デロス島旅行記3 私と博物館の15分間
デロス考古学博物館
キントス山から下ってきて、デロス博物館を一直線に目指すはずが、正規のルートを外れてしまい、けもの道をさまよっている我々。ただし、博物館は見えている。だから、けもの道とは言えども、強引にたどり着けるはずだ!(←前回までのあらすじ)
博物館は少しずつ近づいてきているのだが、ついに、けもの道は、途中で途切れてしまった。およー。ただ、数十メートル先には、人間が通りそうな道が見えてきている。
姉は、「あれは博物館から(今回諦めた)体育館方向へ向かう道じゃないかな」と言う。その道までたどり着けば、人間の道(何だか倫理学みたいな単語)を通って博物館まで行けるはずだ!
というわけで、我々は、その人間の道へ向かって、ついにけもの道も外れ、何でも無い平原を突っ切った。何でも無い平原。それは、舗装もされていない草ボウボウの地。
アウトドアに疎い私にとって、何でも無い平原を歩くのは大変だった。文明のありがたみは、そこから外れたときにわかるものなのだなあ。しかし、早く博物館にたどり着きたい一心で、この何でも無い平原を勢いだけで乗り切った。
あー、やっとたどり着いたよ、博物館。
デロス島観光1時間半後にはココに立っている予定だったのに、既にデロス島観光スタートから2時間近くが経とうとしていた。この後は、アポロンとアルテミスが生まれた聖地とか、レプリカのライオン君たちとかを見る予定もある。
そう考えると、この博物館に費やせる時間は(頭の中の低スペックの計算機をたたく私)………15分!たったの15分っ!…案ずるなっ!15分といえば、フィギュアスケートのフリースケーティングのプログラムが3つもこなせる時間ではないか!
さあ!人生は有限だからこそ尊いのだ!15分間で博物館を堪能するぞっ!
時間がないときは、やりたいことからやるに限る。そう考えると、アリとキリギリスの寓話は、キリギリスの方が正しい気もする。が、そんなことは今ドウデモヨイっ!まずはライオン君たちのオリジナルを見るぞーっ!
デロス博物館はそれほど広くないので、すぐに見つかったライオン君たちのオリジナル。がらーんとした部屋に、がらーんと並べられていた。
オリジナルといえばオリジナルで感慨深いのだが、何となく、奈良の興福寺の国宝館で、事務的な内装の建物の中に、阿修羅像が展示されているのを見た時の「これじゃない」感と、デジャブであった。
やっぱり、「その場所にあることが意味がある」ものってあるんだよなー。このライオン君たちは、デロス島の屋外にあってこそという感じがする。博物館内のライオン君たちは、動物園で見るライオン君とどこか似ていた。
ただし、保存という観点から見ると、古くて大切なものを、屋外に置いておけないというのもわかる。そう考えると、オリジナルを博物館で保護して、レプリカを元の場所に置いて…というのは、やむにやまれぬ選択なのかもしれない。
それからどうした!(←15分しかない私)
こちらはアルテミス像。アルテミスは、双子の兄アポロンと共に、デロス島の秘密出産で生まれた。ここらの話は、あとで、この兄妹神の誕生地に行ったときに触れるとして、このアルテミス像、いいなあ~。
アルテミス像は「アルテミスっぽい」と思う時と、「アルテミスっぽくない」と思う時があるのだが、この像は、私のイメージでは間違いなく前者!
神経質で他者に厳しく、男嫌いの処女神なのに、骨の髄まで女っぽさを感じるアルテミス。そんな彼女の持ついくつかの内面性を、非常に巧みによく表している像だと思う。多くの矛盾を抱えている感じの、眉のあたりの雰囲気がいいね!
こちらはお兄さんのアポロン像。でも、アポロンにしてはあまりイケメンじゃない。あんまりポーズも好きじゃない。ので、私はさささっと通り過ぎたが、姉が「一応デロス島のアポロンだから」と言って、写真を撮っていてくれたらしい。
それからどうした!(←15分しかないから…)
どこかで見た像だなあ…(鈍い頭を巻き戻してみる)…あっ!「クレオパトラの家」に置いてあったレプリカだ!ってことは、これらがオリジナルだ!
こっちがオリジナルなのに、先にレプリカを見ているせいで、「レプリカに似ているからオリジナル」という、わけのわからない思考順序になっている私。ていうか、時間がなさすぎて、頭が混乱をきたしかけている私。もうね、こんな観光は絶対にダメですね。「見た」ことしか覚えていないのだ。
でもさ、「ミコノス島からしか行けない無人島デロス島」なんて、そう何度も行ける場所ではないわけさ。そうするとさ、たった3時間しかないと言われてもさ、見れるものは見れるだけ見とこう!と思ってしまうわけさ。
…いずれにしても、反省会は後!次に行くよっ!
どんなに急いでいても、足を止めずにはいられない、美しくて保存状態もよい女性像。
美しい!気高い!女神像だったのか、普通の女性像だったのか、時間がなくて確認できなかったが、印象に残った像。
これは姉が撮影していた写真。あまりの時間のなさに、私はこういうオヤジはスルーしたが、姉はハートを掴まれたらしく、立ち止まって写真撮影までしていた。これの何が姉の心を捉えたのかは不明(姉「だって保存状態がいいじゃん」)。
こ、これは…(脳内検索中)…「ディオニュソスの家」でレプリカを見た床モザイクであるな!
こうやって見ると、非常に出来が良いのがわかる。これ、絵じゃなくてモザイクですよ!古代の彫像も素晴らしいけど、モザイクの芸術表現も本当に洗練されている。すごいよなあ…。絶対、私には作れない。2000年前の人類に勝てない私。
こちらも、ディオニュソスの家のモザイクの一部。というか、これが、葡萄酒と演劇の神ディオニュソスの顔部分。翼を持っているディオニュソスって珍しい気がする。なかなかのイケメンである。
ディオニュソスは、アポロンとかヘルメスに比べて、イケメンというイメージが少ないが、これは、ウフィツィ美術館のあまりに有名な、カラヴァッジョの「バッカス(ディオニュソスのローマでの名前)」のせいだろうなあ。有名な、あの酔っ払いオヤジ。でも実は、ディオニュソスは美神だそうで、イケメンの方が正しい像なのだそうだ。
いつまでも見ていたくなるモザイクだったが、ほら、15分しかないから!
こちらも、ついつい足を止めてしまうモザイク。顔の下の部分が切れてしまっているのが実にもったいないが、戦女神アテナだそうだ。何度も書くが、絵じゃなくてモザイクです!本当に美しく、人物の微妙な表情を、よくぞ精巧に表現している。
モザイクと言えば、ビザンチン美術が有名だが、中世絵画をベースにしたビザンチンモザイクと、古代ギリシャ・ローマのモザイクは、やはりちょっと違いがあると思った。
装飾としてはビザンチンモザイクが美しいが、中世絵画がベースにあるため、人物表現などは、平面的で、子供の絵本の挿絵のような仕上がりになっている。それに対し、古代モザイクは、立体感があり、人物の表情などにも深みがある。
古代ギリシャ・ローマの絵画は残っているものが少ないので、こういった、古代モザイクも、ルネサンス期の「古代復興」の時代の画家たちにインスピレーションを与えたことだろう。
「語ってるヒマはないぞよーッ!時間だぞーッ!ずらかれーッ!」
というわけで、15分間で走り回った(博物館内を走ってはいけません)デロス考古学博物館。それほど大きくはないので、その気になれば15分で走り抜けられるが、どうぞ余裕を持って、30分くらいはゆっくり鑑賞してください。私は悪い例。でも、仕方ないんだよ、だって船の時間が…!
どれだけ時間がなくても、この博物館で行っておいた方がいい場所がある。勘のよい方なら、私が何を言い出すか、既におわかりだと思うが、トイレである。ト・イ・レ!
デロス島内には、トイレはこの博物館にしかない。博物館鑑賞とトイレはセットだと思っておいた方がよい。
こんなに時間がないのに、なぜだか私のカメラには、デロス考古学博物館のトイレの写真が残っていた。私は、時間が無い時に、やらなくてもいいことをする傾向を持つ人間だということを知った2017年のデロス島。汝自身を知れ。
ちなみに、トイレはまあまあキレイだったが、オフシーズンの、観光客がデロス島中に12、3人しかいない日だったことだけは留意されたし。3つあった女子トイレは、2つは閉鎖していて1つしか開いてなかった。まあ、デロス島中に10人ちょっとしか人間がいないのなら、仕方あるまい。
この博物館を飛び出したとき、船が出る12時30分まで、あと50分であった。あと50分で、デロス島の残りのエリアを歩く尽くすよーっ!