デルフィ旅行記1 アポロン神殿に捧げた祈り(ノドの痛みの件)
デルフィ遺跡
さて。アテネから、3時間以上をかけて、ようやくデルフィにたどり着いた。
デルフィでは、まずやらなければならないことがある。アテネのバスターミナルで、コンピューターの故障のため、バス切符が往復で購入できなかった(第一の罠)ので、帰りのバス切符を買わなければならない。
デルフィでは、バスの切符は、バス停のすぐ隣にあるカフェのようなお店で購入する。
このように、チケット売り場の表示が大きく出ているので、わかりやすい。
お店に入ると、我々と同じバスで来た人たちは、皆、往復で切符を買えなかったらしく、多くの人々がレジに並んだ。
我々は比較的早い順番で並んだのだが、いざ切符を購入する際、「16時のバスですか、18時45分のバスですか?」と聞かれた。
えっ?アテネまでの切符をただ買うんじゃなくて、時間まで指定しなきゃいけないの?(ここで全席指定のバスであることに気付かなかった我々はギリシャ素人。)
時計を見ると、既に13時半を過ぎていた。デルフィで、遺跡を見て、博物館を見て…16時のバスで帰れるかなあ?即断できなかったので、「ちょっと考えます」と言って、次の人に順番を譲った。
姉と話し合い、確かに遺跡はゆっくり見たいけど、私は風邪引きだし、姉も体調万全ではない。18時45分のバスで帰ると、アテネに着くのは夜10時くらいになってしまう。明日は、メテオラへ朝8時半の電車で出発する。ここは、謙虚に、16時のバスで帰ろう、と話がまとまった。
で、列に並び直そうとすると、列がなかなか進んでいない。16時のバスで帰るなら、3時間ちょっとしかデルフィに滞在できない。時間がもったいないと思った我々は、またバス停に戻ってきたときに切符を購入すればよい、と、切符を買わずに遺跡方面へと歩き出した(第二の罠)。
右手の方に、美しい風景が見えているのだが、何せ3時間しかないので、足を止めているヒマはない。バス停から遺跡方面へは、ずっと下っていくが、バス停から近い順に、デルフィ博物館→デルフィ遺跡なので、まずは近い博物館へと向かった。
バス停からデルフィ博物館までは、急ぎ足で5分強くらいであった。しかし、博物館が見えてから、入り口までが長く、気が急くったら!
ようやく博物館の切符売り場へたどりつくと、今日は博物館も遺跡も無料だと言われた。えっ?と喜ぶ間もなく、切符売り場の女性に、「遺跡から行ってらっしゃい。遺跡は15時に閉まるわよ。博物館は16時まで開いているから」と言われた。
えっ?遺跡は15時に閉まる?地球の歩き方には19時半と書いてあるのに!
でもまあ、現地の人が閉めるって言ったら閉めるんだろう。そこで、急ぎ足で博物館を出て、今度は遺跡方面まで下る我々。博物館から遺跡までは、5分ほどであった。
ふー。やっと遺跡にたどり着いたら、今度は入り口で「スタジアムに行くなら急いで!15時には閉めるから!」と言われた。
スタジアム(競技場跡)は、デルフィ遺跡の上の方にあり、他の遺跡とやや離れた場所にある。我々は、スタジアムも見たいけど、飛び地みたいな感じで、もっと下の方にある「トロス」と呼ばれる遺跡も見たい。
地球の歩き方の地図では、いまいち「トロス」にどう行けばよいのかわかりにくいが、姉が係員さんに聞くと、トロスはいったんデルフィ遺跡を出て、車道を下り、また別の入り口から入るそうだ。だいたいデルフィ遺跡から歩いて10分くらい。
これは…今の二人の体調を考えると、16時のバスの時間までに、スタジアムと「トロス」の、どちらともを見に行く時間はなさそう…。我々は、ギリシャ神殿の柱が好きなので、スタジアムは断腸の思いで諦めて、柱が残っている「トロス」の方へ行くことにした。
ちなみに、「トロス」は17時に閉まると言われた。こんがらがりそうな頭で考えた。
我々は16時のバスで帰る(予定だった)。デルフィ遺跡は15時まで、デルフィ博物館は16時まで、トロスは17時まで。閉場時間を考えると、遺跡→博物館→トロスの順で回りたくなるが、バス停から近いのは博物館、遺跡、トロスの順(ちなみにバス停が一番高い位置にあり、トロスが一番低い位置)。
やはり博物館を最後にした方が、そのままバス停へ行くのに効率がよい。体力を温存するためにも、閉場時間を考えても、デルフィ遺跡→トロス→博物館→バス停→16時のバスで帰る、この順路しかない。
そんなわけで、考えている時間も惜しかったのだが、ようやく回る順序が決まり、デルフィ遺跡を見るぞーっ!
まずは、ローマ時代のアゴラ前を通り、それから左方向へと上って行くと、アテネ人の宝庫が現れる。
やけに保存状態がよいなーと思ったが、これは復元した後だそうだ。「宝庫」と聞くと、どうしてわざわざアテネ人が、こんな離れたデルフィに貴重品を保管するのだ?と思ってしまうが、アポロンへの捧げ物を入れていたそうだ。
このアテネ人の宝庫の近くに、こんなものがある。観光客のほとんどはスルーしていたが、何か「ヘソ」っぽいな…。
「ヘソ」とは何かというと、デルフィは古代に「世界の中心」だと考えられていた。世界の左端と右端からワシを飛ばしたら、ちょうどこの位置で交差したことから、ここが世界の真ん中だと定められたという伝説がある。
…ツッコミどころは満載ですね!左のワシと右のワシは、速さが違ったかもしれないし、どこかでどちらかが休んだかもしれないジャン?とか、世界の端ってどこだよ!とか。でもまあ、伝説ですからね!大人げないツッコミは無しよ!
で、世界の中心に、世界の中心記念で「ヘソ」が置かれた。ヘソは人間の身体の真ん中にあることから、中心という意味で使われますね。ちなみに日本のヘソは兵庫県あたりらしいですね。
どうして、この何でも無い石が「ヘソ」だとわかったかというと、まず、何でも無い石なのに、周りが囲われていること。それからギリシャ文字で「オンファロス(=ヘソの意味)」と書かれていた。私は、ギリシャ語はわからないけど、読める。いいですか、読めるだけですからね!ぜんっぜんわかりませんから、そこんとこ夜露死苦っ!
地球の歩き方には、ここではなく、もう少し上の方のアポロン神殿に「オンファロス」があると書かれていた。確かに、ヘソがあるのは、神殿内の方がふさわしい。
ちなみに、この何でも無い石は、本物のヘソではなくかなり手抜きのレプリカで、「本物のヘソ」は、もっと装飾されていて、博物館内にある。もしかしたら発掘の際に、その「本物のヘソ」が見つかった場所がココなのかもしれないなあ。古代には、神殿内に置かれていたのかもしれない。
さらに上って行くと、アテネ人の柱廊と呼ばれる区域が現れる。サラミスの海戦(高校時代習ったなあ…)で、ペルシアに勝利した際の戦利品が置かれていたらしい。かろうじて、3本の細くて白い柱が残っている。背後の、灰色のゴツい柱は、アポロン神殿跡。戦利品をアポロンに捧げていたのだろうか。
もう少し上って行くと、アポロン神殿跡である。柱がぽつぽつと残っているだけなのだが、デルフィのアポロン神殿跡だと言われると、それだけで感慨深いのである。ソクラテスとかオイディプスとかが神託を受けた(と言われる)のがココなのだなあ。
デルフィのアポロンの神託についての本を読むと、神託はトランス状態になった巫女が不可解なことを口走り、それを神官が解読して伝えていたらしい。現代人が聞くと、何ともうさんくさい話にしか聞こえないのだが、科学が発達していない時代には、このような神託が重宝されたのだ。
現代だって、「世界の意味」とか「死後の世界」とか、科学で解明できない分野は、宗教が受け持っていたりする。私は、科学で解明できない問いには、宗教でなく、哲学で考えたいと思っている。その違いは、人の考えを鵜呑みにするか、自分の頭で考えるかの違いじゃないかと思っている。
さて、アポロン神殿前で、何か神託が降りてこないかなーと思って立ちすくんでみたが(全然自分の頭で考えてないじゃないですか!)、頭の中に浮かんだのは「ノドにはハチミツがいいよ」くらいのことだった。要するにノドが痛かったので、ノドの痛みのことが頭の大半を占めていたのだね。
アポロン様。医学の神だと言うならば、私のノドを治しておくれよ。アポロン「だったら捧げ物をよこせ」。うーむ。私のリュックの中には、高性能のど飴くらいしか入っていないなあ。アポロン「じゃ、それでノドを治せよ」。終わり。
さらに上ると、古代劇場が現れた。古代劇場は、修復中で、なぜだか正面からの写真撮影は禁止であった。修復作業を撮影するなということなのだろうか。
古代劇場跡の背後へと、さらに上って行くと、このような絶景が現れた!おおー!これは、確かに、アテネの古代アゴラで会ったギリシャ人夫婦が言っていたように、「デルフィはアナザーワールド」である!
この角度からだと、デルフィが山の斜面に築かれた神域であることがよくわかる。何となく、神域というものは、山頂あたりにありそうなものなのだが、なぜ、この場所が聖域とされたのだろう。本当にワシが出会った場所なんだろうかねえ。
デルフィに行くまでは、デルフィは有名な場所だけど、実際に足を運んだら、知名度ほどのインパクトは無いんじゃないかと思っていた。
しかし、山の斜面に残された遺跡と、実は市街地はすぐそこなのに、人里から遠く遠く離れたような雰囲気を醸し出している雄大な谷の眺めは、写真ではとても伝わらない感動があった。
デルフィはアテネから遠いし、行くのはどうしようかなあ…と迷っている人には、「デルフィはアナザーワールドだからぜひ足を運んで!」と言いたい。私は、風邪っぴき状態でデルフィ行きを強行したが、全然後悔していない。
もっともっと、ぼーっと見ていたかった風景なのだが、この後、「トロス」や「博物館」にも足を運ぶ予定なので、断腸の思いで切り上げることにした。
16時のバスで帰るつもりだったからね!(過去形です)