派な感じの椅子。VIP席だろうか。何かギリシャ悲劇って感じがしていいね!(意味不明)
舞台の奥の方には、彫刻が残っている。ディオニソスの一生がでテーマなのだそうだ。
ちょっと遠目で見づらいけど、何となくミケランジェロっぽい彫刻だなあということはわかる。というか、ミケランジェロが生きたルネサンスの時代が、古代ギリシャの美を理想とした、ということがよくわかる。
ディオニソスはギリシャ神話の、豊穣、葡萄、お酒、酩酊、演劇などを司る神である。豊穣→葡萄の収穫→葡萄酒できるよ→飲んだら酔っぱらうよ→酔っぱらったような興奮を演劇では得られるよ、みたいな関連性かなあ。
ディオニソスと言えば、ローマ神話ではバッカス。
バッカスと言えば、私はどうしてもウッフィツィ美術館の、カラヴァッジョが描いた酔いどれの太っちょを思い浮かべてしまうので、乙女心にはあまり響かない神様なのだけれども、実はディオニソスはアポロンやヘルメスと同じようにイケメンで、髪の毛を葡萄で飾っちゃうオシャレさんなのだ。
おそらく、フィレンツェのバルジェッロ博物館のミケランジェロ作のバッカス像のほうが、本来のディオニソスのイメージに近いかもしれない(このバッカス結構ステキなのよ)。
アポロンの話が出た所で、ディオニソス、アポロンと来ると、どうしても思い出すのがニーチェの「ディオニソス的」と「アポロン的」の対比である。
アポロンが司どるのは、太陽、学術、医術、音楽、詩である。ニーチェによると、「ディオニソス的」なものは、ぶっちゃけ酔っぱらってるみたいな激情、感情、人間の本能みたいなもの、「アポロン的」なものは、まさしく理性的なものである。
おもしろいなーと思うのは、同じ芸術でも、演劇は感情…ディオニソス的なもの、音楽と詩は理性…アポロン的なもの、と分けられていることである。
演劇(フィクション、つまり作り物語)は感情で鑑賞するもの、詩…と言ってもこの時代の詩は叙事詩であろうから、言っちゃえばノンフィクションは理性で鑑賞するもの…というのはわかるけど、音楽が理性に属するというのは、現代人の感覚とは違う。
古代ギリシャの音楽ってどんなだったんだろうなあ。音楽は叙事詩との結びつきが深かったらしいので(吟遊詩人がいるように、この時代の叙事詩は歌われて口承するものだったらしい)、そこからアポロンの支配下とされたのだろうか。
…などということを、このディオニソス劇場に座りながらぼーーーっと考えた。何せお天気が良すぎるのである。ぼーーーーっ。
まあ、母はアテネでやりたいことのひとつが、ここディオニソス劇場でぼーーーとすることだったので、悲願達成できてよかったね…って、悲願て言い方はちとオーバーだったな。悲願じゃなくてタダの願い、ですな。どうでもいいですね。
私はと言うと、ここディオニソス劇場で演じられたかもしれない、ギリシャ悲劇とかギリシャ喜劇の本を、一冊でも読んで来ればよかったなーと思っていた。ソフォクレス(←世界史の丸暗記知識)とかそういうヤツ!
ホラ、この劇場で、その悲劇だとか喜劇とかの名台詞を口にしたりしたら、面白いじゃないですか(面白くありませんか?)。ウチの家族もそういうノリがよい方なので、ああ、読んで来れば面白かったなーと勉強不足を後悔(後悔するほどのことか?)。
全く日除けのないディオニソス劇場で、一か所だけパラソルの立っている場所があり、そこで休んでいる二人のおじさんがいたので、いいなあ、あそこに居たいなあと思ってたら、おじさんたちは係員さんだった。係員さんばっかり日除けパラソルずるい(無茶言うな!おじさんたちは何時間座ってると思ってるのか!)。まあ、しかし、ずーっと座っている仕事も大変よね。
おじさんたちには余裕で負けるけれども、結構長いこと我々もこの劇場でぼーっとした後、今日は何てったって「遺跡無料の日」なので、次に向かうことにした。「遺跡無料の日」にしては、ちょいとこの劇場に長居しすぎたね。無料デーは、なるべく多くの場所の入場すべきね。
…ってゆったり旅行をモットーにしているのに、無料を目の前にして、オノレ(のモットー)を見失っている私。欲に目がくらむのヨクナイ。
ディオニソス劇場を出て、ディオニシウ・アレオパギトゥ通りという、絶対に1回…イヤ10回聞いても覚えられない通りを歩いたのだが、ちょっとびっくりするくらい人が多かった。
…ていうか親子連れが多く、最初は、ギリシャの子供たちって、コスプレみたいな恰好をしてるんだなーと思っていたが、よくよく見てみると、コスプレみたいな恰好ではなくて、これ、コスプレじゃないか…?
通りには、この通り、日本の縁日みたいに風船売りなどが出てるし。さらによくよく見てみると、大人でもコスプレしている人がいるよ!…間違いない、コレ、何かの行事だなー。カーニバルかな?
帰国してから調べてみると、この期間はカーニバル期間にあたり、そのカーニバルの終わりを告げる「聖灰月曜日」という国民の祝日を翌日3月3日に控えた日だったらしい。この日は、仮装をした子供たちが、紙ふぶきを頭から振りかけられている姿をよく目にした。紙ふぶきを聖灰にたとえてたのかなあ?
で、このものすごい人ごみを抜けて、たどりついたのはフレスコ・ヨーグルト・バー!
ホラ、暑いしさ、ギリシャだしさ、グリーク・ヨーグルトを食べるよっ!
4つの種類があうヨーグルトの中から、昨日食べた「Traditional(伝統的なグリークヨーグルト)」を除いた、「Light(たぶん低脂肪)、「Creamy(クリーミー)」、「Sheep(羊乳)」を選んで、フルーツトッピングをかけてもらった。
残念ながら「Sheep(羊乳)」は美味しくなかった…というより、独特の味だったので、我々は誰一人舌に合わなかった。「Light」と「Creamy」は美味しかったけど、やっぱり、昨日食べた「Traditional」がやっぱり一番美味しかったなあ。
結構美味しいお店なのだが、母と姉は、「ホテルの朝ごはんで食べてるグリーク・ヨーグルトの方が美味しい」などとのたまった。…う…確かに、ホテル朝食のヨーグルトは美味しいんだよなあ…。でも、ホラ、ここは専門店で、町歩きの途中にヨーグルトが食べられるっていう利点もあるしさ!本当に、このお店美味しいっすよ!特に「Traditional」をおすすめしますです!
ヨーグルトを食べた所で、次に向かうはゼウス神殿。ホテルのすぐ近くにあるので、いつでも行けるのだけれど、ちょうど今日は無料デーなので入ろうってことになった。
ゼウス神殿の前には、ホテルからいつも見えている、このアドリアノス門がある。名前の通り、ハドリアヌス帝(ラテン語て確かHを発音しないから「ハ」が「ア」になる)の時代、つまりローマ時代の門。ここをくぐってゼウス神殿に行くのかなと思ったが、出入り口はこの門からではなく、タクシーがずらっと並んでいる通りからであった。
というか、この写真にもちゃっかり黄色の車が映っているが、ギリシャのタクシーは黄色で、それでもって異様に数が多い。先のギリシャの経済危機で、ギリシャの公務員の数の多さが話題になったが、アテネでは、タクシー運転手の数の多さも異様だと思う。大げさでなく、町を行く車の4割くらいは黄色のタクシーだった。
で、ゼウス神殿は…めっちゃエレガンスな神殿だったのだ!
こっ…この、繊細にしてエレガンスなコリント式の柱っ………!!!
もともとはこのコリント式の柱が、104本もあったのだそうだ。もーそれはそれは、エレガンス極まる風景だったことだろう。今では15本しか残っていないのだが、それでも麗しい限りである。
しっかし、104本中15本しか残っていないなんて…残りの89本は、どこの痴れ者が持って行きやがったのか…!!!キキキっ(←悔しがる私)!!!
それにしても、コリント式の柱は素敵だ~。質素なドーリア式、かわいらしいイオニア式もよいけど、私はやっぱり、ややセンチメンタル過ぎにも見えるコリント式が好きだなー。日本で言えばドーリア式=万葉集、イオニア式=古今和歌集、コリント式=新古今和歌集でばっちりシンクロしていると見た。歌集の擬柱化。あるいは柱の擬歌集化。
この麗しの神殿は、ゼウス神殿の名の通り、ギリシャ神話の全能神ゼウスに捧げた神殿なのだが、私のイメージだと、ゼウスは超金持ち浮気オヤジ(私が個人的に持っているイメージですよ!)なので、ワタシ的にはゼウスに捧げるのはちょいとモッタイナイ。この繊細な感じの美しさは、女神のアルテミスとかのイメージで、まだ男神だったらアポロンかヘルメスかなー。浮気オヤジにはモッタイナイ。
…だなんて、ゼウスに悪態ついている私だが、ゼウスのことは嫌いではない。ていうか、こんなに親しみやすい全能神もいないだろう。
ギリシャ神話が、宗教でありながら、どこか自由でのびのびとした雰囲気で芸術表現されるのは、この神々の人間くささ、親しみやすさと無関係ではないだろう。そして、そんな緩い宗教だからこそ、どちらかというと宗教性より理性のイメージの強い古代ギリシャの人々と結びついたのかなーと考えたりする。
ゼウス神殿の敷地内には、でかいズッキーニの輪切りみたいに、柱の輪切りがたくさん転がっている。ズッキーニの輪切りにしか見えない。私はお腹がすいているのだろうか。
ゼウス神殿の向こう側に、アクロポリスが見えるこの風景は、ギリシャ的、あまりにギリシャ的である。ゼウス神殿内に入ったら、ぜひ見てほしい風景だ。
ゼウス神殿ではもう少しゆっくりしたい気持ちもあったのだが、天気が良くて入場無料である今日のうちに、古代アゴラにも行っておこう、ということで、古代アゴラの方に向かうことにした。ゼウス神殿は宿泊しているホテルからすぐなので、またいつでも行ける、と思っていたのだが、案外この後のアテネ滞在は忙しく、再訪は叶わなかった。
というわけで、ちょっと消化不良感のあるゼウス神殿。アテネにもう一度行く機会があれば、もう一度じっくり見たいよ!コリント式大好きよ!