3/10ペルージャからコルトーナへ カムーチャ駅の少年
(前回までのあらすじ:ウルビーノから、一日一本のバスに乗って、無事にペルージャ旧市街に到着。ペルージャ駅まで移動して、ここからコルトーナを目指すよ)
コルトーナ旧市街には、鉄道駅がない。ここでの「ない」は、気軽に(つまりその気になれば徒歩で)行ける距離にない、という意味だ。
なのに、欺瞞のように、「Cortona」が駅名についている駅が、何と2つもある。ペルージャ寄りの「Terontola(テロントラ?)-Cortona」駅と、フィレンツェ寄りの「Camucia(カムーチャ)-Cortona」駅である。まあ、一応、この2つがコルトーナの旧市街への最寄駅であり、距離はだいたい同じくらいだそうだ。
じゃあ、コルトーナに行きたい人はどうすればよいのか、と言うと、ガイドブックには、どちらの駅からもバスがコルトーナ旧市街まで走っていると書いてあるが、ネットの情報などを集めてみると、どうも「Terontola-Cortona」駅から、コルトーナ旧市街までのバスが、今現在走っているかどうかがアヤシイとの声が上がっていた。
そこで、さらに「Cortona」とか「Autobus」とかいう単語で検索してみたところ、「Etruria Mobilita Scarl」とかいうバス会社が、コルトーナから「Terontola-Cortona」駅までのバスを走らせている。が、便数が少ないうえに、そのバス便は、「Terontola-Cortona」駅→「Camucia-Cortona」駅→コルトーナ旧市街、という順番で走ることが判明した。こりゃ、「Camucia-Cortona」駅から行った方が良いんじゃない?派―――略してカムーチャ派に有利な情報だね。
「Etruria Mobilita Scarl」の、レイアウトが何だかレトロなホームページでいろいろ調べてみると、この会社が走らせているバス路線で、「Terontola-Cortona」駅を通らずに、「Camucia-Cortona」駅からコルトーナ旧市街に行く便は、思いの外たくさんあった。うん、1時間に一本程度だけど、これでも、イタリアのバスライフでは、かなり優秀な方なんだよ。というわけで、カムーチャ派の完全勝利が決定したので、ペルージャから電車に乗って、「Camucia-Cortona」駅で降りることにした。
というわけで、コルトーナにGO!私の愛しのペルージャは、今年も通り過ぎるだけで、来たと思ったらすぐ立ち去るんだよ。ペルージャっーーー!(まだ見ぬペルージャへの恋慕と、それを阻んでいる要因については、前回の記事に書いたので省略っ!)
では、前方からやってくる各駅停車に乗って、カムーチャ駅を目指すよ。
ペルージャ駅からカムーチャ駅までは、乗り換えが必要な場合もあるが、あらかじめTrenitaliaのHPで時刻表を調べて、乗り換えの必要のない、「Regionale Veloce」という、準急電車みたいな格付けの電車を利用した。というか、スマホとか持ってたら、こういう時刻表なんか、現地でちゃっと調べられるんだよなあ…。イヤ、いいんだ、ワタシ旅行の準備好きだから…!(強がりじゃないよッ)
中に乗り込むと、意外と車両は混んでいたので、スーツケースを上の棚に上げた。姉と私で苦労して上げた。ふーと一息ついて座ると、周囲は、イタリア軍の男性ばっかりだった(てか、この人たちが大量にいるから混んでたわけだ)!
皆、おしゃべりに夢中で、誰もスーツケースを上げるのに手を貸してくれなかった。イヤ、別に親切を強制しているわけじゃないですよ!イタリアでは、こういう時、年配の男性とか女性とかでも、手を貸してくれるのが普通なので、ちょっとビックリしたのだ。こんなだから、イタリア軍は、日本でパロディ化されちゃうんだなあ…。
さて、ペルージャ駅から行くと、「Camucia-Cortona」駅の一つ前に、「Terontola-Cortona」駅に停まる。どんな駅なんだろうね、と、見てみると、結構大きな駅で、乗客も結構乗り降りしたのでびっくり。
ちなみに、イタリアでは、日本の電車と違って、停車駅の車内放送がないため降り損ねる日本人は結構いるので(私もやったことあるよ!)、降りる一つ前の駅名を、電光掲示版の情報や、鉄道会社のHPで調べておいた方が安心だ。わからない場合は、周りの乗客さんに、降りる駅で教えて欲しいと頼めば、だいたい快く引き受けてもらえる。
そして、次の「Camucia-Cortona」駅は、ちっぽかった。
しーん。
しーん。たぶん降車したのは、我々だけである。
このカムーチャ駅が、無人駅であることは、イタリア旅行情報をネットで調べる旅行者にとっては常識に近い(情報を書いてくれてる方々ありがとうっ!)。さらに、このカムーチャ駅周辺には、何も無いことも結構常識である。
何も無いカムーチャ駅。左のほうのオレンジ色の看板は、タクシー乗り場の看板だが、言っておくがあれは飾りにすぎない。あそこにタクシーがいたことなど、歴史上一度もないのではないかという雰囲気すら漂っていて、普通の乗用車の駐車用スペースとして占拠されている。
本当に何も無いカムーチャ駅前。普通は、鉄道駅の近くにはバールくらいあるものなのだが、ナイから。何もナイったらナイのだ。
何も無い…ということは、とどのつまり、旧市街まで向かうバスの、バス切符を売っている場所がない、ということである。これも、ネット上で、「カムーチャ駅では切符が買えず、運転手に訴えると、そのまま乗せてくれて、旧市街についてから、バス停近くのバールで買ってきてと言われた」という、いわゆる後払い制度があることを、何人も報告してくれていた。
とはいえ、心配性で繊細な…いいですね、この響き!…シンパイショウでセンサイ!な私は、できることならバス切符を先に買いたいなーと思い、姉と母に、駅の待合室で荷物を見ながら座っててもらい、ちょっと駅周辺に切符を売っているお店は本当に無いのか、ぶらぶら探してみることにした。何せ、バスの時刻まで時間があったのだ。
切符売り場の場所などは、バス停に貼ってある場合もある。そこで、駅から出て、左手の方にあるバス停に、何かヒントになるような貼り紙はないか、バス停に貼ってある紙を一つ一つ見ていると(たいていは店とかのチラシ)、前方から、中学生くらいの男の子が一人歩いてきた。
いかにもトスカーナって感じの(トスカーナの地方を旅したことのある方ならお分かりだと思うが、トスカーナっぽい顔ってあるのだ。私はひそかにエトルリア由来の顔立ちなのかなーと根拠なく推理している)、素朴で黒っぽい茶髪の男の子。彼は私をちらっと見、助けてあげたいんだけど、言葉が通じるのかなーという表情で、遠慮がちに見ている。
そこで、「すみません、この周辺で、バス切符を買える場所がありますか?」と聞いてみると、彼はニコッと笑って、「はい!このまま正面の坂を上ったら、道の左側にバールがあります。そこでは切符を売っていないので、さらに進むとTのマークがあるタバッキがあり、そこで買えますよ!」と、教えてくれた。わー、ありがとうーーー!彼も、教えてあげられて良かったーという嬉しそうな顔をしていて、何だかほっこりした。
彼が教えてくれた通り、駅の正面から、ゆるやかに伸びている坂道を上り、最初に見えたバールを通り過ぎ、その先の、何か旅行会社か不動産?みたいなお店も兼ねたタバッキまで行くと、無事にバス切符をゲットできた。コルトーナ駅から歩いて5分かからないくらいである。
バス切符を手に持って、駅まで戻るため、坂を下っていると、さっきの少年が上ってきていた。…もしかして、さりげなく、ちゃんと買えたかどうか見に来てくれのかな…って感じだった。「切符買えましたー!」と、手にしていた切符を振ってみると、彼も笑顔を返してくれた。いやー、心温まる少年であった。
ちなみに…だが、実は、カムーチャ駅のすぐ脇に、タバッキが建設中であった(Tの看板があったからわかった)。もしかしたら、今頃は、あのタバッキが完成して、そこでバス切符が買える可能性も、なきにしもあらず、である。ただし、イタリアの工事ってのは、奇想天外な時間がかかることがあるので、10年後もあのタバッキは完成していない可能性も、なきにしもあらず。
(ちなみにブログを読んだ方から情報を頂きまして、現在、タバッキは完成しております。コルトーナへの最新のアクセス方法は、こちらのページに詳細をまとめています→中部イタリア・コルトーナへの行き方 鉄道とバスを乗り継いでアクセス!)
こちらがバス停。無事に切符を持った我々の目の前に現れたのは…
この…明らかに、親戚で大型車使って温泉行こうぜ!くらいのノリの乗り物、これが、コルトーナ旧市街行きのバスなのである。こっこれがバスだとは…なかなか言われなければわからなくて、乗り損ねてしまいそうだよねえ…。
運転手さんにバス切符を渡すと、刻印機の代わりに、運転手さんがバス切符に日付を書き込んだ。これぞ本当の手動刻印機。
ちっぽいバスなので、スーツケースは、普通の乗用車みたいに、後ろのトランクをパカっと開けて、そこに入れるようにと言われた。我々の3つのスーツケースを入れると、トランクはもうパンパンであった。観光客が多そうな夏場はどうしてるんだろ…。バス自体もう少し大きい車体を使うのだろうか。
バスは、我々だけを乗せて、駅を出発。途中から、ぐぐぐっと、糸杉が並ぶカーブを曲がり、丘の上へと上って行く。途中で、サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ・アル・アルチナイオ教会(長っ!)の、いかにもルネサンス期らしい、丸い屋根が見えたが、ガイド本の色より、色あせて見えた。
バスは旧市街のすぐ外、ガリバルディ広場に到着した。さて。コルトーナで停まるのは、個人経営のキッチン付きのアパートメントホテルである。コルトーナに着いたら連絡してくれと言われていたので、姉が携帯電話を取り出すと、なぜか圏外になっていて、使えない。母と私の携帯も圏外である。しかも、圏外な上に、見たこともないアイコンが画面上に出ている。ナンダコレ。
とにもかくにも、電話できないんだから、しょうがない。場所はわかっているので、とりあえず、アパートメントの前まで行って見た。呼び鈴を鳴らしてみたが、返事はない。着いたら電話してくれと言っているくらいだから、オーナーはここには住んでいないのだろう。
どうしようかな…と思っていると、近くのバールでおしゃべりしていた地元のおばさま達が、「サラがもうすぐ来るから、そのまま待ってて!」と声をかけてきた。おお!ご近所コミュニケーションで、ここのオーナーさんと連絡を取ってくれたらしい!何てありがたい!
…と、思っていたら、そのバールの中から、一人女性が出てきて、イタリア語で、「サラは私の孫なのよー」と言った。おお!ご近所どころか、おばあさまが中にいらっしゃったのね!そして、しばらくすると、英語を話すサラがやって来た。
アパートメントのカギを開けてもらい、コンロの使い方や、洗濯機の使い方を教えてもらったのだが、コンロの火がつかない。イタリアではよくあることである。スタッフが常在していない個人経営の宿に泊まる場合は、オーナーがいるうちに、コンロやシャワー、暖房器具などがちゃんと動いているかを、確認するのは、もはや旅行者の常識っ!
困ったサラは、サラのママを電話で呼んだ。元気な大阪のおばちゃんという感じのマンマがやってきて、「あー、ガスの元栓が閉じてるわよ」と言い、すぐに一件落着した。「まあ、何かあったらいつでも言ってちょうだい」と、ママが言うので、「どこに連絡すればよいですか?」と聞くと、「コルトーナは狭いから、私たち、たぶん何度も町中で会うわよ」とのお返事。なるほどー(実際その通りだった)。
ちなみに、だが、コルトーナの名誉のために言っておくと、別にコルトーナでは携帯電話の電波が、まったく届かない、というわけではない。我々が、昨日、サン・マリノに行ったせいで、全員の携帯電話が、「違う国に入ったよ」的なメッセージを受け取っていて、そのメッセージを適切に処理していなかったせいで、携帯電話が混乱していたようだ。メールを既読にして、何かOKボタンとか押したら、元に戻った。ホラ、全員ガラケーだから。ガラケー家族ばんざい。
とりあえず、今日は、3日分の食料調達である。
こちらは、コルトーナの中心にある市庁舎。この市庁舎の前には、ベンチがあり、いつもそこにヒマオヤジズ(複数形)が、たむろしている。
そのベンチの奥の方に、コルトーナ唯一のスーパーマーケット・チェーン店の「SPAR」がある。しかし、この「SPAR」、野菜や肉が売っていないことが、判明した。野菜は八百屋、肉は肉屋で調達せねばならなくて、買い物に予想外に時間がかかった。
私は肉屋で、「エッティ(100グラム)」と、「フェッティ(~枚)」を間違えて、3フェッティ下さいと言い、肉屋さんを困惑させてしまった。3エッティなら300グラムだが、3フェッティでは、薄ーく切った、小さな肉片を3枚、というくらいの意味になる。たったそれだけの肉片をどうしたいのだ、この日本人は。って感じだった(そりゃそうだ)。
母がパスタとサラダを作ってくれて、むさぼり食った。そういえば、今日は電車の中で軽くランチを済ませたので、お腹が空いているのだ。たらふく食って、コルトーナ散策は、明日からが本番である。