3/10サレルノ旅行記 かわいいライオン、かわいくないライオン

本日は、サレルノ泊最終日。もともとサレルノは、ポンペイとパエストゥムの中間に位置し、交通の要所として便利な町だからという理由で宿泊したので、サレルノ自体にはあまり期待はしていなかった我々である。だが、せっかく宿泊した町なんだし、最後くらい、少しサレルノを歩こうよってなわけで、本日午後はサレルノを歩いて回ることになった。

サレルノは、アマルフィ海岸の終点、チレント海岸の始点である。つまり、サレルノと言えば海の町なのである。というわけで、まずは海を見に行くことにした。

サレルノの海岸線は遊歩道みたいになっていて歩きやすい。地元の人々も、犬の散歩やジョギングなどに活用している。

サレルノ

アマルフィ海岸側には、明らかに雨雲って感じの雲が群がっている。アマルフィ海岸は、さぞかし荒れた天候になっているだろう。
………。

ちょっと!母!姉!何でそんなに無口なの!?姉「だってただの海じゃん」。母「海だねえ」。………っ!カラフルな家々が貼りついた崖っぷちに波が迫ってくる、風光明媚なアマルフィ海岸を先に旅して来てしまったため、二人とも、フツーの海に対しては、何の感想も持てないらしい。

ダメだ、ダメだよ!サレルノは観光都市ってわけではないんだから、観光としての見どころがそんなにあるわけじゃないんだよ!「隠れた魅力」を探しながら歩くのが粋ってものなんだよ!この一見何でもない海に、深みを求めてみようよ!

それにしても、次から次へと散歩の犬がやってくる。自分も、犬しか見ていない(しかも私は猫派)ことに気づいた私は、「…じゃ、町中へ戻ろっか…」と言い、我々は市街地の方へ戻った。

まだ今日はランチを取っていない。姉が調べておいてくれた、TripAdvisor (トリップアドバイザー)で評価の高い「Ristorante Cicirinella」というお店に行ってみた。日曜日と言うこともあってか、店内はほぼ満席だった。

「Ristorante」とは言うものの、客のほとんどはカジュアルな家族連れで、ドレスコードなどは気にしなくてよい雰囲気だった。ウェイターさんに「メニューを下さい」とイタリア語で言ってみると、カタコトの英語で、一生懸命話してくれた。

「うちのお店は、毎日、その日に手に入った食材で料理するため、メニューはないのです。毎日メニューは日替わりなのです」。そこで、ウェイターさんにいろいろ相談に乗ってもらって、「私たち日本人にとっては、イタリアでの一人分の料理が多すぎることがあるのです」などのことも伝え、基本はお任せにして、バスタとサラダとお肉料理を頼んだ。

オーダーした後は、テーブル担当が変わり、ウェイターさんではなく、厨房のくちゃっとした感じのお兄さんが料理の説明などをしてくれた。この男性は英語が話せなかったので、私のつたないイタリア語で意思疎通したのだが、彼の方言が強いのか、なかなか理解しづらかった。私のイタリア語が未熟なせいもあるが、今までで一番聞き取りに苦労したしゃべり方だった。

サレルノ

オーダーした中で一番美味しかったのは前菜に出てきたアラカルト料理。厨房のお兄さんの説明をあまり聞き取れなかったため、どんな料理なのかはよくわからなかったが、とにかく美味しかった。特に、ビンに入れられていたスープは、見た目もかわいらしいし、味もとっても美味しかった。

この前菜でカナリ期待してしまったのだが、パスタや肉料理は、ちょっと薄味が好きな我々一家の舌には合わなかった。ただ、日本人には一人分が多すぎると最初に相談したためか、2人分の量を3人分に分けて持ってきてくれるなど、なかなか親切だった。

厨房のくちゃっとしたお兄さんは、珍しい日本人客にいいとこ見せようといろいろ張り切っていたのだが、料理が全部出てきてしまう前に「デザートは要りますか?」と聞いてしまい、まだ食事が終わっていないことを告げると、「インクレディーブレ…(英語のアンビリーバボー)」とつぶやいて、かなりしょげていた。かわいかった。

レストランを出た後、ドゥオーモに行ってみたが、閉まっていた。イタリアでは、それほど観光色の強くない町では、ドゥオーモのような大きな教会でも、お昼休みには閉まってしまう。「地球の歩き方」には、夕方は4時から開くと書いてあったので、4時ごろにまた出直すことにした。

教会の外観を飾る彫刻類は、今のうちに先に見ておくことにした。

教会の正面扉の左右では、やる気のないライオン…地方の銘菓みたいな力弱い表情をしたライオンくんたちが、門番をしていた。

サレルノ

こちらは右のライオン。男子である。足の下に獲物らしきものを踏みつけているのだが、いかんせん表情が無気力。

サレルノ

こちらは左のライオン。子ライオンがお乳を飲んでいることからわかるように、こちらは女子である。

つぶらな丸い目がかわいらしい、脱力系ライオン。門番と言うよりは、教会に来る人にウェルカムをしているライオンさんたちなのだろう。何だか気に入った。

サレルノ

あとはこういう、形容しがたい表情をしているおサルさんとか。

サレルノ

いったい何の動物だかわからないヤツとか。まあ、こいつがいったい何なのか、ちらとでも理解する努力したかと聞かれるとしてないわけだが。

こういうソボクーな動物くんたちに装飾された教会は、たいていロマネスク期にできた教会だ。このドゥオーモも11世紀に建てられているので、おそらくロマネスク期に作られた動物くんたちなのだろう(ロマネスク期とは10~12世紀頃を指す。こういう動物くんたちは実に親しみやすく、かわいらしい。私がロマネスク教会が何となく好きなのは、おそらく、こういうユカイな動物くんたちがいるからである。

ドゥオーモが開く(と思われる)夕方まで、サレルノの旧市街をブラブラすることにした。サレルノで一番雰囲気が良いと言われる、中世の面影の残るメルカンティ通りを歩いてみた。

サレルノ

メルカンティ通りは

サレルノ

こんな

サレルノ

感じだよ。

母「………」。姉「…普通の通りだよね」。

えっ?まあまあ雰囲気があって、いい感じじゃん!?何度も言うように、サレルノは、イタリアの中で、特筆するような観光都市ってわけじゃないんだってば!何気ない通りを楽しめばいいんだってば!

サレルノ

こちらは、メルカンティ通りの終わりに現れるアレキ門。アレキ門とは、地球の歩き方によると、「ロンゴバルト族の館の入口」である。…これだけの説明から、アレキ門とは何なのかを推察できるような、明晰な頭脳を私は持ち合わせていない。というわけで、何なのかはわからなかったが、風情があり、メルカンティ通りでは、一番雰囲気の良い場所だと思った。

アレキ門をくぐると、「陶器のお店などが並んでいて楽しい」などと地球の歩き方には書いてあったが、日曜のためか、お店は軒並み閉まっていた。あーれー。つまり、陶器のお店などが並んでないので、何でもない道になってしまっている。あーれー。

…やることが無くなった。ドゥオーモが開くのはおそらく4時くらいなので、まだまだ時間があるなあ。地図を見てみると、先の方に「市民公園」なるものがあったので、行ってみた。

サレルノ

市民公園。何の変哲もない公園。サレルノ市民はだーれもいない。どうぞ座ってくださいとしつらえられたベンチにも、誰も座っていない。何だかベンチがかわいそうだったから、我々は座ってみた。終わった。

…やることが、また無くなった。

ゆっくりとドゥオーモ方面に戻ることにして、メルカンティ通りには、サレルノ大学の博物館があるらしいので、そこをのぞいてみることにした。サレルノ大学はヨーロッパで最も古い歴史を持つ医学部で有名なのだそうだ。そういえば高校の世界史でちらっと覚えようとしたことがある気がする。「覚えようとした」だけで、覚えはしなかったので、覚えてないわけだけどね。

イマイチ探しにくいこの博物館、ホテルでもらったサレルノの地図にも載っていなかったので、まあ時間もあったし、目を皿にして探してみた。ちなみにこの地図、なぜかドイツ語とスペイン語で書いてある。どうして日本人の我々に、ドイツ語&スペイン語版の地図を渡そうと思ったのだろうねえ。で、大学博物館は見つかったが、日曜だからか閉まっていた。終わった。

…やることが本当に無くなったので、もうドゥオーモの前で待ちぼうけすることにした(何時に開くかは正確にはわかってないわけだしね)。

サレルノ

こちらはドゥオーモの右隣にある鐘楼さん。
ドゥオーモ前には、既に二人の観光客が待ちぼうけしていた。へー。こんな旅行のオフシーズンに、サレルノに我々以外の観光客がいるのだなあ。

4時になっても、ドゥオーモは開かなかった。しかし、ここでくじけてはならない。イタリアでは、閉館時間はきっちり守るし、むしろ閉館時間よりも早く閉めることもよくあるが、開館時間は数十分くらいなら平気で遅れるものなのだ。どうして閉館時間を守れて、開館時間は守れないのか、本当に不思議である。

かくして、4時5分にドゥオーモの門は開けられた。すると、我々の前に待ちぼうけしていた人たち以外に、観光客が数人、待ってましたとばかりにやって来た。どうやらお向かいのカフェで待ちぼうけしていた人たちもいたらしい。へー。サレルノやるじゃん。結構観光客いるじゃんね。

先述した、やる気のないライオンくんたちの門をくぐると、聖堂の前に大きな中庭があった。その先に、青銅入口があり、こちらの入口もライオンくんたちが門番をしていたのだが、こっちのライオンくんたちはかなりかわいくなかった。

サレルノ

何だかホラーっぽい左のライオンくん。

サレルノ

かなり憎たらしい顔をしている右のライオンくん。これはあっかんべえ以外の何かなのだろうか。

サレルノ

ドゥオーモの中はこんな感じ。かなり新しい時代に改装した感じである。

さて、このドゥオーモの最大の見どころは、正面祭壇のモザイク!

…なのだが、柵があって、近くまで行けないよ!あいやー。

サレルノ

こちらは正面中央のモザイク。内陣以外のモザイクは残念ながら剥がれ落ちてしまっているが、内陣はきらびやかなモザイクがしっかり残っている。なかなか豪華絢爛なのだが…何せ、遠目でしか見えない。

サレルノ

ズームで写真に撮った方がよく見えるというのも何だかカナシイ。こうやって見てみると、なかなかステキだよなあ。近くでじっくり見れたら、結構感動しそうなモザイクなのに。

サレルノ

こちらは正面右側のモザイク。こっちも遠目でしか見えない。おそらく上中央にいるのが大天使ミカエル。下の真ん中に座っているのが、このドゥオーモに祀られている、サレルノの守護聖人である聖マタイ。

聖マタイは、イエス・キリストの12弟子の一人で、福音書記者の一人でもある。結構、キリスト教の聖人の中でも重要人物である。そんな聖マタイさんだが、実はこのサレルノのドゥオーモには、マタイさんのお墓がある。

聖人のお墓は、たいてい教会の地下にある。こういう地下にある墓所のことを「クリプタ」と呼ぶ。左側から地下へと下る階段があり、そこから聖マタイが祀られているクリプタへ降りることができる。

聖マタイさんは、クリプタ中に、さらに下に降りる階段があり、その中に祀られていた。地下の中にさらに地下がある構造がなかなかおもしろかった。

ここのクリプタは、荘厳な絵で飾られていたが、地下のため窓がなく、どうしても教会の地下部分には圧迫感を感じてしまう私は長居ができない。別に閉所恐怖症ではないんだけどなー。私の前世はモグラでなかったことは確かだと思う。いや、もしかしたら前世はモグラで、土の中での嫌な思い出があるから、地下が苦手なのかもしれないぞ。私の前世なんて、はっきり言って心底どうでもいい話題である。

というわけで、サレルノのドゥオーモのモザイクは、なかなか素敵なのだが、間近で見れなかったので、ちょっと消化不良であった。このモザイクがしっかり見れていたら、サレルノに対する印象もずいぶん違ったのかもしれないのになあ。

さて、これにて、今回の旅行の南イタリア編は終了で、明日はトスカーナ地方へと向かう。毎年フィレンツェを中心にトスカーナに入り浸っている姉と私にとっては、トスカーナはなじみ深いし、イタリアの中で一番ホッとする地域だ。南イタリアの旅行を無事に終えたことで、何となく解放されたような、のびやかな気分で明日を迎えることになったのだ(いや、いつでもあんたはのびのびしてるでしょ…)。