3/8ウルビーノ旅行記4 路地裏の2つのオラトリオ

ウルビーノ町歩きの続き!

ウルビーノの最大の観光どころであるドゥカーレ宮殿に感動した後は、2つの小さな祈祷堂に向かうことにした。ちなみに祈祷堂とは、イタリア語で「oratorio(オラトリオ)」といい、讃美歌などを歌ってお祈りをするための建物だそうだ。

ウルビーノのサン・ジョヴァンニ祈祷堂は、15世紀初頭の、鮮やかなフレスコ画で名高い。私は、古いフレスコ画って大好きなので、サン・ジョヴァンニ祈祷堂は、ウルビーノの中でも、かなり楽しみにしている場所だ。そのすぐ近くに、まるで兄弟みたいにあるのが、サン・ジュゼッペ祈祷堂である。この2つの祈祷堂を、まとめて訪問することにした。

ウルビーノ

サン・ジョヴァンニ祈祷堂は、ウルビーノのメイン通りではなく、こういう風情たっぷりな小道の突き当りにある。イタリアの中部の山中の町は、こういう小道歩きが楽しい町が多い。

こんなひそやかな場所にあるサン・ジョヴァンニ祈祷堂だが、観光客はちゃんと存在を知っているようで、内部には結構見学客がいた。…なのにっ!内部は盛大なる工事中っ!あーれー。

フレスコ画とか壁画のイイトコロは、壁に描かれた絵は引っ剥がしようがないので、他で行われる展覧会などにかっさらわれないことだと思っていたが、壁画そのものが修復や工事に入ってしまうと、もうどうしようもないってことを忘れていたよ…。私のイタリア旅行は、痛い目に遭う→喉元過ぎれば熱さを忘れる→痛い目に遭う…の無限の繰り返しなのである。永劫回帰ばんざいッ!

でもね、足場とか盛大に組み立てられて工事中でしたけどねっ、工事中の砂埃すら感じられる内部でしたけどねっ、一応、絵自体は(足場の向こうに)見ることはできましたしね、あと、足場があったおかげで、その足場に上ることができたので、普段なら近くで見られないような、上の方の絵とかを、間近で見ることができたですよ!くじけないよ!

ウルビーノ

内部は写真撮影禁止だったため、こちらは購入したポストカードを撮影したもの。こういう雰囲気の絵です。なかなか色彩が鮮やかである。ルネサンス美術開花前夜…美術史的には、後期ゴシック期と呼ぶのだろうか?…の時代の絵は、遠近感と自然な色使いで、ハイクオリティって感じに仕上がっているルネサンス期の作品に比べ、のっぺりとして、非現実的な色使いなのだが、その分、現実よりもずっと鮮やかな色合いで仕上げられることも多い。私は結構、この時期の色使いも好きだったりする。

サン・ジュゼッペ祈祷堂という名前の通り、描かれているフレスコ画は、サン・ジョヴァンニの生涯である。サン・ジョヴァンニというイタリア語を、日本で一番親しみやすい言い方に変えると、聖ヨハネ。聖ヨハネって二人いるね!美少年であるイエスの弟子ヨハネと、ひげのもっさりしたおじさんである洗礼者ヨハネの二人だね!この祈祷堂に描かれているヨハネさんは、残念ながら洗礼者ヨハネさんの方だね!

入口から見て、右の壁の一番奥側から物語は始まり、洗礼者ヨハネさんの生涯が、時系列に沿って描かれている。若いころのヨハネさん→イエスに洗礼を施す(絵的にはイエスの頭から水をかけている)ヨハネさん→有名なサロメの逸話で首をはねられるヨハネさん…と言う風に、洗礼者ヨハネの人生が、絵を追っていくとわかるようになっている。こういうストーリー性のある、生涯を描いた作品はなかなかストーリー性も相まって、楽しめる。

しかし、なぜだか、ストーリーのラストに当たる、入口から見て真正面の壁には、イエス・キリストの磔刑が描かれている。洗礼者ヨハネさんが主役だったはずなのに、最後はイエスに主役を奪われているよ!…まあ、キリスト教的には仕方がないのかな。

で、真正面の、イエス・キリストの磔刑の場面だが、このシーンに居合わせるイエス・キリストの関係者と言えば、聖母マリア、マグダラのマリアを始めとする女性陣と、洗礼者ヨハネとは別人の、イエスの弟子のヨハネ君である(つまり前述の美少年)。他の男性のお弟子さんたちは、保身のため、逃げてしまったらしい。そんなわけで、イエスが磔刑にされたり、十字架から降ろされたりする場面では、イエスを取り囲んでいるのは女性陣+美少年という図の絵が多い。

その中でも美女の呼び声高いマグダラのマリアと、美少年ヨハネ君は、描く画家さんたちも気合入れて描くようで(?)、この二人は絵の中でまるで競い合っているかのように、美しく、可愛らしく描かれることが多い。

しかし!しかしである!この祈祷堂に描かれているマグダラのマリアと、ヨハネは、美男美女がそれでいいのか!と言いたくなるほど、顔を歪めてイエスの死を悲しんでいた!…まあ、場面を考えると、このシーンで、映画のように美しい顔をしている方が実は不自然で、美形の顔がくしゃくしゃになるくらい悲しんでいる方が、ずっとリアルな描き方なのかもしれない。

この祈祷堂が工事中で、足場に上がれたおかげで、マグダラやヨハネの顔を、間近でまじまじと観察することができた。工事中でなければ、下から、もっと遠目で見上げることになるのだろう。工事中だって、いいこともあるのだ!

さて、お次はサン・ジュゼッペ祈祷堂に行きたいのだが、実は、このサン・ジョヴァンニ祈祷堂と、サン・ジュゼッペ祈祷堂は管理人さんが一人で二カ所を管理している。たいてい、管理人さんは、より有名な見どころであるサン・ジョヴァンニ祈祷堂にいて、サン・ジュゼッペ祈祷堂に行きたい場合は、この管理人さんにその旨を告げて、サン・ジュゼッペ祈祷堂の方の鍵を開けてもらわなければならない、と、ネットでいろいろな方の情報に書いてあった。

それで、管理人さんにそろそろ言おうかなー…と思ったところ、既に、何人かのイタリア人とアメリカ人っぽい観光客が、「サン・ジュゼッペ祈祷堂の方に行きたいんだけど!」と、管理人さんの所に集まっていた。そこで、「私たちも行きたいです~」と便乗させてもらうことにした。

観光シーズンオフの3月なのだが、予想以上にウルビーノの観光客は多く、サン・ジョヴァンニ祈祷堂の中には、他にも何人も観光客がいる。

ネットの情報では、サン・ジュゼッペ祈祷堂の鍵を開ける時は、サン・ジョヴァンニ祈祷堂の方は閉めてしまうと書いてあったので、どうするのかな~と思っていると、さすがに何人もの観光客を追い出すわけにはいかないようで、管理人さんは、サン・ジュゼッペ祈祷堂鑑賞希望者に、まずはサン・ジュゼッペの方の切符を売ってから(我々はウルビーノ・ツーリストカードを持っているからフリーパスだよ!)、10名弱を引き連れて、サン・ジュゼッペの方に移動した。

管理人さんはカギを開けると、「じゃあ、僕はあっちにいるから!」と、急いでサン・ジョヴァンニの方へ帰って行った。いやー、コレ大変だよねー。一人で二カ所見るのは無理だわさねー。案の定、管理人さんがサン・ジョヴァンニの方に帰った後、「アラアラ見学できるのね」みたいな感じで、観光客が数人、サン・ジュゼッペの方にタダで入って来たよ。

で、サン・ジュゼッペ祈祷堂には何があるのかと言うと、「プレゼピオ」と呼ばれる、イエス・キリストの誕生シーンを、人形劇みたいに再現した作品がある。16世紀くらいの作品だそうだ。

ウルビーノ

私は、今まで、人形劇的なもので感動したことは少なかったので、今回もあまり期待していなくて、サン・ジョヴァンニ祈祷堂のついでに寄ってみよーくらいの気持ちだったのだが、なかなか温かみのある、素敵な作品だった。灰色のごつごつした岩っぽい所は、自然のままのものを利用しているのかなあ?イタリアで時々見る、人工洞窟「グロッタ」の雰囲気に、ちょっと似ている(例:フィレンツェのボーボリ公園にある、ブオンタレンティのグロッタとか)。

ウルビーノ

結構雰囲気の良い作品なのだけど、窓から「あ、生まれたの?」みたいに、やじ馬みたいにのぞいているこのオヤジが何だかおもしろかった。聖書のストーリー的には、名前がある誰かなのだろうけど、何か人んちをのぞいている通りすがりのオヤジみたいだった。

このプレゼピオのお向かいの部屋には、紫色の法衣?みたいなものが飾ってあって、そこで観光客のイタリア人のおじいさんが話しかけてきた。私の限りなくあやしいイタリア語力で聞き取ってみると、どうやらこの衣服の持ち主は、もともとイングランド王?で、カトリックに改宗し、ウルビーノのドゥカーレ宮殿に2年間住んだことがあるとか、ナントカカントカ…。興味深かったので、帰国してからいろいろ調べてみたのだが、よくわからなかった。

その法衣が飾ってある部屋には小さなかわいらしい窓があり、窓からはウルビーノの風景が見えて素敵だった。

ウルビーノ

サン・ジュゼッペ祈祷堂で一番気に入ったのは、この小窓!

さらに奥の方は、祈祷場なのか、普通に教会のような空間があった。

ウルビーノ

なかなかエレガンスなお部屋。

ウルビーノ

ウルビーノ出身の、クレメンス11世というローマ教皇の肖像画が飾ってあった。

2つの祈祷堂は、どちらもこじんまりとしていたが、なかなか趣深かった。祈祷堂の周辺も、ウルビーノの路地裏って感じで、歩いてみるだけで楽しい界隈だ。サン・ジョヴァンニ祈祷堂が工事中だったのは残念だったけどなー。イタリアの気に入った町は、「また来ればいいよ!」といつも思うのだが、ウルビーノのように、なかなか他の町から行きにくい場所にある町は、再訪するチャンスがそれほど多くなさそうなので、一つ一つが、ラストチャンスのつもりで、噛み締めたくなるよ。一期一会ってヤツさ(タソガレたくなるぜ…)。

この後は、ポストカードを買い忘れていたことに気づき、ドゥカーレ宮殿に戻った。最近ポストカード好きなのだ。ヤスイシ。家には、イタリアで買ったポストカードがたくさんあって、気が向くものを飾るようになった。ちなみに、海の感じがサワヤカでよいかと思って、ヴィーナスの誕生をトイレに飾ってみた。私はすごく気に入っているのだが、訪問客には不評である(じゃあ撤去しなよ…)。

ドゥカーレ宮殿に戻ると、見学していなかった地下部分があることに気づき、ちょっと覗いてみた。建築とかに詳しい方には、非常に興味深い造りになっている地下らしいのだが、建築にちんぷんかんぷんの私は、「へー」と言いながら、ただただドゥカーレ宮殿の地下に潜りました!だけの時間であった。しかし、建築に造詣のある人って、私はスゴイと思う。私が無人島とかに投げ出されたら、たぶんほら穴くらいしか掘れないだろう。というか、人類が皆私だったら、人類の歴史は、竪穴式住居にも到達していないと思われる。

この後は、B&Bに戻って、お昼休憩を取ることにした。

ウルビーノ

ラファエロ通りの坂道で、ミモザ売りさんとすれ違った。今日は女性の日だからねー。イタリアでは、男性が女性にミモザを贈る日だ。まあ、観光客にとっては、女性無料デーで、無料で入れる観光地があるよっていう日だ。ウルビーノの観光施設は、女性無料デーに無関心で、全然無料で入れなかったけどね。女性無料デーで肩すかしを食らうことを、我々の旅用語で「負け」と呼ぶ。

ウルビーノ

本日のお昼ご飯は、ドゥカーレ宮殿前の、「il Cortegiano」というバールで買った、「ピアディーナ」である。ピアディーナはロマーニャ地方…エミリア=ロマーニャ州の海側の方、つまり、リミニとかラヴェンナあたり…の特産で、見た目は、クレープみたいに、薄焼きにした、パン生地みたいなものに、ハムやチーズなどが挟んである。ウルビーノは、ロマーニャ地方が近いためか、販売しているお店が多かったので、購入して食べてみた。

見た目はペタッとしているので、見るからに食欲をそそるような、ピザやパニーノなどに比べると、「そんなに期待できそうな食べ物だなあ…」と思ったのだが、食べてみると、意外と美味しかった!生地が思いの外もちっとしていて、生ハムなどとよくマッチしていた。

というわけで、ランチを食べたら、ちょっと一休み。この後は、ラファエロの家に突撃しますっ!