スニオン岬旅行記 ポセイドン神殿で小宇宙を燃やせ!

ギリシャでは、晴れたり雨が降ったりと、天気は一進一退という感じであった。本日も、天気予報はあまり芳しくなかった。しかし、窓の外を見てみると、予想外の青空が広がっていた。

姉と私は、今回、晴れたら、アテネから日帰り遠足したい場所があった。それは、スニオン岬である。岬の先端に、海に向かって、ポセイドン神殿がぽつんと残っている岬である。どうして行ってみたいかって、そりゃあ、スニオン岬が観光名所だからですよ!

…イヤ、正直に言いましょう。スニオン岬は、姉と私が小さい頃にお熱を上げていた「聖闘士星矢」という、ギリシャ神話をモチーフにした漫画に、結構な重要な場所として登場してくるのである。

簡単に言えば、聖闘士星矢の味方側はアテナを中心とした軍団で、物語の中でポセイドン軍団と戦うのだが、スニオン岬は、その戦いが始まるきっかけになった場所なのである。

というか、聖闘士星矢を見ている時は、スニオン岬が実在する場所とは知らなかった。今回、ギリシャ行きを決めて、ガイドブックを見てみると、「うおっ!スニオン岬って実在してるし!しかも、アテネから日帰りで行けそうな場所にあるし!」。

ホラ、子供の頃に、アニメとかで見た風景って、やっぱり憧憬として心に刻み込まれてしまうわけですよ!というわけで、天気予報外れの青空を見て、「晴れているうちにスニオン岬に行ってしまおうぜっ!」ということになった。

その前に、スニオン岬へ行くバス停の場所や、明日、パトラまで移動するバスの乗り場などを確認するために、朝一番で姉と私は飛び出して、新アクロポリス美術館近くの、「ギリシャ政府観光局」という、大層な名前のインフォメーションに行った。

ちなみに、「ギリシャ政府観光局」は、姉が、日本でギリシャ情報を探している時に、ちょっと確認したいことがあって四苦八苦して英語でメールを送ったが、ついぞ返信のなかった組織である。

朝も早くから「ギリシャ政府観光局」は開いていて、ノリのよい親切なおじさんが応対してくれた。「ギリシャ政府観光局」のスタッフというよりは、そこらへんの気の良いおじさんという感じのおじさんであった。地図も山ほどくれたし、明日でギリシャを発つ我々に、堅い日本語で書かれた、しっかりした装丁のギリシャガイドブックもくれた(いらないとは言えない…)。

しかし、このおじさん、なかなか頼れるおじさんで、バスの時刻表や、バス乗り場など、我々に必要な情報を、しっかりマーカーでマークしながら教えてくれた。なるほどー。さすが「ギリシャ政府観光局」。メールは返信しないけど、頼りになる「ギリシャ政府観光局」。

姉が調べていた情報通り、スニオン岬へ行くバスは、国立考古学博物館の近くから発車するが、わざわざその始発駅まで行かなくても、アテネの中心街にも何か所が停車するらしく、我々は地球の歩き方にも記載がある、フィレリノン通りにあるバス停から乗車することにした。

バスは朝の6時半から夕方4時半までの間に、2時間おきに始発から出発する。フィレリノン通りにバスが到着するのは、だいたい、始発から5~10分後とのことで、一本逃してしまうと、次は2時間後なので、10時半に始発の停留所を出るバスを捕まえるために、我々は、やや走った。

走ってバス停に辿り着くと、明らかに観光客という出で立ちの人々が、何人かバス待ちをしていたので、どうやら間に合ったらしい。ていうか、走らなくてもよかったくらいの時間に、どうせバスは来るんだろうよね。

アテネ

バス停は、アマリアス大通りから、一本西の方に入った、フィレリノン通りに、見逃してしまいそうに、ひそやかに存在している。

アテネ

右下の方に、英語で「TO SOUNIO」と書いてあるのが、「スニオン岬行き」の証拠っ!その左側は、ギリシャ語で「スニオン岬行き」と書いてある。ギリシャは、何もかも、ギリシャ語と英語の併記が多く、ありがたい。

で、バス停は無事に見つけられたのだが、バスは無事に来るだろうか。時刻表に載っているバスは、必ずやって来るというのが、世界共通の真理でないことは、我々はイタリア旅行にて既に悟り済みなのである。

アテネ

待つこと10分にして、バス、来たーーー!

この停留所に停まるスニオン岬行きのバスは、海岸線を通って、スニオン岬まで行くバスだそうだ。他に内陸を通って、スニオン岬まで行くバスも、国立考古学博物館近くの始発駅からは出ているらしい。

ギリシャは、あまり鉄道が発達していない。スニオン岬までは、バスで約2時間である。あまりバス移動が好きでない私にとっては(バス酔いとか、不安オブトイレ)、ちょっとストレスになる時間である。

そのため、今回の旅行では、史上初めて、旅行にウォークマンを帯同して来た。音楽を聴きながら、窓の外の海を眺めていると、意外と2時間はあっさりと過ぎた。

アテネ

バスの窓からは、ずーっと青くきらめく海が見える。地中海の青色って、どうしてこんなに青いのだろうか。限りなく青に近い青って感じだ(日本語おかしい)。

スニオン岬

姉がバスの中から、「スニオン岬見えてきたー!」と撮影した写真。ポセイドン神殿の柱が、遠目では弦楽器の弦みたいに見えた。

バスは、ポセイドン神殿のすぐ近くに到着し、バス停の近くには、観光客向けの、食事やトイレを提供している建物があった。それ以外に、お店などは近くになく、スニオン岬は、世の中の岬というものがそうであるように、人々の日常生活からはぽつんと離れている。

「岬」と言えば、中沢新一のアースダイバーという本を思い出す。今より海面が高かった時代の地図を見ながら、現在の東京が、なぜこのような町になったのか、民俗学的な観点から考察する非常に面白い本だった。

その中に、現在、東京で神社などが作られている霊的な場所は、昔、海岸線が、もっと内側だった時代には、「岬」だった場所が多い、などという記述があった(うろ覚え)。

神社って、階段を上った先の高台にあることが多いが、実はそれって、昔は陸地の先っぽ(すぐ先は海)で、どうも人間は、陸と海の境目にあたる場所に、神聖さを感じ、信仰の対象となるものを祀っていたのだという。だからこそ「岬=みさき」は「聖なる先っぽ」…つまり、「御先(みさき)」という言葉を語源とするのだとか。

そんなことを考えると、ここスニオン岬に、ポセイドン神殿が建てられたことも、何だかつながってくるような気がする。岬は、海=異界と、陸=こちら側の世界の境目。そこに海神ポセイドンを祀ることで、異界のエネルギー…時に人間に恐怖を与える海の破壊力を、鎮めようとしたのかもしれない。

さて、スニオン岬のポセイドン神殿を近くで見るためには、入場料が取られる。一人4ユーロ。休憩所やトイレは、切符売り場の外にあるので、切符を購入した後に自由に出入りできるか尋ねたら、OKだと言われた。ただ、かなり人が少ない冬場だったため出入り自由にしている可能性はありそうだった。

さあっ!それでは、ポセイドン神殿にご対面するよっ!

スニオン岬

おうっ!オトコマエっ!

スニオン岬

おー。何だか、ポセイドンが出てきそうな雰囲気だね!

私は鹿児島出身なのだが、鹿児島では、古い言い方で、男の人を「〇〇どん」とか言ったりする(例:西郷どん)。そのせいで、妙にポセイドンは、ポセイどんって感じで親しみがある(何のこっちゃ)。今にもヒゲをはやした大柄な親しみやすい…あっ、これではポセイドンのイメージがあんまりだね…プラス威厳のあるおじさんが、出てきそうだ。

スニオン岬

ちょっと遠くから見てみた。

ほぼ貸し切りに近いスニオン岬であったが、ギリシャ人の修学旅行生たちがバババっと入ってきた。中学生くらいで、好奇心旺盛なお年頃らしく、我々を見て、「コンニチワ!」「コンニチワ!」と連発してきた。

よく東洋人の中でも、日本人ってわかるよなー。私は、日本で西洋系の外国人を見ても、アングロサクソン系とか、ラテン系とかの大ざっぱな区別はついても、どこの国の人かなんて、なかなかわからないものだが。

元気でかわいい中学生たちだったが、そのまま近くにいると、永遠に「コンニチワ」を言い続けなければならないくらいの、「コンニチハ」連続攻撃だったので、いったん休憩所のところまで戻って、アテネから買ってきたサンドイッチを食べることにした。

スニオン岬

休憩所の近くに敷物を敷いて(用意が良すぎ)、こうやって、海とスニオン岬とポセイドン神殿を一緒に眺めながら、サンドイッチを食べた。

ポセイドン神殿は、近くで見てもカッコイイのだが、こうやって、海と一緒に見えるのが、ここスニオン岬の醍醐味かもしれないなと思った。何せ海神ポセインドン、雰囲気が出るというものだ。

切符売り場でもらった、英語パンフレットを見てみると、もともとは、すぐ近くの陸寄りの方に、アテナ神殿もあったらしい。今では、何となく神殿があったのかな~という程度に、遺構が残っている。

スニオン岬

ちょっと遠そうだったので、近くまでは行かなかったが、遠目から見た、アテナ神殿跡。

ギリシャ神話では、アテナとポセイドンは、このアッティカ地方一帯の支配を巡って争った(アテナが勝った)。このスニオン岬のポセイドン神殿の近くに、アテナ神殿がもともとあったのは、この神話と何か関係があるのだろうか…などといろいろ妄想してしまう。

スニオン岬

あー、それにしても、いい天気。休憩所から見て、ポセイドン神殿とは反対側の海の色が、異様に青かった。地中海ブルーって、まさにこの青色のことなのだろう。黄色い花も咲いていて、非常に気持ちのよい風景である。だが、花のある所に蜂有り。結構大きめの蜂がぶんぶん飛んでいて怖かった。

お腹もいっぱいになったところで、もう一度ポセイドン神殿の近くまで行ってみた。

スニオン岬

今度は、修学旅行生もいなくて、我々の貸し切り状態であった。…ということは、小宇宙(コスモ)を燃やすチャンスである。ダダダダ―ダダ、ダダダダ―ダダ、セイントセイヤーッ!(←アニメ聖闘士星矢のオープニングのイントロ)

というわけで、大声で、聖闘士星矢のオープニングテーマを歌い(サビの部分は母も歌える。我々が小学生の頃、毎週見てたからね)、ペガサス流星拳(主人公の必殺技)とか、かましてきた。はっきり言って、おバカすぎる観光客である。しかも、聖闘士星矢において、ポセイドンは悪役なので、ポセイドン神殿前で、めっちゃ失礼である。

スニオン岬

この鳥さんは、スニオン岬に、たくさんいた鳥さんである。何の鳥かは不明。スニオン何とか、とかいう名前じゃね?(超テキトー)

アテネ

「変なアニメソング歌ってる日本人観光客ウゼー。4ユーロでめっちゃ長居しやがって、いつまでいる気だよ…(ブツブツ)」

スニオン岬は、夕陽が有名なのだが、アテネまでは2時間もかかるので、日没まで居ると遅くなるし、今日は、夜にかけて天気が悪くなるとの予報だったので、日没まで待たずに帰ることにした。実際、この後曇ってきて、夜はザーザーと雨まで降ってきたので、夕陽を諦めたのは大正解であった。

バス停まで行くと、アテネ行きのバスは待機していた。一応運転手さんに、英語で「アテネ行きですよね?」と英語で尋ねると、「ムシオン、ムシオン!」と繰り返し言われた。

ムシオン…?一瞬、アテネ行きじゃないの?と思ったが、私の回転の遅い脳みそが、ゆっくりと、「ムシオンって、確かギリシャ語でミュージアムの意味じゃね?」と辿り着いた。おそらく、国立考古学博物館の近くが終点だと言いたいのでは…?

運転手さんはあまり英語が話せないらしく、既にバスに乗っていた欧州系の観光客の女性が、身を乗り出して英語で助け舟を出してくれた。

「このバスはアテネまで行くわよ。でも、海岸沿いではなく、陸側の違うルートを通るらしいの。海岸経由のバスは、さっき、目の前で行っちゃたのよ。止まってくれって追いかけたのに、止まってくれなかったの!それで、仕方なく私たちもこのバスで帰るのよ!」と、最後は、憤っていた。

地球の歩き方の情報では、陸路ルートの方が時間がかからないとあったので、まあ、海の方が楽しいけど、帰りは違う道を通って帰るのもいいや、と、この陸路ルートのバスに乗って帰ることにした。ダガ、陸路の方が時間がかからないという情報は、立派なガセネタであった。

スニオン岬

こういう、どこだかわからない港で、20分近く停車するし。

次々に人が乗り降りするため、しょっちゅう停車するし(それだけ地元の人達が使っているバスだということなのだろうが)。

挙句の果てには、わけのわからない所で停車したかと思ったら、「チェンジ、チェンジ!」などという声がバス内に飛び交った。

何だろ?とボーっと見ていると、近くに座っていた中東系っぽいお兄さんが、「みんな乗り換えなきゃいけないんだよ」と教えてくれた。いやー、ありがたかった。わけのわからない田舎の真ん中に取り残されるところだったよ。乗り換えが必要だなんて、聞いてないから!

そんなこんなで、行きは2時間弱しかかからなかったスニオン―アテネ間が、帰りは3時間近くもかかってしまった。やれやれ。次の、海ルートのバスを待った方が、早かったかもしれんぜよ。

何せ、陸ルートは、北側からアテネに近づき、国立考古学博物館が終点となり、シンタグマ広場とか、アテネの中心部までは行かないのだ。

陸ルートは、見知らぬ町とかを見たりして、楽しいバスの旅になるかもしれないなどと、淡い期待もあったりしたのだが、車窓風景も、結構フツーだったので、アテネとスニオン岬間のバスは、海ルートに限るよ、海ルートに!

アテネに帰ってきてから、天気予報通りにザーッと雨が降ってきた。アテネ最後の夜は、ホテルの近くの「ダミゴス」というギリシャ料理レストランのお店に入った。

スニオン岬

こちらがダミゴス。お店は地下にあり、女性のシェフさんがお料理を作っているのが、ガラス越しに見えた。

アテネ

ムサカも食べ納め。ギリシャ料理は、なかなか気に入った。ここダミゴスは、優しい味付けで、あまり濃くもなく、美味しかった。有名店であるが、おすすめである。

アテネ

ギリシャ最後の夜だから…と、ギリシャのお酒「ウゾ」を飲んでみた。「ウゾ」って感じだった。ものすごくアルコールが強かった。ギリシャ記念に飲んでみるのもよいのではないだろうか。ちなみに、ギリシャ記念でなければ、私はもう飲むことはないのではないかと思われる(ウゾの名誉のために言っておくと、私はもともとお酒はあんまり好きじゃないよ!)

そんなわけで、ギリシャ観光は、スニオン岬で〆となった。たった1週間程度のギリシャだったので、まだ入門編ってところだが、やはりギリシャ神話好きな私にとっては、原点にやってきたんだなあ…!と感慨深い旅であった。

今回はあくまでオリエンテーションって感じで、デルフォイとかメテオラとかデロス島とかヒオス島とか、まだまだ行ってみたい場所が満載だ。

で、明日は、船に乗って、ギリシャからイタリアへと移動するぞ!