3/13ノート旅行記1 花より団子、敗れたり
ノート。
その町に、我々は、今回のシチリア滞在中に、なんと2回も行く予定であった。というのも、ノートには、シチリアナンバーワンと呼ばれるお菓子屋さんがあるらしいのだ。その名も「Caffe Sicilia」。
我々が、今回の旅行情報ゲットに使い倒したCREA Traveller 2013Autumn NO.35 [雑誌]という雑誌に掲載されていたのだが、そこにカラーで映し出されたお菓子の美味しそうなことよ…!私は、特出するようなグルメではないのだが、お菓子は好きだ。お菓子は好きなのだよ!
ノートは、バロック建築で飾られた世界遺産の町である。大抵の人がノートに行く目的は、この「世界遺産のバロック建築」目当てである。私も、こう見えても、美術愛好家の端くれである(本当に端くれの端くれだが)。バロック建築にも、もちろん興味ある。しかし、いつからか、私の脳内で、ノート=お菓子という図式が出来上がってしまい、ノートと言えばシチリアナンバーワンのお菓子のことしか考えられなくなっていた。
「Caffe Sicilia」で、特にお勧めだと言われるのが生菓子である。生菓子と言えば…だいたいその日じゅうにしか食べられないジャン!と言うことは、ノートにせっかく行ったとしても、ゲットするのが生菓子であれば、一度にたくさん買うわけにいかないジャン!ノートは、小さい町なので、宿泊観光するほどの大きさではない。ということは、2回行くしかないジャン、2回!
ノートはカターニアから1時間半、シラクーサから1時間弱の場所にある。てことは、カターニア滞在中に一回、シラクーサ滞在中に一回ノートに行けば、2回「Caffe Sicilia」で生菓子が買えるよっ!
…と言う計画だったのだが、カターニア滞在が思いのほか忙しく、カターニア滞在中に、「ノートはシラクーサ滞在中にも行くから、カターニア滞在中は諦めようね」と、泣く泣くノート行きを諦めた。はっきり言って、このノート行き…もとい生菓子…を諦めた時、本当に私は疲れていたのだ。でなければ生菓子を諦めるようなことしないよ!
そして今、シラクーサ滞在中。シラクーサ滞在も、本当に思いのほか忙しかった。しかし!もうここでノートを逃すわけにはいかないのである。本当に本当に忙しかったけど、この日の午後に、ノート(というか生菓子)に突撃することにしたのだ。
さて。シラクーサからノートに行くには2通りの方法がある。
1.ASTのバス。1時間ほどかかる。
2.鉄道。30分ほどで着く。
これだけ見ると、「鉄道で行かないヤツは素人」って感じなんだけど、鉄道には一つだけ問題がある。ノートの鉄道駅が、ノートの市街地から遠いらしいのだ。
で、この「遠い」が、どのくらい遠いのかが、ガイドブックやネットの情報で錯綜していた。「歩くのは無理」と言う人もいるし、「めっちゃ近い」という人もいる。残念ながら、地球の歩き方のノートのページには、鉄道駅が地図外になってしまって、場所が載っていない。グーグルマップなどで正確な距離を調べようと思っていたのに、忘れてしまっていた。
そこらへんのことを、シラクーサの観光インフォメーションで聞こうと思っていたのに、シラクーサの観光インフォメーションはなぜだか閉まりまくっていたわけだよ。…さて、どうするべ。とりあえず、シラクーサのバスターミナルと、鉄道駅に行って、時刻表をゲットするべ。んで、どちらの方が、都合のいい時間に便があるかを確かめるべ。
シラクーサのバスターミナルは、細長くて、あちらこちらにバス停がある。シチリアの町ではよくあるように、それほどわかりやすいバスターミナルではない。バス停をひとつずつのぞいてみると、ノート行きの時刻表みたいなのが貼ってあった。それを写真で撮っておいた。
近くにバスのスタッフさんがいたので、念のために(本当に念のために)、時刻表を指さして、「今はこの時刻表で運行してるんですよね?」と聞いてみると、「違うよ」と言う。ええっ…!?な、なんのために貼ってある時刻表、いったいなんのために…。
そして、手に持っていたバインダーを開いて、「今はこの時刻表で運行してるよ」と、時間を教えてくれた。貼ってある時刻表と微妙にチガウ…。うおっ…聞いておいてヨカッタ…。イタリアではよくバスが遅れることがあるけど、もしかしたら遅れてるんじゃなくて、時刻表そのものがアップデートされてないこともあるのかもしれない。しかし、貼ってある時刻表を信じられないのならば、いったい何を信じればよいのか…。
スタッフさんの教えてくれた時刻表を見ると、行きは午後2時という、ちょうどいい時間のバスがいる。だが、帰りが、ちょっと早すぎるか遅すぎる。2時にシラクーサをバスで出るなら、ノートに着くのは3時くらい。小さい町だから5時か6時くらいには観光し終わると思うのだが、バスは4時台か7時台しかいない。7時はちょっと、帰り着くのが遅くなりすぎる。
そこで、今度は鉄道駅に行ってみた。鉄道駅の切符売り場は、結構しっかりしていて、観光地シラクーサからノートに行く人は多いのか、シラクーサ-ノート間の往復の時刻表をプリントしたものをすぐにくれた。その時刻表を見てみると、17時半くらいの便がある。うん、コレがいいね。
というわけで、行きはバス、帰りは電車を使うことにした。しかし、ノートの鉄道駅の位置がよく分からない以上、帰りに迷子になって、電車に乗れず、もっと遅い時間のバスで帰ってこなければならない可能性もある。そういうことなら、電車の切符はノートから帰る時に買えばいいだけじゃん、と思うかもしれない。
しかし、ノートの鉄道駅が寂しい場所にあり、無人駅であることは事前に調べ済みである。もしかしたら使わない可能性もあるけど、鉄道切符はシラクーサで買っておかなければならないのである。無駄になるかもしれないけど、安心には代えられないよっ!てわけで、このシラクーサの鉄道駅の切符売り場で、ノートからシラクーサへ帰る切符を購入しておいた(イタリアの鉄道切符は刻印しないでおけば、購入してすぐ使わずに、後から使えるんだよ)。
切符を購入した後、切符売り場の近くにいた、カメルーンのスポーツチームのナショナルジャージのようなものを着た、若い男性集団に英語で呼び止められた。彼らは、英語しか話せず、切符売り場の係員さんと意思疎通ができなくて困っているらしい。彼らの訛りのある難しい英語と、私のへっぽこの英語力では、なかなか我々だって意志疎通できなくて戸惑ったが、何とか彼らが係員さんに聞きたい内容を理解した。ミラノまでいくらかかるかが知りたいらしい。
シチリア島からミラノまで…?そりゃいくら何でも、鉄道で行くには遠すぎだろうよ!飛行機で行くべきよ、飛行機で!…と思ったが、もしかしたら値段を知りたいだけかもしれないし、かろうじて意志疎通ができる状態では、そんな話をするのもままならず、とりあえず、駅員さんにミラノまでの運賃を尋ねて、答えは返ってきた。お礼を言われたが、マジでミラノまで鉄道で行くのか?それにしても、モディカのホテルにも、インターナショナルな若者ジャージ集団が宿泊してたし、シチリアで何かスポーツの国際大会でもやってたのかなあ。
ノートへのバスと鉄道情報をゲットした後は、午前中いっぱいシラクーサの考古学地区の観光をした(この前と、2つ前の旅行記参照してくだされ)。「Caffe Sicilia」で、スイーツを食べまくることを想定して、お昼ご飯はカフェでささっとすませて、さあ、いざ!ノートに行くよ!
ノート行きのASTのバスは、シラクーサのバス―ミナルの、道路に面しているバス停、目の前にガラスとかが割れているコワイ廃墟ビルがあるバス停から乗車する。シチリアは鉄道よりバスが発達している島ではあるが、どの町のバスターミナルも、いろいろなバス会社が乗り入れていて、それぞれ乗り場が違うのでわかりにくい。ホントわかりにくい。日本が便利すぎるのかなあ。
ASTの白いバスがやってきて、乗り込んだ。切符は車内で購入できた。さあ、お菓子の国へ出発だよ(違いますから!byノート)!運転手さんは、最前席に座った男性と、ずーーーーーっとおしゃべりをしていた。全然前見てなかった。イタリアでこんな運転に遭遇するのも、だんだん慣れてきたなあ…。
ノートまでは、予定通りちょうど1時間くらいであった。3つ目くらいの停留所で、運転手さんにノートに着いたら教えてもらうようにお願いしておいたので、難なく降りることができた。ガイドブックやネットの情報の通り、公園のような場所の前に着いた。公園では、観光客向けの屋台のお店も出ている。やはりお菓子の国には、観光客が来るんだなあ(お菓子の国じゃなくて、世界遺産のバロックの町だっつってんだろ!byノート)。
公園を突っ切って行くと、ノートの城門前に出た。
アラ、エレガンスな城門ですこと!ノートはお上品な町っぽいですわね。
この冠をかぶった鷲さんは、ノートの紋章なんですかね?これまた、お上品な鷲さんでありますわね。おっほほほほほ(お菓子に浮かれてテンションの高い私)。
とりあえず、町にお邪魔しまっすよ!お上品な門をくぐらせて頂きますよっ!この門をまっすぐ行けば、すぐに、エレガンスで、バロックの割には、なんだか統制のとれているような町並みが現れて来たんですね。とりあえず、バロックは後から鑑賞するので、まっすぐに道を行くんですね。
そうすると、すぐに右手の方に、舞台のようなワイドな階段が広がり、その上にドラマチックに建っているドゥオーモが現れるんですね。ノートって結構小さい町なんでありますよ。そのドゥオーモも後からゆっくり見るとしてですね。このドゥオーモを通り過ぎると、「Caffe Sicilia」があるはずなんですよ。
さあ!Caffe Sicilia!我々が、とうとうやって来ましたよ!
…んっ?
…へっ?
C-H-I-U-S-O…きうぞ…。イタリア語でCHIUSO(キウゾ)は…英語の…CLOSE(クローズ)…クローズって、黒酢に響きが似てるね、イヤ、今、そんなことどうでもいいんだよ…。
し、閉まってるーーー!!!!?
残念ながら、私のダサいイタリア語力でも、ココに書かれているイタリア語を解読できてしまうね!1月13日から3月16日まで閉まってるって書いてあるね!今日は3月12日だね!
…人間は、現実を認めたくない時、とりあえず、認めずに済む方法はないかを(ないとわかっていても)探すものである。姉と私は、とりあえず、この建物の周りをウロウロしてみた。建物の中から、女性が出てきたので、わかっているのに聞いてみた。「…Caffe Siciliaは閉まってるんですか?」。返事は、「そうです。ゴメンナサイね」。ちーん。
3月16日まで休みって…あと4日じゃん…。しかし、4日後はもう、パレルモに移動している。パレルモからわざわざノートまで来いってか?たぶん片道5時間はかかるね。片道5時間ってことは、往復10時間だね。
…イヤ、無理だろ、今回もう一度ノートに来るのは。
……………。
姉と私は顔を見合わせた。姉は言った。「…とりあえず、町をちらっと見て、シラクーサに戻らない?早い時間に帰れば、シラクーサの夕陽を拝めるかもよ」。
そうなんだよー。ノートには、シラクーサの夕陽を諦めるつもりでやってきたんだよー。ちょうど時間は15時半くらいだったのだけど、シラクーサで写真を撮っておいた時刻表を見ると、15分後くらいにはシラクーサに戻るバスがあるはずだ。それで、ドゥオーモとニコラチ通りという、ノートの目玉観光地をちらっとだけ見て、バス停に戻ることにした。いや、バロック建築も好きなんだけどね、テンションが急降下してしまったのだよ。察してくれたまへ。
公園を突っ切ってバス停に戻ると、バス停近くに停まっている車の中から、中年の男性が顔を出して、「バスはさっき行ってしまったよ!」とこちらに声をかけてきた。ええっ?バスの時刻に間に合っているはずなのに、ナゼっ?
…よく考えてみると、シラクーサで撮影してきたバス停の時刻表は違うんだった…。その写真を撮った後に、正しい時刻表を教えてもらったんだったよ…。次のバスは6時くらいまでない。
バスが行ってしまったことを教えてくれた男性は、タクシーの運転手さんだった。「タクシーならシラクーサまで30ユーロだよ」とのこと。イヤイヤ、もうバスに乗れなかったわけだから、こうなったら腹をくくってノート観光するさ。運転手さんの申し出を断って、我々はノートの市街地に戻った。
さー。ノート観光を仕切り直そうかね。この旅行記はテンションが低いが、これは我ながら、同情してもらってもよいのではないかと思う。
えーと、さっき紹介した、エレガンスな城門をくぐって、最初に右手に見えてくるバロック建築がこの建物だね。
こちら、なかなかエレガンスな雰囲気のバロックでしてね、右側の階段の上にある建物が、サン・フランチェスコ・アッリンマコラータ教会。私、最初はこれを見て「あ、ドゥオーモだ」って言っちゃいましたよ。姉に「地図見ろ」と叱られましたけどね。
階段を上って行って、教会の左手に面している建物が、バロックらしくうねっていて、とっても美しいんでありますよ。でもなぜか、この美しい面が、大通り(ヴィットリオ・エマヌエーレ大通り)に面してないんですよ。不思議ですよ。
そうして、この建物を通り過ぎて真っ直ぐ進んでいくと、正真正銘のドゥオーモが現れる。どーんと横に長いドゥオーモさんで、ドゥオーモ前の横長の階段が、まさに舞台って感じ。ノート渓谷のバロック建築の特徴でありますよ。この舞台みたいな階段は。
その中でも、ノートのドゥオーモ前階段は、横長であることもあって、最も舞台みたいに見える。ドゥオーモ自体の造形は、ラグーザとかモディカのドゥオーモの方がカッチョイイけど、階段はノートが一番圧巻である。…この階段に座って、「Caffe Sicilia」のお菓子を食べるつもりだったのによ!
こちらはドゥオーモ自体をもう少しアップにした写真。写真ではわかりづらいかもしれないが、ノートの町の建物は、全体的に黄色っぽい。ノートは、この黄色でこぢんまりとまとまっている小さな町で、シチリアには珍しく、ノーブルな雰囲気の町だ。
階段から背後を振り向くと、ドゥチェツィオ館という、早口言葉みたな建物がある。
ちょっと天気が悪いせいで、色合いがキレイに出ていないが、古代ギリシアっぽい柱がリズミカルに並んで、すっきりとまとまったなかなかハンサムな建物なのだ。今は市庁舎として使われているらしい。ホント、ドゥオーモの階段に座って、この建物を眺めながらお菓子を食べる予定だったのに…(もう諦めなさい!)。
ドゥオーモの中はこんな感じ。やや新しい感じがするが、それもそのはず、ノートのドゥオーモは、1996年の地震で大崩壊し、2007年にようやく修復が終わったばかりなのだそうだ。
そんなわけで、テンションが低いノート散策。いや、ノート自体は美しい町なんだぜ。私の胃袋がさー、めっちゃ落ち込んでるんだよ!テンション上げるための糖分が絶対的に足りないんだよ!