3/9カパッチョ旅行記 行くぞ!ヴァンヌーロへの道!
パエストゥムのギリシャ神殿に感動しまくった後、パエストゥムの隣町のカパッチョへと移動することにした。
カパッチョ?イタリア観光としては、あまりなじみのない町であろう。我々は、イタリアで一番美味しいと言われる、水牛モッツァレッラチーズを求めて、この町へ向かうのである。
パエストゥムの情報を調べている時に、あちらこちらで、「パエストゥム付近は、水牛飼育がさかんで、新鮮なモッツァレッラチーズが名物である」という情報を目にした。水牛モッツァレッラチーズ…。私は特別にチーズが大好きってわけではないのだが、水牛モッツァレッラチーズというのは、何だか魅惑的な響きであった。水牛ってのがファンタスティックなのであろうか。
とにもかくにも、妙に水牛モッツァレッラチーズに憑りつかれてしまった私は、パエストゥム付近で、新鮮な水牛モッツァレッラチーズを食べられる場所を探した。さまざまな情報を集めた後、ファイナルアンサーが出た。「ヴァンヌーロ(Vannulo)のチーズ工場で作れる、取れ立ての水牛モッツァレッラチーズは、イタリアでナンバーワン!」。
ヴァンヌーロでは、水牛飼育所と、チーズ工場を併設し、取れ立てのチーズ類を直販売していて、水牛乳を使ったジェラートやヨーグルト類も販売している。デザート類は、カフェ内でイートインすることもできる。つまりは、飼育所兼工場兼販売店兼カフェみたいな場所だそうだ。日本のテレビでも紹介されたことがあり、水牛にストレスがかからないように工夫した飼育が特徴で、この工場で作られるチーズの美味しさは、イタリアナンバーワンと言っても過言ではないそうだ。
また、チーズの風味が落ちないうちに食べてもらうために、小売店への卸売りは絶対にしない方針らしく、このヴァンヌーロの味を食べたい人は、工場までオノレの足で出向かなければならないのだそうだ。
…いやー、このレアな感じは、旅人心をくすぐるねえ。何だかもったいぶってる感じもするけど、新鮮なうちに食べてほしいという理屈は通っているし、実際に食べた人たちの感想は非常に高評価であった。迷いに迷ったけど、何だか水牛さんも見てみたいよね、というわけで、パエストゥムに行く今回しか行く機会はあるまい、と、ヴァンヌーロ行きは決行されることになったのである。
ヴァンヌ-ロには公式ページがあるが(→http://www.vannulo.it/)、私の探し方が悪いのか、お店の営業時間も、地図も載っていない。公式ページに書いてある住所をコピペして、グーグルマップで調べてみると、Capaccio-Roccadaspide駅という、パエストゥムの隣りの駅から、遠いけど歩いて行けなくもなさそうだった。というわけで、パエストゥムからサレルノへ帰る時に、このCapaccio-Roccadaspide駅で途中下車することにした。
パエストゥム駅に到着すると、ちょうど電車が来たところだった。入口付近に立っていた女の子に、「カパッチョ方面に行く電車ですよね?」と確認してから乗り込んだ。座席には、この女の子の家族が大勢乗っていて、一番小さな女の子が、興味津々でこちらを見ていた。東洋人を見たのが初めてなのかもしれない。
カパッチョ駅はパエストゥム駅の隣だが、電車は10分足らずで次の駅についた。ここがカパッチョかなーと(イタリアの電車では次の停車駅をアナウンスしないことの方が多い)、駅表示を確認してみると…。
…ま、真っ白っ!?な、何も書かれていないッ!!ええーっ!?ここは何駅なんだ?その前に、看板の役割って何なのだ!?
仕方なく、先ほどの女の子に、「ここがカパッチョですよね?」と聞くと、頷いたので、ここで降りた。正式名称はCapaccio-Roccadaspide駅(カッパッチョ・ロッカンダスピーデ?)。駅名が長すぎて、看板に書けないのだろうか…?
このCapaccio-Roccadaspide駅は完全なる無人駅であった。どのくらい完全かと言うと、駅室らしきものすら見当たらないのである。一日乗車券を買っておいてよかったー!この駅で切符をゲットするのはかなり難易度の高いミッションであろう。
階段を下って駅を出ると、すぐに道路へと出た。コピーしてきたグーグルマップを見ながら、右手の方へ向けて歩き始めた我々。しばらくまっすぐ歩くと、目の前に高架線が見えるので、その下をくぐる。
前方に、我々と同じ電車から降りたと思われる女性が歩いて行く。他に歩いている人は、だーれもいない。車は結構通るのだが、とにかく人がいない。まっっったく持って、観光の香りのしない、いわゆるタダの道路をしゅくしゅくと歩いていく我々。ヴァンヌーロまでの道筋は、素敵なカンパーニャの田舎風景でも拝めるのかなと、ちょっとだけ期待していたが、歩いて楽しいということは何もない、普通の民家が続くタダの道路だった。
このカパッチョ駅からヴァンヌーロまでは、野良犬や飼い犬が非常に多く、途中までは、犬に会うたびに「一郎」「次郎」「三郎」…と勝手に名前をつけながら歩いた。だが、我々家族、全員まるごと猫派のため、七郎で飽きた。
しゅくしゅくと15分くらい歩いただろうか。そろそろ右に曲がる道を探さなきゃなーと思いながら歩いていると、急に後ろからバイクがやってきて停まり、若い男性が、話しかけてきた。「ヘイ!どこ行くの?」
…明らかに、ナンパの挨拶みたいなセリフなのだが、今の我々の状況では、そのセリフは額面通りに取らせてもらった。「ヴァンヌーロに行きたいんです」と、答えると、「あー、ヴァンヌーロか!ちょっと前の方に見えている青い看板の先を右に曲がったら、後はずーっとまっすくだよ」。おー!ありがとう!
この看板が目印。このすぐ先の道を右折である。
そして、ここからがナガカッタ!グーグルマップでは、このガリレオ・ガリレイ通りに入って、しばらく歩いたところにマークがあるのだが、該当する箇所を遥かに過ぎても水牛工場など見えてこない。本当にこの道であってるのかなーと不安になったところで、道端に立っていた黒いキャップ帽に長髪の男性が、「君たちヴァンヌーロだろう?この先ずーっと真っ直ぐだぞ!」と教えてくれた。ここカパッチョでは、道案内がタイミングよく現れるのがおかしかった。
だが、イタリアでは、こうやって道端としか言いようのない道端に、手持ちぶさたにたたずんでいる男性をよく見かける。通称ヒマオヤジ。おもしろいことに、ボーっと立っている女性はほとんど見ない。
歩けども歩けどもヴァンヌーロは見えてこないが、地元民がこのまま真っ直ぐだと言うのだから、間違いあるまい。グーグルマップが間違っているのだろう。自分が慣性の法則で歩いているのではないかと錯覚し始めた頃、道の先に、ネットの画像などで見たことがある建物が見えてきた。
よーやく着いたぞ!ヴァンヌーロっ!!!
水牛さんもいるよーっ!!!
とりあえず、駅から30分ほど歩き通して休みたかったので、カフェに入ることにした。
こちらがカフェの「Yogurteria(ヨーグルテリア)」。そのまま日本語に直訳すると「ヨーグルト屋」だが、ヨーグルトだけでなく、ジェラートやケーキも売っていて、中で食べることができる。
店の中は、ジェラートを食べている人、ヨーグルトを食べている人、ケーキにジェラートやヨーグルトをかけて食べている人などさまざまだったが、ノドも乾いていたので、とりあえずジェラートを食べることにした。もちろん水牛ミルクで作ったジェラートである。フレバーは10個くらいから選べて、ミルクの他に、チョコレート系や、ピスタチオなどがあった。一番小さなカップで2.2ユーロだった。
一階でも食べられるのだが、二階のスペースが人が少なくてゆっくりできそうだったので、二階に上がった。
いただきまーす!
お、美味しいっ!何と言うか、とにかく「新鮮」な味である!今までイタリアで食べたジェラートの中で、最も美味しいというわけではないが、最も素材の良さが伝わってくるジェラートであることは間違いないっ!体にすーっと浸み込んでくるような味だ。さっぱりしていて、あっという間に食べ終わってしまった。
さて、次はカフェの隣りにある、チーズ屋「Caseificio」へ行こう!
有名な水牛モッツァレッラチーズ(イタリア語で「モッツァレッラ・ディ・ブーファラ」)は、午前中に売り切れてしまうこともあるらしい。もう既に午後4時前くらいだったので、売り切れの可能性は想定しながら、お店に入った。
元気そうな店員の女の子に、「モッツァレッラチーズを下さい」と言うと、首をかしげて、「これのことかしら」と、小さな白いチーズを見せた。いや、確か、もっと大きかったよなと思ったのだが、「モッツァレッラ・ディ・ブーファラ」というイタリア語が思い出せない、「えーと、たぶん違います。欲しいのはモッツァレッラ・ディ・ブ…ブー…ブッファ…」と口ごもっていると、「ああ!わかりました」と言って、奥から白いゴムボールみたいなチーズを持ってきた。
そう!それです!よかったー!まだ残ってた!
店員さんは笑顔で、「何キロ要りますか?」。サレルノまで持って帰らなければならないし、何せサレルノのホテルにはキッチンはないので、残念ながらたくさんは買って帰れない。「3つ…とかでも買えますか?」と言うと、「ええ、もちろん!」と、笑顔で袋に入れてくれた。量り売りではあるが、少量でも売ってくれるようだ。
店内には、水牛モッツァレッラチーズ以外に、リコッタチーズの値段も書いてあったので、「このリコッタ・フレスカ(おそらく生リコッタチーズ)も欲しいのですが」と言ってみると、「今日の分は完売しました」とのことだった。リコッタチーズは買いそびれたけど、一番の目玉の水牛モッツァレッラチーズはゲットしたぞ!3つで2~3ユーロだった。
ちなみに、我々が買ってしばらくすると、お店に入って行った人は、皆残念そうな顔をして、手ぶらで出てきた。もしかしたら我々が買った後、すぐ水牛モッツァレッラチーズも売り切れたのかもしれない。
この水牛モッツァレッラチーズのビニール袋をぶら下げて、工場の周辺をぶらぶらと散策してみることにした。何せ、帰りの電車は、18:09までないのだ。駅まで歩くのにかかる時間は、多めに見て30分である。余裕を持ってこの工場を出るにしても、17時半に出ればじゅうぶんんだろう。あと1時間半くらい、ここで遊ぶよ!
…何して遊ぶって、まずは水牛さんウォッチングである。
水牛さん、コンニチワ~!
このヴァンヌーロは、工場見学ツアーなどもやっているので、ツアーを申し込まないと水牛さんには会えないのかなと思っていたが、普通にカフェの近くに大きな飼育所があって、誰でも自由に水牛に近づくことができる。だーれも監視する人もいない。このへんがイタリアらしい。日本だったら、子供がケガしないように、立ち入り禁止にするだろうけどなあ。
黙々とごはんを食べる水牛さんたち。食べ終わった人…間違った水牛は、ゆっくりと後ろの方へ去っていく。乳牛だろうからみんな女の子なのかな?でも繁殖のためには男子も必要だから、どうなのかな?酪農事情はわからない都会っ子の私。
カンパーニャ州名物の野良犬がやって来た!水牛さんにちょっかいを出していたが、吠えたりした後、自分で勝手に負けを認めて逃げて行った。水牛さんの不戦勝。
姉が「ちょっと見て!とんまな子がいるよ!」と笑っている。
この真ん中の水牛さん、目の前にごはんがない…。悲しそうに左を見て、右を見るが、左の山にも右の山にも届きそうもない。姉「顔を出す場所を変えなよ!場所をさ!」。
哀愁漂う、とんまな水牛さん。「トホホ…ワタシの干し草が無いよ…。ンモー!」
とんまな水牛さん(画像右)は、一大決心をして、隣の干し草へと顔を伸ばした。すると、隣の水牛さん(画像左)に、ツノで押し返され、あえなく一蹴された。だって明らかに隣の水牛さんの方が、目に力があるもんなー。「コレはワタシの干し草だンモーッ!」
水牛ウォッチングは面白いのだが、何せ牛なので、どうしても臭い。何だか鼻がおかしくなりそうだし、自分まで牛臭くなりそうで、母と私はじりじりと飼育所から遠ざかる動きを見せ始めたのだが、姉は飽きもせずにいつまでも見ている。そんなに動物好きだったかなー。確かに時々「ダーウィンが来た!」を見てる姉である。私はヒゲじいのギャグが受け付けないので見てない。
そんな姉が、お気に入りの水牛を見つけた。「今、こっちに向かって歩いてくる子はりりしいよ!」
こちらが姉の御眼鏡にかなった水牛くん。135番という札をつけていた。姉「見てよ!この精悍な顔つき!さっき干し草を食べられずにいたとんまと比べると、目の光が全然違うよ!いやー、カッコいい!135番!気に入った!」
そう言って、135番のベストショットを撮ろうと、一人で奮闘していた姉が撮影した写真。姉「ホラ見てよ!ちょっと憂いを秘めたこの賢そうな目!」。…母と私はひたすら牛臭くて、この場を一刻も離れたい一心なのだよ。イケメン(もしくは美女)水牛とか言われても、あんまり興味沸かないなあ…。
それにしても電車の時間まで、まだまだありすぎるので、再度カフェに入った。こんなに駅から遠い不便な場所にあるヴァンヌーロなのだが、次から次へと車でのお客さんがやってきて、カフェでデザートを食べたり、持ち帰りの乳製品を買ったりしている(歩いてきたのはどうやら我々だけ。普通は車で来るらしい…)。ちょっとビックリするほどの繁盛ぶりだった。
さて、今度は、他のお客さんが食べているみたいに、パンにヨーグルトとジェラートをかけて食べてみることにした。
美味しい…んだけど、甘くないブリオッシュに、プレーンヨーグルトと甘さ控えめのミルクジェラートをかけてしまったため、ちょっと甘さが足りなかった。この食べ方をする場合は、プレーンヨーグルトじゃなくて、味のついているヨーグルトをかけてもらった方が美味しいかも!
さて、かなり居座ってしまったヴァンヌーロだが、5時半になったので、ようやく駅の方に向けて歩き出すことにした。最後に、カフェでは持ち帰り用のヨーグルトも売っているので、3つ購入した。本当はもっと買いたかったんだけど、瓶詰めで重たいからね!30分歩かなきゃいけないからね!
水牛さんにバイバーイと手を振って、駅の方角に歩き出すと、どこからともなく野良犬がやってきてまとわりついてきた。私がぶら下げて持っている水牛モッツァレッラチーズが欲しいっての!?さすがに、わざわざここまで来てゲットしたものだからね!あげられないよ!
駅までの道をしゅくしゅくと戻ると、行く時に道端にたたずんでいて、ヴァンヌーロへの行き方を教えてくれた黒いキャップ帽のおじさんが、またちょっと違うところに仲間とたたずんでいて、「ヴァンヌーロへ行けたかい?よかった、よかった!」と手を振ってきた。おじさんにお礼を言って別れたけど、おじさん、我々がヴァンヌーロにいた間、ずーっと道端にたたずんでたのかな…。「つれづれなるままに、ひぐらし…」という徒然草の冒頭文がピッタリのおじさんである。
駅までの30分の道のりは、チーズとヨーグルトを持っていたためか、ちょっと疲れた。どうせ電車はいつ来るかわからないので(遅れるから)、駅のホームに敷物を敷いて休んだ。ポンペイでもパエストゥムの遺跡でも使わなかった敷物を、こんな所で初めて使った。
さて、サレルノのホテルに戻ってから、戦利品を食したのだが。
手前がヨーグルトで、味は左からプレーン、コケモモ、イチゴ。後ろの袋の中が水牛モッツァレッラチーズ。
まず、ヨーグルト。美味しかったー!今までいろんな牧場ヨーグルトとか食べたことあるが、やっぱり格別においしかった。何だかイキイキしていた(もっとうまい表現はないものか…)。持ち帰りでこれだけ美味しければ、カフェでその場で食べるヨーグルトはもっと美味しいだろう。次に行った時は(えっ、また行くんですか?)、お店でヨーグルトを食べてみようと思う。
水牛モッツァレッラチーズを、袋から出して撮影するのを忘れてしまったのだが、
要するに、こんなの↓
で、食べてみると、………んまいっ!!!とろっとした舌触り、ほのかな塩味。な、何じゃこりゃー!!!こ、これが、イタリアナンバーワンの水牛モッツァレッラチーズか…。うん、確かにナンバーワンだよ!ナンバーワンだし、オンリーワンだよ(意味不明)!これは、ここでしか食べられない特別な味だ。こういう食べ物に巡りあえる旅はシアワセな旅だよ!いやー、いっぱい歩いてヴァンヌーロに行って良かったー!
というわけで、マジ顔で言うが、ヴァンヌーロの水牛モッツァレッラチーズはすごかった。パエストゥムに行かれる方は、簡単に行ける場所ではないけれども、ぜひぜひ立ち寄ることをおすすめしたい。