アテネ旅行記5 神殿と神殿の気まずい関係
2017年3月5日アテネ
古代アゴラ
本日は、第一日曜日である。
アテネの冬の第一日曜日。それは、ビューティフルサンデーである。というのも、11月~3月の、観光オフシーズンの第一日曜日には、アテネの遺跡系の観光地は、全て無料開放されるのだ。
そのため、本日の予定は、「朝から行けるところまで遺跡を巡る」。
そういえば、3年間にアテネに来たときも、この無料日曜日を利用して、アクロポリス、ディオニュソス劇場、ゼウス神殿、古代アゴラに入ったなあ。アテネの遺跡に、まだ一銭も払っていない私たち。
どうして我々はこんなにケチなのだろうか。いや、ケチなのではない。ビンボーなのだ。だって、アクロポリスは、入場料を払って入る場合は、なんと€20もする!ビンボーじゃなければ、チケットを買うけどさ。
ケチの度合いというものは、分母にビンボーの度合いの大きさ、分子にケチ的行為という数式で計れるはずだ。この数式に当てはめれば、私はそれほどケチではない(ケチの話終わり)。
で、今日は、どう動くかと、前回、時間切れで消化不良だった古代アゴラと、時間切れで入れなかったハドリアヌスの図書館に、まずは入場することにした。
まずは、古代アゴラ!
アゴラまで歩く途中に、スターバックスがあったので、「アイスコーヒーを飲みたい」という姉は、テイクアウトにして、飲みながら古代アゴラまで歩いた。
古代アゴラには、ほぼ朝一番に着いたが、入場する際、「そのビニールカップは持って入れない」と、回収されてしまった。ペットボトルならOKであった。
しかし、古代アゴラの中では、係員さんたちが、ビニールカップに入ったフラッペ(ギリシャ風アイスコーヒー)をちゅるちゅる飲みながら闊歩してたんだぜ。古代アゴラは討議の場なのだから、「それは理に反するのではないか?」と議論を仕掛ければよかった。だが私の英語力では「YOUずるいデスね」くらいしか言えなかったであろう。
アイスコーヒーのことは忘れて、まずは、3年前にじっくり見れなかったヘファイストス神殿に行こう!
おはよう、ヘファイストス神殿っ!朝一番のためか、無料入場デーでも、まだ誰もいないよっ!ヘファイストス神殿周辺には人がいなくて静かだったが、近くの教会から、お経のようなミサの音が大音量で聞こえていて、何だか不思議な雰囲気であった。
この神殿は、ギリシャで一番保存状態がよいと言われている。
ケンタウロスの彫刻や
人物(神々?)の彫刻が少しだけでも残っている。確かに、パルテノン神殿などよりも、ずっと保存状態はよいのである。
緑の中にぽつんと建っている様子は、いつも観光客にもみくちゃにされているパルテノン神殿に比べて、非常に落ち着いた佇まいに見える。
この神殿に祀られているというヘファイストスは、鍛冶の神様で、不細工だけど、手先がものすごく器用な神様だ。何と、ギリシャ神話の女神の中でも、ナンバーワンに美人なアフロディーテが妻である。
女性は、手先が器用な男性に惚れ込む傾向ってのがあるらしい。超絶技巧を必要とする楽曲を作曲したことで有名なリストは、本人もピアノを超絶技巧で弾きこなしたそうで、女性にモテモテだったと言われている。ただし、リストはヘファイストスと違って、イケメンでもあったようだが。
アフロディーテは、ヘファイストスの正妻だが、イケメンで荒々しい性格の軍神アレスと不倫をする。
まー、このアフロディーテって女神は、堅実で実生活向きなタイプを夫にして、イケメンで危ういタイプとは不倫で済ませるという、実に何千年も変わらない、女性の恋愛の型を地で行っている。これで愛の女神なわけだから、愛ってそういうものなのかもしれないねえ…。
このヘファイストス神殿を姉と二人占めしていたら、ギリシャ人観光客の夫婦に声をかけられた。「ジャパニーズですか?私たちはジャパニーズの知り合いがいるんですよ!ヤスコとイクヨです」。…ヤスコが、私の知っているヤスコ(友人のヤッちゃん)である可能性は、限りなく低いであろうな…。
ご夫婦いわく「アテネは遺跡はいいんだけど、他は楽しくない町ですよ」と言う。姉も私もアテネは好きなのだが、「では、ギリシャで一番素敵な町はどこですか?」と聞いてみると、「デルフォイ!あそこはアナザーワールド…ええと、うまく言葉では表現できないくらいファンタジーな場所ですよ」とのお答えだった。
「実は明日、デルフォイに行く予定です」と言うと、すごく喜んでくれた。そっかー、デルフォイはアナザーワールドか!楽しみなことだ!
ご夫婦と別れて、次は3年前に歩けなかった、メトロンとかトロスのあたりを歩いた。
メトロンとは公文書の保管庫で、トロスは評議員たちの詰め所。要するに、政治をしていた施設の跡である。本当に、土台と、ちょこちょこっとした柱しか残っていない。
何にも無いけど、空は青いし、草木は緑。これこそが、遺跡の醍醐味である。
ぐるっと回って、ヘファイストス神殿の北側エリアへと行った。こちらは、政治の建物ではなく、神殿跡が多い。
こちらはおそらくアレス神殿跡。アレス神殿って…そうですね、ヘファイストス神殿に祀られているヘファイストスの妻アフロディーテと、浮気した軍神アレスの神殿がここにあったんですね。ヘファイストス神殿はすぐそこなのに…。何だか気まずい気もするのだが、ギリシャ神話で、ホレたのハレたの取られたのみたいな話は茶飯事なので、心配することは何もないのだろう。
この辺りでは、ソクラテスが議論をしていたと地球の歩き方に書いてあるので、私も「無知の知!」とか叫んでみる。
突然ですが、「ソクラテスの弁明」って本は、ラストがすっごい秀逸である。今のところ、この本に勝る終わり方をする本を見たことがない。しかし、訳によって、あのラストの雰囲気が出なかったりする。おすすめなのが、中央公論新社の全集シリーズ世界の名著 (6) プラトン1 中公バックスである。
こちらは、博物館の近くにある、円形の建造物の土台の残り。よーく見ると、素敵な模様が刻まれている。
博物館近くまで来たので、トイレ休憩を兼ねて、博物館に入ることにした。
この真っ白い建物が、古代アゴラ博物館。生っちろい建物で、遺跡の中で異彩を放っている。元々ここにあったアタロスの柱廊というものを復元した建物らしい。
トイレは、入り口から一番遠い場所にある。入って、柱廊を奥に進み、右手である。朝早いからまだキレイであったが、ここのトイレは、あまりよろしくはない。わざわざ無理して入るようなトイレではない。だが、無理して入らないようなトイレというほどもない。トイレのこと語りすぎ。
この博物館は、柱廊に展示してある彫刻物と、室内展示がある。前回は室内展示をほとんど見なかったので、室内の展示を鑑賞した。
我々はトイレに入ったせいで、奥から鑑賞を始めてしまった。最後に気付いたのだが、これは、手前から鑑賞を始めるのが正しい。手前の方から、年代順に並べてあるのだ。
こういう美しい陶器絵もあれば、
悪い宇宙人みたいな装飾もあったりする。この蚊の化け物みたいな生き物は、本当に何なのだろうか。
これなんか、ずいぶん古い時代のもの。女性が手をつないでいる図像である。腰がずいぶん細く描かれている。こんな時代からデフォルメが存在しているのが面白い。この時代の女性は、ウェストが細いことがチャーミングだったのだろうか。
今回の古代アゴラでの大発見は、この猫ちゃんですよ!これは、猫好きとして、ギリギリ…ちょっと目がうつろだけど…かわいいっ!この博物館の所蔵品の中から、何かひとつもらえるなら、絶対この猫ちゃんだね!
本当にギリシャには猫が多い。エーゲ海の島々も猫ちゃんだらけだし、アテネも、市街地には猫ちゃんがいないけど、遺跡は猫だらけである。この後足を運ぶメテオラも、猫だらけでビックリした。
古代から猫の置物(?)が作られていることからわかるように、ギリシャでは古い時代から猫が飼われていたらしい。何と言ってもネズミを退治してくれるもんね!
しかし、動物がよく出てくるギリシャ神話で、猫が大きな役割を果たすエピソードはほとんどないし、星座にも「ねこ座」はない(「やまねこ座」はあるが)。「おおいぬ座」「こいぬ座」「猟犬座」と、犬はたくさんあるのに、この温度差は何なのだろうか。
日本の干支でもいぬ年はあって、ねこ年はない。猫ってのは、人間が何かのシンボルマークとして動物を用いる時に、対象になりにくい存在なのかもしれない。人間に身近すぎるからなのか、気まぐれでいろんな顔を持つ猫には、イメージが定まりにくいからなのか。
それにしても、現代日本の猫ブームはすごい。猫がこんなにもてはやされるのは、崇拝されていた古代エジプト以来だったりして。現代日本人は、明らかに猫に癒やされている。「猫は自由でいいなあ」ってところなんだろう。
おっ!そうなると、猫は自由の象徴としてイメージが定まるね!でも、自由の象徴だと、確実に、翼で空を飛び回る鳥に負けちゃうところが残念なのである。
猫にゃんの話終わり。
こちらは、柱廊部分に展示してある彫像。なかなかの美人さんだったので、パチリ。
さて、古代アゴラをずいぶんとブラブラ歩いて、最後に、3年前に見なかった、古代アゴラ内のギリシャ正教会を見に行くことにした。
こんな風に、古代アゴラ内には、ギリシャ正教の教会が、ぽつんとある。神殿の遺跡の中にある教会だが、あまり違和感はない。西洋建築が、古代ギリシャ建築の流れをくんでいることが、ぼんやりとわかる風景である。
今回は1~2時間かけて古代アゴラを歩き回り(前回は50分くらい)、ようやく古代アゴラに満足した。
古代アゴラは広くて、アゴラ内に博物館もあるので、想定以上に観光に時間がかかると思う。最低でも1時間は時間をとって、ゆっくりと回ることをおすすめしたい。