3/12シラクーサ旅行記1 美しきかな、古都のドゥオーモ

さあっ!シラクーサを歩くよ!

本当は、シラクーサには3泊したかったのだが、今回のシチリア旅行は、我々にしてはかなり欲張りなスケジュールになってしまい、シラクーサ滞在は2泊しか取ることができなかった。だから、シラクーサでは脇目もふらずに貪欲に観光するよっ!…って、脇目を振るのが正しい観光っだっつーの。

とりあえずは、町のドゥオーモに挨拶しようぜ!と、ドゥオーモ広場まで出た。

シラクーサ

シラクーサのドゥオーモ。う、ウツクシイ…。

シラクーサのドゥオーモが美しいであろうことは、写真を見て想像していた。今まで、いろいろな町でドゥオーモを見てきたが、その中でも美しい部類であろうことは予想はしていた。ドゥオーモってのは、町のナンバーワン大聖堂のことなので(何とテキトウな定義…)、だいたいどこの町でも美しいのだが、その中でも美しいってことは、クラスの中の美人というより、美女軍団の中のさらに美人ってことだ。

というわけで、心の準備はできていたんだが、その心の準備を上回る美しさ…。きっと美しいだけでなく、私の好みに合うんだろう。ツボってるんだ、きっと。だから、こんなに心を打たれるんだよ…!

しかし、こんなに美しいドゥオーモなのだが、どんな美人にも欠点があるように、(貧乏旅行の我々にとって)ある致命的な欠点を持っている。それは、ドゥオーモなのに内部入場が有料ということである!イタリアの観光地に、有料教会ってのは確かに結構ある。しかし、町のドゥオーモが有料ってのは珍しい。たいていドゥオーモってのは、無料で誰にでも開放されていて、旅人も入りたい放題で、前を通りかかるたびに中に入れるのが旅の楽しさでもあるのだ。

シラクーサのドゥオーモは、かなり古い土台を元にしていることもあって、有料にしないと保存が難しいとかあるのかもしれないなあ。いずれにせよ、いつでも好きな時に入るってわけにはいかないので、ドゥオーモは後でゆっくり堪能することにして、同じドゥオーモ広場に面しているサンタ・ルチア・アッラ・バディア教会が開いていたので、先にコチラに入ることにした。

サンタ・ルチア・アッラ・バディア教会には、ジャ、ジャーン!カラヴァッジョの「聖ルチアの埋葬」という作品がある。シチリアで見ることができる、カラヴァッジョ作品3つのうちの1つである。今回の旅行では、この3作品全てを見る予定だったのに、メッシーナのせいで、このうちの2つを見ることが叶わなかったので、今回唯一鑑賞できるのが、この「聖ルチアの埋葬」なのだ。

聖ルチアは、聖人のなかでも有名な方だと思うが、シラクーサで殉教していて、そのままシラクーサの守護聖人なのだそうだ。サンタ・ルチアと言えば、どうしても、あの有名な歌と、その歌の舞台であるナポリのサンタ・ルチア港が思い浮かぶので、ずっとナポリと関係のある聖女だと思っていた。

カラヴァッジョがこの絵を製作したのは、晩年で、殺人や暴力などの罪を犯した後で、南イタリアで見られるカラヴァッジョ作品は、逃亡生活中に描かれたものがほとんどである。シチリアに滞在していたのは、マルタ島で暴力沙汰を起こした後であり、マルタ島を逃げ出し、相手からの報復に脅えながらの生活であったなどと言われる。

カラヴァッジョ関連の話では、とんぼの本というシリーズの、カラヴァッジョ巡礼 (とんぼの本)という本が非常に面白かった。

その本で印象的だったのは、心に闇を抱えたカラヴァッジョは、光を求めて南へ南へと逃げていく。しかし、南へ行けば行くほど、彼の作品の闇は濃くなっていく、などと書かれていたことであった。そんなわけで、シチリアという、イタリアの最南端で鑑賞できるカラヴァッジョ作品をかなり楽しみにしていたんだけどね!3つのうち1つしか見れないよ!1つでも見れてヨカッタと思うべきよ!

シラクーサ

こちらが、「聖ルチアの埋葬」を所蔵しているサンタ・ルチア・アッラ・バディア教会。名前の通り、聖ルチアを祀っている協会なのだが、この絵はもともとこの教会のために描いたものではないらしい。この作品は、他の教会とか、美術館とか、展示場所をコロコロ変えながら、現在はなぜだかこの教会で展示しているということだ。

内部見学は無料であった。内装は、まあ、無料だろうな、と思うような、新しくてちょっとゴテゴテした感じであった。その一番奥、主祭壇に、「明らかにこの絵はここにもともとあったものじゃないな」って感じで、取ってつけたようにカラヴァッジョ作品は展示されていた。

何というか、作品を鑑賞する前に、この、妙なちぐはぐ感が気になる。内部は写真撮影禁止なので、写真でお見せすることはできないのだが、教会内部は真っ白で新しく、テーマパークのお城という感じだ。その主祭壇に、カラヴァッジョ作品があるのだが、文化祭などで、とりあえず一番目立つところに飾りました、と言わんばかりの展示のされ方である。カラヴァッジョ作品に特徴的な、光と闇のコントラストが印象的で、全体として茶系の薄汚れた雰囲気のある絵なのだが、それが、真っ白な教会内のど真ん中にあることが、どうにもしっくりこない。

そんなわけで、展示のされ方は、イマイチなのだが、作品自体は素敵なものであった。タイトルの通り、聖女の埋葬シーンなので、絵の中心には、聖ルチアが横たわっている。その聖女の死を悲しむ人々がバックに並び、絵の一番手前の方に、聖女を埋めるお墓を掘っている墓堀職人が二人、大きく描かれている。

シラクーサ

こちらポストカードの撮影。

雑然とした雰囲気で、墓堀に静を出す、薄汚れた二人の墓堀職人の動的なポーズと、横たわっている聖女の静寂さが、非常に対照的である。しかし、この聖女よりも、墓堀職人の方が手前側に、大きく描かれているのが、何というかカラヴァッジョ作品だなあ…という感じだ。殉教のシーンなわけだから、聖女はこれから神の国に召されるはずなのだが、この雑然とした墓堀職人たちの存在感のせいで、聖女と言えども、これから向かうのは、ただの暗い混沌とした死の国、という印象を私は受けてしまった。

そして、聖女の一番近いところに佇んで、聖女を悲しい表情で見つめている少年の、赤いショールが実に印象的である。全体として、墓堀職人を中心に、保存状態がそれほどよくないこともあって、薄汚れた色合いの作品になっているのだが、その中で、画面中央の、この少年の赤いショールが、イヤでも目を惹くのだ。

この赤いショールのせいで、この少年は、聖女ルチアよりも目立っている。しかし、少年の目線が、しっかり聖女ルチアを見据えていて、赤いショールは、少年の肩から垂れ下がり、地面に横たわる聖女ルチアを指しているかのようにも見えるので、この少年に目が行くと、そのまま聖女ルチアにも目が行くという仕掛けになっている(というのは、私の勝手な解釈だよ!)。

ついでにさらに勝手な解釈をすると、この墓堀職人たちが暗示するものについて、つい深読みしたくなる。このあまりにも雑然とした墓堀職人たちの存在感は、彼らは、殉教した聖女のためのお墓を掘っているのではなく、まるで、カラヴァッジョ自身が犯してきた罪や、心に抱えた闇、そんなものを埋めてしまうべく、地面を掘っているようにも見えるのだ…。

…などなどと、いろいろなことをつい考えたくなる作品であった。ちなみに、この作品の背景には、洞窟のようなものがうっすらと描かれているのだが、これは、シラクーサにある、カラヴァッジョが名付け親だと言われる、「ディオニュソスの耳」と呼ばれる、石切り場の洞窟からインスピレーションを受けたのではないか、という説もあるらしい。この絵を見た翌日に、ディオニュソスの耳には足を運ぶんだのだが、確かに雰囲気はよく似ていた。

写真撮影ができなかったので、この絵のポストカードを購入しようと思って受付に行くと、ポストカードに値段はついていなくて、無料、もしくは喜捨で受け取ることができた。もちろん、無料はアレだよね、てなわけで、喜捨しようとしたら、財布の中に小銭が2セントしかなかった!!!大きなお札は20ユーロ以上しかないし…。受付の人は「いいよ、別に無料でもいいんだから」と言っていたが、「ホントすみません…」と言って、2セント置いてきた。にせんと。やっぱ、イタリアでは小銭を常備しておかなきゃ、イザって時に困るねえ。わかってるくせに、いっつも忘れてしまうよっ!

さて。カラヴァッジョは無料で見れるので、またいつでもシラクーサ滞在中に戻ってくるとして、次は、有料ドゥオーモにはいるよっ!

シラクーサ

晴れてきたので、さっきよりも背景の青が強くなって、さらに美しいっ!シラクーサのドゥオーモはマジ美しいっ!

というわけで、中に入るよっ!有料ドゥオーモっ(有料有料ってウルサイよ)!ひとりあたま2ユーロなりっ!

シラクーサ

うおっ…!中ステキ!外側だけじゃなくて、中もステキ!ヤバイ。シラクーサのドゥオーモヤバイ。外見だけじゃなくて、内側もこんなに美しいんだよ!そういう人って、なかなか人間にもいないよね!スペック高すぎだね!恋人にしたいポイントが高すぎるね!けど、金のかかる女…!(もうアンタ黙りなさいよ)

とにもかくにも、ちょっと薄暗い雰囲気が、外側の真っ白な明るい美しさと、素晴らしいコントラストになっている。ドゥオーモ前の広場も、真っ白な石が敷き詰められているので、とにかく、シラクーサのドゥオーモ広場ってのは白くて明るいのだ。それに対し、厳かな雰囲気のこのドゥオーモ内部。うーん。シラクーサすごいね。やりますね。

シラクーサ

このシラクーサのドゥオーモがあった場所は、もともとドーリア式の、アテネ神殿があり、その神殿跡を利用してドゥオーモが作られたらしい。そのため、教会内部には、アテネ神殿のドーリア式の柱が残っている。教会の内陣を作っている、この柱もかなり雰囲気があって素敵なのだが、古代ギリシア時代からの柱はこの柱ではない。これは確か、中世の柱だったかな。記憶が定かではない。

シラクーサ

古代ギリシアの柱はこちらっ!内陣の柱ではなく、左側の、壁に埋め込まれている柱である。シラクーサといえば、やはり古代ギリシア時代が最盛期なので(メロスが走った頃)、シラクーサの古代の香りに触れるには、やはりこういう古代ギリシア由来のものなのである。柵で囲ったりしていないので、柱にしっかり触ることもできる。この柱に触れて、古代ギリシア人と魂の交流をする(フリをする)よ!

いやー。古代ギリシアの柱は本当にカッコいいなあ。ギリシアから、南イタリアへ渡ってきた古代ギリシア人のほとんどは、メソポタミア半島のドーリア人らしい(シチリアの歴史 (文庫クセジュ 985)で読んだよ!)。そのため、南イタリアに残る古代ギリシアの遺跡のほとんどは、ドーリア式のどどんとした柱である。

シラクーサ

古代ギリシアの柱が組み込まれた、左側の回廊の突き当たり正面には、聖母子像が飾られていた。静かに佇む姿が素敵。このドゥオーモが有料であるメリットは、無料のドゥオーモに比べると、やはり内部の観光客が少ないので、静かな落ち着いた雰囲気を楽しむことができる。たった2ユーロでも、やはり無料とは全然違うのである。私だって、無料だったら、何度も何度も通りかかるたびに入るだろうからなー。雰囲気を保つために有料にしているのであれば、観光客にとっては、有料と言えどもありがたいかもしれない。

右の方には、有名な、水色のフレスコ画がクーポラに描かれた礼拝堂があった。そのエリアだけが撮影禁止であった。結構楽しみにしていたフレスコ画だったが、実際見てみると、意外と大きくなくて、思っていたほどのものではなかった。

右側エリアにはこんな不思議なものもあり。

シラクーサ

…エイリアン?

シラクーサ

おそらくこれは、杯(?)の上に、目ん玉が置かれているんだと思われる。何で目ん玉かと言うと、このドゥオーモが、シラクーサの守護聖人である聖ルチアを祀っているからだろう。キリスト教迫害のローマ時代に、殉教した彼女は、拷問の際に目をえぐられたという逸話が残っていて、よく聖ルチアを示す目印として、目ん玉が描かれるのだ。ちなみに、眼球を失っても彼女は神のご加護で目が見えたらしく、そのため目の守護聖人ともなっている。日本でも、目玉のオヤジが目の守護妖怪すればいいのにね(ワシの役目はそんなんじゃないぞ!by目玉のオヤジ)。

シラクーサ

教会の一角に、ステンドグラスの色彩が写って、非常に幻想的なことになっていた。いやあ、シラクーサのドゥオーモ気に入ったよ!私の中の、イタリア・各町対抗ドゥオーモ選手権では、ベスト8に入るんじゃないかと思う。ちなみに、イタリアのドゥオーモ選手権は、かなりレベルが高く、し烈な争いが繰り広げられることが予想される(ドゥオーモは聖堂なんだから誰とも争いませんよ!)。

さあて。しょっぱなからシラクーサの美しさはスゴイよ!たった2日しかないシラクーサ滞在、この先もしゃかりきに動くよっ!