3/20パレルモからアグリジェントへ 古代ギリシアへの厳しい道のり
実は、シチリア旅行記は、オゴソカに終わりに近づきつつある。
今日、今回訪問する、最後の町アグリジェントに向けて、パレルモから旅立つ予定だ。
アグリジェントは、シチリアツアーなどでも、必ず組み込まれる、壮大なギリシア神殿遺跡が残る町である。私も、まだ、ほやほやのイタリアビギナーだった頃、イタリアのガイドブックをパラパラめくりながら、「何、この町?行きたい!どこにあるの?シチリア島?無理じゃん!!!(この頃は、無性にマフィアを恐れていた)」と思った、蒼い記憶がある。
そのアグリジェントは、パレルモから2時間という、微妙な位置にある。何が微妙かというと、パレルモから日帰りするかどうか、猛烈に悩む距離なのだ。
我々の、日帰り遠足の限度は、片道1時間半くらいを目安にしている。片道2時間以上かかってしまうと、往復の移動だけで4時間取られてしまう。一日は24時間だから、その6分の1以上を移動に費やしてしまうことになるのだよ!その時間のロスを考えると、スーツケースを持って移動する大儀さの方がまだマシなんじゃないかと思うのだ。
でもなあ…。アグリジェント周辺には空港がないので、日本に帰るためには(帰らないという選択肢は今のところ無い。腐った豆が食べたいから)、どうせまたパレルモに戻らなければならない。
この無駄な移動を回避するためには、カターニア(空港有)→シラクーサ→モーディカ→アグリジェント→パレルモ(空港有)という旅程にすればよい。地図上で見ても、モーディカとアグリジェントの直線距離は、モーディカやシラクーサからパレルモに移動するよりは、ずっと近いのだ。
↑左下の変な絵は、シチリアのシンボル、三本足の「トリナクリア」。
しかし、直線距離で物事が進まないのがイタリア、殊にシチリアである。シチリアのバスや鉄道の交通網は、はっきり言って、ダメぽである。少なくとも、旅行者の利便性を考慮した形跡は、皆無に近い。「近い」と言ってるのは、かろうじて、シラクーサとパレルモを、最短距離で結んでいることだけ評価できるからである。
私は、モーディカ、それがダメなら近隣のラグーザから、アグリジェントに直通するバスの存在を、日本で旅行の計画をしている時に、探し回った。しかし、そのような存在は、確認できなかった。Gelaという海辺の町で、乗り換えていく方法がありそうだったのだが、ほとんど本数もなく、乗り継ぎ時間まで含めると、5~6 時間かかりそうだった。……却下。
ならばどうだい、シラクーサからアグリジェントに直通するバスならいるんじゃないか?モーディカとシラクーサの日程を入れ替えるのは、たやすいことだしさ。シチリア島の四大観光地と言えば、シラクーサ、タオルミーナ、パレルモ、アグリジェントだぜよ?四天王が、バスでそれぞれ繋がってなくてどうするべよ?
そう予測した私は、私の全てを動員して、フルパワーでシラクーサとアグリジェントを結ぶ公共交通機関を探した。
…見つからなかった。どう頑張っても、シラクーサやモーディカからアグリジェントに行くには、いったんカターニアまで戻るか、パレルモまで行き、カターニアかパレルモからアグリジェントを目指すのが、一番早い行き方だった。
もうね、見つからなかったんだから、しょうがないわけよ!何で、シラクーサやモーディカのような、シチリア東南部にある町から、西南部にあるアグリジェントに行くのに、いちいち、カターニアやパレルモを目指して北上しなきゃならないのか、全くわかりませんけどね!きっと、エネルギーの流れ的に、そういう風に流れなければいけないんでしょうね!
(レンタカーかタクシーで行けよとお思いになるかもしれないが、私が、車の免許や、長距離タクシーに乗るだけの財力を持っているとお考えの方は、私の素人である。)
つーわけで。アグリジェントからは、大人しくパレルモから行くことになった。で、どうせ、空港まで行くために、また、アグリジェントからパレルモに戻ってこなければならない。もう、壮大なるムダな移動である。いいんだ。人生は尊いんだ、ムダな時間なんてあるはずないさ…(それがあるんだな)。
ここで、賢明なる旅人ならば、そのムダな移動のキズを浅くすませるために、アグリジェントはパレルモから日帰りにすることだろう。往復4時間の移動は痛いが、それでも、どうせパレルモに帰ってこなきゃならないなら、荷物をパレルモのホテルに置いて、その日のうちに戻ってきた方がよい。
しかし、我々は鈍足な旅人だ。日帰り(往復4時間)で、広大なるアグリジェントの神殿の谷を堪能できるだろうか。しかも、我々はギリシア神殿フェチなのだ。
しかもしかも、アグリジェントの神殿の谷は、パレルモからの長距離バスが到着するバスターミナルから、さらに路線バスに乗って行かなければならない。そう考えると、往復4時間ではなく、少なめに見積もっても往復5時間は取られるだろう。
しかもしかもしかも。アグリジェントには、神殿の谷以外に、必見の博物館がある。この博物館が、神殿の谷からは離れた場所にある。
…どー考えても、日帰りは無理だッ……!
つーわけで、アグリジェントには泊まりで行くよ!泊まりで!あー、そう決めてしまえば楽しいね、アグリジェントに泊まりだよ!
またパレルモに戻ってこなきゃなんねえけどさ、どうせパレルモ空港に行くバスは、パレルモ観光中に滞在する旧市街からは出ないんだよ。鉄道駅か新市街のポリテアーマ広場からなんだよ。そしたらさ、アグリジェントからパレルモ駅に戻ってきて、そのまま空港行きのバスに乗り換えればいいじゃないのよ。
…しかし、ここで、一つの不安が我々をよぎった。万が一、日本に帰国する日に、バスとか鉄道のストに出くわしてしまって、アグリジェントからパレルモへの移動方法が見つからなくなったらどうしよう…。この不安が、しょうもない杞憂でないことは、イタリア旅行の基礎知識をお持ちの方なら、わかってくれますよねっ?
そういうわけで!アグリジェントに1泊し、次の日(帰国の一日前)の午前中までアグリジェントを観光し、午後には、アグリジェントからパレルモに戻る。最後の一泊は、空港バスの出るポリテアーマ広場近くに泊まる。そいで、その翌日の帰国日に、悠々とパレルモ空港を目指す。これでいいっすよね?これでヌカリないっすよね!?
あー。疲れた。本当に、今回の旅行は、旅程を立てるのに疲れた。最初の最初は、19泊で、シチリアをほぼ一周する予定だったのだが、旅程が詰まりすぎてると感じ、トラーパニやマザーラ・デル・ヴァッロなどの西海岸は、今回泣く泣く旅程から外した。それでも実際には、ものすごく忙しい旅程に感じたので、西海岸は、今回外して正解だった。また、いつかきっと行くから…!
さて。パレルモからアグリジェントに行くには、バスと鉄道、2通りある。どちらも約2時間程度。バスと鉄道、どちらがおすすめかは、実際にパレルモ-アグリジェント間を利用した方々のブログなどを読むと、実に五分五分であった。
シチリアの鉄道は、単線のため、遅れやすいとよく言われる。この遅れさえなければ、2時間の旅なら、バスより電車の方が断然楽だろう。なので、電車の遅延に遭遇しなかった人は、電車の方を勧めているし、遅延に不運にも遭遇してしまった人は、バスの方が確実だと勧めている。
ここで我々の頭をよぎったのは、昨日、パレルモ鉄道駅で追い回されたストーカー男である。もしかしたら、鉄道駅まで行くと、またあの男に見つかってしまうかもしれない。そこで、今回は、バスを使っていくことにした。
パレルモから、他の町へ行く長距離バス、イタリア語で「Pullman(プルマン)」の乗り場は、ひっじょーに、非常にわかりにくい。鉄道駅の周辺に、何と3か所もあるのだ。
1.バスターミナルと呼ばれる乗り場。ここから発着するバスが一番多い。カターニア、シラクーサなどからのバスは、ここから。
2.バスターミナルから旧市街方向(北方向)へやや歩き、ちょっと右折したところにある、Via Balsamoという通りのバス停。ここからはアグリジェント行きと、セジェスタ行きなどが出る。
3.鉄道駅の大きな出口を出て、ロータリーを渡り、やや西寄りの方にある乗り場。ここからはモンレアーレ行きのAST社のバスが出ている。
さらに、市内バスや、空港バスは、駅の左右や正面から出ている。…こんなの、わ・か・る・かッ!こんな調子なので、バス会社の人も、どこから何が出るか、イマイチ把握していない有様なのである。パレルモから、あまりメジャーでない町に行きたい場合は、複数の観光インフォメーションで確認して、多数意見から信じていったほうがよいかもしれぬ。
我々は今回アグリジェント行きだからね。アグリジェント行きは、Via Balsamoから出ると言う、有名な噂があるから大丈夫なんだよ。
アグリジェント行きのバスは、Via Balsamoのこのバールの前から出る。ギリシア神殿に、一秒でも早くお会いしたい我々は、何と朝7時半過ぎには、このバール前までやってきた。やればできるは旅人の合言葉(某校歌のパクリ)。
このバールで、バス切符が購入できるという話もあったので、バールの中に入って聞いてみると、アグリジェント行きのバスはCuffaro社と、F.lli Camilleri Argento & Lattuca S.r.l.社(な、長すぎる…)の、2社が運行しているらしい。親切に、小さな時刻表もくれた。次のバスは、8時ちょうどの、Cuffaro社だった。
で、Cuffaro社の切符は、車内で購入するように言われた。おそらく、F.lli Camilleri Argento & Lattuca S.r.l.社(本当に長っ…)の方は、バールで販売しているものと思われる。
こちらがCuffaro社のバス。AGRIGENTO行きと書いてある。
車内に乗り込むときに、運転手さんから切符を購入し、片道9ユーロ。スーツケースは持ち込めず、下の荷物入れに入れる。バスはどんどん混んで行って、出発時にはほぼ満員になっていた。観光客もいたが、普通に仕事か何かの移動で、利用している地元の人たちも多かった。
バスの窓から見えた風力発電。本日は天気に恵まれそうだ。
シチリアは、鉄道網よりバス網の方が発達しているため、シチリア旅行中は、本当によくバスに乗った。バス旅が不得意な私だが、ここまで、音楽を聞いたり、身体を締め付けない恰好をしたりと、何とかして乗り切ってきた。
このアグリジェントまでの道筋も、途中までは音楽を聴いたりなどして、リラックスして過ごしていた。しかし、アルバムを2枚ほど聞き終わった後に気付いた。「アルバム2枚も聴いたんだから一時間半くらいは走ってるはずなのに、途中休憩が来ない…」。
ふと、窓の外を見ると、アグリジェントまでは、まだあと数十キロの表示になっている。ええっ?単純に時速計算しても、あと1時間くらいはかかるんじゃない?
イヤホンを耳から外して、道路の様子を見てみると、異様に道路が混んでいる…。最初は事故でもあったのかと思ったが、どうやら、工事中で、片道通行になっている場所があり、そのため混雑が生まれているらしい。スイスイ走るはずの高速道路なのに、混雑のせいで、車間が狭く、そのため何度もブレーキをかけて停まるため、だんだん車酔いしてきた。
2時間を過ぎたあたりで、ようやくバスは、ガソリンスタンドのような場所で停車した。が、運転手もお客さんも誰も降りないので、最初は休憩だと思わなかった。一人、女性のお客さんが運転手に確認して、降りていき、彼女が行く先にWCの表示があったのでトイレ休憩だとようやくわかった。
休憩であれば、外に降りたいので、運転手さんに「何分停まりますか?」と聞いてみると、「すぐ出発するよ」とのお答えだった。そこで、姉だけトイレ休憩に降りて、私は車内に残った。何となく、誰も降りていない満員のバスで、貴重品は置いていかないけど、少し荷物を置いて、二人とも降りるのは不安な気がしたのだ。
先程の女性のお客さんと、姉が戻ってくると、バスはすぐに出発した。あー、やっぱり、私もトイレに行っとけばよかったかなーなんて考えると、不思議にトイレに行きたい気分になってしまう。(ちなみに、姉によると、ココのトイレは使えるレベルの清潔さだったらしい)
休憩から30分ほどで、ようやくバスはアグリジェントに到着した。2時間半くらいかかっていた。何となくバス酔いしたり、トイレのことが気になったりと、久しぶりにイタリアのバス旅で参ってしまった。事故じゃなくて、工事が混雑の原因なら、帰りも混雑するだろうから、帰りは電車を使った方がよさそうだな…。
こちらがアグリジェントのバスターミナル。神殿の谷へ行く路線バスも、このバスターミナルから出る。
さあ。気を取り直して、予約してあるB&Bに荷物を置きに行こう。アグリジェントのバスターミナルは、ギリシア遺跡が広がる神殿の谷の、上の方に広がる、市街地にある。ホテルやレストランも市街地の方が多いので、神殿の谷の方ではなく、市街地の方に宿を取った。
予約してあるB&Bが、バスターミナルからやや遠いのは承知の上だった。しかし、歩けないような距離ではないし、まあ、大丈夫だろうと思っていたのだが、アグリジェントの市街地は、思った以上に坂道が多い!
天気もよいせいで暑くなってきて、スーツケースを引っ張りながら、バス酔い明けで坂を上るのはしんどかった。あまり良い天気に恵まれなかった今回のシチリア旅行なのだが、こういう時だけ太陽が照りつけるのだ。太陽は私のことキライなんだ…(バス酔いもあり、ネガティブになっている私。ぶっちゃけ、太陽は、私のような小さき存在など認識もしてないだろう)。
そして、ようやくB&Bに着いたら、B&Bのオーナーが不在だし!!!掃除のおばちゃんがいたけど、オーナーはおばちゃんに何にも言ってないから、おばちゃんにはただただ不審の目で見られるし!だいたいの到着時刻も教えておいたのにっ!
一秒でも早く神殿の谷に行きたい姉はイライラし始めていたが、バス酔いを醒ましたかった私は、待合室のソファでゆっくり休んだ。まあ、今日は宿泊するわけだし、そう焦らなくても、神殿の谷でゆっくりできるだろう(実際ゆっくりしすぎたのだが、その話はまた今度…)。
おばちゃんがオーナーに連絡してくれたが、オーナーがやってきたのは30分後くらいだった。まあ、イタリアの個人経営のB&Bではよくあることだ。
オーナーが事務所のカギを開けると、猫ちゃんが2匹飛び出してきた!猫っ!姉も私も猫ラブなのは、よくこの旅行記で書いている通りである。
猫ちゃんのうちの一人。人懐こくて、よく動くので、撮影に苦労した。猫の撮影って本当ムズカシイ。岩合さんはマジ偉大である(猫を撮る有名な写真家さんだよ)。
このオーナーは、遅れてくることからわかるように、マイペース…まあ、イタリアではよくある、自分のやりたいことは何が何でもやる人…で、アグリジェントの説明をしながら途中でピアノを弾いて歌い出したり、壁の家族の写真の説明を始めたり…。我々は早いとこ神殿の谷に行ってしまいたいんだがね!
しかし、個人経営の宿に泊まると、何かあったときにそこのオーナーに頼ることになるので、ある程度オーナーと良好な関係を築くのは必要なのである。こんなふうに、大人になって行くって、さみしいことよね(誰に言ってるのアンタ)。
が、この時、姉がしびれを切らして「もうその話はいいから!」と話を制するのを、ギリギリで踏み止まったのは、後になってみると、ガマンした甲斐があったのである(これもまた後の話)。
バリバリバリバリッ!…その時、響き渡ったのは、まだ部屋に入れずに待合室に置いていた、私の布製のスーツケースで、2匹の猫ちゃんが爪とぎをしている音であった。ホラ、私は猫好きだからさ、オーナーに、「ノープロブレム、ビコーズアイラブキャッツ!」と微笑んで見せた。が、これも後になってみると、本当によかったのよね…(後でちゃんと話すから!)。