3/7ピアッツァ・アルメリーナ2 モザイクでお腹いっぱい!
ホスピタリティあふるるバールで歓待を受けてお腹いっぱいになったので、いざ!カサーレ荘に突撃するよ!
カサーレ荘は、イタリア語の正式名称は「Villa Romana del Casale」で、地球の歩き方では「カサーレの古代ローマの別荘」と書いてある。要するに、略してカサーレ荘っ!古代ローマの床モザイクで有名な観光地である。
カサーレ荘は、シチリアの内陸、交通の不便なピアッツァ・アルメリーナから、さらに5kmという、車を持っていない旅行者には不便な場所にある。が、姉も私もモザイク大好きなので、どうしても行きたくて、このシチリア旅行に組み込んだのだ。
さあっ!苦労して(イヤ、思ったほどは苦労しなかったな…)辿り着いたカサーレ荘っ!ドキドキして、まずは入り口をくぐったのだが、
…ええと。この回転式ゲートが回転する意味は、どこにあるんだろ…。でもね、一応、古代ローマのモザイクに敬意を表して、姉と私は一人ずつ回転しながら入場しましたよ…。
おー。あの遠くに見えている、一見、何ともない建物に、モザイクが保存されているだねっ!それにしても、周囲からは、鳥の鳴き声や、木々や草のざわめきしか聞こえない。つまり、もんのすごい田舎の真ん中にカサーレ荘はあるのだ。
では、お邪魔しますよ…。
内部は、観光客がモザイクを傷つけずに、それでもきちんと鑑賞できるように、ちょっと高い場所に通路が通してあって、上からモザイクを覗き込んで鑑賞するようになっている。屋根もついているので、遺跡というよりは、誰かの家に招待されたような感じで鑑賞できるのが面白い。
それぞれの部屋ごとに、モザイクの床もしきられているため、モザイク鑑賞用の通路は、もともとこのお屋敷にあった通路に沿って、その上に作られているんじゃないかな、という感じだ。お屋敷の通路を歩いている感じがしたので、自宅自慢に招かれているような気分であった。
肝心のモザイクは…入り口近くのモザイクは、幾何学模様が多く、それでもかなり出来がよいものだったが、中に入るにつれ、スゴイものが増えて来たんだ…(何という語彙の貧弱さだろうか)。
とにもかくにも、建物をまっすぐに横切っている「大狩猟の廊下」がスゴイ!「このモザイクがスゴイ!」とかいうコンテストがあったら、ノミネート確実だよっ!「大狩猟の廊下」だけあって、動物がたくさん描かれているのだが、その迫力がスゴイのだ!
このカッチョイイ野牛さんっ!引き締まった体といい、りりしい顔つきといい、人間だったらアンタに惚れるよ!(「お断りだモー」by野牛さん)
こちらは、おそらく闘技場で、剣士と戦わせるための猛獣や、見せ物にするための(当時の)珍獣が、アフリカなどで捕らえられて、船に乗せられて、ローマに運ばれていく様子が描かれているのだと思われる。古代ローマ人の、「見せ物」大好きな一面を見ることができるモザイクだと思う。
とはいえ、古代ローマの時代は現在のような、テレビや映画、ゲームなど…いわゆる虚構を中心とした娯楽文化が栄えていない時代なので、現代人より古代ローマ人方が見せ物娯楽が好きだとは一概には言えないだろう。古代ローマの時代にもアクション映画とかあれば、闘技場で、生身の人間や動物が、あんなに命を落とさなくて済んだのかもしれない。
現代の映画やアニメの残酷なシーンは、人々の心の闇に悪影響を与えるという考え方もある。もちろん人によっては(特に若いうちは)悪影響を受ける場合もあるだろう。
だが、大多数の人間にとっては、こういう「残酷な虚構」を見たり聞いたりすることが、ちょっとしたカタルシス…とまではいわないけど、人間の本能が持つ残酷な部分を、適度に満足させて、暴走するのを防いでいる面もあるんじゃないか、と思う。「進撃の巨人」で、ミカサは「世界は残酷」と言うが、その世界の一部である人間も、やはり残酷なのだ。
進撃の巨人の話終わり。
で、捕らえられて、このローマ行きの船に乗せられている動物のモザイクも、かなり秀逸である。
船に乗せられるゾウさん。確かにゾウは、古代ローマ人にとっても、かなりスペシャルな見せ物であろう。おそらく網がかけられている。
インパラみたいな動物かな?危なくないように、ツノをつかまれている。悟りきったような感じで船に乗っていくゾウさんに比べて、こちらは、船に乗るまいと、抵抗している顔つきとポーズに見えるのが興味深い。
この鳥は…何だろ?ダチョウに似てるけどもう少し小さい鳥さん。それにしても、かなり顔が怒っている。そりゃそうだよね、住み慣れた場所を離れたくなんかないさね。
この「大狩猟の廊下」の右の方で、船に乗っている三人組は、なかなかイケメンだったので、実際に行かれた方は、マジマジと見て目の保養をして下され(我ながら重要な情報だね!)。
「大狩猟の廊下」から見て右の方には、非常に日本でも有名な、ビキニ少女たちのモザイクがあった。
この女性たちなんか、ビーチバレーそのまんまって感じだね!しかし、ビキニとは言っても、現在のような水着ではなく、スポーツ着であったようだ。そもそも古代ギリシアのオリンピックでは、男性は全裸!今風に言えばマッパ!で、競技していたらしい。女性は、さすがにスポーツする時、ゲームに出てきそうなセクシー戦士程度の着衣で競技していたのだろう。
このビキニ少女たちは、全員で10人いて(正式には、ビキニを着ていない女性が一人、しっかり保存されてない子が一人いるので、8人)、なかなかキュートな娘や、美人さんもいる。お好みを探してみるのもいいだろう。しかし、私はなぜかちゃんと写真に残してないんだぜ…。イケメンは撮るけど美女は撮らない、わかりやすすぎる私…。
最初に入った建物を一通り見終わると、いったん外に出た。ここまでのモザイクで、既にかなりお腹いっぱい(飽きたという意味じゃないよ!感動が私の中に収まり切らないくらい大きいんだよ!)なのだが、モザイク天国は、まだまだ続くのだ。
そう、まさにここはモザイク天国。作品のひとつひとつが、生き生きとしていて躍動的で、美を鑑賞することを食事に例えると、美味かつ個性的かつ栄養分バッチリの料理が、次々と運ばれてくる感じだ。
さあ、外の空気を吸ったところで、次の建物に入ろうっ!ずっとずっとモザイク三昧である。
こちらは、漁をしているクピドたち。…ん?「たち」って…クピドって、英語名はキューピッド、ギリシア神話では恋と矢の神エロスにあたり、美と愛の女神アフロディーテの一番有名な息子で、本来は一人しかいないはず…。ポンペイの、ヴィーナスの壁画にも、何人ものクピドが描かれているけど、本当に、この子たちはクピドなのかなあ?単にクピドのイメージで描かれてるだけの、クピドもどきだったりしないのだろうか?
このクピド(もどき)たちの船の底にくっついている、宇宙人みたいな、アメーバ状の生き物も気になるところだ…!こいつ、海が描かれている場面では、いろんなところに出没していましたぜ!
こちらは、三つ目の怪物っぽいが、実はギリシア神話で、英雄オデュッセウスに退治される、一つ目巨人ポリュペモスを表しているらしい。
モザイクは、まさにその神話の場面を描いていて、巨人たちの洞窟に閉じ込められたオデュッセウスが、ポリュペモスを眠らせるためにお酒を勧めているシーンである。で、眠っている間に、その一つ目を突いて、逃げていくという、有名なエピソードである。
それにしても、一つ目巨人が三つ目で描かれてるというのがおもしろい。この一つ目巨人のアイデンティティも、大事なのは目の数ではなくて、「額に目があること」なんじゃないかと、手塚治虫の「三つ目がとおる」を読んだことのある私は考えてしまう。あと「幽遊白書」の邪眼妖怪・飛影。
まんがの話終わり。
こ、このモザイクは…。アヒルが大きすぎるのか、子供が小さすぎるのか…。それとも、「むーかーし、アヒルーはーからだーがーおおきくてー」という歌があるが、それが真実だったことを証明するモザイクなのか…。いずれにせよアヒルの目つき悪すぎ。
内陸の町ピアッツァ・アルメリーナなのに、海のモザイクが多かったのが不思議だった。こちらは、海をなぜだか漂っている、おそらくヴィーナスとクピド。ポンペイで見た、壁に描かれたヴィーナスの絵に、非常にポーズが似ている。
ヴィーナスの、左の方に描かれていた、半人半獣のモンスター。女性だと思うが、さみしそうな表情がセクシーである。ツノがあって、上半身が人間で(おそらく女性?)、ヒヅメがある前足があって、下半身が蛇(もしくは魚)で、手には目玉みたいなものが入った箱を持っている。
…うーん誰だろ。頭にツノがあって、下半身が蛇なのは、川の神アケローオスらしいんだけど、その神様は男神なのだ。もし、手に持っているのが目玉であれば、ヘラ(ゼウスの妻)の嫉妬から、半身ヘビの怪物にされたうえ、眠れないという呪いをかけられたラミアかもしれない。眠れないことを同情したゼウスが、目玉を取り外せるようにしてあげた(=眠れるってこと?)というエピソードのある怪女だ。
ていうかゼウス、自分がラミアに惚れたせいで、ラミアがこんな目にあってるのだから、全能神なら、目ん玉うんぬんより、元の姿に戻してあげればいいのに!おそらく、ゼウスは元に戻ることくらいはできるんだと思う(だって全能神だよ!)。奥さん(ヘラ)が怖いんだろう…。
順路のほぼ最後に登場したのが、有名なこのモザイク!
真ん中は有名な、男女が抱き合っているロマンチックなモザイクだが、地球の歩き方には、「オデュッセウスとポリュペモス」と書いてある。ふーん、英雄オデュッセウスって、ポリュペモスという恋人がいたのね…って、チョット待ッタ!ポリュペモスって、さっきの一つ目巨人のことじゃないの?それとも、同名の恋人でもいるのか!?
帰国してから調べたのだが、オデュッセウスに、ポリュペモスまたはそれに近い名前の恋人が存在しない。ということは、考えられるのは、2つ。
1.地球の歩き方が一つ目巨人のモザイクと、写真を間違って掲載した
2.実はそう見えないけど、本当にこのモザイクは「オデュッセウスとポリュペモス」で(どっちが一つ目巨人なんだよ!というツッコミはあるが)、オデュッセウスは、戦った後、一つ目巨人と超仲良くなって、熱い抱擁を交わした。一つしかない目を潰してしまったので、ちょっと責任取らなきゃ。オレがお前の目になるゼ!とか考えてる。
2.だったら、ギリシア神話の、新しい発見だね!
…真相は闇の中なので(イヤ、明白だろ!)、とりあえずこの話は置いといて、とにもかくにもこのモザイクは、繊細で出来もよく、保存状態もすばらしい。大狩猟の廊下、ビキニの少女と並ぶ、カサーレ荘を代表するモザイクである。
中央で抱き合っているオデュッセウス(偽者疑惑)と、ポリュペモス(偽者疑惑)の、上下左右に描かれている女性は、四季を表していて、非常にかわいらしい。
くっきりした目鼻立ちで、華やかな春ちゃん。手には春の花を持っている。
穏やかで、やや憂いを秘めた美人の秋ちゃん。頭を飾っているのは、秋の果実・ブドウである。
だいたい、ここまでで一通り鑑賞が終わった。1時間半くらいかかった。しかし、これで、我々の鑑賞が終わりだと思ったら大間違いである。残り、タクシーの時間まであと1時間、好きなモザイクのところに戻って、時間をかけてじっくり向き合うのである。鈍足観光バンザイ!
この日、カサーレ荘はガラガラだった。さすがに貸切ということはないが、修学旅行生ともかち合わず、全敷地で、20人くらしか人はいなかったのではないだろうか。夏場に行った人の中には、混雑しすぎてモザイクが見れなかったとか、人が多すぎて暑くて窒息しそうになったとか言う人もいるが、やはり冬場は市街地からのバスがいないため、観光客が激減するのかもしれない。
人が少ないおかげで、好きな場所にスイスイ戻ることができたのだが、逆に人が少なすぎて、カサーレ荘の中は冷えていた。姉も私も、2日前の極寒のカルタジローネに懲りて、結構温かい格好をしてきたのだが、それでもしんしんと冷える。本当は、別行動して、好きなモザイクを見たかったのだが、くっついてなきゃ寒い!という有様だったので、肩寄せ合って震えていたので、周りからは、さぞかし不安そうな東洋人に見えただろう。
おそらく寒さのせいでトイレが近くなったのだと思うが、建物の外の、立ち入り禁止区域にそっと入って行ったおじさんもいた(何のためかは敢えて書かないよ!)。カサーレ荘のトイレは、切符売り場の外のバールにしか見かけなかったので、入場前に済ませておいた方がよいだろう。(余談だが、こういう場合、特に空いている時は、切符売り場の人にトイレに行って、また再入場できますか?と聞いておけば、大丈夫なこともある)
カサーレ荘の細かい注意事項をついでに書いておくと、通路の行き止まりは、透明のアクリルになっていて、私は何度もぶつかったのでお気をつけ下さい!あと、モザイクの床に、万が一私物落とすと、自力で拾うのは念力がなきゃ無理なので、注意されたし。(実際に、ガイドブックみたいなものとか、私物っぽいものがいくつか落ちてた…)
さて。2時間半、たっぷりモザイクを楽しんで、タクシーがお迎えに来てくれる、約束の時間10分前には、約束しておいた切符売り場外のバール前に戻った。
タクシーに乗る前にバールでトイレを借りると、昼食の時にいっぱいサービスしてくれたおじいさんが出てきて、「娘が京都で着物を着たんだ!」と言ってスマホの写真を見せてきた。そのお孫さんだと思われる少年も出てきて、「日本人だ!一緒に写真を撮ってくれ!」とせがまれた。平たい顔族人気あるなー。
おじいさんに「バールでゆっくりして行きなよ!」と言われたが、タクシーは時間通り(!)にやってきたので、「タクシーが来ちゃいました。いろいろありがとうございました」と言って、カサーレ荘とお別れした。モザイクは最高だったし、バールの人たちは親切だったし、本当に楽しかった!
来た時と同じ、無口なドライバーに、バス乗り場まで送ってもらった。来た時と同じ、10ユーロであった。バスの時間までは、あと30分。早足で歩けば、市街地にあるドゥオーモくらいは拝めるのだろうけど、何せ、寒かった!うん、モザイクの素晴らしさでつい忘れてしまいそうだけど、寒かったんだよ!そこで、バス停のそばの、「Cafe Diana」で、20分くらい過ごすことにした。
「Cafe Diana」のカウンターには、背中にオレンジのペンキがついたジャンパーを着ている男性がいて、「いらっしゃい!よくぞこの店に来た!記念に砂糖を持っていきな!」と言って、お店のロゴが入ったコーヒー用シュガーをくれた。お店の人かと思ったら、彼は自分のエスプレッソを飲み終わったら出て行った。お客さんだったらしい…。ピアッツァ・アルメリーナって、何だか独特な人懐こさを持つ人が多いな…。
「Cafe Diana」のマスターは、英語がペラペラで、「ここはB&Bもしてるんだけど、よければ泊まって行かないか?」と言われた。カターニアから日帰りなのだと答えると、そうかそうか、と言い、奥に引っ込んで、日本画の描かれたポストカードを持ってきた。以前宿泊した日本人が、帰国してからお礼の手紙をくれたらしい。イタリア語でびっしり書いてあった。しかも、達筆な筆記体であった。カッチョイイ…。かっちょよすぎる!
バールでゆっくり過ごしたので、ショーケースをのぞいたりしていると、「これはプレゼントだ」と言って、小さなトローネを姉と一つずつもらってしまった。
トローネとは、蜂蜜と卵白でナッツを煮詰めた、イタリアでよく見るお菓子である。あんまり今まで美味しいと思ったことがかったのが、シチリアはアーモンドの産地だからなのか、非常に美味しかった!しかも、カサーレ荘のモザイクと、お店のロゴが包み紙にプリントされている!もし、ピアッツァ・アルメリーナでお土産を買うなら、ここのトローネがいいかも!
さて。几帳面な日本人は、バスが来る10分前にはバス停(というか公園)に戻った。何せ、ピアッツァ・アルメリーナとカターニアを結ぶバスの便は少なく、こいつを逃すと、今日カターニアに帰る手段はないのだ。
しかし、あと10分待たなきゃいけないのに、相変わらず、さ・む・い。しかも、雨が降ってきた。傘持ってるんだけどさすのが面倒だったので、すべり台の下に座り込んでいたら、犬の散歩をしていたピアッツァ・アルメリーナ人に笑われた。しかし、どうして今年の旅行は南国シチリアなのに、毎日寒さに震えてばかりいるのだろうか。
バスは、ほぼ時間通りにやってきた。しかも飛ばしまくってカターニアに帰った。
今回の旅行で、一番、交通面が心配だったピアッツァ・アルメリーナ遠足は、あっけないほどの大成功の大満足に終わった(寒かったけど)。いやー、ここまでのシチリア旅行が順調すぎて、かえって不気味だよ!
…そして、この不気味な予感は、的中するのだ。女の勘ってスゴイね。明日はMッシーナ(Mは誤植じゃありません。伏字にしてるんですよ)にて、伝説の怪物スキュラが、我々を待っているんだぜ…。