3/17ボローニャ旅行記6 雨が降るならボローニャで!

ボローニャの国立絵画館は、午後2時きっかりにカチャっとドアが開いた。さすがボローニャ!時間を守れる街っ!

開館を待っていた、10数名程度の観光客がわらわらと受付に並び、切符を購入する。切符売り場から、階段を上って展示室へと行くのだが、この階段部分からして綺麗な建物で、中の展示物にも、期待が高まる…!

さて、最初に鑑賞者を待ち構えているのは、ジョットの作品がある部屋である。

ボローニャ

ジョットの祭壇画「聖母子」。ジョットらしく、登場人物の眼光が皆鋭く、気合十分の表情。

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特に左端の、聖ペトロの面構えがよい。左手に天国のカギを持って(ちょっとデカすぎるカギだが)、鑑賞者の方へギロリと視線をくれているペトロさん。

私は結構、このペトロさんとにらめっこするのは面白かったのだが、姉は、「うーん、ちょっとジョットの作品としてはイマイチかなー」と言って、うろうろと同室の他の絵を見始めた。…が、姉は言った。「…うーん、あんまり惹かれる作品がないなあ」。

そして、姉と私は、ジョットを正面に見た時に、右手の方にある、一枚の絵があまりにも気になった。イエス(もしかしたら洗礼者ヨハネかな?)が、誰かを肩車しながら歩いていて、そのイエスの着ている服が、あんまりにもミニスカートすぎる、実にシュールな絵であった。題してミニスカイエス。

もうこのミニスカイエスがシュールすぎて、私と姉は笑いをこらえるのが苦しかった。一応、キリスト教絵画なだし、美術館の中で笑い転げるわけにはいかないので、もう、苦しすぎて、苦しすぎて…。私はもっとジョットをしっかり鑑賞したかったんだけど、視界の端にこのミニスカイエスがどうしても入ってきてしまい、笑いが我慢できず、ほとんど息を止めながら、この部屋を出た。母にミニスカイエスを教えたら、母も笑いをこらえるのに苦しくなってしまうだろうと思い、母には教えないでおいた。

写真撮影可の絵画館だったのだが、姉も私もあのミニスカイエスを前にすると吹き出さずにいられなかったため、どちらもカメラのシャッターを押すことができなかった。記念に撮っておくべきだったなあ。しかし、このミニスカイエスのせいで、ジョットをしっかり堪能できなかったよ!

ジョットの部屋を逃げるように出た後は、この美術館の目玉であるラファエロ作品にたどりつくまで、気に入る絵を探しながら歩いた。

私は、イタリアを旅行するようになってから、美術鑑賞のためにと思って、いくつかの西洋美術史の本を読んだ。そのためか、西洋美術に対する知識が、ほんの少しだけどついてきて、そのおかげで、イタリアの美術館では、有名作品がなくても、なかなか楽しめるようになってきた。

…のだが!

ラファエロの絵にたどりつくまで、母、姉と共に、私も無言っ!ちょっ…この国立絵画館…の絵………変な絵が多いんですけど!イヤ、わかりますよ、古いってだけで価値のある絵や、絵そのものが美しくなくても、歴史的に価値のある絵というものがあり、美術館というものは、そういうものを展示しつつ保存する役割があるということは!…しっ、しかし…コレは楽しめないなあ…。写真撮影自由放題の絵画館だったのだが、ジョットの絵以降、一度もカメラを取り出そうとしない我々!

そんな中、古くて痛みまくっているフレスコ画を展示している部屋があった。フレスコ画大好きな私は、この部屋はなかなか面白かった。フレスコ画は傷みやすいと言われるのだが、ボロボロになったフレスコ画ってのは、何だかボロボロならではの雰囲気があり、その雰囲気が私は結構好きなのだ。

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展示されていたのは、説明書きによると、14世紀にヴィターレ・ダ・ボローニャと呼ばれるボローニャ出身の画家さんが、もともとはサン・フランチェスコ教会に描いた絵が、20世紀にここ国立博物館に移されたものだそうだ。この部分は「最後の晩餐」がテーマだが、こりゃ傷みすぎてて、何が何だかわからないね。

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でもよく目を凝らして見ると、もともとこの絵が「最後の晩餐」であったことがわかる。「最後の晩餐」のモチーフのなかでは、よく眠りこけているヨハネの顔部分が、奇跡的な感じで残っている。横の二人の弟子さんたちは、「あーあ、この子寝ちゃったよ」とヨハネを指さしている…んじゃなくて!おそらく、ヨハネの隣に描かれていたと思われるイエスを指さし、「何かボスが、裏切り者がいるとか言ってるんだけど!」とか言う会話をしている。

ちなみに、イエス・キリストの部分は完全に剥げ落ちてしまっているが、左側で横顔が描かれているのは、たぶん裏切り者ユダだと思う。それにしても、西洋絵画に描かれる使徒ヨハネのファンである私にとって(だってホラ、ヨハネっちかわいいじゃいですか)、ヨハネの顔部分だけがしっかり残っているミラクルさが、ちょっと心に残るフレスコ画である。

このフレスコ画の部屋を抜けて、ずーっと奥に進むと、一番奥の突き当たりに、ようやくようやく、ラファエロ作品が登場した。

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じゃーん!「聖チェチリアと聖人」。ラファエロらしい、いきいきとしたラインと色彩の作品である。

タイトルになっている聖チェチリアが、この絵の主人公らしく、中央の女性である。足元にたくさんの楽器があるのは、聖チェチリアは、音楽の守護聖人だからである。手に持っているのも、おそらくパイプオルガンのような楽器。

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人物の顔部分だけをアップにしてみた。左から聖パオロ、福音記者聖ヨハネ(ヨハネっち)、主人公の聖チェチリア、聖アウグスティヌス、マグダラのマリア。聖チェチリアさん、ちょっとぽっちゃり気味だけど、意志が強そうな表情で、かわいい女の子だ。
それにしても、このヨハネっちは、ちょっとかわいすぎないか?

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これ、確実に、女性をモデルにして描いてるよなあ…。聖ヨハネだと言われなければ、誰か聖女なのかなと思ってしまう。この絵は、このヨハネっちの足元に、新約聖書ヨハネ伝を象徴する、鷲と本が描かれているので、ヨハネっちであることがわかるのだが。

よくイエス・キリストの12弟子を全員描くときは、画家さんも、ムサイおじさん12人も描くのはツライのか、一番年少だったというヨハネを、まるで少女のように描くことがあるのだけど、この絵は、聖チェチリアや、美人の誉れ高いマグダラがいるのだから、こんなにヨハネっちを可愛らしく描くのは、さすが女性好きと言われるラファエロってとこだろうか。しかし、かわいいなあ。右端のマグダラよりずっとかわいいんだが。

私は結構この絵は気に入ったのだが、この作品、それほどラファエロの作品の中では有名ではない。ガイドブックとかにも写真が載ってないし。ラファエロの名作は多すぎるから、てのもあるけど、一つは、聖人が誰なのかを示す目印が、はっきり描かれすぎているのが(マグダラなら壺、ヨハネっちは鷲)、盛期ルネサンス作品としては無骨だとされて、あまり評価されていないのかなあ。個人的にはとても好きな絵だった(ヨハネっちがかわいいからだろ?)

ラファエロの絵のお向かいには、ラファエロのお師匠さんのペルジーノの絵があった。

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下で聖母子を見上げている4人の聖人のうち、右端のおじいちゃんは、何とヨハネっち。12弟子最少と言われ、「若い」というイメージのあるヨハネっちだが、12弟子の中で唯一殉教せず、長生きしたため(100歳近くまでという説もあるらしい)、対照的に「年老いた」というイメージで描かれることもあるのだ。

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聖母子の顔をアップしてみた。典型的な、伏し目で口の小さい「ペルジーノ顔」。ペルジーノは、ラファエロの先生ってことばかりが有名で、あまり本人そのものは評価されない傾向があるが、私はペルジーノ作品の色合いとか、人物の描き方は結構好きだ。たくさん弟子を抱えていて、弟子に任せることもあったのか、作品の出来不出来の差が大きいようにも感じるが。

ただ、こうやって明らかにラファエロの絵と並べられると、…やっぱりペルジーノ先生の絵は負けちゃうかなあ…。一つ言えば、ペルジーノ先生の絵は、美術館で見るより、教会とかに描かれているものの方が、雰囲気が出る。フィレンツェのサンタ・マリア・マッダレーナ・デ・パッツィ修道院の絵は、かなりヨカッタから!(先生をかばう私)

さーて。ラファエロも見たことだし、ミニスカイエスのことを思い出し笑いしないうちに、絵画館を出ようゼ!…と思ったのだが、グイド・レーニの絵が、反対側にあるらしく、「チラ見だけでもして来よう!」と、ラファエロラヴの母をラファエロの前に置いて、姉と私は小走りでグイド・レーニのエリアへと行って来た。

いや、別にそんなにグイド・レーニのファンってわけじゃないけどさ、ローマのバルベリーニ宮で見た、グイド・レーニの「ベアトリーチェ・チェンチの肖像」が、ちょっと好きだったんだよ。せっかく入ったんだし、グイド・レーニの作品があるなら、チラ見くらいして元を取りたいのだよ。ラファエロでじゅうぶん取れたんだけどさ、何せ、ラファエロまでが結構ヒサンだったので、もう一声、何かいい絵!って気分だったんだよ!

グイド・レーニ作品は、何点か展示されていたが、その中で一番気に入ったのが、「磔刑図」。(正式名称はわからないが、キリストの磔刑を描いた場面)

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急いで撮影したので、ねじれた位置から撮ってしまった。ねじれてごめん!

キリストの磔刑図によくある構図で、聖母マリア、使徒ヨハネ(ヨハネっち)、マグダラのマリアが、場に居合わせている。慈愛溢れる聖母、美少年、絶世の美女が悲しんでいる場面なので、画家さんにとっては、なかなか描きごたえのあるシーンなのではないかと思う。

で、このマグダラのマリアが、非常に心に残った。

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この、悲しみ疲れてしまったような、虚無的な表情。これはスバラシイ。本当に大切な人を失った時って、人間はこういう表情をするんじゃないかな、とさえ思う。ローマで見た美少女の「ベアトリーチェ・チェンチの肖像」もそうだったけど、悲しそうな美少女を描かせたら、グイド・レーニは、もしかしたら天下一品なのかもしれない。

今までもいろんなイタリアの町でグイド・レーニの絵を見てきたけど、一度もピンと来たことなかったのだが、今回の旅行では2つ、素晴らしい作品に出会うことができた。また、気になる画家さんが増えてしまったね!

奥にもまだ展示室はあったのだけど、何せ今日はボローニャ最終日(というか、イタリア旅行2013の最終日…)。他にも足を運びたい場所があったので、母と合流して、絵画館を出ることにした。ちなみにこの絵画館のトイレは地下にあるが、一つしかないため行列になるし、あまり綺麗でもなかったため、期待しない方がよい(絵画館にトイレを期待しているのって私だけだろうか)。

絵画館を出て、中心街の方へ向けて、Zamboni通りを戻った。途中で、フレスコ画が見れるという「Oratorio di S.Cecilia」という教会があったので、入ってみた。

「Oratorio」というのは、小さな祈祷所、小さな礼拝堂とかいう意味で、実はこの「Oratorio di S.Cecilia」というのは、前回の旅行記で紹介した、大きなサン・ジャコモ・マッジョーレ教会の中の一部になるらしい。

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こちらが「Oratorio di S.Cecilia」。手前の赤いかわいらしいポルティコと相まって、美しい外観である。

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入口はわかりづらいけど、ちゃんと入口近くには「Oratorio di S.Cecilia」と書かれた素敵な布が飾ってあるので、迷わないよ!
中に入ると、すぐフレスコ画のある部屋があった。ここには無料で入ることができる。女性係員さんがいて、なぜか「あら、もしかしたら昨日も来た人たちかしら?」と聞かれた。一日前に日本人女性の訪問でもあったのだろうか。

この女性係員さんはとても親切で、売り物の英語のガイドブックを持ってきて、フレスコ画の説明をしてくれた。左右の壁にズラーっとフレスコ画が並び、なかなか保存状態も良い。「Oratorio」の名前にも冠されている、「聖チェチリア」の生涯を描いたものらしい。ペルジーノの絵に似てるなあと思ったので、作者を聞いてみると、違う人だった。

室内はフレスコ画のためか写真撮影は禁止だった。たった今、国立絵画館でラファエロの「聖チェチリア」を見てきたばっかりなのだが、ラファエロの気の強そうなかわいい聖チェチリアさんに比べると、こちらの聖チェチリアさんは、優しいそうでいかにも聖女って感じ。宗教画としては後者が正しいのだろうけど、たった一枚の絵で、描かれた人物を、ワン・オブ・聖女ではなく、俗っぽく言えばキャラとして仕上げてしまうラファエロの筆力ってのはスゴイなあ、と改めて感じた。

絵を見終わると、係員さんにニコニコと、「このガイドブック買いませんか?」と言われた。なかなか商売熱心。我々はNOの言える日本人なので、買わなかった。

「Oratorio di S.Cecilia」を出ると、小雨が降っていた。でもボローニャはポルティコの町っ!雨が降っても心配いらないよ!ポルティコの中を歩けばいいもんね!傘いらずのボローニャっ!

…と、大げさに言ってみたが、ポルティコは途中で途切れている場所もあるので、ボローニャに傘なしで行くことはお勧めしないよ!ちなみに、ボローニャ市民は、ポルティコの途切れている場所を把握しているので、雨の時は、なるべく濡れないルートを通る術を心得ているらしい。地元民強し。

さて、この後は、中心の方へ戻るよ!