3/14サン・クイリコ・ドルチャ旅行記 絵画の礼拝堂を垣間見る

本日は、ピエンツァの西の隣町、サン・クイリコ・ドルチャへと日帰りで行く。

宿泊しているアグリの娘さんのラウラが、2日前ほどに、「サン・クイリコ・ドルチャまで車で送ってあげるわよ」と言っていたのだが、時間の約束も何もしなかった。つい、日本の感覚で、向こうから時間を言ってくるのかな?送ってもらうのに、こちらから言うのはずうずうしいよなあ…などと躊躇してしまい、結局ラウラは、朝の8時頃には、車で出勤してしまったのが窓から見えた。イタリアでは、こういう時は、自分たちが積極的に動かなきゃいけないんだよなあ…と反省。

だが、ピエンツァからサン・クイリコ・ドルチャへ行くバスは、ちょうどよい時間にいるので、バスで行くことにした。ピエンツァのバス停は、バスターミナルがあるわけではなく、市街地外の、Via dello Madonninaという通りにある。本当は、止まっているアグリのすぐそばにもバス停があるのだけれど、Via dello Madonninaのバス停の方がメインなので、バスに素通りされたらイヤだなあ…と思い、Via dello Madonninaの方のバス停まで行くことにした。

さて、その前にバス切符を買わねば。イタリアではバス車内では切符を買うことができず、エディコラ(屋台の雑貨店)やタバッキ、バールなどで事前に買っておかねばならない。

とは言っても、ちっこいピエンツァ。どこで切符が買えるかな。

とりあえず、ダンテ広場というピエンツァ的には大きいつもりの広場に3件、お店が並んでいるので、いかにも切符を売っていそうな左端のタバッキに行ってみたのだが、バス切符は右端のバールで扱っていると言われた。で、右端のバールで、無事にバス切符ゲットォ!片道1.5ユーロでござった。

バス停へ行くと、バスを待っているのは旅行と思われる東洋人ばっかりだった。日本人のカップルと、中国人か韓国人の女の子グループで、皆スーツケースを持っている。シエナに移動するのかなー。サン・クイリコ・ドルチャに行くバスの終点は、確かシエナである。

バスは数分の遅れでやって来た。サン・クイリコ・ドルチャに行くのは我々だけであろうから、おそらく最初に停まるのがサン・クイリコ・ドルチャのバス停だとは思うのだが、念のために運転手さんに「サン・クイリコ・ドルチャで降ろして下さい」と頼んでおいた。

さて。我々が、なぜピエンツァの隣町のサン・クイリコ・ドルチャに行くのかというと。ピエンツァとサン・クイリコ・ドルチャの間には、オルチャ渓谷三大有名風景のひとつ、「Cappella della Madonna di Vitaleta」…マドンナ・ディ・ヴィタレータ礼拝堂があるのである!
(ちなみに「オルチャ渓谷三大有名風景」とは私が勝手に決めたもの。残りの二つは、サン・クイリコ・ドルチャとモンタルチーノの間にあるらしい、糸杉が集まっている風景、通称「糸杉会議」と、モンティッキエッロ近くにあるらしい、糸杉とカーブが続く道が有名な、通称「糸杉くねくね」。どちらの通称も勝手に私がつけた。勝手すぎる私)
糸杉会議

糸杉くねくね

(↑「糸杉会議」と「糸杉くねくね」は、こんな感じの風景。)

さて、話をヴィタレータ礼拝堂に戻そう。このヴィタレータ礼拝堂、どちらかというとピエンツァよりもサン・クイリコ・ドルチャ寄りにあるのだが、地図で確認すると、サン・クイリコ・ドルチャからは農道のような道を5kmくらい歩く距離だった(ピエンツァからだと10km弱という感じ)。

決して歩けない距離ではないだろうが、何せオルチャ渓谷のど真ん中。バールなどは一切なさそうなので、途中休憩する場所を探すのは難しそうである(トイレとかどうするべ)。普通であれば、車で行く場所なのである。

だが、姉も私も車の免許は持っていない。母は持っているけど、不慣れなイタリアで運転するのはキビシイ。どうしてもこのヴィタレータ礼拝堂に行きたかった姉と私は、母はアップダウンのある道を5km歩くのは大変だろうからこの日はお休みにして、二人で、タクシーを使って礼拝堂近くで降ろしてもらい、そこからサン・クイリコ・ドルチャまで歩こう、と当初は計画していた。

しかし。ここ数日、この辺りは雨が降ったりやんだりが続いている。昨日、おとといと、ピエンツァ近くのオルチャ渓谷まで降りた我々は、農道は、泥道になっていて、かなり歩きにくくなっているのを確認した。おそらく礼拝堂近くの農道も同じようなコンディションだろうから、さすがに5km歩くのはしんどいだろうし、とちゅうで雨でも降ってきたらオーマイガッである。ということで、残念ながら、今回は礼拝堂行きは断念することになった。

その代り、ピエンツァからサン・クイリコ・ドルチャへバスで行けば、途中で車窓から見えるんじゃないかな!というわけで、今日のサン・クイリコ・ドルチャ行きは、10分もかからないくらいのバス往復がメインなのである。結果より過程を大事にする旅行者っ!(ちょっと違うだろ)

バスは、ピエンツァの市街地をゆっくりと降りて、オルチャ渓谷へと出たのだが、うおおおおーっ!こりゃすごい!左も右も、なだらかな緑色のアップダウンが続き、まさしく今、我々は絵画的世界の真ん中にいるのだ…!ピエンツァから見えるオルチャ渓谷の風景もステキだけど、この、ピエンツァ―サン・クイリコ・ドルチャ間の景色は、もはやパラダイスである!

…なのに、我々以外の乗客が、車窓を見てないッ!登校途中と思われる、地元の小中学生は毎日見ている風景だから仕方ないだろうが、他の東洋人観光客たちは、皆、寝てるか、ガイドブックを読んでるよ!うをー!一人一人に、「ちょっと!窓の外見てごらんよ!」と、言ってまわりたい気分だったが、おせっかい野郎になるのをグッとこらえた。

そして、おそらく、進行方向左手に、礼拝堂は見えてくるはずだ…!

ヴィタレータ礼拝堂

キター!見えてきたーっ!左の建物がヴィタレータ礼拝堂である。結構なスピードで走っているバスから撮影した写真なのでブレまくっているが、この建物、何かの写真で見たことがあると言う方も多いのではないだろうか。

なだらかな丘がずーっと続いているので、礼拝堂は、見えたり、隠れたりしながら近づいてきた。姉が一生懸命写真を撮ってくれようとするのだが、何せバスのスピードが速くて難しい。運転手さんっ!ちょっとスピード下げてくれよーっ(無茶言うな)!こういう時、電車だったら、よく意味不明の徐行運転や、意味不明の停車をするので助かるのになあ!(まあこういうことするから電車はよく遅れるんだけどね)

ちなみに、ヴィタレータ礼拝堂の写真は、姉は帰りのバスの中でも挑戦してくれた。オノレの目に焼き付けたかっただろうに…。ありがとう、姉!やっぱりカメラ係は大変だなあ。私も少しだけでも写真の練習しよう。上手とまではいかなくても、せめて人並みに撮れるようにね。

サン・クイリコ・ドルチャ

こちらは、礼拝堂を過ぎた後の車窓の写真。ピエンツァとサン・クイリコ・ドルチャの間の道は、ずーっとこういう絵画的風景が続く。

このえも言われぬパラダイスの風景を、バスは10分ほどであっという間に駆け抜け、サン・クイリコ・ドルチャに到着した。運転手さんが「ここで降りて、階段を上れば旧市街だよ」と教えてくれた。運転手さんにお礼を言って降りて行く我々を、バスに乗っていた東洋人観光客の方々は、「何でこんな所で降りるんだろ…」と不思議そうに見ていた。まあ、そうだよね。サン・クイリコ・ドルチャは、なかなか日本のガイドブックなどでお目にかかれる町ではない。

さて。階段を上れば旧市街なのだけれども、城壁のある町には、できれば門から入りたいので、ちょっと歩いて、正式な(?)門から町には行った。

サン・クイリコ・ドルチャ

おそらくこちらはカップッチーニ門と呼ばれる門。なかなか可愛らしい。おじゃましまーっすっ!

サン・クイリコ・ドルチャ

このカップッチーニ門の周辺の通りが、一番中世の街並みが残っているという感じで、趣があった。しかし!帰国してからカメラをチェックすると、サン・クイリコ・ドルチャの写真は、かなり少なかった。確か雨がぽつぽつ降ったりやんだりと言う感じだったので、あまり町歩き中の写真撮影ができなかったんだろうなあ。

あ。そういえば。サン・クイリコ・ドルチャには城壁外に郵便局があるので、国際キャッシュカードでお金がひけないか確認したくて(宿泊しているピエンツァには、イープラスのカードが使えるATMが無いのだ)、いったん町から出て郵便局まで行ってみた。郵便局にATMはあったが、ここもイープラスに対応していなかった。オルチャ渓谷の町で、今までのところ、イープラスでお金がおろせるのはモンテプルチャーノだけだよっ!

そのまま郵便局の近くから町の中に入ると、すぐ目の前に、サンタ・マリア・アッスンタ教会があった。

サン・クイリコ・ドルチャ

サン・クイリコ・ドルチャ

上にポコッと出ている部分には鐘がついている。教会と鐘楼が一体化してるのかなあ。なかなか珍しい造りの教会で、サン・クイリコ・ドルチャで見た教会の中では、一番印象に残った教会。

サン・クイリコ・ドルチャ

なかなか美しくて品のある門の部分。

サン・クイリコ・ドルチャ

美しい門…なのだが、入り口部分にこういうキテレツなシロモノが…。いろんな教会で見かける、入口を守るライオン…かなあ?きっとそうだよね。パッと見、イカれた太陽にしか見えないけどね。こういうゆるキャラならぬ、変キャラが装飾として散りばめられているのは、ロマネスク期の教会の特徴である。

扉が開いていたので、中に入ってみると、中は石造りのロマネスク教会らしく、真っ暗で、しんしんと寒かった。祭壇前には、民俗信仰みたいな、つたない聖人だか聖母子像(ど忘れした)?だかの像が飾ってあった。

サン・クイリコ・ドルチャ

教会の裏手にぐるっと回ってみると、鐘楼の下に、ちっちゃい円筒状の屋根があった。草が生えてしまっているのが、何だか年季が入ってるみたいで、古くさくてかわいらしい。

サン・クイリコ・ドルチャ

ロマネスク教会らしく、変キャラがいっぱいくっついているのだが、珍しいものを見つけた!

サン・クイリコ・ドルチャ

こっ、これは…。もしかして猫っ!?教会建築の装飾で、猫を見たことは今まで一度もないのだが…。でも猫にしてはちょっと鼻が長すぎる気もするなあ。いったい何ぞや、彼の正体は。

サン・クイリコ・ドルチャ

教会の手前にあった、古そうな井戸。中世の町で見かける井戸は、本当にかわいらしいものが多い。

このサンタ・マリア・アッスンタ教会のお向かいには、中世の病院跡というものがあり、ちょっと中に入ってみると、中庭のような場所に出た。どう見ても個人宅だよなあ…。サン・クイリコ・ドルチャは、中世、フランチジェーナ街道、カッシア街道という二つの重要な道が通っていて、交通の要所だったのだそうだ。旅の途中で体調を崩した人々のための病院が町の中に作られ、ここはその跡だそうだ。

ここサン・クイリコ・ドルチャには、ぜひ訪問したかった教会がある。町のほぼ中心に位置する、サン・フランチェスコ教会である。このサン・フランチェスコ教会は、別名をマドンナ・ディ・ヴィタレータ教会(Chiesa della Madonna di Vitaleta)という。

ヴィターレタ?そう。ピエンツァからサン・クイリコ・ドルチャまでの道の途中にある、あの絵画的な礼拝堂の名前が、マドンナ・ディ・ヴィタレータ礼拝堂。

ちょっと詳しいことはわからないので、予想で書くのだが、礼拝堂というのは、信者さんの礼拝を目的にして、教会の外に作られることがあり、おそらくあのヴィタレータ礼拝堂の本体というか、親のような教会として、マドンナ・ディ・ヴィタレータ教会なる教会が、サン・クイリコ・ドルチャの旧市街内にあるのではないかと思う。

オルチャ渓谷の真ん中に住む農民たちが、旧市街までわざわざ長距離を歩いてこなくてもお祈りができるように、言わば派出所みたいな形で礼拝堂をオルチャ渓谷の真ん中に作ったんじゃないかなあ。

実は、昔は、ヴィタレータ礼拝堂の中に、アンドレア・デッラ・ロッビア作の聖母像があったらしい。オルチャ渓谷のど真ん中のあの美しい礼拝堂の中に、美しい聖母像があったなんて、想像するだけで身もだえしたくなってしまう。残念ながら、ヴィタレータ礼拝堂は現在無人で、通常は開いてないそうなので、保存が難しいと思われたのか、ロッビアの聖母像は、ヴィタレータ礼拝堂の本家であるヴィタレータ教会へと移され、現在に至るのだそうだ。

私はロッビア作品は大好きなので、ここサン・クイリコ・ドルチャに来た一番の目的が、このロッビアの聖母像を見ることだったのだが、残念ながらサン・フランチェスコ教会(ヴィタレータ教会)は工事中で内部に入れなかった。あーれー。

あーれー。残念なあまり、この教会の外観を撮影するのを忘れてしまった。そして、雨も強くなってきた。サン・フランチェスコ教会は、町のメインストリートであるダンテ通りに面しているので、このダンテ通りのバールにでも入って一休みしようかと思ったのだが、ここに入ろう!と思えるようなバールが見つからない。

皆、それほど何か飲みたいわけでもないということだったので、このサン・フランチェスコ教会の近くにあるヌオヴァ門から城壁外に出た所に公衆トイレを発見したので、ここでトイレ休憩だけ済ませた。無料で使える公衆トイレがある町って、なかなか珍しい。

サン・クイリコ・ドルチャは、ピエンツァ程ではないが、ちっちゃい町なので、傘をさしながらやみくもに歩いてみた。というか、グーグルマップの地図と、サン・クイリコ・ドルチャの公式観光サイトだかなんだかが提供している地図2つを持ってきたのだが、どうも地図と実際の道が読みづらい。こういう地図でわかりづらい町ってのは、中世の古い町並みがそのまま残っていることが多い。

ヌオヴァ門から、城壁沿いに歩いていくと、たくさんの猫ちゃんに遭遇した。

サン・クイリコ・ドルチャ

サン・クイリコ・ドルチャ

サン・クイリコ・ドルチャ

サン・クイリコ・ドルチャ

そのまま城壁に沿って歩くと、町の北の端、城壁外へと出た。城壁外からは、オルチャ渓谷がちらっと見えたのだが、らせん状にぐるぐる回っている大きな高速道路が邪魔で、あまり景色を拝むことができない。サン・クイリコ・ドルチャとモンタルチーノの間にあるはずの「糸杉会議」が見れないかと、あっちこっち移動してみたが、そもそもオルチャ渓谷のパノラマ自体があまりよく見えない。

町の中へ戻ると、すぐに大きな教会が目に入った。Collegiata dei san Quirico e Giulittaと言う名前で、おそらくサン・クイリコ・ドルチャでは一番大きな教会で、ドゥオーモのような存在なのではないかと思う。

この教会、入口の装飾がとってもかわいかった。

サン・クイリコ・ドルチャ

ワニだかイグアナだかの、デカイ爬虫類さんたちが飾る門。

サン・クイリコ・ドルチャ

うーむ。左のワニさん、右のワニさんに口をすぽっと噛みつかれてるよ!それとも愛のディープキス?左のワニさんはお花なんかしょっているから、もしかしたら美人なワニ子さんなのかもしれないんね。それとも、左が口を閉じて、右が口を開けて、宇宙の始まりと終わりを表す仏教の「あうん」が伝播したものなのだろうか。そうだとしたら奥が深いぞ、ワニっ!

サン・クイリコ・ドルチャ

ワニの右上の方には、こんなにシアワセそうな人魚さんたちが。イヤ、マジ平和。マジでハッピー。海など気配も感じられない丘の上の町に、こういう人魚モチーフなどがあるのは興味深い。

教会内は、説明書きも多く、なかなか観光にがんばっている感じだった。中には何だかシエナ派っぽいフレスコ画があったような気がするが、あんまり覚えていない。せっかく説明書きをつくってくれたのに、ごめん、サン・クイリコ・ドルチャ!何せねえ、この教会に入っている頃は、どこかオルチャ渓谷を拝めるパノラマスポットはないかなあとそわそわしていたのだよ。

というのも、サン・クイリコ・ドルチャも、ピエンツァと同様に、オルチャ渓谷の真ん中にある丘の上の町。ピエンツァからオルチャ渓谷のパノラマが拝めるなら、サン・クイリコ・ドルチャにもパノラマスポットがあるのでは?と思ったのである。特に、「糸杉会議」が拝めたら嬉しいなあ。

で、城壁に沿ってぐるっと歩いてみたのだが、視界が開ける場所はない。というのも、オルチャ渓谷の真ん中にぽつんとあるピエンツァと違って、サン・クイリコ・ドルチャは、旧市街を、城壁外の集落が取り囲んでいるため、その城壁外の集落が視界を遮ってしまうのである。

ということは、どこか高い所に上らなければらない。てなわけで、目を皿にして、どこか城壁の上の方に登れる階段はないか探してみると、階段は見つかるのだけど、その階段の先のドアがカギが閉まっている。おろー。なんかだんだん、どうしてもパノラマ見たくなってきたよ!

こうなったら最後の手段。サン・クイリコ・ドルチャの旧市街の面積の、4分の1ほどを占める「Horti leonini」という庭園があるのだが、この庭園内を探索してみることにした。ちなみにこの庭園は、メディチ家などが絡んだ、それなりに歴史のある庭園らしいのだけど、自由に入ることができる。

中に入ると、猫のトイレの匂いしかしなかった。サン・クイリコ・ドルチャではたくさんの猫ちゃんに遭遇したけど、その猫ちゃんたちが、この庭園で猫会議でもしているのかもしれないね。(「猫会議」を知らない方のために説明すると、ノラ猫たちは、近所の顔合わせのためか、夕刻頃に、決められた場所にどこからともなく集まってくる習性を持つのだ。これを「猫会議」と呼ぶ。)

で、パノラマスポットを求めて、この庭園を端から端まで歩き回った。求めよ!さらば、与えられん!………だが、オルチャ渓谷が拝めるスポットは、結局見つからなかった。求めたのに与えられなかったよ。糸杉会議とか、ヴィタレータ礼拝堂が見える展望台があれば、サン・クイリコ・ドルチャももっと人気の観光地になるんだろうけどなあ。

というわけで、仕方がないのでランチでも食べることにした。

サン・クイリコ・ドルチャは、こんなにひそやかな町なのに、ミシュランに掲載されている、有名なトラットリアがある。名前は「トラットリア・アル・ヴェッキオ・フォルノ(Trattoria al Vecchio Forno)」。トラットリアとは、郷土料理を食べられるお店である。そう。ピエンツァに来る時にタクシーの運転手さんが言っていた、キアーナ牛を食べてみたいのだよっ!

有名トラットリアなので、ちょっと身構えていたのだが、中に入ると、それほど気取ったインテリアではなく、気軽に入れる雰囲気だった。少しカントリー風に装飾していて、個人的には、大好きな内装だ。

すぐに30代くらいの、一目でこの人はデキル男!という光を目に宿したウェイターが寄ってきて、席に案内してくれた。程よい笑顔、程よい親切。やりすぎでも足りなくもないホスピタリティ、丁寧だけどよそよそしくない態度…つまるところ、プロなのである。

このウェイターさんに相談しながらメニューを決めた。せっかくだからトスカーナ料理を食べるぞってことで、トスカーナ名物の豆スープ「Ribollita」をまずオーダー。それから、ここら一帯の南トスカーナの名物・太麺パスタのピチを、これまた地元の名産ペコリーノチーズで味付けしたものを頼むことにした。

そして、キアーナ牛。こちらは、量り売りになるらしい。「3人で300グラムくらい食べたいんですけど…」と言ってみると、「最少でお売りできるのが1キロくらいになるんです」とのこと。いっ、いっきろっ……!普段、肉より野菜を多く食べる一家の我々なので、一人あたま300グラム強の牛肉を食べると考えると、食べきれないんじゃないかと心配になったが、ステーキ肉を考えれば、300グラムくらいなら食べられる気もしてきた。ていうか、せっかくだから食べようぜっ!ということで、いっきろのキアーナ牛をオーダーっ!

サン・クイリコ・ドルチャ

こちらが豆スープ「Ribollita」。私はこの豆スープ大好きである。ごった煮と言えばごった煮なのだが、何だかホッとする味がして、トスカーナにとても似合う味のように思う。ここのスープは、大きめのパンが入っていて美味しかったー。

サン・クイリコ・ドルチャ

太麺パスタのピチ。太麺パスタって言うか、もはやうどんだった。コシのある歯ごたえ抜群のうどんだった(うどんじゃなくてピチです!)。だけど、このピチを食べていると、うどんをチーズであえても美味しんじゃないかと感じた。実際帰国してから姉が作ってくれたが、なかなかイケた。つまり、日本でピチを食べたいときは、うどんをパスタの味付けで作ればヨイってことね?(ち・が・う!!!Byピチ)

そして、満を持してキアーナ牛の登場!

サン・クイリコ・ドルチャ

さっきのデキル系ウェイターさんが、うちのシェフです、と紹介してくれて、そのシェフさんが、目の前でキアーナ牛を切り分けてくれた。これは観光客には楽しいパフォーマンスだ。焼き具合は、メディア(中くらいの焼き具合)でお願いした。
いくつかをお皿に取り分けてくれて、残りは、冷めないように、まだ熱い鉄板の上に置いてくれた。焼き具合が足りない時は、その鉄板でもう少し焼いても良いそうだ。いやー、なかなか楽しいね。

さてお味の方は。非常にサッパリとした感じ。最初は皆、「和牛の方がジューシーで美味しくない?」と言いあったのだが、食べているうちに、あっさりとしたしつこくない口当たりがクセになってきて、いくらでも食べられる味になってきた。あー、これなら3人で1キロくらいだったら余裕だよ。何も恐れることなかったよ!焼肉のジューシーさと言うより、ヘルシーで上品な味という感じ。

このトラットリアは、こんな小さな町の中にあるのに、我々以外にもお客さんがぽつぽつと入ってきた。地元の人でも観光客って感じでもなく、わざわざこのトラットリアに食事に来たという雰囲気だった。結構ドレスアップしてやって来て、ワインの香りを嗅いて、ワインを取り替えたりしていたテーブルもあったので、グルメ通には有名なお店なのかもしれない。ミシュランに載っているくらいだしね。

で、キアーナ牛1キロはペロッと食べてしまったので、まだ胃袋に余裕アリだったのでデザートを注文したよっ!一人ひとつずつ注文したよっ!あのデキル系ウェイターさんは、私のたどたどしいイタリア語をやさしく聴いてくれて、最後は必ず「ペルフェット(=パーフェクト)!」と言ってくれる。本当に感じのよいウェイターさんだった。まじプロだった。

サン・クイリコ・ドルチャ

一番美味しかったのが、このマスカルポーネのデザート。イタリアの有名レストランは、食事は美味しいのにデザートはイマイチってことがあるのだが、このお店は、デザートまでカンペキであった。美味しかったー!

有名なお店ではあるけれども、お値段は、それほど高くはない。豆スープが8ユーロ、パスタのピチが9.5ユーロ、付け合せで頼んだサラダが4ユーロ。キアーナ牛は1キロで44ユーロ。デザートが7ユーロで、他にお水やコーヒー代、コペルタなど合わせて、3人で104ユーロだった。デザートまでしっかり食べてこのお値段なので、他のイタリアのトラットリアと比べても普通のお値段である。

お店を出る前にトイレを借りようということになり、姉が、2階にあるトイレを借りた。帰ってくるなり姉は言った。「行くべきトイレだよ」。

そこで、私も続いて行ってみた。すると!人が近づくと、自動で洗面台、個室の灯りが、スッと点くのである。しかも、やさしい色の灯りが、エレガンスに点くのだ。そして、トイレにはかぐわしいハーブの香りが漂い、洗面台の横には、カントリー風のかわいらしいイスと机があり、「もしこのトラットリアに対する意見があったら、ここに投函してください」と、紙とペンが用意してあった。面と向かって言いにくいことは、ここで書いてくれという、細やかな気遣い。イタリアの中の異国というべき空間であった。

そして、トイレから下のトラットリアに続く階段には、お店に来たことのある有名人のサインが並んでいた。ほとんど知らない人ばっかりだったけど(ちなみに私はテレビあんまり見ない世間知らずなので、外国の俳優さんとかほぼ知らない)、その中にフィオレンティーナ時代のモントリーヴォのサインが!

サン・クイリコ・ドルチャ

「ここでしかない雰囲気の中で最高の夜を過ごしました」とか書いてある(私の超テキトー訳ですよ!)。モントリーヴォ…ミランに行っちゃったなあ…。彼にはトスカーナが似合っていると思ってたのになあ…(でも本当はモントリーヴォはミラノがあるロンバルディア出身)。

お腹が完全に満足した状態で、ピエンツァへと帰ることにした。

サン・クイリコ・ドルチャ

これがサン・クイリコ・ドルチャのバス停。目の前にはアメリカンな雰囲気のレストランがある。

バスは15分ほど遅れてやって来た。15分の遅れなど、イタリアでは遅れのうちには入らない。よくやった方だ。さて、サン・クイリコ・ドルチャからピエンツァへの道筋は、最高級のオルチャ渓谷が広がるので、わずか10分の刹那のような乗車時間で、車窓を目に焼き付けるぞ!

ヴィタレータ礼拝堂が見えてきた!

サン・クイリコ・ドルチャ

姉がもう一度チャレンジしてくれた。行きよりもきれいに撮れたね!走っているバスの中から撮るのは難しいだろうに、姉、ありがとうっ!

今回は走るバスの窓から垣間見ただけで、あっという間に過ぎ去ってしまったヴィタレータ礼拝堂だが、本当の本当にかわいらしいよ。マジ、ここには歩いて行きたいよ!バスに乗った距離感だと、サン・クイリコ・ドルチャから歩くのは、天気さえ良ければ、不可能ってことはなさそうだ。うん、必ずオルチャ渓谷には戻ってきて、その時には、ヴィタレータ礼拝堂遠足を達成するぞ!来年以降の宿題であるっ!待っててくれ、ヴィタレータ礼拝堂っ!