アテネ旅行記3 ギリシャで山ばかり上るつもりはなかった
リカヴィトスの丘
アテネには、アクロポリスの丘以外にも、いくつかの丘がある。
ローマには7つの丘があることで有名だが、ローマは丘以外にも起伏の多い町なので、ローマを歩いていて「丘」を実感することは少ない。
だが、アテネは、丘以外の部分が平坦ということもあり、平地部分から周辺を見回すと、丘がやけに目立つ。
そんなわけで、アテネを歩いていて見える丘があると、「あっ!あそこ上りたい!」という気持ちがむくむくと沸いてくるのである。
それで、今回上ることにしたのは「リカヴィトスの丘」。アテネでも、最も高い丘で、アマリアス大通りを、シンタグマ広場方面へ北上している時に見える丘だ(私は3年前、その丘を指さして「アクロポリス?」と聞いて、姉に嘲笑された)。
本当は、アクロポリスの眺望がよいと言われる、「フィロパポスの丘」にも上りたいんだけど、このフィロパポスの丘は、「地球の歩き方」に「強盗注意!」と書かれている。何年前の話なのかはわからないが、「強盗注意!」と言われても、強盗には注意しても勝てるとは思えない。ので、おとなしく「リカヴィトスの丘」の方へ上ることにした。
リカヴィトスの丘への行き方はいくつかあるが、マスティハショップが角にある通りを右折して、そのまま真っ直ぐ上るのがわかりやすそうだったので、まずはマスティハショップへ向かう。
3年前にマスティハショップで購入したハンドクリームは、実に絶品であった。そのため、今回は大量買いする予定だ。明日は日曜で、明後日はデルフォイに行くため、意外とマスティハショップでお買い物できる時間は限られている。
そこで、リカヴィトスの丘に上る前に、マスティハショップに寄って、「今日は何時まで開いてますか?」と聞くと、5時までというお答えであった。アテネの中心部にあるお店なのに、意外と早く閉まるんだなあ。そして、明日日曜は、終日クローズだと言う。
ということは…今日、マスティハショップに入らなきゃダメじゃないのよ!時計を見ると、午後3時前。今からリカヴィトスの丘に上って、下ってきて…マスティハショップが5時までなら4時半すぎにはお店に入りたいから………うん、ちょっと忙しいけど、大丈夫、間に合うだろう。さすがに今購入して、大量のハンドクリームを持って丘に上るわけにはいかないもんなあ。
というわけで、このような道をひたすら上っていくよ。空があんまり青いね。紫外線が強いね。
ひたすらひたすら上る。紫外線が強い。ずーっとまっすぐ上ってきたのだが、二股に分かれる道に出てしまった。私「姉さんや、こっからどうするの?」。姉「わからん」。
地球の歩き方の地図を見ても、リカヴィトスの丘周辺は緑色で塗られていて、まがりくねった道がたくさん入り組んでいるが、どの道へ、どう入れば最短ルートなのかが皆目わからない。
頂上までのケーブルカーもあるらしく、あまり時間もないから利用することも考えたが、姉いわくケーブルカー乗り場はちょっと遠い上にわかりにくく、人によっては「そこまで歩くなら、最後まで歩くのと大して変わらないよ」という意見もあるらしい。しかも、冬季休業の噂もあるらしい。
そこで、この分かれ道の所にホテルがあり、そこにちょうどタクシーの運転手がいたので、「リカヴィトスの丘に行くにはどうすればいいですか?」と聞くと、二つに分かれた道の左側を行くように言われた(後述するが、左からも行けるが、右の道に行った方がよかったと思う)。
運転手さんに言われたとおり、左の道を歩いて行くと、「Theater(シアター)はこっちだよ」という表示が見つかった。姉が、「確かにリカヴィトスの丘にはシアターもあるらしいから、こっちでいいのかも」。
この階段を上って、車道とはおさらばするらしい。
「雰囲気いいじゃないの。木々のおかげで影も出来て、直射日光も防げるし、マイナスイオンは気持ちいいし、よい散歩道だね」。
…と、我々は、最初は機嫌よく歩いていた。ぽっぽぽっぽと、穏やかに歩いていた。
しかし、何だか、だんだん傾斜がキツくなってくるのは気のせいだろうか。姉はちらっと時計を見やる。4時半にはマスティハショップに帰りたい。リカヴィトスの丘はこっちだよという表示も見当たらない。そもそも人っ子一人いない。本当に道は合っているのだろうか?
そして、ついに、道は舗装されていない道になってしまった!しかも、画像では伝わらないかもしれないが、結構傾斜しているのだ。何コレ!完全に山登りじゃんよ!
実は、姉は、旅行前から少し喉の調子が悪かった。それで、この時もやや疲れ気味であった。私はこの時は元気いっぱいだったので(何だか今後を暗示するような一文だと思って頂きたい)、姉の持っている重い荷物を少し私のバッグに入れ替えて、元気よく上を目指した。
「この山道を登り切れば、リカヴィトスの丘があるハズよ!」
最後は、かなり険しい傾斜の坂を、滑りそうになりながら登り切ると、山道の終わりが見えて、道路に出た。
道路?丘の頂上じゃなくて、道路?
要するに、まだ先なんだよ!上を見上げると、今度はちゃんと舗装されているけど、日陰が一切ない階段が続いている。
…さすがに、ここで一休みしてからまた上ることにした。姉が疲れ切った声でぽつんと言った。「私たち、ギリシャに登山しに来たみたいだよね。昨日はキントス山だし、この後、メテオラでも山道を歩く予定だし」。姉はともかく、私は全然アウトドア派じゃないのに、確かに想定外に山ばかり上っている。
ええと、誤解がないように、ここでタネ明かしをしておくが、実は、リカヴィトスの丘に上るのは、こんなに大変な道を上る必要はない。他に、ショートカットのらくらく階段があったのだ。つまり、私たち、道を間違えていたのよ。後からちゃんと説明しますわね。
今はともあれ、日陰ゼロの階段を、上り続けるしかないんだぜ。
昔、みんなの歌で聴いた「屋根のない家」の歌を思い出しそうな道。あの歌は、「雨の日はどうしよう」と歌うのだが、大人になると、晴れの日だって、屋根がないと、同じくらい大変だという世界の真実を知るのだ。
やっとやっと頂上が見えてきて、私の心は思わず喜んだが、この頂上が見えてからも長かった。「旅とは、おのれの限界に挑戦するものなのである」by私。自分を元気づけるために、くだらない格言を心の中で唱える私。
や、やっと、着いた~~~。上に着くと、今まで恨めしかった快晴のお天気が、喜びに変わるのである。
しかし、景色を見るにも、我々はあまりにも疲れていた。疲れていたし、暑い。
リカヴィトスの丘の頂上には、真っ白で美しい聖ゲオロギオス教会がある。石造りの教会は、中が涼しいことも多いので、涼むために入ってみた…ら、ぜんっぜんっ涼しくないっ!
イヤ、今、涼まないと、身体にこもった熱が逃げ場を失いどうにかなってしまうぜ(ちょっとロックな表現ですね)。というわけで、我々に選択肢はなく、丘の頂上にある高級カフェにふらふらと入った。
その高級カフェとは「オリゾンテス・リカヴィトウ」。食事をすると諭吉レベルの料金を取られるらしいが、カフェなら何とかなるだろう。
というか、この直射日光を遮るもののないリカヴィトスの丘で、バテた観光客は、逃げ込むように、このカフェに入っていた。が、このカフェもあんまり涼しくない。クーラーがキンキンに効いた、日本のお店を想像してはダメなのだろう。
とにかく暑いので、ギリシャ名物のアイスコーヒー「フラッペ」を飲むことにした。前回のギリシャ滞在でもあまり飲めなかったから、飲んでみたかったのだ。
フラッペは€4と、良心的なお値段だった。「ジャスト、クリーム、プリーズ(砂糖はいらないのでミルクだけ入れてください)」という、出国前に何かの英会話本で覚えた表現をしたり顔で使うと、姉もそれを真似した。真似の真似。
これがフラッペ。
あー、喉渇いたー!と、グッと飲み干すと………マズイっ!
えっ?アイスコーヒーがマズイとかあるの?あまりの予想外の(自分の味覚の)感想が、スッとは頭に入って来ない私。えっ?何でマズイの?
姉いわく「これ、インスタントコーヒーを冷やしただけだよ」。な、なるほどー。砂糖を入れてもらって、むしろB級グルメっぽい味にしてもらった方がよかったんだね。
ちなみに、ここのカフェは、高級&オシャレすぎて、トイレがよくわからなかった。まず、場所がわかりづらい。カフェの奥、階段を降りて行った左側にある。ちなみに、このトイレの近くに、ケーブルカー乗り場があった。下から上ってくるケーブルカーは、カフェ内に到着するようだ。
で、手の洗い方がよくわからなかった。現代アートみたいな水道が置いてあって、テキトウに金色(「こんじき」と読むのがふさわしい雰囲気だった)のバーをいじくり回すと、ちょろちょろと水が出てきた。
この現代アート水道に手間取っているうちに、姉がやって来て「もう行くよ!」と言った。そう。我々は、4時半くらいにはマスティハショップまで帰らなければならない。時間をつぶしてたんじゃないんだよ。トイレに翻弄されていただけだよ。
さて。せっかくリカヴィトスの丘まで来て、まずいフラッペを飲んで帰るんじゃあまりにも報われないから、景色を見渡そう。
アクロポリスの向かうに海が見えている風景!おー。高い所に上った甲斐があったなあ!アクロポリスが、非常に壮大に、神秘的に見える風景だ。
残念なのは、写真を見てもわかるように逆光であること。リカヴィトスに上るなら、早朝か、もしくは夕刻がよいかもしれない。
アクロポリスの向こう側に見えている丘が、フィロパポスの丘だと思うが、フィロパポスの丘の側から見れば、アクロポリスのベストショットが見れるのかもなあ。ただし、フィロパポスの丘側から見ると、海が見えないのがディレンマである。
「アテネで一番高い丘」から見たアテネ市街地は、こんな風に、ずーっと近代的な町が限りなく広がっている。アテネには、ギリシャの人口の三分の一(!)が集中しているということが、よくわかる。
さて。マスティハショップのタイムリミットが迫っているので、あまりココでだらだらもしていられない。あの、山道を、今度は下らなきゃ行けないなあ…下りは滑らないようにしなきゃなあ…と思いながら、我々はてこてこと、まずは舗装されている階段を下った。
下り道の途中のサボテン。
階段をどんどん、どんどん下って……………。ええと。あの山道がなかなか出てこないんですけど。よくわからないけどね、前方にも人がいるしね、多分このまま丘を下れるだろうと、ひたすら階段を下っていくと…
結構あっさりと、こういう道路に出てしまった。人が何人かいるところが、私たちが出てきた階段だよ。
どこ、ここ…?と思いながら、とりあえず、坂道を下り方向へ進むと、我々が上るときに、左に折れた二股道がすぐそこにあった。
…要するに!あの二股道で、左折せずに、そのまま真っ直ぐ上って、左手にあるこの階段を上って行けば、あんな山道をクネクネ上らずとも、最短距離でリカヴィトスの丘の頂上に行けたんだよ!
………あー!!!何か、ドッと疲れたよ!ホテルの前で道を教えてくれた運転手さんは、タクシー運転手さんだけあって、こういう歩道専用の山道は知らなかったわけだね!
でもね、おかげで、想定よりずっと早くマスティハショップにたどり着くことができた。あーよかったよかった(棒読み)。
というわけで、リカヴィトスの丘に行くには、迷宮みたいにいくつも道があるが、近道もあれば遠回り道もある。アテネの観光インフォメーションで詳細な地図をもらって、グーグルマップとも照らし合わせて、最短のルートを選んで上ることを強くおすすめしたい。
私たちが上った山道は、全然おすすめしない。