3/8ウルビーノ旅行記3 フェデリコ公の高貴な遊戯

ウルビーノ2日目っ!天気はやや曇り気味。ウルビーノからは、サン・マリノにも日帰りで行く予定があるのだが、明日の方が天気がよさそうなので、サン・マリノは明日にして、本日はウルビーノ歩きをすることにした。

というか、今日は3月8日。イタリアでは、この日は女性デーで、美術館などが女性無料になることが多い。そこで、国立マルケ美術館が無料になるのではないか、と目論んで、美術館の入っているドゥカーレ宮殿に入場することになった。ウルビーノ観光では、もっとも目玉となるのが、ここドゥカーレ宮殿である。

ウルビーノ ドゥカーレ宮殿

なーのーに。ドゥカーレ宮殿は、盛大なる工事中っ!チャームポイントの、かわいらしい2本の塔も工事中っ!工事中上等っ!ドゥカーレ宮殿は、内部にスバラシイ芸術作品と、麗しの部屋を持っているのだよっ!それが見れたらオッケーだよっ!

ウルビーノ ドゥカーレ宮殿

…おそらく、この横顔は、ウルビーノの最重要人物である、モンテフェルトロ家のフェデリコ公。彼の顔って本当に特徴的である。一番有名な絵は、ウッフィツィ美術館にある、ピエロ・デッラ・フランチェスカ作の、フェデリコ公の横顔であろう。片目を負傷していたため、肖像画はいつも横顔を描かせていたらしいのだが、現代人の感覚だったら、意味ありげに眼帯でもした姿で描いたほうが、中二病的な感じでカッコヨカッタんじゃないかと思う。(私は未だに中二病から抜け出せない、かわいそうな大人)

さて。切符売り場に行くと、どこにも、女性の日無料デー的な空気はナシ。えー。去年もポンペイ遺跡が大ハズレだったし、イタリアの女性の日無料デーって、思った以上にイタリアで広く行われてないのかなあ。今年も負けであった。2連敗中の我々。

というわけで、無料じゃなかったので、ウルビーノの見どころで共通に使える、「ウルビーノ・ツーリストカード」という共通券を購入することにした。12ユーロで、30日間、8カ所の見どころに入場できる。無料でないならば、ほんの少しでも、お得な券を買おうと思ったのだよ。セコイですか?いいんですよ。セコさは貧乏人の特権なのである。

切符売り場のスタッフは親切で、「冬季は閉まっている施設もあるから、共通券がムダになってしまうこともあるかも」と言い、我々が他に行きたい場所が、冬季でも開いているか、電話などをして調べてくれた。我々が訪問したいのは、ドゥカーレ宮殿(単独では5ユーロ)、サン・ジョヴァンニ祈祷堂(2.5ユーロ)、サン・ジュゼッペ祈祷堂(2ユーロ)、ラファエロの生家(3.5ユーロ)。全部開いているってことで、共通券を買うことにした。時間があれば、他の見どころに入ってもいいしね!

ウルビーノカード

こちらがウルビーノ・ツーリストカード。ちょっとコワイですね。ラファエロ作「黙っている女」のどアップですね。この「黙っている女」には、後で大の裏切りに遭うわけですね。

ウルビーノカード

訪問した場所には、星形の穴をパチンと開けてくれて、かわいらしい。ちなみに、8カ所の訪問可能場所のうち、ドゥカーレ宮殿の記載がないが、このカードをドゥカーレ宮殿で購入したので、ドゥカーレ宮殿はこのまま穴を開けずに入場させ、それ以外の見どころは、穴を開けてもらって入場するのだと思う。

中に入ると、外側の塔だけではなく、内部も工事中で、地球の歩き方の地図とは、だいぶ展示室の位置が変わっていた。上の階にあると書かれている、ルカ・シニョレッリの作品は、ベッリーニなどのヴェネツィア派の作品などと一緒に、下の階に展示されていた。内部は、写真撮影禁止であった。

1階は、有名画家さんの作品はあったが、傑作ってほどのものは無いかなーという感じだったが、2階の「フェデリコ公の書斎」、これは圧巻であった。

この書斎の壁面は、美しくて精巧な、寄木細工で埋め尽くされている。その上方には、ギリシャ時代の哲学者や、中世の神学者など、有名人の肖像画がずらっと並んでいる。肖像画の一部は、ルーヴル美術館などに掻っ攫われてしまったらしく(事実の程は知らないので濡れ衣かもしれませんよ)、モノクロのコピーになってしまっているのが残念ではあるが、それを差し引いても、肖像画の鮮やかさと、寄木細工の色合いがうまく調和していて、非常に趣深い空間になっている。

ウルビーノ

写真撮影禁止だったので、お土産ショップで購入した、書斎の一部分をしおりにしたものの画像をドウゾ。こういう絵が、木製の壁面に描かれている。雰囲気だけでも伝わるかな?リスさんカワイイ。

それにしても、木っていいね!世界最古の木造建築は法隆寺らしいけれど、やっぱり木で出来たものって、何だか日本人には馴染むのかなーなどと思いながら、ほえーっと鑑賞していると、係員のおじさんが近づいてきて、おもむろに英語で解説を始めてくれた。この部屋には、フェデリコ公の知的な遊び心が満ち満ちていると言うのだ。おじさんの教えてくれた豆情報を書きとめておこう。

1.寄木細工で作られた壁は、実は隠し扉になっている場所があり(実際に開けてくれた)、この部屋から直接バルコニーに通じている。

2.木製の壁には、楽器や測定器具など、音楽や数学、哲学などの学問を愛していたフェデリコ公の趣味が描かれているが、描かれている笛に注目!この笛の先端が、部屋のどこに居ても、まるで自分の方を指しているみたいな、だまし絵効果で描かれている(実際、笛を見ながら移動してみたが、その通りであった)。

3.壁に、絵として描かれている扉があるが(実際の扉ではない)、この扉、左斜めから見ると内側に閉じかけているように見えて、移動して右斜めから見ると、外側に開きかけているように見えるのだ!

フェデリコさんは、肖像画で見ると、まじめーな事務的なおじさんに見えるのだが、なかなか遊び心満載だったようだ。何となくこの部屋を見てからは、フェデリコ公に親しみが沸いて、我々は誰からともなく、フェデリコ公のことを「おいちゃん」と呼ぶようになっていた。これは親しみすぎである。

我々に解説をしてくれたスタッフさんは、我々がそれはそれは熱心に、感心しながら耳を傾けていたのが嬉しくなったのか、「いつもは公開してない所を見せてあげるよ!」と言って、手招きした。ついて行って見ると、非常ドアのようなドアを、カギでガチャっと開けた。「ここは塔の内部だよ!」。おおっ!アノ工事中の、2本の塔か!

中はクモの巣が張っていたが、らせん階段が下から上へとずーっと続いていた。係員さんは、「ここの写真は撮っていいよ!」と何度も言い、むしろ撮ってくれ!という感じだったので、撮影したのがこちらの写真。

ウルビーノ ドゥカーレ宮殿

上を見上げて。

ウルビーノ ドゥカーレ宮殿

下を見下ろして。

特別に塔の内部まで案内してくれたおじさんにお礼を言って、ドゥカーレ宮殿の残り部分を鑑賞したが、書斎の間以外の部屋も、扉が寄木細工で作られ、楽器などが描かれていたのが、かなり素敵であった。ただ、書斎以外の2階部分は、かなり工事中であった。

ウルビーノ

有名な、フェデリコ公(通称おいちゃん)の肖像画を発見。ベッルグエテという画家さんの作品。ウッフィツィ美術館にあるピエロ・デッラ・フランチェスカの作品と同じように、やはり横顔での肖像画である。(この画像はポストカード撮影)

この絵も、おいちゃんの、賢そうな静かな瞳が印象的だ。横にいる少年は、おいちゃんの息子さんだそうだ。「おいちゃんは賢そうだなー」と繰り返して言う私に対し、姉は、「いーや。よく見てごらんよ。この着飾りまくった息子を。自分の息子を、こんな必要以上に着飾る親ってのは賢い親とは言えない」などと持論を展開していた。

先の方には、この国立マルケ美術館自慢の、ピエロ・デッラ・フランチェスカの「セニガッリアの聖母」「キリストの笞刑」の、2作品が飾ってある部屋があるのだが、…何だか様子がオカシイ…う、うおっ!「セニガッリアの聖母」が、いないよ!コピーが飾られてるよっ!

…ま、まあいい。「セニガッリアの聖母」は、ミラノのブレラ美術館で見たピエロ作品とちょっとだけ似ているから、「キリストの笞刑」の方が、より見たかったのだ。「キリストの笞刑」は、きちんと飾ってあった。

「キリストの笞刑」は、左奥の方でキリストが鞭打ちの刑に遭っていて、右手前の方では、それと何か関係があるんだか無いんだかわからない3人の男が立っていて、何か平和な水色の空がその背後に広がっているという、何も言われなければ「何か変な作品」という絵である。それでいて、サイズも小さい。何でこんな変な構図なのか、手前の3人は誰なのか、などと、非常に謎の多い作品ということで有名だ。

有名作品だが、パッと見では、あまり私は感動が無かった。ピエロの絵は、長時間眺めているとその良さが伝わってきたり、何が良いんだかわからないのだが目が離せなくなったりという絵が多いので、ちょっと長くこの絵と向き合ってみたのだが、それでもあまり心が奪われないって感じかなあ…。もしかしたら、絵の中が男だらけだからかも。私は、ピエロの描く、ちょっと無表情なクールビューティ―な女性が好きなのだ。

ちなみに、この美術館には、長らくピエロ作だとされてきた「理想の都市」という有名な絵もある。この作品は、1階部分に展示されていた。思ったより大きくなかったが、横に細長い絵のフォルムといい、整然とした遠近法といい、なかなか印象的であった。美術館の展示では、この作品はピエロ作ではない、とはっきり書かれていた。

ピエロの作品の次は、ウルビーノ生まれのラファエロ作品の絵。この美術館の目玉でもある、ラファエロ作通称「黙っている女」があるハズなのだが…こっ、こちらも修復中につきコピーが飾ってあるよーっ!

…おぅっ、何てこったい!このラファエロの「黙っている女」は、去年、日本であったラファエロ展で来日しているんだよ!それを、私は、「どうせ来年ウルビーノに行くし、本場で初めましてでお会いした方が感動もひとしおだろうよね」と言って、わざわざラファエロ展には行かなかったんだよ!ていうか、同時期に同じ上野でやってたターナー展には行って、美術館の横を素通りまでしてるんだよ!

…はーあー。この陸の孤島に近いウルビーノの再訪は、それほど簡単ではないし、「黙っている女」が再来日するってのもスグではないだろうし、縁のない絵ってことだねえ…。コピーの絵をまじまじと見ていると、この「黙っている女」の目元が、鬼束ちひろに似ているなと思ったよ。それだけだよ。

ちなみに、この「黙っている女」は、ラファエロの出生地であるウルビーノに、ラファエロの主要作品がないのはカワイソウということで(ラファエロの家にある聖母子像は、ラファエロ作ではないという説もある)、フィレンツェが寄贈したものらしい。フィレンツェ…余裕すぎだろ…。そんなに余裕なら、ボッティチェリ作品をひとつ、私におくれよ(寝言です)。

さて、「黙っている女」が留守中という、不幸中の幸いってこともないが、もう一枚、ラファエロの小作品があって、我々の心を慰めてくれた。

ウルビーノ

「アレッサンドリアの聖カテリーナ」という作品(購入したカードの撮影)。本当に本当に小さい作品だが、これが、なかなかかわいらしい。伏し目がちの優しげな目、上品そうな口元など、小さいながらも心惹かれる作品であった。「黙っている女」には会えなかったけど、このかわいらしい聖女に出会えたので、良しとしよう。

というわけで、ドゥカーレ宮殿は、工事中やら修復中やらで、所蔵する美術作品の中の目玉「セニガッリアの聖母」「黙っている女」の2作品に出会えないというアクシデントはあったが、「フェデリコ公の書斎」だけでも鑑賞できて良かった。この書斎さえ見れたら、悔いなしって感じの書斎であった。

ドゥカーレ宮殿を出た後は、ドゥカーレ宮殿の面している、ドゥーカ・フェデリコ広場(その名もフェデリコ公広場、つまりおいちゃん広場)にある、「il Cortegiano」というバールで一服した。B&Bも兼ねているバールで、観光の一等地にある割には、良心的なお値段で美味しかった。

さて、この後は、ウルビーノ・ツーリストカードを使いまくる計画だが、ここでいったんページを改めるのだ。