アテネ旅行記7 ゼウス神殿前の異変
ゼウス神殿
ギリシャで、私がやりたいことのかなり上位に位置するのが、「グリーク・ヨーグルトを食べること」である。
私は、ヨーグルトの権威と言うほどはないが、ヨーグルトのファンである。ギリシャではヨーグルトを食べまくりたくて仕方がない。
グリーク・ヨーグルトとは、最近、日本でも人気が出始めたが、いわゆる水切りヨーグルトである。水分が少ないので、ヨーグルトにコクがあり、お腹にもたまる。要するに、美味しい。
ギリシャのホテルに宿泊すれば、たいてい、朝食にこのグリーク・ヨーグルトが出てくる。だが、今回のアテネ滞在は、アパートメントに宿泊したため、朝ごはんが付いてこない。そんなわけで、私は、ややヨーグルトに飢えていた。
本日は、冬季の第一日曜日で、遺跡無料デーのため、姉と私はゼウス神殿に向かって歩いている。ゼウス神殿近くには、ヨーグルトバーの「Fresko」がある。だんだん私は、自分がゼウス神殿に向かっているのか、「Fresko」を目指しているのかわからなくなってきた。
アテネでは、メインストリートのエルムー通りから南、アクロポリスや古代アゴラがある、観光スポットを「プラカ地区」と呼ぶ。
このプラカ地区に足を踏み入れると、北側の、市場などがあるアテネ人の生活圏という雰囲気から、観光客向けの、どこか安心できるような雰囲気に変わっていく。
成熟した観光地が持つ、あの安心感って何なのだろう。旅人を穏やかに迎え入れる雰囲気。その中に穏やかに入っていく旅人。
だが、昔は、旅というものは、もっと危険で、異界に踏み込む不安というものが漂っていたのではないかと思う。これほどグローバル化が進んだ世界では、異界というものは既に存在せず、旅の心得とは「全く知らないもの」に対する「警戒心」ではなく、「知ってはいるけど見たことはないもの」への「好奇心」へと変わったのだろう。
旅人を受け入れる観光地の方も、昔は「どんなヤツだかわかったもんじゃない異邦人」に踏み入れられていたわけだが、今では「自分たちに興味を持ってくれる、ちょっとだけ遠くから来た人たち」を迎え入れている。
観光地と旅人の関係ってのは、もしかしたら、これからのグローバル世界を生きる私たちに、「ちょっとだけ外側の世界」と付き合っていくためのヒントを与えてくれるのかもしれない。
本当に穏やかなプラカ地区。3年前の、初めてのギリシャでは、このプラカ地区のちょっと高いホテルに宿泊したのだが、正解だった。ギリシャビギナーの入門編としては、実に歩きやすい地区である。
そして、ゼウス神殿から大通りを挟んだ所にあるフレスコ・ヨーグルトバー(Fresko)にたどり着いた!
ヨーグルトは4種類から選べる。外国人観光客になれた感じの、親切な男性スタッフが、全て味見させてくれた。「Traditional」はやや酸っぱく、「Cremy」は濃厚で甘い。「Goat」はヤギの乳を使っているため、クセがある。一番食べやすかった「2%」を選んだ。
ヨーグルトだけで食べてもよいんだけど、ついついトッピングもしたくなる。男性スタッフが、ウォールナッツにオレンジハニーをかけたトッピングを勧めてくれたので、ナッツ好きの姉はそのトッピングにした。
こちらがウォールナッツ&オレンジハニー。姉に少しもらって食べたが、この組み合わせは、プロおすすめなだけあって、美味しかった。
私は、よくギリシャのレストランメニューで見かける「fig」が気になっていたので、「fig」にハチミツをかけてもらった。ヨーグルトが€2.4で、トッピングがそれぞれ€0.2~0.4。
「fig」とはイチジクであった。姉は、「フルーツを入れたんだったら、ハチミツは要らなかったんじゃない?」と言う。確かに、ハチミツは要らなかったかなー。ちょっと甘かった。
ナッツ類とハチミツは一緒にかけてもいいけど、フルーツはシロップ漬けなので、ハチミツをかけると甘くなりすぎるかもしれない。
でも、このお店には、いろんな種類のハチミツがあって、ヨーグルトにハチミツはかけたいのだ。次は、フルーツなしのハチミツだけにしてみようかな。
お店前のイートインコーナーで、ヨーグルトを食べていると、ジプシーや物乞いの人が近くを歩き回っていた。さっきのお店のスタッフさんが、物乞いの人たちを追い払いに来た。お店の中に入るな、ということらしい。今回、アテネでは、何度か観光地区のお店の人たちが、物乞いを追い出しているのを見た。
ヨーグルトを食べたら、目の前のゼウス神殿に入ることにした。
ゼウス神殿は、この「Fresko」からすぐ見えているのだが、出入り口は、左側にぐるっと回った先になる。
その出入り口に向かって歩いているとき、突然に私はバテた。「ごめん、ちょっと座りたい」。
この日は大変に天気が良く、さんさんと照らす太陽光に疲れてしまったのだろうか。ゼウス神殿の外回りには、ベンチがあるため、腰掛けて、ペットボトルの水を飲んだ。その時…「ん?何か喉がおかしい…?」。
しかし、私は×0年近く生きて、それなりに、自分のことはわかっているつもりだ。私が風邪を引くのは、冷えたときだ。今までの海外旅行で風邪を引いたのは、極寒のシエナで凍えた後と、ポンペイで大雨に降られて濡れた後。
今回の旅行は、船に乗ったり飛行機に乗ったり強行日程ではあるが、寒かったことは一度もない。私が風邪を引く要素はひとつも見当たらない。よって、これは風邪ではなく、さっき食べたヨーグルトにかけたハチミツが、喉にひっかかっているのだろう。そう推定した私は「休んだから大丈夫。先へ行こう」と立ち上がった。
そして、ゼウス神殿に入場。無料デーなのに、ゼウス神殿はそれほど混んでいない。入り口が、反対側なので、観光客が入りにくい構造なのだろう。
ゼウス神殿は、いつも混雑が少ないが、個人的には、非常に美しい神殿だと思う。
何と言っても、繊細で優美なコリントス式の柱!
コリントス式の柱っ!
この柱が、昔は104本も立ち並んでいたらしい。それは壮大な景観だったであろう。現在残っているのは、15本。104分の15で残っている柱くんたちは、選ばれし柱だなあ。
地球の歩き方によると、このゼウス神殿は、着工は僭主ペイシストラトスの時代だが、完成したのは、ローマ時代、ハドリアヌス帝の時代だそうだ。
古代ローマ時代のギリシャ…また、私の頭の中で、何かがピンと来ない。古代ローマ時代にだって、もちろんギリシャは存在していたわけだが、何だか上手に頭の中でリンクしないのだ。私は生まれつき世界史が苦手な脳みそを持っているのかもしれないなあ。でも、世界史に興味はあるんだよ。0%の才能と100%の努力でがんばろう!
このゼウス神殿の美しいコリントス式の柱を見ながら、それでも何だか私には元気がなかった。自分で気がついたら、ゼウス神殿内の数少ない影を見つけて、座り込んでいた。
何でだろう。ちょっと荷物が重たいのかもしれない(と思った)。姉が、少し喉の調子が悪いと、ギリシャに着いて以来ずっと言っていたため、ちょっと重さのあるWifiルーターを、私が持っていた。「疲れたんだったら、私が持つよ」と、姉が自分のバッグに移してくれた。
こんな温暖な青空の下、まさか自分が風邪を引きかけているとは思ってもいない私は、少し休んだら、また歩き始めた。
そして、汝自身を知らない上に、無知の知にも思い至らなかった私は、「喉にひっかかっているハチミツはまだ取れないなあ」と思いながら、無謀にも、次はパルテノン神殿を目指すのであった…。(当然ながら、のどにハチミツなど、ひっかかっていなかったのだ)