3/12ピエンツァ旅行記1 絵画の世界で靴泥だらけ

(前回のあらすじ:午前中はモンテプルチャーノへ行ったよ!)

モンテプルチャーノのインフォメーションで、ピエンツァへのタクシーを呼んでもらい、15分が経過した。インフォメーションのスタッフは、パオロと言う名のタクシードライバーが到着するまで15分程度かかると言っていたが、イタリアにおける時間の約束は、無いに等しいものである。そこで、どうせまだまだパオロは来ないだろう思っていたら、一台の乗用車が近くに停まった。運転手が出てきて、こちらへ手を振った。「僕がパオロだよ~!」

…えっ…?明らかにタクシーじゃなくて、普通の車だよね?つまり白タク(非正規のタクシー)100%ってことだよね?しかもパオロは、ちゃらちゃら伸ばした金髪に、サングラスをかけ、シャツの胸元をはだけている。つまり、「うさんくさい」という形容詞を、そのまま擬人化したような男である。えええっ!?この車に乗ることは、日本人旅行者としてあるまじき行為に思えてならないのだが!

さらにピエンツァまでの運賃をたずねると、30ユーロだと言う。「地球の歩き方」にはモンテプルチャーノとピエンツァ間のタクシー料金は、定額20ユーロと書いてあるのだが…。いかんせんアヤシイっ!アヤシイぞ、パオロっ!

いや…しかし、この車は、正式にインフォメーションが呼んだことは確かである。でなきゃ、パオロという名前が偶然一致することもあるまい。それに、イタリア旅行では、最新のガイドブックに掲載されているあらゆる料金が値上げしていることは茶飯事である。パオロだって、うさんくさい外見だけど、好きでうさんくさいわけではないかもしれない。人を外見で判断しちゃいけないぞ!

…というわけで、我々はパオロの車に乗り込んだ。もちろんだが、車内にメーターなどない。もしかしたらこのパオロ、単にインフォメーションのおねえさんの友だちか何かで、「ハイ、パオロ!今ヒマ?モンテプルチャーノからピエンツァまで観光客を車で送るバイトしない?」とか言われてやってきたのかもしれない。モンテプルチャーノからピエンツァまではわずか10分。それで30ユーロだから、破格のバイトである。

このパオロには、「ピエンツァのカステッロ通りの近くで降ろして下さい」と頼んでみた。カステッロ通りとは、「地球の歩き方」に掲載されている、オルチャ渓谷のパノラマが拝める通りである。だが、パオロは「カステッロ通り」と言われても、首を傾げるだけだった。パオロー!我々は君を信じているんだ!しっかりしてくれよー!「地球の歩き方」の写真を見せると、「ああ、わかった!オッケー!」と走りだした。

モンテプルチャーノからピエンツァまでは本当にあっという間だった。パオロはピエンツァの城壁外に車を停め、「そこの階段を上がると、すぐにパノラマが見える通りだよ」と教えてくれた。見た目よりずっとしっかりした、いい人だった。一瞬見かけで判断してゴメンよ、パオロ!うさんくさいとか言って、まじゴメン、パオロ!

で、階段を上って行くと、パオロが「カステッロ通り」がわからなかった理由が判明した。

カセッロ通り

これ……カステッロ通り(Via del castello)じゃなくて、カセッロ通り(Via del casello)じゃないか…?もしかしたら「地球の歩き方」が間違っているのかもしれない。パオロが無知なわけじゃなかったのかもしれない。パオロ…重ねて、ごめんよ!

それでですね、このカステッロ通り改めカセッロ通りからの眺めは、えも言われぬ眺めであった。

ピエンツァ

ピエンツァ

こっ、これは………。この美しき緑色の絶妙なカーブとキラキラ具合は、いったい何事なのだ……。コレが、オルチャ渓谷なのである。この絶妙なカーブとキラキラ具合…。何でこんなにタダの地面がきらめいているのだ…?ナゼだーっ!?ナゼなんだい、オルチャ渓谷っ!

私が思うに、この時に、カセッロ通りから見たパノラマの衝撃を、この写真ではおそらく10%も伝えられてないのではないかと思う。

実は私も、写真でオルチャ渓谷を見ていた時は、「キレイじゃないとは言わないけど、そんなに特別なものかなー?他のトスカーナやウンブリアの風景と、何か違うっけ?」とつねづね思っていたのだ。オルチャ渓谷に実際に行った人々の満足度がかなり高いようなので、実物は写真よりキレイなのだろうとは思っていたのだが、もうね、写真なんてプーですよ、プー。実際の美しさと言ったら…!

実際に見るオルチャ渓谷は、触ったらぽよっとへこんでからすぐ元に戻りそうな(もっと詩的な表現はできないものか…)、弾力がある一枚の絨毯のように見えるのだ。あれが、実際は、草の生えている地面だとは、にわかには信じがたい。何なのだ。いったい何なのだ、オルチャ渓谷、お前の正体はっ!?これは、もっと近づいて見てみるしかなさそうだ。

とりあえず、何かパニーノでも買ってきて、オルチャ渓谷を見ながら食べるよろし。とりあえず、何かパニーノでも…買うのが、ちょっと難しいシーズンオフのピエンツァ。よく、私はこの旅行記で、「○○という町はとても小さい」と書くが、ピエンツァはマジで小さい。ピエンツァこそマジで小さい。ピエンツァの小ささに比べると、アマルフィやアルベロベッロだって、それなりのサイズである町だと思えるのだ。

そのマジで小さいピエンツァ、さらにシーズンオフだと開いているお店も少ない。ピエンツァのメインストリート…というよりも唯一の通りらしい通り・ロッセリーノ通りを歩き、「Piccolomini Caffe」というカフェを見つけたので、そこでピエンツァの名物であるペコリーノチーズが挟んであるパニーノを3つ購入した。飲み物類もテイクアウトできたので、一緒に買った。

そして、カセッロ通りに戻り、パノラマを眺めながら、パニーノを頬張った。カセッロ通りには、オルチャ渓谷の景観を眺めるための、ベンチも用意してあるので、そこに腰かけて食べた。ぱくぱく。ほとんど選択肢がない状態で購入した割には、なかなかこのパニーノ美味しいよ。皆、パニーノを頬張りながら、まっすぐにオルチャ渓谷を見つめ、全員同じことを考えていた。「何とかしてオルチャ渓谷の方に降りられないかなあ」。

午前中から坂道を歩きっぱなしなので、母は休ませようかなと思ったのだが、もちろん「お母さんも行くよ」とのことだった。そうだよね。オルチャ渓谷行きたいよね。「お母さん、今からオルチャ渓谷に向けて町を降りるけど、帰りは上りだよ。下った分だけ上るんだよ。大丈夫ね?」と数回念押ししたが、大丈夫、とのこと。そうだよね。行きたいよね!

というわけで、オルチャ渓谷に向けて、あてどもなく降りていくぞー!

TAKE1:とりあえず、カセッロ通りの下の方へ降りて、旧市街の外へ出た。そのまま左下の方へ続いている小さな道があったので、下りてみたら、民家で行きどまってしまった。ゲームオーバー。

TAKE2:小さな道に入るのはやめて、そのまま車道を、降りていくことにした。ゆるやかにぐるぐる降りていく。真ん中を突っ切って降りて行きたい気持ちはヤマヤマなのだが、とりあえずこの車道を降りて行こう。

ピエンツァ

途中で猫ちゃんに会ったよ!「この人たちどこに行くのニャー?」

ピエンツァ

どんどんオルチャ渓谷が大きくなってきましたよ!

ピエンツァ

おほほほほほほ!かわいらしいお家ですね!おほほほほほほ!(←あまりに素敵な風景に、ハインテンションになってきた私)

ピエンツァ

ピエンツァの中心街が遠くなってきましたね!オルチャ渓谷側から見るピエンツァは、周りの景色とも相まって、本当にかわいらしいですね!タイミングよく青いバスが上ってきて、姉が粋な写真を撮りましたね。このバスはスクールバスでしてね、乗っていた地元の子供たちが、我々に向かって手を振ってきましたよ。心温まる国際交流ってもんですね。

さて。しゅくしゅくと車道を降りていた我々ですがね、あまりの景色の美しさにハイテンションになってきましてね、「もう、車道なんかしゅくしゅくと降りてられるか!さっさと農道で降りてしまおうゼ!」との意見で一致しましてですね、勇敢(無謀)にも、脇道に逸れて農道を降りましたよ。

ここのところ天気が悪い日が続いてますからね。農道は泥道になってましたよ。だけどね、泥がなんですか。泥は、落とせば落ちる!はっきり言って、この泥道を歩いて正解だったんですよ。

ピエンツァ

この果てしなく続きそうな気持のよい景色!

ピエンツァ

糸杉の花道の先にあるお家!メルヘンですね、つまりメルヘンですね!?オルチャ渓谷の糸杉は、何だか立っているだけで楽しそうだ。まるで隣の糸杉とおしゃべりしてそう。

ピエンツァ

ピエンツァの町があんなに遠くに!この写真でもわかるように、ピエンツァは高ーい丘の上にあるというわけではなく、なだらかな丘のてっぺんに、ちょこんと乗っかっているかわいらしい町なのだ。それにしても、ピエンツァの周りに、黒い雨雲が集まってきてるなあ。また雨が降るのかな。

ピエンツァ

もうね、ごろごろと転がりたくなる景色だね!だけど、降り続いている雨のせいで、地面は泥水なので転がれないね。もうなんだろうねオルチャ渓谷。絵を描きたくなるね。オルチャ渓谷は、本当に絵画の世界のようだ。絵画の世界の中にいるってことは、私も絵の中の登場人物ってことね、ウフフ☆(←浮かれてるのでそっとしてやってください)。しっかし、こんな風景が、現実に存在するんだなあ…!

ピエンツァ

遠くーに、プリンのようにポコッとしている丘は、ラディコーファニ。オルチャ渓谷の南端に位置する。何でこんなまさしくプリンの形をしているのかはわからないが、昔、要塞があり、この周辺を監視していたのだそうだ。プリンのくせに。行ってみたい気持ちはヤマヤマだったのだが、車がないと難しい場所なので、今回は断念。

いつまでもオルチャ渓谷でウダウダしていたかったのだが、ピエンツァの上方に邪悪な雨雲が集まってきているので、天気が崩れる前に市街地に帰ることにした。…が、何だか靴が重い。泥道の農道を歩いたせいで、靴に泥がこびりついているのである。

そこで、全員で、道路に座って、靴の泥落とし大会。石を使って、道路の角をつかって、なかなか泥は落ちない。だが、誰一人、泥だらけの靴を後悔する者はナシ!泥なんか落とせば落ちるんだ!(イヤ、結構大変でしたけどね)

泥落とし大会が終わったら、ゆっくりゆっくりと、ひたすら車道を上った(せっかく泥を落としたのに、また農道を通ったりしたら、知的生命体としての資質を疑われますからね)。ほとんど人も車も通らなかった。「本当は3人で一緒に記念撮影したいのにねー。誰もカメラを頼む人がいないねー」などと話しながら上っていると、後ろから車がやってきて、すぐ前方に停まった。そして、何と中から出てきたのは日本人男性二人だった。

スーツを着ていたから、仕事途中なのだと思われるのだが、一人が簡単にガイドをして、一人は熱心にオルチャ渓谷の写真を撮っていた。ガイドをしていた男性が我々に気づいて、驚いたように話しかけてきた。「日本の方ですよね…?どうやってここ(オルチャ渓谷の真ん中)まで来たんですか?」

上方のピエンツァを指さして、「あそこから歩いてきました」と答え、この辺は交通が不便だという立ち話をした。確かにオルチャ渓谷は車がないと、なかなか動きにくい場所なのである。しかし、こんなところで日本人に出会うなんて、お互いに驚きだった。あまりにグッドタイミングだったので、カメラのシャッターを押してもらって、無事にオルチャ渓谷での3人一緒の写真撮影を達成した!どうも、ありがとうございました!

まあ、それにしても、繰り返しになるが、オルチャ渓谷の風景は、写真よりも実物の方が何倍もいい!。イタリア旅行もこれで5回目だが、今まで行った場所の中で、オルチャ渓谷は特に心に残る場所であることは、間違いないっ!オルチャ渓谷ばんざいーっ!トスカーナばんざーいっ!