2/25ローマ旅行記1 ローマは私を待っていなかった
2013年2月25日。姉と私は、母と待ち合わせしている成田国際空港へと向かった。2013年のイタリア旅行の始まりである。そう、今回も、去年に引き続いて、子連れ旅行ならぬ、親連れ旅行である。母が、病弱だが、けっして「かよわい」タイプではないことは、去年の旅行記にも書いたので、もう書かないよ(って書いてるけど)。
今回は、最初の訪問先であるローマに、直行便で入る。昨年、南イタリアのマテーラから、ローマを華麗にすっ飛ばしてフィレンツェに行ったためか、昨年のイタリア旅行の終盤は、私はローマの夢ばかり見ていた。「ローマが私のことを呼んでいるんだ…」と、年頃のオトメのような思考(つまり勘違い)をしてしまった私は、今年はゼッタイにローマに行くと心に決めていた。
ローマは、2013年現在、日本からの直行便がある、唯二のイタリアの町である(もう一つはミラノ)。直行便は、他の町を経由して入る乗継便より時間がかからないためか、成田のフライトはお昼過ぎ、と余裕がある。乗継便を使うと、たいてい昼前までに出発してしまうので、首都圏からアクセスしにくい成田に行くためには、かなり早朝に家を出なければならなくなるのだ。
だけど直行便の今回は、よっゆう~♪例年だと、早起きが不安なので、徹夜で準備して、そのまま寝ずに家を出るのだ。まあ、そうすると、飛行機の中で爆睡できて、あっという間に到着する、という利点があるんだけどね!
成田に着くと、すぐに母を発見した。うちの母さんは、なぜだか遠くからすぐわかる母さんである。ちっぽいし、派手な出で立ちでもないんだけどなあ。旅立ちの前の、楽しそうな浮き浮きした母さんだが、この母が、この時点で、今回の旅程をしっかり把握しているかどうかは、ハナハダ疑問である。
とりあえず、まずスーツケースを預けてしまおうぜ、と、アリタリア航空のカウンターへ向かった。先に自動チェックイン機でチェックインを済ませ(スタッフさんが手伝ってくれる)、その後カウンターで荷物を預ける順番である。
カウンターへ行き、Eチケットを差し出すと、明るい女性スタッフさんが、「ん?」という感じで画面をのぞき込み、そのあと、ちょっと電話をかけたりした。何だろうなあ~?今までのイタリア旅行で(信号無視以外)何も悪さはしていないつもりなのだが、「こいつイタリアに行き過ぎ。あやしい」とか、ブラックリストにでも載せられてしまってるのだろうか?
電話を切ると、スタッフさんはにこっと笑って、「えー、この便はキャンペーン対象になってまして、お一人様3万5千円プラスでビジネスクラス、1万5千円プラスでプレミアムエコノミーへのグレードアップができますが、いかがしますか?」と、切り出した。
えええっ!?万年エコノミー(イヤな響きだな…)の私に、プレミアムエコノミーやビジネスクラスへのお誘いっ!?しかし、通常だと、プレミアムエコノミーでもエコノミーの倍、ビジネスクラスだと数倍以上の値段の開きがあるはずなのに、数万円でグレードアップできるとは!
先述したように、うちの母は病弱である。なので、姉と私は、母に、「私たちはそのままエコノミーでいいからさ、3万5千円払って、お母さんはビジネスを使いなよ」と言ったのだが、母は「お母さんは一人はいやだ。みんなでプレミアムエコノミーに行こう」と譲らない。…英語がカタコトどころか一言もしゃべれない母は、一人ではCAさんと話ができず、水一杯飲めないと思い込んでるようだ。実際は、CAさんは英語が話せない日本語客の対応なんか慣れっこなんですけどね!
というわけで、ひとりあたま1万5千円×さんにんあたま=4万5千円を、母がポケットマネーでさらっと支払い(カッコイイ母)、未知なるプレミアムエコノミーの座席をゲットした。搭乗券も、エコノミーのぺらっぺらのやつから、しっかりした紙の券に変えられた。搭乗券からプレミアムは始まっているようだ。
姉が気になって、「あのー、こういう(美味しい)キャンペーンって、この便が特別なんですか?」と聞くと、スタッフさんいわく、「全ての便で行っているわけはなく、また、全てのお客様に適用されるキャンペーンでもないんです。お客さま方は、このキャンペーンの対象者として選ばれているので、お声をかけさせて頂きました」とのことだった。なぜーっ!?なぜ、貧乏人の私が選ばれるのだーっ?
…よくわからないが、おそらくこの便自体のエコノミーが満席(もしかしたらオーバーブッキング気味)で、個人旅行者の数名に声をかけて、上のクラスの席に移動させてるのではないかと思う。その方が、アリタリア航空も幸せ、たった1万5千円でプレミアムになれる私も幸せ。みんな幸せってスバラシイ。ぐふ。
成田空港は、今まで経験したことがないくらい混雑していて、荷物検査の列は、行列用ロープをはるかにオーバーしていた。今までずっと昼前出発の便だったのだが、昼過ぎのフライトは多く、どうしても搭乗者で混雑してしまうのかもしれない。
しかし、プレミアムに浮かれる我々にとって、行列なんてなんぼのものである。プレミアム・私。うふふ。この荷物検査の行列をすっ飛ばすことはできなかったけど、搭乗の際には、何と、優先搭乗で、並んで待っているエコノミーの乗客を尻目に、すいっと特別ゲートから搭乗できた。プレミアム・私っ!
そして、これがプレミアム・エコノミーの座席だっ!
キラーン。エコノミーよりやや広く、また、リクライニングが後ろに倒す方式でなく、前に沈み込んでいくスタイルのため、前の座席が倒れてこないため、圧迫感がない。
席に着くと、まず、ポーチが手渡された。中を開けると、歯ブラシやら、耳栓やら、アイマスクやらが入っている。変な布が入ってると思ったら、変な靴下だった。コレは要りませんね、と思ったが、実は、機内で実際に使ったのはこの靴下だけだった。
それから、すぐにおしぼりが手渡された。そして、すぐ次に、飲み物が運ばれてきた。母が水を選んだ後、オレンジジュースの話をしてたら、さささっとイタリア人のCAさんが寄ってきて、「オレンジジュースが良かったんじゃないんですか?」とか聞いてくるし、…オウっ…。慣れないVIP待遇に、もうお腹いっぱいの私。わ、私のことは、しばらく放っておいてくれっ…(もうくじけているプレミアム・私)。
しばらくすると、お食事タイム。プレミアム・エコノミーは、エコノミーより、やや豪華な機内食になると聞いていたが、登場したのはこちらのお食事。
こちらが「ミート」を選んだ姉の機内食。
こちらは「パスタ」を選んだ私の機内食。
ま、ぶっちゃけ、エコノミーの機内食と食べ比べができるわけではないので、エコノミーと比べて「どれだけ」豪華なのかは判定不可能なわけですが、美味しかった!
ちなみに、アリタリア航空のプレミアム・エコノミーは、座席前のトイレの空き状況ランプは、ビジネスクラスのトイレと連動していたのに、トイレそのものは、後ろのエコノミーのトイレしか使用できなかった。これにはガッカリだった。
というのも、旅行記で繰り返し書いているが、私は結構トイレマニアなのだ。長時間の国際線は、トイレの快適さというものが重要である。ビジネスのトイレを使えれば、人数に対するトイレの量(これはかなり重要な指数)が多くなり、トイレライフの快適さがグッとアップするのにさあ。
また、機内でつまめるおやつも、ビジネスクラスの方ではなく、エコノミークラスの方に準備されているおやつを取りにいかなければならなかった。こうなると、たいてい、おやつは機内最後尾に準備されているので、エコノミーの前に設けられているプレミアム・エコノミーから取りに行くのは面倒なのである。
というわけで、1.トイレがエコノミーと共通だった、2.おやつがエコノミーと共通だった、という二点で、プレミアム・エコノミーに対する、私のキラキラした気持ちは終了した。実際は、私はエコノミーの狭い空間でぼーっとするのは得意なので、座席がちょっと広いくらいでは、それほどの利点にならないのである。今回はもともと楽な直行便だしなあ。
ただ、一つよかった点は、今回利用したプレミアム・エコノミーは、空席だらけで、静かにのびのびと過ごせた。これが満席だったら、個人的にはあんまりエコノミーと変わらないかなー。だが、広い座席大好きな姉と、足がむくみやすい母は、プレミアム・エコノミーを賞賛していた。
まあ、私も、トイレとおやつがエコノミーと別だったら、賞賛していただろう。このへんは、長距離フライトのサービスとして、何を一番優先するかの違いである。ということは、私が長距離フライトに求めるサービスは、トイレの快適さとおやつということになる。
とはいえ、やはりいつもより疲れは少なく、あっという間にローマ、フィウミチーノ空港へ到着した。2年ぶりのローマっ!あいかわらずもっさりした、フィウミチーノ空港っ!
2年前は、比較的すぐにベルトコンベヤーの位置も見つかり、荷物もすぐに出てきたのだが、今回は、どこのベルトから流れてくるのか探すのに、ちょっと苦労した。表示がちっさいんだよ。ちっさい。そして、どこかがわかっても、なかなか流れてこない。別に急いでるわけじゃないけどさ、荷物降ろすだけじゃんよ、降ろして流すだけ!
しかし、こんなことでイライラしては、イタリア旅行はつとまらないのである。こういう時は、無の境地で待つに限る。スーツケースを待つ乗客の、ほとんどの顔から笑みが消えたころ、キキキキ、キキキキ、と愚鈍な音と共にスーツケースが流れ始めた。しばらく流れては止まり、止まってしばらくしたら流れ、を繰り返した(おそらく一度に運ばずに、一回一回取りに戻ってるんだろうなあ。作業効率を考えましょうよ、作業効率をよ!)。
そして、待つこと30分弱かけて、3人分のスーツケースが無事到着~。まあ、直行便だから、スーツケースが迷子になる方が難しい気もするが、とりあえず、よくやったとアリタリア航空をほめてあげよう(完全に上から目線)。
こちらは荷物受取場から、出口に出る所の空港内部。やっぱり、なんだかもっさりした空港だなあ。
出口を抜けると、ここから白タク(=非正規タクシー)のおっちゃん達が、「タクシー、タクシー!」と客引きしてくるが、完全スルーして、空港を出てすぐの正規のタクシー乗り場へ行った。すると、何と、空港からローマ市内までの定額料金が、40ユーロから48ユーロに値上がっていた!キキキ!48ユーロとか意味不明な数字にしやがって!(←本当はこんなことではなく、値上げしたことに憤っている私)
予約してあるのは、ジュリア通りから、少し入った小道にあるレジデンスである。ジュリア通りに、レセプションのある本館があり、我々が予約したのは、その本館から500メートルほど離れた別館である。別館に宿泊することになったので、本館と別館のどちらに行けばよいのか、確認のためメールしてみると、別館に直接行くようにと言われた。それで別館の方の住所に行ったのだが、呼び鈴に、どこにもレジデンスの表示がない。
途方に暮れていると、通りがかりの、犬の散歩のおばさんがやってきて、「全部適当に押してみるといいわよ!」と言い、呼び鈴を押すのを手伝ってくれた(本当にやみくもに押しまくるおばさん)。しかし、全く応答がないため、携帯から電話をかけてみたのだが、こちらもつながらない(これは、国際電話の「+」を押していなかったためだと、後で判明した)。
おばさんは、一度犬を連れて、向かいの建物へ帰って行ったが、我々がまだ途方に暮れているのを窓から見たのか、もう一度出てきてくれて、「これ、私の友だちがやってるB&Bの住所よ!もし困ってるんだったら、連絡取ってあげるわよ!」なんて言ってくれた。うおー!何て親切なんだ!だが、我々は予約済なので、一晩ぶっちぎったら、キャンセル料金を取られてしまう。なので、おばさんの親切は、礼を言って断った。
時計は午後9時。ローマの通りにぽつーんと放置されている我々3人。姉と二人だったら、こんなトラブルもおもしろがっちゃうんだけど、何せ母がいるわけですよ。3回目のローマとは言っても、知り合いがいるわけでもなし、こりゃ、最悪の場合は、以前宿泊した、日本人スタッフさんのいるホテルに向かうしかないかなあ…。
などと思っていたら、姉と私はふと気づいた。「本館が500メートル先なら、誰かが本館まで行ってみればどうよ?」。というわけで、ホテルを予約する際に、うっすらと本館の位置を記憶しておいた姉が、夜9時のローマ、ジュリア通りを、まだ見ぬ本館を探して出発し、私と母は、荷物の番をしながら、そのまま待つことにした。
宿泊予定の建物の横には、教会があった。なすすべもなく、携帯電話のカメラで教会を撮影する私。
しーん。なすすべなし!
その間にも、「もう一回電話してみたら?」とか、「もう一回別の場所じゃないか探してみようか?」などと言う母。「お姉ちゃんが今行ってくれてるんだから、待たんね!」と、ローマで鹿児島弁丸出しで母を叱る私。私は、こういう時の姉の行動力を、結構信頼しているのだ。
そして、待つこと15分程度で、姉から電話が来た。「スタッフを捕まえたよ。そっちに行くから待ってて」。
姉は、ジュリア通りをうりうり歩いて、苦労しながら本館を探し当てたそうだ。灯りがついていたので、思い切りドアを開けて、「アイム、○○(←姉の本名)!!!」と叫ぶと、ぽかーんとした顔の男性スタッフが、「遅かったね、待ってたよ」と、答えたらしい。
「待ってた、じゃ、ねえよ!あっちの別館に直接来いって、お前らメールで言ってたじゃないかっ!とにかく、一緒に来て、ドアを開けろー!!!あっちには、家族が一時間(これはオーバー)以上待ってるんだよっ!」と姉は詰め寄り、このスタッフを引きずってきた。スタッフさんは、私と母を見ると、「ご、ごめんよ、だってアルベルトが…」と言い訳を始めたが、アルベルトって誰だよ、知らないっつーの!
このスタッフさんは、本館で誰かを待っていなければならないらしく、かなり焦って帰って行った。カギを我々に渡すのさえ忘れそうだった。はー………、一時はどうなるかと思ったが、一件落着~。結構トリップアドバイザーでも評判がよく、メール対応も丁寧なレジデンスだったのに、それでさえ、こうなのがイタリアである。それにしても、イタリア初日に、ホテルで待ってる人がいないなんてトラブル、初めてだよ。
しかし、これがイタリア。初日から、めげてたまるか!…と自分を奮い立たせて、着替えるためにコートを脱いだ私の背中に、あるものがくっついていた。それは、アリタリア航空の、プレミアム・エコノミーの背もたれに貼ってあったシートであった。
…脱力するほど間抜けなものを背中にひっつけてきた私。まあ、イタリア旅行の幕開けとしては、ふさわしいかもしれない。まぬけなイタリア。まぬけな私。
ともあれ、明日から3年ぶりのローマを楽しむぞ!しかし、ローマという町は、何度行っても、私をすんなりとは歓迎してくれない。去年から夢にまで見て待ち焦がれていたローマなのになあ。ローマ市民権を得るには、まだまだなのだ。