3/16パレルモ旅行記5 門の哀愁とモザイク三昧

パレルモ観光2日目!

パレルモ

イタリアのテレビでは、朝からセーラームーンをやっていた。イタリアで、日本アニメをテレビ放送していることはよくある。よくあるのだが、なぜだか、古いアニメが多い。

今日はパレルモのハイライト、というより、シチリア全体のハイライトである、ノルマン王宮を見に行くよっ!

というか、今日は何が何でも王宮に行かねばならない。というのも、今日は月曜日。月曜日は、王宮のパラティーナ礼拝堂と、ルッジェーロの間がどちらも見学できる日なのだ。

ルッジェーロの間は、今でも議会として使われている部屋と同じ階にあるため、議会のない曜日にしか見学できないのである(2015年3月時点では月、金、土、日曜日)。イタリアでは、歴史的建造物が、今でも公的な施設として使われていることがよくある。日本でいえば、たとえば大阪城で大阪府議会をやっちゃうようなイメージだろうか。

王宮は、パレルモ旧市街の大通りヴィットリオ・エマヌーレ大通りを、ずーっと西の方へ行き、城門を出たところにある。位置としては、旧市街の西端になる。

大通りの終点にあたる城門、ヌォーヴァ門は、何だかスゴかった。

パレルモ

こちらがヌォーヴァ門を、城壁の外側から撮影した写真。車が、次から次へと連なるように、この門をくぐって行く。城門と言えば、町の玄関口で、威厳たっぷりだったり、エレガントだったりすることが多いのだが、この門…。何と物悲しい門なのだ…。

パレルモ

門を頭で支えている4人の男性は、明らかに異民族である。アラブ系、もしかしたら、イタリアでよく、建物の装飾彫刻で見かける「ムーア人(北アフリカ周辺のイスラム教徒)」だろうか。彼らの表情は冴えない。というか、非常に哀愁を帯びている。腰の下に、いくつかある顔も、全て、悲しみ、怒り、諦めなど、ネガティブな表情である。

彼らは、決して、門をくぐる者に対し、「パレルモにようこそ!」なんて、明るく呼びかけていない。むしろ、「本当にこの門をくぐる気かい…?止めはしないが、勧めやしないよ…」という、弱々しい声が聞こえてきそうだ。

パレルモ

門の、トンネルの真ん中頭上には、こんなイヤーな感じの顔がある。嘲り笑っているような、泣いているような、微妙な表情。コイツは、「ハハハっ!この門をくぐろうがくぐるまいが、何もかも同じだよ!人生なんてなるようにしかならねえんだよ!」とでも言っているような顔だ。

それにしても、パレルモ市民は、パレルモという町に入る門に、こんなに諦めと嘲りの空気が漂っていてよいのだろうか。これでは、ダンテの神曲に出てくる、「この門をくぐる物、一切の希望を捨てよ」と書いてある、地獄の入り口にある門みたいじゃないか。

しかし、この門の雰囲気は、パレルモという町に合っているように思う。シチリアの他の地方都市と違って、大都市であるパレルモは、どこか殺伐した雰囲気がある。パレルモの、エキゾチックに装飾された、排気ガスによって黒くすすけて汚れた町並みは、どこか哀愁が漂っている。

ヌォーヴァ門から出ると、左手の方にすぐ、王宮がある。だが、入り口は、ぐるっと回った先にある。

パレルモ

こちらがノルマン王宮の入り口。今では、シチリアの州議会堂として使われている。建物を外から見ただけでは、ただデカイだけで、これがシチリアを代表する観光地とは思えない。モザイク美術の真髄は、インテリアにあるのだよ、インテリアに!

王宮はとても大きいのだが、議会で使われていることもあり、観光入場できるのは、2階にあるパラティーナ礼拝堂と、(議会のない日のみ)ルッジェーロ王の間がある3階部分だけなので、建物の大きさほどは観光には時間がかからないはずだ。

建物は、中庭があり、その中庭を回廊がぐるっと取り囲む作りになっている。まずは2階のパラティーナ礼拝堂へ。ここで、パラティーナ礼拝堂とルッジェーロ王の間の共通券の、パラティーナ礼拝堂の半券を係員がもぎる。もぎられるので、おそらく、ルッジェーロ王の間の見学後に、パラティーナ礼拝堂には戻れないと見た。じっくり見学せねばなるまい。

足を踏み入れると…

パレルモ

おおおおっ!こりゃスゴイ!きんきらきんのモザイクだよ!

モザイクと言えば、ビザンチン美術である。イタリアでは、ビザンチン時代に栄えたラヴェンナが、モザイク装飾の教会が残ることで有名だ。

ラヴェンナのモザイクは、小さな町に、質の高いモザイクが静けさの中美しく輝いている、という感じで、いかにも宗教的なイメージだった。それに対し、ここパラティーナ礼拝堂のモザイクは、いかにも王宮のモザイク、という印象だ。静けさ、敬虔さ、より、スケールの大きさ、きらびやかさに圧倒される。

パレルモ

また、この天井が、何とも不思議な雰囲気だ。木製で、ぼこぼこしていて、幾何学模様が細かく刻まれている。人によっては、「何か気持ち悪い」と思ってしまいそうな、蜂の巣みたいな、非常に変わった形だ。この天井の模様は、ノルマン人の前にパレルモを支配していた、アラブ人の芸術から来たものらしい。

パレルモに数多く残る、アラブ・ノルマン様式と呼ばれる芸術は、ノルマン支配時代に、アラブ芸術と融合して出来た芸術だ。アラブ以前にシチリアを支配していた、ビザンチンの様式(たとえばモザイク)も、ここで融合している。まあいえば、ごっちゃまぜ芸術なのだが、それが、うまい具合にかみ合っている。こんな複雑模様の天井が、きんきらきんのモザイクに不思議に似合っている。

全体としては、スケールが大きくて、華美さに圧倒されるパラティーナ礼拝堂だが、モザイク一つ一つの出来を見てみても、かなり質が高い。モザイクで描かれているのは、聖書のストーリーである。

パレルモ

こちらは創世記の「天地創造」。神が、まず天地を作っている。だが、その地は、カオスだったそうな。ギリシア神話では、世界の始まりにまずカオスが存在しているけど、聖書世界では、カオスも神が造り出したものらしい。このカオス、何だかエネルギーの塊のようだ。波線によって表現されているのが面白い。

パレルモ

神が、カオスから、昼(太陽)と夜(月)を作り出している場面。確かに、カオスから秩序っぽくなりましたな。しかし神はイケメンだね。しかもイエスに似てるね。イエスは神の子なんだから当然か。

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こちらは「楽園追放」。神「お前ら、なぜ恥ずかしがって、葉で身体を隠してるんだね?」。アダム・イヴ(やば…知恵の実食べたのバレた…)。んで、追放~という流れ。追放されている時って、まだアダムもイヴも全裸で描かれることが多いのだが、このモザイクでは、簡単な衣服を身に着けている。色違いペアルック。

パレルモ

とっても楽しそうに、作っているのはバベルの塔。このバベルの塔を作っている人たち、どう見ても、善良でほがらかな市民だよ。神も、こんなに楽しそうに、一生懸命に作ったバベルの塔を、怒らなくてもよさそうなものだが。

まあ、しかし、旧約聖書で、バベルの塔の戒めのストーリーができた時、人間の文明がこんなにも発展して、本当に神の領域にまで手が届きかけている部分も出てくるなんて、昔の人たちは想像もしていなかっただろう。それとも、バベルの塔の話は、将来の我々に向けた、先見の明のある警告なのだろうか。いずれにせよ、バベルの塔のような建物が立ち並ぶ世界に生きる我々現代人にとっては、聖書の信者でなくても、謙虚に受け止めたいエピソードである。

パレルモ

こちらは、ノアの方舟のストーリー。ノアの一族、窓際に座りすぎ。

パレルモ

パレルモ

場面変わって、新約聖書の、受胎告知のエピソード。アーチの左に、受胎を告げる大天使ガブリエル、右に聖母マリアを配するのは、モザイク美術ではよく見る配置だ。聖母マリアの出来が、非常に素晴らしかった。品位と、静かな覚悟が感じられるし、何より美人だ。

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こちらは、囚われたペテロを、監視の兵を眠らせて、天使が脱獄させるエピソード。シチリアで見たモザイク美術は、ペテロと、パウロの生涯を、大々的に描いていることがよくあった。

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それにしても、きんきらきんで、神々しい世界だ。人間が宝石を好むのは、自分たちが持てない永遠性への憧れなのだろうか。それとも、光に対する本能的な安心感なのだろうか。

パラティーナ礼拝堂は、床や、低い位置には、ビザンチン・モザイクではなく、ノルマン風モザイクも見ることが出来る。

パレルモ

こちらがノルマン風モザイク。アラブの幾何学芸術と、ビザンチンのモザイクを、見事に融合させている。きんきらきんで、聖書世界を描くビザンチン・モザイクと比べ、素朴でかわいらしい。どことなく、日本の千代紙とかの模様にも、少しだけだが似ている気がする。

ここパラティーナ礼拝堂は、シチリアを代表する観光地だけあって、シーズンオフの3月と言えども、結構混雑していた。そして、修学旅行生が多かった!

イタリアの小学生だと思われるグループは、観光に飽き飽きしていて(小学生に、歴史的建造物を味わえと言ったって難しいのだ)、東洋人をあまり見たことがないのか、我々に興味津々で、日本語でチャオ(こんにちは)は何と言うのか、グラツィエ(ありがとう)は何というのか、と、取り囲まれてしまった。そりゃ、そうよねえ。小学生に、アラブとビザンチンの奇跡の融合!とか言ったって、ソレがどーした、だよなあ。

パラティーナ礼拝堂を見た後は、3階に上がった。3階は、ガイド付き見学になると書いてあるガイドブックもある。3階に上ると、閉まった状態の透明の扉があり、その内側に座っている係員が、観光客が上がってくると、内部ロックを解除して中に入れるシステムになっていた。だが、それだけのことで、ガイドとして見学については来なかった。

3階部分は、議会堂なども見学できるが、何と言ってもお目当ては、ルッジェーロ王の間のモザイクだ。

パレルモ

パレルモ

パレルモ

いかにも南国シチリアって感じのヤシの木に、野生の動物たちのモザイク。あら、ルッジェーロ王って、動物好きだったのね、と思いきや、狩りの場面を描いたモザイクもある。

 

2階のパラティーナ礼拝堂の、荘厳なキリスト教一色のモザイクと比べ、出来や保存状態は劣るかもしれないが、いかにも王様の趣味って感じで作られた、素朴でいきいきとした作品だ。宗教に縛られていない、のびのびとした作風で、見ていて楽しくなるモザイクだ。

ちなみに、このルッジェーロ王の間は、部屋そのものに入ることはできなかった。入り口に柵があり、そこから、内部をのぞく感じなのだが、モザイク自体はそこそこ間近で見られるので問題はない。だが、入り口は大きくないので、後ろに次の観光客が待っているため、長居はしづらい。夏はもっと混雑するんだろうなあ。

ルッジェーロ王の間のモザイクは、結構気に入ったので、ダラダラ見ていたかったのだが、上記のように、あまり長い時間は見ていられなかったので、王宮を出ることにした。

なぜだか、王宮の外に出るときにも、チケットの提示を求められたので、チケットは最後まで捨てない方がいい。出ていく人間も、ちゃんと観光客かどうかチェックするなんて、結構議会の警備って厳しいのねえ。

そんなわけで、荘厳モザイクと、癒し系動物モザイクで、ノルマン王宮は実に楽しかった!ぜひぜひ、3階も見学できる日に、王宮に行くべしである!