2/24ロコロトンド旅行記1 プーリア野菜の衝撃

目が覚めて、窓を開けると、広がるのはトゥルッリの街並みであった。おはようっ、アルベロベッロ!アルベロベッロではトゥルッリのホテルに、しかも旧市街(モンティ地区)の真ん中に宿泊するため、宿泊するだけでトゥルッリ体験、窓を開けるだけでトゥルッリの街並み体験である。

昨夜、夜遅く到着したので、今日が実質の旅行1日目である。自炊が中心となる我々の旅行では、ホテル到着日の初日は、まず食材を調達せねばならない。

アルベロベッロのあるプーリア州の、イトリアの谷と呼ばれる地域は、市場が各町を曜日ごとに移動して開かれる。アルベロベッロでは木曜に市場が開かれるので、残念ながら昨日であった。その代り、金曜日の今日は、隣町のロコロトンドで市場が開かれる。昨夜の到着で疲れていたのだが、姉は「絶対に今日、ロコロトンドの市場に行く!」と意気込んでいた。イタリアの市場で売られる野菜は、スーパーのものより美味しくて安いのだ。

姉の意気込みがわからんではないので、私も金曜のロコロトンド行きには同意していたが、何せ到着の翌日なので、母は一日休ませる予定だった(母は体が弱い)。

だが、母は言った。「お母さんも市場に行きたい」。私は即答した。「ダメ!お母さんは今日は休む日!」。しかし、姉は「市場に行くだけなんだから、一緒に行けばいいよ」と、母に甘かった。母を休ませる派は私一票、母を同行させるは母と姉の二票で、私の負け~。日本人はとかく多数決に弱い。多数決は民主主義のシンボル的存在ではあるが、必ず正しい結論に導くとは限らないんだぞー!(負け犬の遠吠え)

で、そんな多数決をしているうちに、アルベロベッロからロコロトンドへ行く電車の時間が迫っていた。イトリアの谷は、スド・エスト線という、ローカルな私鉄を使って移動するのだが、このローカル線が、本数が少ないことで有名である。日曜には完全休業してしまう、ハメハメハ大王の息子みたいなスド・エスト線(怠け者の私に、スド・エスト線を責める権利はなさそうだが)!一本電車を逃すだけで、大変な時間ロスになってしまうので、駅まで大急ぎで行くことにした。

が、到着初日のため、駅までの行き方がわからないっ!周囲の人々に聞きながら、駅まで急ぐ我々!駅にようやく到着したら、切符売り場は閉まってるし(まあ、イタリアではこれは想定内)!駅前のバールで切符を購入すると、もう電車はホームに入ってきていたので、切符に刻印する時間もなく、電車に乗り込んだ。イタリアでは切符に刻印せずに電車に乗るのはご法度だが、たった一駅なので、まあ検札もこないだろう。

スド・エスト線は、オリーブ畑の真ん中を走り出した。オリーブ畑の真ん中には、農作業用のトゥルッリがぽつぽつと点在している。天気も良いし、何てのどかで絵になる風景~!アルベロベッロみたいに街並みを形作っているとんがり屋根もよいけど、畑の真ん中にぽつんとあるとんがり屋根もよい~。

そして電車は停車したが、ドアは開かない。東洋人風の乗客がボタンを押してドアを開けようとしたが、開かなかったため、また座席に座った。ロコロトンドは一駅目なのだが、車内アナウンスもないし、おそらく駅に停車しているのではなく、線路の途中で停車しているのだろうと思い、我々も降りなかった。

電車が再び動き出すと、車窓から青い看板が見えた。「Locorotondo」と書いてある。…えーっ!?ロコロトンドっ!?今停まっていたのが、もしやロコロトンド駅っ!?しばらく走ると、後方に白い丸い町がそびえているのが見えた。まぎれもなく、ロコロトンドを通過しちゃってるじゃんっ!?

…甘かった。スド・エスト線は、イタリア国鉄のように、「○○に到着します」というアナウンスがないのだ!ボー然とする我々の車窓を、オリーブ畑とトゥルッリの奏でる風景が、軽快に通り過ぎる。私は、切符に刻印していないため、検札が来たらどうしよう…とハラハラし、心の中で、「リョコウシャナノデ、ヨクワカリマセンデシタ…」的な、たどたどしいイタリア語の言い訳を一生懸命考えていた(小心者)。

5分強くらいで、電車は次の駅に到着。ほっ、よかった…検札は来なかった。私は検札を心配していたが、姉は、すぐにロコロトンドに戻る電車があるかどうかを心配していた。何せ、本数の少ないスド・エスト線。この場合、姉の心配の方が、私の心配より何だか旅人的に格上だった。

ラッキーなことに、奇跡的にすぐに発車する、反対行きの電車が待機していたため、この駅の刻印機で刻印してから、電車に乗り込んだ。ちなみに、「次の駅」とは、マルティーナ・フランカであった。マルティーナ・フランカにも後日行く予定なのだが、思っていたよりもずっと、アルベロベッロから近かった。

ふう…ってなわけで、無事にロコロトンド到着っ!傷は浅かったっ!

市場は旧市街で開かれるので、駅から出て、マルティーナフランカ方面に少し歩き、トゥルッリが見えたところで左折し、旧市街に向かってぽちぽち上る。5分くらい上ると、旧市街に入る前に、既に市場が見えた。洋服とかばっかり売っているけど、奥の方から野菜の袋を大量に持った人々が出てくるので、おそらく奥の方に野菜市場があるのだろう。

奥の方に行ってみると、ビンゴ!野菜市場が広がっていた。

ロコロトンド市場

週に一度の市場ということで、地元民が大量に大量に野菜を買い込んでいる。我々も、ここで5日分の野菜を調達するつもりなので、負けじと(いや、余裕で負けてたな)買い込む。姉と母が料理係なので、二人に野菜選びをまかせて、私はつたない通訳係。鼻息荒く野菜を選ぶ母を見て、やっぱり連れてきてよかったかも、と思った。

市場の野菜は元気で光り輝いていた。野菜売りのオッチャンに、「日本人だろう?ここにあんた達の野菜があるぜ!」と言われて見ると、白菜だった。すげー!こんな南イタリアの片隅で、白菜に出会えるとは!コロンブスから数世紀を経て、地球も狭くなったね、こりゃ(どこの老人だ)!

他の野菜売り場では、いきなり「チェリー買っていきなよ!」と言われた。「果物じゃなくて野菜が欲しいんです」と断ると、すっごくさびしそうな顔をされたので(本当にさびしそうだった)、「じゃあ、3粒だけ買います」と言うと、「いいよ、もうタダであげるよ」と、袋に5粒入れてくれた。オッチャン、ありがとう!

野菜を吟味していると、いきなり姉がイタリア人のおばさん二人組に肩を叩かれた。振り向くと、「まー、素敵な帽子ねー!」と、姉の被っているリボン付きの帽子に興味津々。おまけに、母を見て、「あなたがママでしょう!」と、絡まれた。こんな連中には、観光地ではスリなどに注意しなきゃならないのだが、ここロコロトンドでは、本当にタダの地元の人。プーリア人は人なつこい。

野菜を一通り買ったので、野菜だらけの大きなビニール袋を大量にぶらさげたまま(もちろん母は手ぶら)、少しだけロコロトンドの旧市街を見て回ることにした。とりあえず、白い旧市街に踏み込んで、ドゥオーモに向かって歩いてみる。

ドゥオーモさんはこちら

ロコロトンドドゥオーモ外観

青空によく映えている。

ロコロトンドドゥオーモ内部

内部も白くて清潔な印象。窓から差し込む光で、淡くクリーム色に輝いていた。

このドゥオーモ鑑賞あたりで、若干母が無口になってきた。疲れてきたのだろうか?時間もお昼に近づいてきたので、お昼ご飯を食べることにした。姉が、あらかじめ調べておいた、市場とは反対側の方にある、「La Taverna del Duca」という、お店に行ってみた。ちなみに「Taverna(タベルナ)」とは、イタリアでよくカジュアルなレストランにつけられる名前で、日本人から見ると、レストランで「食べるな」と言われても、と突っ込みたくなるイタリア語である。

で、このタベルナ、行ってみると、盛大な工事中でお休みであった。あーれー。イタリアではよくあることである。

さて、どうするべ。こんな小さな町で、他のレストランにありつけるかな?ドゥオーモのあたりが、旧市街のメインストリートっぽかったので(小さくて売店がちらほらあるだけの通り)、戻ってみると、トラットリア(こちらもカジュアルな食堂)があったので、入ってみた(ていうか他にお店ないし!)。

ドアをあけると、入口近くで3人のおっさんがだべっていた。「開いてますか?」と聞くと、「うん、まあ、いいや」みたいな感じで、おっさんの一人が、席に案内してくれた。…客が私たちしかいないし!その案内してくれたおっさんいわく、「妻がコックなんだけど、もうちょっとしないと帰ってこないんだ。それまで待っててもらえる?」とのこと。他にレストランないし、待つしかないさね。

そのおっさんはそそくさと我々の前でエプロンをしながら(ちなみに残りの2人は「チャオ~」と帰って行った)、「オレキエッテ(=プーリア特産のパスタ)でいいかな?」と聞いてくる。ちょっと待て!メニューがないところで注文して、後で莫大な金額を請求されるというのが、典型的なイタリア旅行でのレストラン詐欺ではないか!ってなわけで、「メニューもらえますか?」と聞いてみると、「メニューはないんだ…」とのお答え。んなバカな。

レストラン内を見渡すと、壁の隅っこの方にメニューが貼ってあるのを見つけたので指さすと、「うん、あれは貼ってあるだけで、毎日できるメニューは限られてるんだよ~」とおっさんは言う。メニューには料金が書かれていたので、とりあえず、あのメニューの近くで話そうぜ、ってなわけで、私はおっさんとメニューを見ながら交渉。交渉の結果、値段を確認しながら、オレキエッテと、サラダと、ここの特産の何か豚の肉巻きみたいなものを注文することになった。

おっさんが出してくれたパンと、パプリカのマリネみたなものを食べながら、コック(奥さん)の帰りを待った。うん、なかなかこのパプリカおいしいよ。やるな、ロコロトンド。しばらくすると、奥さんが帰ってきた。おっさんが「待ってたんだよ~。もうお客さん来てるんだよ~」と奥さんの後をついていく。奥さんは、ウン、ウン、とクールに頷いている。…なんか夫婦の力関係見えちゃってるぞ?

しかも、奥さんが手に提げているビニール袋、たった今私たちが行ってきた、市場の野菜売り場の袋だし!アレを私たち食べるんだな…。何だか、本当にホームメイドだな…。

まずはサラダっ!ただの生野菜なんだけど、異様においしい!何だ、これはっ!さっきあの市場に並んでた野菜であることは間違いないんだけど、異様においしいっ!にんじんがにんじんだよ!(意味不明)

それから、おっさんが「ピアーノ、ピアーノ」と言いながら、及び腰でオレキエッテを運んできた。「ピアノ」とはイタリア語で「ゆっくり」と言う意味なんだけど、「落とさないようにゆっくり運ぼう」と、オノレを戒めているのろうか。落としたら奥さんにしばかれそうだしな…。

オレキエッテ

これがオレキエッテ。通称耳たぶバスタ。もちもちしていて、素朴な味で美味しいっ!いやー、完全なるロコロトンドの家庭の味に浸っている我々である。

その次におっさんが「ピアーノ、ピアーノ」と運んできた、豚の肉巻きなるものも、塩コショウくらいしか味はついていないのだが、美味しかった。お客さんは我々以外に誰もいないし、客に見せるメニューもないというお店だが、なかなかやるではないか!

おっさんは、料理を運んでくるとき、何度も「ワイフの作るティラミスは美味しいんだよ」と言っていた。もしかしたら、ティラミスの注文を取らないと、奥さんにしばかれるのかもしれない。そんな事態を恐れた我々は、フォア・ザ・おっさんでティラミスも注文してあげた。

すると、何にもまして、このティラミスが美味しかったのである!うわー!今までイタリアで何度も、いろんなところで(有名店でも)ティラミスを食べたことがあるけど、今回のティラミスが一番に美味しいっ!最後に、おっさんがコーヒーを入れて(コーヒーだけはおっさんが作るらしい)、「ピアーノ、ピアーノ」と運ばれてきて、終了ー。いやー、ごちそうさまでした!素朴ながら美味しい昼ごはんであった。(ドゥオーモ近くのA.Bruno通りのAL Vecchio Arcoというお店です)

さて、お腹も満足したので、少し、ロコロトンドの旧市街を歩いて帰ろうではないか。ロコロトンドは、一面真っ白で、つるっとした、清潔感あふれるかわいらしい町であった。

ロコロトンド2/24その1

緑を飾っているお家が多く、白い壁によく映えている。

ロコロトンド2/24その2

車が通らないので、猫ちゃんがゆうゆうと歩いていたりして。

ロコロトンド2/24その3

門の前の公園からは、イトリアの谷を見下ろすことができる。イトリアの谷に点在するトゥルッリは、アルベロベッロの、集落を作っているトゥルッリとはまた違って、素朴な味わい。

ロコロトンドには、また後日来るので、この日は母が疲れる前に、さっさとアルベロベッロに帰ることにした。

スド・エスト線の切符は、刻印してから6時間は有効という情報もあったので、まだマルティーナ・フランカで刻印してから6時間経っていなかったため、この切符でアルベロベッロに帰れるか、駅員さんに聞いてみた。すると、使えるとのことであった。たった1ユーロで、6時間有効だなんて、何て安い電車料金…(しかし、この料金が、サービスの質から考えると、決して安くないことを、チステルニーノに行く時に我々は思い知ることになる)。

さてさて、アルベロベッロに帰ってきたよ。行くときに、急いで駅に向かったため、道を覚えていなくて、帰る時、ちょっと焦った。だって、どれもこれもトゥルッリなので、区別がつかないのだ!カサノヴァというレストランが道の途中にあるのを覚えていたため、なんとか自分たちのトゥルッリにたどり着いた。

アルベロベッロ2/24

ただいまー。ホテル近くの街並み。空の色がきれいだー。

母をホテルに置いた後、姉と二人で、駅に行ってチステルニーノ行きの切符を買ったり、郵便局でお金をおろしたりと、事務作業を済ませた。お店のほとんどが閉まっていて、アルベロベッロって思っていたより活気のない町だな…と思ったが、夕方5時を過ぎたころから、お店が開き始めて、町に活気が出てきた。お昼休みがものすごく長いのだな…。

Largo Martellottaという、メインストリートで、有名な「Latte e Fieno」というチーズ屋さんでブーラッタという看板チーズを買い、「Arte Fredda」というデザート屋さんのジェラートを食べた。私はこのジェラート、あっさり風味で美味しかったが、姉は「あっさりしすぎてフツー」とか言ってた。姉はジェラートにキビシイ。

アルベロベッロ2/24夕景

アルベロベッロの夕景。細いお月さんが出ている。

家に帰ると、今日の市場での戦利品をむさぼり食う時間である。母と姉が、張り切って調理してくれた。野菜フリークの母は、「お母さんはイタリアでは野菜を食べる」が口ぐせであったのだが、この野菜が!何とも!美味だった!何だ、こりゃー!「これは、今まで食べたことのある中で一番美味しい○○です」という、英語の最上級の定型文にしたくなるような、トマト、レタス、なす、パプリカ!チーズのブーラッタも、実に美味しかった。

そして、忘れちゃならないのが、市場でタダでもらったチェリー!こいつが、スモモみたいにプリッとしていて美味しくて、姉が最初に食べて「このチェリー美味しいよ」と言い、それから他の話をした後母が食べて、話を思わず中断して「えっ?このチェリー美味しい!」と言い、しばらくしてから最後に食べた私が、「ちょっと、本当に美味しいね!」と言った。

要するに!思わず言及せずにはいられないくらい、美味しいチェリーだったのである!いやー、オッチャンが勧めるだけのことはあったよ!100個くらい買ってくればよかったよ!ひとりあたま33個!残りの1つは3分割!もしくは究極のジャンケン勝負!(無いものを争ってもしょうがないのだが…)

プーリア野菜の食卓

これがこの日の食卓。手前に映っているのが、伝説のチェリー。きっみーを忘れない♪(←この歌を知っている人は、おそらく私と同世代)

美味しいものを食べて、幸せにならない人間などおそらくいないだろう。我々は、幸せな気分で、ちょっとだけ外に出て、アルベロベッロの夜景を見た後、床に就いた。いやー、プーリア野菜にめぐりあえた幸せ。野菜はまだまだ残っているし、我々の幸せもまだまだ続きそうである♪