3/20アグリジェント旅行記2 大いなる自然の中に建つ
神殿の谷。前回は、ごろろんぽ(テラモーネの異名。というか、私が勝手につけた)まで来たね!
順番で行けば、次はヘラクレス神殿である。だが…
ちらっ、ちらっと、神殿の谷で、最も保存状態の良いコンコルディア神殿が、ちら見作戦で、我々を誘惑しているのである。
この誘惑に見事に引っかかった我々は、ヘラクレス神殿を後回しにして、先にコンコルディア神殿へ向かうことにした。そもそも、私はそんなにヘラクレスのファンじゃないんだ。ヘラクレスは、あまりにワイルドすぎる。
同じ理由で、オリオンもダメである。じゃ、ギリシア神話の英雄で、誰が好きなのかというと、ペルセウスですよ、ペルセウス。ペガサスにまたがる姿なんか、めっちゃイケメンじゃないですか。アンドロメダ姫を救うのも素敵なエピソードだし。キレイめ男性がもてはやされる時代には、ヘラクレスやオリオンのような猛獣系は、後塵を拝することになるのである。
コンコルディア神殿に向かう途中で、昔はそこからも出入りできたという、ヘラクレス神殿近くの入り口があり、係員と、おそらくその数倍以上のヒマオヤジがたむろっていた。
尋ねてみると、やはり、現在はこの入り口からは出入りできないらしい。そういえば、閉園時間を確認していなかったので、聞いてみると、なぜか係員さんは、両手全ての指を広げて「オット!(イタリア語で8時)」と叫んだ。なぜ両手を広げるのだ?イタリア語がわからない姉は、おかげで5時と勘違いしていたよ。
ちなみに、この閉園時間、間違ってたけどね。イタリアではそんなこともありがちなのに、旅も終盤になると、ついつい我々も、こういう面(イタリアを鵜呑みにしないという原則)が、たるんでしまうのだ。この閉園時間を信じてしまって、ちょっと夕方に焦ることになるんだよ。
そして、コンコルディア神殿っ!ヤダコレ、カッコイイっ!!!
なんとまあ、男前な姿であることよ!ギリシア神殿の端正さと力強さに圧倒されるよ!
ちなみに、コンコルディアとは何ぞや?と言うと、ローマ神話の「調和の女神」で、ギリシア神話のハルモニアと同一視される女神である。ハルモニアって、英語のハーモニーの語源かしら?
だが、この神殿が、女神コンコルディアに捧げられたものかどうかは、ほとんど確証はなく、地球の歩き方によると、単に、この神殿の近くで、コンコルディアと書かれた断片が見つかったから、そう呼ばれているだけなのだそうだ。
この神殿は、双子神ディオスクロイ(カストールとポルックス)に捧げられたものという説もあるらしい。そういえば、入り口最初で見た、一部だけが残っている神殿も、ディオスクロイ神殿と呼ばれていたな。アグリジェントでは、双子神の信仰が篤かったのであろうか。
ディオスクロイ神殿あたりは、ほとんど人がいなかったが、アグリジェントで最も保存状態のよい、このコンコルディア神殿周辺は、観光客が大勢いた。団体客が多かったので、ツアーで神殿の谷を周る人たちは、メインの見所だけ、ピックアップして周るのかもしれない。何せ神殿の谷は広いからなー。
コンコルディア神殿周辺には、日本人のグループもいたが、とにかく多かったのは、ドイツ人のツアー客である。アグリジェントに限らず、我々が出会ったシチリア島の観光客は、大げさでなく、7割程度がドイツ人だったと思う。ドイツ人はシチリアがお好き。
コンコルディア神殿の側面を、とことこ歩いてみた。結構、長い。大きい。カッコイイっ!
ここアグリジェントで見るギリシア神殿は、パエストゥムで見たギリシア神殿や、ギリシャのアテネで見たパルテノン神殿などと比べて、色が黄色がかっている。これは、使っている石の違いだそうだ。
パエストゥムやアテネの神殿の、白い美しさが、時を超えても変わらない美しさを表しているように見えるのに比べて、この、ちょっと色褪せたような黄色は、逆に、何千年も生き延びてきた、悠久の時を感じさせる、どことなく懐かしいような物悲しいような印象を受ける。
アグリジェントの神殿は、当時は、この上からカラフルに彩色されていたらしい。そういえば、クレタ島のクノッソス宮殿跡なども、当時の再現とかいって、彩色されているのを画像で見たことがある。
我々にとって、遺跡として残っている古代ギリシア神殿は、白、ないしはくすんだベージュ色で、純粋な美しさや、哀愁の美しさなどを感じさせるものであるが、カラフルに彩色されていたというなら、当時の印象は、ずいぶん違ったものだったのかもしれない。
その色彩まで現在に残っていれば、ギリシア神殿をイメージして作った、後世の建造物なども、だいぶ違うものになっていただろう。アメリカのホワイトハウスだって、ホワイトじゃないかもしれないのだ。
南イタリアに残っている古代ギリシア神殿のほとんどは、ドーリア式で、どっしりとしていて力強い。ドーリア式神殿は、装飾のほとんどない、シンプルな柱が特徴である。
こちらは、コンコルディア神殿の、反対側。あちら側(西側)が正面なのかどうかはわからないが、なぜだか観光客は、西側の方に多くいた。たまたま、この時間帯は、この反対側の東側の方は逆光だったこともあり、西側の方がベストショットであった。
その東側には、いきなり、デカイ全裸の男が転がっていた。誰よ?と思ったら、何とイカロスだそうだ。そう、「むーかーしギリシャ―のイカロースはー」で歌われる、友達の少ないイカロスである。アンパンマンの方が一人友達が多い。
このイカロス、もちろん古代彫刻ではなく、現代アートである。現代アートに手厳しい姉は、「こういうのを見るとね、つけあがるんだよ!」と、イカロスに一瞥もしなかった。いったい誰がつけあがると言うのか。イカロスか。
ちなみに、もちろん、イカロスがアグリジェントに落下したという神話があるわけではない。イカロスが落ちたと言われているのは、エーゲ海の、イカロスにちなんだ名を持つイカリア島付近である。つまり、ギリシア神殿の雰囲気を盛り上げるために、ちょっとギリシア神話の有名人転がしてみました!みたいな感じだね。
このコンコルディア神殿からは、舗装された道を、ずーっと東へ向けて歩いていく。この先には、ヘラ神殿がある。
コンコルディア神殿と、ヘラ神殿の間にカフェがあり、トイレもあった。ここのトイレは、冬場で観光客が少なかったためか、まあまあキレイであった。トイレ大事。
我々を歓迎してくれるように(大いなる自意識過剰)、咲いているアーモンドの花。以前、「イタリアの桜って、背丈がちっちゃ!」と思っていたが、おそらく、桜ではなくて、アーモンドだったのだ。桜を他の花と見間違えるなんて、私はモグリの日本人だと思われても仕方あるまい。
ヘラ神殿は、こういう、何とも粋な演出の、階段の先の方へ見えてくる。神社でも教会でも、こういう、階段を上った先に見えてくる聖地ってのは、何とも雰囲気が良い。これは、人間が、聖なるものは、高い場所にある、と考える傾向があるからなのだろう。
階段には、アーモンドの花びらが落ちている。薄桃色の貝殻のようだ。
そして、ヘラ神殿!コンコルディア神殿ほど、保存はよくないが、半分崩れた感じが、何とも雰囲気を醸し出している。
このヘラ神殿の特別さというものは、何と言っても、そのロケーションにある。階段を上ることからもわかるように、このヘラ神殿は、神殿の谷の中では、高い位置にあるのだ。そのため、神殿の谷全体や、アグリジェント広域を見渡すことが出来る。
右上、遥か遠くに見えているのが、アグリジェントの新市街だ。
コンコルディア神殿も、壮大な自然の中に佇んでいる姿で、拝むことができる。コンコルディア神殿の、左側が、下方に傾斜しているのがわかると思うが、神殿の谷は、神殿の右手の方にある市街地より低い位置にあるが、その南には、さらに低い土地がある。そして、その先には海、海の先にはアフリカ大陸である。
いやー、実に壮大な景色だ。写真では、なかなか伝えられない、ちょっと感動を覚えるような風景である。南イタリア・カンパーニア州のパエストゥムの方が、ギリシア神殿の保存状態が良いのに、どうしてアグリジェントの方が観光地としては有名なんだろう、と思っていたが、荒々しい自然風景が、人工物である神殿と見事に調和している、この景色が特別なのだ。
ヘラ神殿の、西側に回ると、逆光でまぶしかった。しかし、逆光の中、崩れかけた神殿が浮かび上がり、神秘的な姿に見えた。ここでも、ドイツ人観光客のグループが、熱心にガイドさんの説明に耳を傾けていた。ドイツ人はシチリアが好きすぎる。
真ん中あたりが、赤茶けた色になっているのがわかるだろうか。これは、カルタゴ軍が火をつけて、焼けた後なんだとか。
このヘラ神殿も、実際にヘラ(ゼウスの妻で、家事の女神)に捧げたものかどうかはわかっていないらしい。それでも、ヘラと言われると、何となく女性的な雰囲気に見えてくるから不思議である。
ヘラ神殿から先は、ヘレニズム期・ローマ期地区と呼ばれる区画がある。そこまで行ってみたい気もあったのだが、ヘラクレス神殿をすっ飛ばしてしまって来ているので、ヘラクレス神殿まで戻ることにした。その後、結局、ヘレニズム期地区までは行けなかった。また、いつかアグリジェントに出直した時には、行ってみたいなあ…。