3/13フィレンツェ旅行記3 アヴァンティ!アヴァンティ!
サンタ・クローチェ教会鑑賞の後は、フィレンツェでヤボ用を済ませることにした。
ヤボ用というのは、お土産購入とか、長期滞在のための水とか食材調達とか、ぶっちゃけ買い物である。
我々3人とも、職場とか、お世話になっている方とか、簡単に言えばカジュアルな関係ではない人々のためのお土産は、だいたいチョコレートである。チョコレートが嫌いな人は、そんなにはいないし、ヨーロッパのチョコレートは日本のチョコレートとちょっと味が違うので、喜んでもらえることが多い。
で、フィレンツェでは、「Andrea Bianchini」という、超人気チョコレート店があり、これがサンタ・クローチェ教会近くにあるので、ついでに行ってみた。
が、なかった。
…まー、よくあることなのだよねー。移転してたり、ちょっと公式サイトとかの地図が間違っていたり。目的地に真っ直ぐ向かって行っても、ゴールに簡単にはたどり着かないのがイタリアなのである。もーこれは、何かの障害物競走だと思って楽しんだ方が良い。
…とは言っても、我々旅行者には時間も限られているので、地元の人のお力を借りた方が良い。そこで、すぐそこにバールがあったので、エスプレッソを頼んで、バールのおじさんに「Andrea Bianchiniが見つからないのですが、どこですか?」と聞いてみた。
すると、「今は冬季休業中だよ」とのお答え。
およー。南イタリアとかの、リゾート観光地では、人気店が冬に長期クローズすることはよくあるのだが、フィレンツェ…お前もかっ!我々は初めから無いものを探していたのだな…。何だか絶望の哲学って感じだな…。
バールのおじさんは、「君、イタリア語がしゃべれるのかー!イタリアに住んでるのか?働いてるのか?」と、興味津々であった。観光客に慣れっこのフィレンツェも、ちょっと中心街を離れて、地元民しか使わなそうな路地のバールなどに入れば、イタリアの田舎町によくいる、おしゃべり大好きオヤジが現れるようだ。ちなみに、私のイタリア語は、イタリアに住んでいるような人のレヴェルでは全くもって、無い。旅行お決まりフレーズだけは言い慣れているおかげで、ペラペラに聞こえるのであろう。
というわけで、先ほど行って来たレザー・スクールでも何も購入しなかったし、チョコレート屋は閉まっているしで、なかなかお土産購入がサクサク進まなかった本日。こういう時は、ヤケになって、我々のフィレンツェの参拝場所である、ハーブ薬局に行くに限る。
ヴェッキオ宮のあるシニョリーア広場に面している、ハーブ薬局「Spezierie Erboristerie Palazzo Vecchio」。値段がリーズナブルなだけでなく、ここの製品の香りは大好きなので、私がフィレンツェ最も重宝しているハーブ薬局である。パッケージもヴェッキオ宮があしらわれていて、ラッピングも快く対応してくれるので、お土産を購入するのにもオススメ!
ここのスタッフさんは、白衣を着ていて、英語もしゃべれるスタッフさんが多い。その中に、白衣を着ていない白髪の上品な女性スタッフがいて、何か姉にイタリア語で話しかけてきた。
姉に「おばあちゃんはイタリア語しか話せないみたいだから、ちょっと来て!」と呼ばれたので、そちらに行くと、新作や、おすすめなど、香水選びを手伝ってくれた。そこで、おばあちゃんの助けも借りて、自分用やお土産用、また、メンズ香水もあったので、父へのお土産も購入した。
おばあちゃんは、私が少しだけイタリア語が話せることを、何だかすごく感動してくれた。イタリア語しか話せないと、外国人観光客と会話する機会が少ないのだろう。私のイタリア語力など、繰り返すようだが、ミジンコ程度のものなのであるが(失礼しちゃうわByミジンコ)、おばあちゃんを喜ばせることができてヨカッタ、ヨカッタ。
おばあちゃんはこの薬局の結構偉い人だったようで、購入する際には、香水と同じ香りのポプリをおまけでつけてくれた。ちなみにこのポプリ、現在、我が家のトイレのトイレットペーパー収納の棚に入れてあるが、おかげで毎日、気持ちの良い香りのトイレットペーパーを使用している(そんな個人情報どうでもいいですよ)。
さて、ハーブ薬局でおばあちゃんにひいきしてもらったところで、母をいったんホテルに置いて、私と姉は、日本人オーナーさんが教えてくれた、ヴェッキオ橋を渡った向こう側にあるという、スーパーマーケットに行くことにした。
何と、オーナーさんの心配りが光るホテルには、ショッピングカートまで備えてあったので、ありがたく使わせてもらった。何とも日常感あふれるショッピングカートを引きながら、ヴェッキオ橋を渡る自分たちの姿が、まるでフィレンツェの住民みたいに見えて、感動した。こんなささいなことで感動できる、自分の脳みそを誇りに思うよ。
ヴェッキオ橋を渡って、左手の方にあるスーパー「CONAD」は、お花のマークが目印の、全国チェーンのスーパーである。しかし、こんなところにスーパーがあったかなあ。特にスーパーを探さずに歩くと、目に入らないものなんだなー。結構大きくて、新しい感じの、小ぎれいなスーパーで、地元の人や観光客が入り乱れていた。
そして、すっごく混んでいた。が!このスーパーでイタリアで初めて、私は「効率よくかつ平等な行列の並ばせ方」を見たのである。日本の混雑するデパートなどでよく見る、レジごとに並ばせるのではなく、客を一列に並ばせて、開いたレジから案内していく、あの方法である。
しかも!この「CONAD」で、初めて、レジの誘導係なるスタッフを見たよ!すなわち、デパートなどでよく見る、行列整理をするスタッフさん…つまり、どこかのレジが空くと、先頭の客に「あちらのレジにどうぞ」と声をかけて誘導する係である。
で、ここ「CONAD」の誘導係はおじさんで、どこかのレジが開くと、怒鳴ってるのかと思うような大声で「アヴァンティ!(=イタリア語で『前へ』の意味)」と叫ぶのである。「CONAD」の店内で商品を選んでいる時から、「アヴァンティ!アヴァンティ!」という怒号が鳴り響いていたと思っていたが、このおじさんの声だったのだなー。
初めは、「CONADやるじゃん!イタリアで、こんな秩序を見るのは珍しいことだよ!」と感動したが(本当にささいなことで感動できる私の脳みそ)、おじさんは「アヴァンティ!(=前へ)」と叫ぶだけなので、どこのレジが開いているかを瞬時に判断できず、迷い子になる客は一定の割合で出ていた。
そして、その客がまごついている間に、次の「アヴァンティ!」が鳴り響くと、次のお客さんが、本来、その前のお客さんが行くはずだったレジに行ってしまい、まごついたお客さんがさすらってしまうという事態も生じていた。ねえ、空いたレジのスタッフさんが、手でも挙げて誘導してくれたら済む話なのにねえ…と日本人は思ってしまうよ。そしたらアヴァンティ・ジプシーも生まれなくて済むのにさあ。
ちなみに、この「CONAD」は、日用品も観光客向けのお土産も充実していて、今までフィレンツェで足を運んだスーパーの中では一番気に入った。
ミネラルウォーターなどを大量に買い込んで、また、ショッピングカートを元気に引いてヴェッキオ橋を渡り、ホテルに戻った。そこで、母を拾って、いざ、夕食にGO!明日、市場で野菜などを調達する予定なので、今日は、自炊はしないで、外食しに行くよーっ!(フィレンツェ5度目の滞在で、まだ数えるほどの外食回数である…)
最初に向かったのは、ホテルの日本人オーナーさんが教えてくれた、ヴェッキオ橋の向こう側「アルトラルノ」の、パッセラ広場にある「4 Leoni」というレストラン。確か、雑誌のフィガロジャポンか何かでも紹介されていた覚えがあり、かなり美味しそうだったので、行ってみた。
お店に行ってみると、ウェイターさんに「予約してますか?」と聞かれた。してない、と答えると、もう予約がいっぱいで、今日は予約のお客さん以外は、外のテラス席になってしまうと言う。えー!そんなに人気なんだー!さすがに3月のテラス席は冷えるので、いったんあきらめて、他へ向かうことにした。
…が、予約がいっぱいで入れないと言われると、何としてでもソコで食べたいという、意地のような気持ちが湧き上がってくるのが、人間という存在の不思議なところなのである。我々は、30メートルほど歩きかけたが、強力磁石に惹きつけられるごとく、Uターンし、「4 Leoni」に戻った。何をしに戻ったかと言うと、今日は仕方がないにせよ、他の日の予約を取りに戻ったのである。
というわけで、フィレンツェ最終日のディナーの予約をゲットォ!ウェイターさんは、私たちの名前が難しいらしく、明らかにそうじゃないから!という綴りで予約帳に書いていたので、「あ…名前が違います」と言うと、「大丈夫、大丈夫!これで予約取れてるから、安心して!」と言われた。ま、予約が取れてるなら、どんな名前で取れようとヨイのだ。
じゃあ、今日はどうするかと言うと、ホテルのオーナーさんがもう一つ紹介してくれていたお店があったので、そちらに向かうことにした。またヴェッキオ橋を渡って、今度は中心街の方へ戻るよ!
夜のヴェッキオ橋。奥の方にドゥオーモのクーポラが見えている。
この通り、ヴェッキオ橋にずらーっと並んでいるジュエリー店は、かわいらしい宝石箱を閉めているみたいに、店じまいしている。全く、ヴェッキオ橋というヤツは、朝でも夜でも、ジュエリー店が開いてても閉まっててもかわいらしいのだ。
向かったのは「Trattoria Anita」というお店。フィレンツェの郷土料理が食べられる、老舗のトラットリアだそうだ。
場所は、ヴェッキオ宮の裏手で、ちょっと暗い時間に歩くのは危ないかなーと心配したが、さすが観光地フィレンツェ、夜でも、裏手の道でもしっかりとヒトケがあり(まあ、この、道端にいる人々が全員ワルモノだったりしたら、ヒトケがあっても何の意味もないんですけどね!)あまり不安は感じなかった。
「Trattoria Anita」は、よくよく見てみると、地球の歩き方にも掲載されている有名店らしく、「Anitaはこちら」みたいな大きな矢印も道すがらあったりして、わかりにくい場所にある割には、すぐ見つかった。
店内は、アットホームで庶民的という雰囲気で、赤いテーブルクロスが印象的であった。作り笑いでもなく、無愛想でもなく、自然体って感じのウェイターが席に案内してくれた。こういう自然体接客は、私は何だかホッとする。
フィレンツェの郷土料理と言えば、「Ribollita」…豆スープっ!お店によって、ちょこちょこ味が違うのだが、どこで食べても、ホッとする味なのだ。ここAnitaのものは、その中でも、特に「ホッ」感が強かった(何のこっちゃ)。
ちなみに、この「Ribollita」、最初に食べた時は、豆スープって言われてもなあ…と、あまり期待せずに食べたのだが、超美味しいわけではないのに、なぜだか体にスーッと馴染む感じで、だんだんヤミツキになってくる一品なのである。栄養満点なのかもしれない。特に、冬季は、身体もあったまるので、おすすめである。
こちらは、トリュフのパスタ。こちらも、素朴で美味しかった!トリュフといえば、日本では高級食材だが、こちらのパスタはわずか8ユーロであった。
フィレンツェと言えば、内陸の町なので、魚料理よりは肉料理。その中でも、キロ単位でオーダーしてしまうステーキが有名なのだが、さすがに、奥ゆかしい(勝手に言っとけ)女性3人組の我々は、ステーキをキロ単位でバリバリ食べる胃力がないため、バルサミコ風ソースがけのビーフ料理にした(サン・クイリコ・ドルチャでキロ単位で食い尽くしたくせに何言ってんだか)。
でも、このソースも、すっごく体にスーッと馴染む感じで、美味しかったのだ。つまり、ここ「Anita」の料理は、特に凝っているとか、個性的ということはないのだが、何だか身体にやさしい味であった。もしかしたら、素材の良いものを、あまり調味料を使わずに、長年の経験で美味しく仕上げているのかもしれない。とにかく、ある意味職人技って感じの、安定感のある味であった。
私は、あんまり日本でイタリアン料理を美味しいと思ったことがないのだが(高級店に入らないからではないかという、意見もあるよ)、イタリアで食べる郷土料理は本当に美味しい。しかも、高級なリストランテの味より、トラットリアとかの、庶民的なお店の方が美味しく感じる。つまり、口に合うんだね。つまり、庶民なんだね。庶民、イエイっ!
あんまり美味しかったから、もう一品何か食べたいね、と言って、オーダーしたアスパラガスのニンニク焼き。もーねー、これもねー、「アスパラガスのニンニク焼きにレモンを添えたもの」以上の何者でもないのにねー、美味しかったんだよ!
ミネラルウォーター1ユーロ、サラダ4ユーロ、トリュフ風パスタ8ユーロ、バルサミコ風ENTRECOTE(=牛肉の美味しい部位のことらしい)13ユーロ、アスパラガスニンニク焼き5.5ユーロ、これにデザートとカフェを頼んで、トータルで50.5ユーロであった。美味しくて安いとはこのことだね。ちなみに、デザートは普通だったよ。お腹に余裕があったら、デザートではなく、郷土料理の軽めのヤツを食べるべきよ!
お腹も満足したところで、ホテルに帰って、今日のフィレンツェ歩きは終了。ホテルに帰り、今日は、アウェイのトリノで、ユヴェントス対フィオレンティーナのサッカーの試合があったので、テレビをつけた。と言っても、試合の中継ではなくて、試合の中継を見ながら討論するオヤジ達を中継する番組である(おそらく放映権の問題で試合そのものは放送できないのであろう)。
フィオレンティーナ(フィレンツェが本拠地のチーム)に点が入ると、外のあちこちから、歓声が上がった。フィオレンティーナファンにとって、ユヴェントスは、長年の歴史で因縁のある、最も憎き敵なのである(基本フィオレンティーナより強いので、さらに憎い)。その歓声で、あー、まさに今、フィレンツェにいるんだなーということを、実感した我々であったのだ。