アテネ旅行記11 思わず兵隊さん

さて。ここまで、長々とご紹介してきた、アテネ・国立考古学博物館。

閉館時間も近づいてきたので、もう帰ろうかとした時に、姉が「『フルートを吹く人物像』を、そう言えば見てないね」と言い出した。地球の歩き方にも紹介されている、宇宙人みたいなかわいい像である。

もう閉館まで、あんまり時間もなく、係員さんに聞いてみた。すると、「その像がある部屋は、今日は閉まっているけど、遠目であれば、その像は見れますよ」と言って、あの黄金のマスクがあった部屋の、右手に見えている、ロープが張ってあって中に入れない部屋を指さした。

近づいて見ると、いたー!

アテネ 国立考古学博物館

右側が、地球の歩き方に載っているもの。左側は、それと似た、座ったバージョン。かわいいーーー!

エーゲ海の中でも、観光に人気の島々が集まる、キクラデス諸島から出土したものらしく、フルートのような楽器を演奏している。紀元前2500年前後のものだと推定されているらしいが、音楽の歴史って古いのねー。

おもしろいのは、この像が「宇宙人みたい」だなんて言われること。…ほとんどの人は宇宙人って見たことないと思うんだけど、何で、こういう、人間の形に似ているけど、どこか違ってユーモラスって感じのフォルムが、宇宙人っぽいと思われるのだろうか。

我々が、ロープ越しにこの像を見た後、立ち去ろうとすると、イタリア人(イタリア語で独り言を言っていたのでわかった)のおばあさんが、この像が載ったページを開いたガイドブックを持ちながら、明らかにこの像を探してウロウロしていたので、イタリア語で「もし、この像をお探しなら、ここから見えますよ」と教えてあげた。

おばあさんは、大喜びして、連れのおじいさんも呼んで、私に「グラーツィエ(イタリア語で『ありがとう』)」と言ったため、「プレーゴ(イタリア語で『どういたしまして』)」と答えると、ここで初めて私が東洋人であるのに、彼女の母国語のイタリア語で話していたことにハッと気づいたらしく、驚いたように、「メルシィ…!」と言い直した。

…メルシーってフランス語だよね?なぜわざわざ言い直した…?私がフランス人に見えたのか?いや、それはあり得ぬ。(ちなみに私のイタリア語は、アンタ5回もイタリアに行っててそのレヴェル?ってレヴェルだよ)

アテネ 国立考古学博物館

フルートを吹く宇宙人もどきの近くに展示されていた、小さな発掘品。フルートの後に見ると、これはヴァイオリン?と思ってしまう。確かにこれはヴァイオリン型石偶とか呼ばれるらしいが、実はヴァイオリンではなく、胸のふくらみ、しぼられたウェスト、などから女性を表したものなのだそうだ。うーん、言われないと、女性には見えないなあ。

古代ギリシャでは、ギリシャ神話が普及する前は、地母神みたいな女神が信仰されていたらしいが、その一端と言えるのだろうか。そういう土地と密着してしていた、原始の女神様たちが、ギリシャ神話の女神たちに変化していったと言われている。

ゆっくりゆっくり楽しんだ国立考古学博物館だったが、閉館時間となり、出なければならない時間となった。外に出ると、雨は小降りになっていた。

雨は小降りとはいえ、帰りも、悪名を観光客に轟かせているオモニア広場をスキップするために、地下鉄でモナスティラキ駅まで戻ることにした。歩いて10分くらいの距離を、地下鉄に乗る、リッチな我々!と言いたいところだが、リッチなわけではなく、単に憶病なだけである。

モナスティラキ駅に着くと、母が、「この近くに、すっごいケーキが美味しそうなカフェがあったよねえ」と言う。うん。このあたりを通ったときに、テラス席で皆さんが食べていらっしゃるケーキが、美味しそうに見えて、三人で、じーっと見てしまったカフェがあったね。博物館を歩き回った後だしね。休憩するにはちょうどいいね。おあつらえだね。

CIMG5885_convert_20140704014038.jpg

エムルー通りの突き当りにある、カプニカレア教会のすぐ南側にある、「COOKIE LAND」という名前のカフェである。

前に、このカフェの前を通ったときは、テラス席がほぼ埋まっていたが、この日は雨が降っているためなのか、そもそもアテネの市街地そのものの人出が驚くほど少なく、ほとんど貸し切りのような状態であった。優しそうなお兄さんと言う感じのウェイターさんが出てきて、我々はコーヒーとケーキを注文した。

アテネ

手前のホイップクリームたっぷりのケーキが、前、このカフェの前を通った際、他のお客さんが食べているのを見て、母と姉が、「アレが食べたいっ!」と言い放ったケーキである。奥の緑色のケーキは、ピスタチオペーストであった。

ギリシャの伝統的な甘いお菓子は、どうも甘すぎたり、口触りがイマイチだったりで、我々の舌に合わなかったのだが、このお店で食べた、日本のケーキ屋さんと、ほぼ同じようなフランス系のケーキは、非常に美味しかった。ギリシャ人も、伝統的なあの甘ーいお菓子ばかりを食べているわけではないのね。

ケーキを食べているうちに、雨はかなり激しくなってきて、我々は、このお店での長時間の雨宿りを余儀なくされた。「COOKIE LAND」というお店の名前のためか(?)、オーダーしていないクッキーのサービスも出てきて、他にお客さんもほとんどいなく、ゆっくり雨が上がるのを待つことができた。

アテネ

…とは言っても、他にやることもなく、ぼーっと、目の前のカプニカレア教会を眺めるだけだよ。

ぼーっと教会を眺めていると、ひげむじゃらのおじさんが入ってきて、我々に向かって、英語で何やら話しかけてきたが、ギリシャ語なまりっぽかったから(私の英語力がダサイから)、聞き取ることができなかった上に、よろしくない人っていう雰囲気を醸し出していたおじさんだったので、「ノーノーノー」と何度も返すと、諦めて出ていった。

雨はなかなか止まなかったので、完全に止むまで待つのは諦めて、小降りになったところでカフェを出た。お会計は、ケーキ2つに、コーヒー3つで15ユーロ弱。「COOKIE CAFE」は、日本のカフェに比べると安いし、味もなかなか良いし、立地も良いし、なかなかおすすめできるカフェであった。

さて。何気にアテネで苦労したのは、スーパーマーケットが少ない事であった。まだまだ我々がアテネ素人だから、無知なだけかもしれないのだが、品揃えがしっかりとしている中心部の大型スーパーは、国会議事堂の先の方にある、「カルフール・マリノプロス」というお店しか見つけられなかった。この日も、このスーパーに立ち寄ってから、ホテルに帰った。

スーパーから出て歩いていると、目の前を、奇妙な3人組が歩いているよっ!

アテネ

こっ、これは…アテネ名物の、「無名戦士の墓」を守る兵隊さんでわっ?姉に「ねえ、兵隊さん…」と言うと、「ウン、間違いないよ!彼らは、間違いなく無名戦士の墓に向かって歩いている!」。

この兵隊さんに関しては、我々は「まあ、見れればいいや」くらいの気持ちだったのだが、イキナリ心の準備もなく目の前を歩かれては、ガゼン兵隊さんたちに対する興味が沸いてきた。我々は、怪しまれない程度の距離感を保ちながら、兵隊さんたちを尾行した。

アテネ

歩道の真ん中の、白線が引かれた間の部分を、兵隊さんは歩く決まりになっているのだろうか。ちなみに、左側にいる、カーキ色の服を着ている人は、たぶん護衛というか誘導している軍人さん。

アテネ

縦一列になったり、横一列になったり、ただ歩くだけでも、いろんな決まり事があるのである。

アテネ

国会議事堂前まで来ると、既に、兵隊さんたち目当ての観光客が集まっていたので、ちょっと便乗して、近づいて撮影してみた。とにかく衣装がかわいい。こんな恰好が戦闘に向いているはずもないので、むしろこの、伝統的な衣装は、儀式的な意味で身に着けている、というところだろう。

アテネ

特に靴のボンボンがかわいらしいっ!

アテネ

国会議事堂前では、白いタイルの上を歩くように決まっているらしい。…しかし、雨で濡れたタイルの上を、ボンボンのついた靴で歩くのは、なかなか難しいらしく、最後尾の兵隊さんは、うっかりツルッと足を滑らせてしまった…!

一瞬、いたたまれないことが起きるのではないかと、心がドキッとしたが、兵隊さんは、かろうじて持ちこたえ、足が滑っただけでコトは済んだ。ヨカッタヨカッタ…。

アテネ

今までずっと壁の前に立っていた兵隊さんと、交代。ちょうど交代の時間帯に、我々は出くわしたのね。

アテネ

でもね、3人で隊列を作ってやってきたけど、交代要員として必要なのは2人なのよ。どうして3人で来るのかねー。しかも、何で交代に来るのに、わざわざ一列で行進しなきゃいけないのかわからないし、そもそも無名戦士の墓を守ると言っても、直立不動しなきゃいけない理由がわからない。

その旨を姉に言うと、「あんたは形式美ってものに興味がないんだよ」と言われた。確かにそうかも。

アテネ

兵隊さんは、こうやって、決められたポジションで、ただただ立ち続ける。アテネの観光名物でもあり、観光客は一緒に記念撮影する人も多い。ちなみに、一緒に写真を撮る場合は、一人ずつ、兵隊さんからやや離れた真横側に立って、撮影することが許可されていた。複数人数で横に並ぼうとすると、近くにいる軍人さんに、一人ずつで撮影するように注意されていた。

兵隊さんは左右二人で立ち続けて、1時間ごとに交代するらしいが、一度、軍の車で交代要員がやってきて、片方の兵隊さんだけが交代しているのを目撃した。おそらく、具合が悪くなって、臨時で交代していたのだろう。ただただ直立不動するというのは、きっとすごくしんどいのだろうな。やはり我々は「動物」、つまり本性は動く生き物、であるのだ。

アテネ

兵隊さんを見届けた頃には、雨はすっかり上がり、赤々とした夕陽の空になっていた。

アテネ

夕日に照らされたアマリアス大通り。アテネの観光も明日までだ。明日、もし晴れたら、スニオン岬まで行くよ!